↑初日一回目の抽選でポール・シュレイダー監督の直筆サイン入りポスターをいただきました(ラッキー♪)

白い刻印 ―Affliction―


2000.6.24(土)
新宿シネマカリテ3
配給:東北新社

50日ぶりで映画館に行きました。

何を観に行こう、ハリウッド超大作や 話題作、ミニシアター系話題作、観たい作品にことかかない。
インターネットの映画サイトを検索する。
その時目をひいた作品……アカデミー賞最優秀助演賞(ジェームズ・コバーン)。 ジェームズ・コバーンと言えば今年は『戦争のはらわた』のリバイバル公開を観た。 ジェームズ・コバーンの助演男優賞というと記憶にあるぞ……

『プライベートライアン』と『恋におちたシェイクスピア』がしのぎを削った年 に聞き覚えのない作品で受賞していた……たしか『Affliction』
そうか『白い刻印』って『Affliction』なのか……監督・脚本は『タクシードライバー』や『救命士』の脚本を手掛けた ポール・シュレイダー、原作は『大陸漂流』や映画化された『スウィート・ヒアアフター』のラッセル・バンクス、 ジェームズ・コバーンの他の出演者をみると、ニック・ノルディ、シシー・スペイセク、ウィレム・デフォーと個性派が 顔を並べている。

アルコール依存症からアルコール中毒、父親と息子、親と子、酒を飲んでの暴力。 こどものこころに残ったトラウマ。先日DVDで観た『ニル・バイ・マウス』も そんな作品だったけど、この作品もそんな臭気を感じる。

忘れないで、こどもはある時期までは親に育てられているんだから、 親の言動がこどものこころには大きく大きく、時には独り歩きしながら影をおとしていくのだから。 こどもは安心して眠られる場所がほしいだけなのだから。安心って何なのかを考えてほしい。

10月最後の日ニュー・イングランド。時の流れから取り残されたような小さな町、 雪におおわれたどこまでも白く寂しく美しい風景に目を奪われているうちに、 兄ウェイド(ニック・ノルディ)のことを語る弟ロルフ(ウィレム・デフォー)の声が かぶさってきて町の景色はハロウィーンの様相をしめしている。

この日におきたちょっとした歯車の狂い、その根はずっと前からあったのかも しれない。起こるべくして起きていった歯車のくるいから ウェイドが起こした事件と失踪するまでを、ウェイドという人間をとことん掘り下げて語られていく。

何故このような事が起きたのかということの問いかけの話のように感じられました。
ウェイドを語りながらその中に、語り手のロルフの姿を見る。こどもたちのトラウマとなっている 父グレン(ジェームズ・コバーン)の姿を見る。

原作のタイトル「狩猟期」がしめすように、ハロウィーンの翌日から解禁となる鹿撃ちの途中で 起きた事故が、狂い出したウェイドの歯車に油をさしたのか。きっかけは何でもよかったのかもしれない ウェイドの中に妄想による逃避の空間が生まれた。

酒乱で暴力的な父グレンと対峙して、辛抱強くやさしい母コニーがいる。この母の死がひきがねに なって、ウェイドの狂った歯車のネジがこぼれ落ちたのか。

父の暴力に怯え父の愛情を感じとることが出来ずにおとなになった子どもは、うまく愛情表現をできなくなって しまうことがあるのだろうか。欲すれば欲するほど泥沼に落ち込んでしまうのだろうか。家庭にあこがれ、その家庭を二度までも壊してしまったウェイド、 家族をもたずに暮らすロルフ。

寂れた田舎町、強迫観念と背中合わせに暮らしていた日常から逃げ出すことに成功し、遠くに離れて大学教授の 職につき、生まれ育った町や家族を捨てたロルフは果たして幸せだったのだろうか。どこかでウェイドの 生き方を羨ましく思ってはいなかったのだろうか。それでは、代わるかと言われれば絶対に首をたてにはふらないと しても、グレンとウェイドの関係に恐怖と羨望の入り交じった感情をもってはいなかっただろうか。

ウェイドにとって、前妻が親権をもつ娘ジルは何者にもかえがたいたからものなのだろう。 ウェイドが人間らしく生きられるのにはジルが必要であり、ジルに愛情をかけることで愛されなかった自分の子ども時代を ぬぐいさそうとしているのかもしれない。

