アメリカン・ヒストリーX
  ―AMERICAN HISTORY X―

2000年3月1日
恵比寿ガーデンシネマ

これは映画の感想とはいえないかもしれません。映画を観たあとわたしが感じたことを書いてみました。

『アメリカン・ヒストリーX』を観たいと思ったとき思い出した事件があります。

わたしが高校に入ってまもなくの1999年4月20日に、米・コロラド州リトルトンのコロンバイン高校で銃乱射事件がありました。被害者も加害者も同じ高校生、しかも学校でおきた事件ということでとてもショックを受けました。

新聞の報道などには、2人の容疑者は日ごろから「黒人は嫌いだ」と語っていたり人種差別的な傾向があったことなどが書かれていました。この時、人種や宗教、信条を理由にした犯罪を「ヘイト・クライム(憎悪犯罪)」と言うということや、ネオナチという言葉を知りました。

この事件は迷彩服の上に黒色のトレンチコートを着た2人の白人男子(同校の高校生)が、駐車場で自動小銃を乱射し、その後校内の食堂、2階の図書館に乱入して、黒人の生徒に「黒人は嫌いだ」と笑いながら顔を狙い撃ちしたり、机の下でおびえながら祈る女子生徒を「神に祈っている」ことを理由に殺害、はいつくばりながら逃げようとする生徒に「処刑だ」と言って頭部を狙って撃つという行為をくりかえし14人が死亡、9人の重体を含む23人が重軽傷を負ったという事件です。

「ヘイト・クライム(憎悪犯罪)」やネオナチを扱った作品という『アメリカン・ヒストリーX』

関東でも上映館は恵比寿ガーデンシネマのみ、大きな都市では遅れながらも公開の予定があるそうですが、地方の都市では上映の予定がないところもあるようです。
映画館に入ったとき、予告編のカッコよさや、エドワード・ノートンの『ファイト・クラブ』との比較などの話でハイテンションで話をしている人も少なくはありませんでした。
しかし、映画が終わって劇場をあとにするとき言葉を失ったように無言のまま出ていく人がほとんどでした。
他人事ではない、でもアメリカの話だと思いたい現実。今、わたしたちの身の回りで、凶悪犯罪や少年犯罪が多数起きていることの、裏側に、この作品の裏側を照らしあわせて、もっとたくさんの人に、若い年代だけじゃなく、本当は年長者の人たちにも観てもらいたい映画だなと思いました。

『アメリカン・ヒストリーX』とほぼおなじ時期に、『戦争のはらわた』と『遠い空の向こうに』を観ました。『アメリカン・ヒストリーX』の中に出てきたナチスドイツの鉤十字の旗やポスター、そして鉄十字章・・・、50年以上も前に自分の誇りをかけて生きのこるための闘いをくりひろげた男たちの映画『戦争のはらわた』の鉄十時章・・・その裏にある主義・主張・・・この二つの作品の中でシンクロします。
『遠い空の向こうに』と『アメリカン・ヒストリーX』やはり40年の時を経た同じアメリカの地で、現実と夢のはざまで苦しみ、突き進んでいった少年の姿これもまたシンクロする。

映画の予告でかっこよく描かれた、不敵な笑いを浮かべて、頭のうしろで手を組むデレク(エドワード・ノートン)。かたちは違うけど、こんな場面を見たことがある。いつだろう。
そうだ、オウム事件の強制捜査の時、建物の中から逮捕された幹部の人たちの、やはり不敵な笑いを浮かべて歩いていく姿に似ているんだ。完全にマインドコントロールされて、今の自分が正しいと誇りをもった狂喜・・・。

何がデレクをここまで狂喜に走らせたのだろう。黒人文学に興味をもって、胸をはずませ朝の食卓でそのことを話したとき、ロドニー・キング事件などをひきあいに、白人至上主義を唱える父に、軽く同意をしながらも、デレクは父の考えを否定していたのではないだろうか?
その父が黒人に殺される。父にしてみれば、差別の対象にしていた黒人に。そして、自分にしてみれば一度でも、父の考えを否定しかかった黒人に。
二重の悲しみと苦しみが、暴走に走らせる。わたしたちが暴走に走り出すとき、きっとまわりは気がつかない。だれか助けてと声にならない声で叫んでいる。
あたたかくきびしい手に、心にふれて現実に引き戻される幸運もある。

でも、気付いてもらえずに、はりさけそうになると叫びがそのまま、暴走になる。
デレクも悲しみに苦しんでいるとき、母や弟妹も悲しみにうちひしがれ、自分が暴走していくしかなかったのではないかと思います。

暴走が獲物になることを知っている年長者は、たくみにその暴走を利用します。
デレクと白人至上主義の黒幕キャメロンとの関係がそうなのでしょう。

ダニー(エドワード・ファーロング)の心の声をとおして語られたアメリカン・ヒストリーX

そして「憎しみからは何も生まれない」・・・・

映画が終わって、声にならない絶望を胸に外に出たとき、となりで上映している『ロッタちゃんはじめてのおつかい』のロビーに数人の黒人のグループの姿をみかけました。彼らは隣で上映している『アメリカン・ヒストリーX』を横目でながめ何を思うのでしょうか。

わたしを含めて、傷つきやすく攻撃的な、さもすれば暴走しかねない年代がこの映画の中にいます。それを利用する年長者の姿があります。描かれている土壌が違うだけで、これは私たちの日常となんら違いがないのです。特別なことではないのです。
少年犯罪が多い・・・、信じられない世の中だ・・・と遠巻きに見ないでください。

あらためて、自分のまわりにある、差別の数々・・・・韓国や北朝鮮など昔、支配下においた国の人々に対する今も残る蔑視感、学校で習う部落の問題・・・・同じ年代として感じる自分のまわりにある暴力や暴走の数々・・・・いろいろな形のマイノリティに対する偏見
そして、自分たちのまわりで起きる様々な事件
考えてみたくなりました。

監督------トニー・ケイ     TONY KAYE
脚本------デビット・マッケンナ DAVID MCKENNA

<キャスト>
デレク・ビンヤード(Derek Vinyard)……エドワード・ノートン(EDWARD NORTON)
ダニー・ビンヤード(Danny Vinyard)……エドワード・ファーロング(EDOWARD FURLONG)
ドリス・ビンヤード (Doris Vinyard)……ビバリー・ダンジェロ(BEVERLY D'ANGELO)
ダビーナ・ビンヤード(Davina Vinyard)…ジェニファー・リーン(JENNIFER LIEN)
アリー・ビンヤード(Ally Vinyard)………タラ・ブランチャード(TARA BLANCHARD)
デニス・ビンヤード(Dennis Vinyard)……ウィリアム・ラス(WILLIAM RUSS)
セス (Seth)……………………………………イーサン・サプリー(ETHAN SUPLEE)
ステイシー(Stacy)……………………………フェルザ・パルク(FAIRUZA BALK)
ボブ・スウィーニー(Bob Sweeney)………エイブリー・ブルックス(AVERY BROOKS)
マーレー (Murray)……………………………エリオット・グールド(ELLIOTT GOULD)
キャメロン (Cameron)………………………ステイシー・キーチ(STACY KEACH)
ラモント (Lamont)……………………………ガイ・トリー(GUY TORRY)

写真はチラシ、プログラム(日本ヘラルド映画株式会社・600円)から

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