グレンがどういう生い立ちだったのかはわからないけど、 何がグレンをあそこまで酒びたりにしたのか、その酒びたりの 父親の暴力に怯えながら育った息子たちはどんな風になっていったのか。 こどものこころに残ったトラウマと強迫観念が 何を残したのか。ウェイドという一人の人間を通して、ほんの小さなきっかけで、 たまっていたものが爆発し暴走していく様が、どこか今現実に自分たちのまわりで起きている事件と似ているではないか。

酒に溺れなくては生きていけないグレン、自分が親父であることを確かめるように暴力をふるうのか、 妻の死を悟ったときの放心、葬儀の時に見せた「おまえたちには、あいつの髪の毛一本ほどの値打ちもない」 という感情の高ぶりこそが彼の本来の姿ではなかったのか

冷静さと無関心を武器にしがらみから逃れたふりをしているロルフ、 そしてウェイド、だれもがもっている姿を暗に浮き彫りにしているのように感じる。りっぱに生きているようでも、 だれもの心の中にはロルフがグレンがウェイドが形をかえて住んでいてるのかもしれない。

ウェイドの暴走のメカニズムは、今、わたしたちのまわりにある暴走した犯罪のメカニズムとなんら かわりがないのではないか……そんな感じのする作品でした。

ただ、映画を見終わったとき、何かしっくりとこない不思議な感覚と、歯の痛みをこらえながら暴走していくウェイドの狂気と 『戦争のはらわた』のシュタイナー軍曹の 面影無く4倍ほどに膨れたジェームズ・コバーンが印象に残りました。

このしっくりこない感じを解決したくて、ラッセル・バンクスの原作本『狩猟期』を読んでみました。 原作本を読んでみて、この映画は原作に忠実にウェイドに焦点をあわせてまとめられていることが わかりました。
原作では父親のグレン、ロルフとベトナムで戦死した二人の兄、ウェイドの先妻リリアンなど のことがさらに詳しく語られていて、映画の中のひとつひとつ場面にこめられた人間模様が浮びあがってきます。 そして、その姿と映画の中で演じられた姿が少しも違和感がないばかりか、本の中で語りかけてくることにことに驚かされました。

AFFLOCTION
ラッセル・バンクス(By Russell Banks)
真野明裕=訳
早川書房(ISBN4-15-207746-8 C0097)
定価(本体2800円+税)


監督・脚本……ポール・シュレイダー Paul Schrader
原作……ラッセル・バンクス Russell Banks
製作……リンダ・レイズマン Linda Reisman、エリック・バーグ Eric Berg
撮影……ポール・サロシー Paul Sarossy
編集……ジェイ・ラビノウィッツ Jay Rabinowitz
製作デザイン……アン・プリチャード Anne Pritchard
音楽……マイケル・ブルック Michael Brook

98年度アカデミー賞最優秀助演男優賞受賞……ジェームズ・コバーン
98年度アカデミー賞最優秀主演男優賞ノミネート……ニック・ノルディ
98年度ゴールデン・グローグ賞最優秀主演男優賞ノミネート……ニック・ノルディ
98年度ニューヨーク映画批評家協会賞最優秀主演男優賞受賞……ニック・ノルディ
98年度全米映画批評家協会賞最優秀主演男優賞受賞……ニック・ノルディ

<CAST>
ウェイド・ホワイトハウス(Wade Whitehouse)……ニック・ノルティ(Nick Nolte)
グレン・ホワイトハウス(Glen Whitehouse)……ジェームズ・コバーン(James Coburn)
ロルフ・ホワイトハウス(Rolfe Whitehouse)……ウィレム・デフォー(Willem Dafoe)
マージ・フォッグ(Margie Fogg)シシー・スペイセク……(Sissy Spacek)
リリアン(Lillian)メアリー・ベス・ハート……(Mary Beth Hurt)
ジル(Jill)……ブリジット・ティルニー(Brigid Tierney)
ジャック・ヒューイット(Jack Hewitt)……ジム・トゥルー(Jim True)
ゴードン・ラリビエール(Gordon LaRiviere)……ホルムズ・オズボーン(Holmes Osborne)
エバン・トワンブレー(Evan Twombley)……ショーン・マッキャン(Sean MaCann)
メル・ゴードン(Mel Gordon)……スティーヴ・アダムス(Stave Adams)


2000.6.26 ADU
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