パリ、テキサス
―PARIS,TEXAS―


1984年仏=西独作品
監督…ヴィム・ヴェンダース
脚本…サム・シェパード
音楽…ライ・クーダー
カンヌ映画祭グランプリ、国際批評家賞
CAST
ハリー・ディーン・スタントン
ナスターシャ・キンスキー
ハンター・カースン

自分の心の痛みに耐えきれなくなり現実から逃避してしまったトラヴィス(ハリー・ディーン・スタントン)が、弟夫婦や息子に触れ、断ち切れてしまっていた妻との心の傷のたぐりあいを経て、人の心の痛みがわかるようになった話のような気がします。

行方知れずになっていたトラヴィスは記憶を失っています。でも、この記憶喪失は一般にいう記憶喪失症という病気とは違うものなのかもしれません。
記憶をなくしたというよりは、たくさんのことを考えすぎて自分の心を、そして大切な家族との絆を壊してしまった。そんな心の痛みから逃れるように 現実から逃避して、自分の原点、幸福な家庭の終着点ともいえるパリ・テキサスの地に向うこと以外の何も考えなくなった事の結果の記憶の欠落のような気もします。

トラヴィスが消え入りそうなその存在を確認するように不安を抱え大地を歩いて行く先に、雑誌の通販で購入したという自分の土地パリ・テキサスは果たして存在するのでしょうか.....そんな事はもうどうでもいいことなのかもしれません。

息子のハンターは4歳の時に親に捨てられて、叔父夫妻にひきとられて実の親子のようにくらしていました。4年の時を経てそこに突然現れたトラヴィス。
当然、一番困惑したでしょう。たったひとつ父親と母親の存在を確認できるトラヴィスが写した8mm。
楽しく愛情タップリに幸せそうな家族をズームしていく思い出の映像。この8mmの存在がハンターの心の中で自分を捨てていった両親に対する気持ちを柔らかいベールで包んだようなイメージで残していたのかもしれません。
トラヴィスとハンターは少しずつ距離を縮めていき、求める同じ対象物であるジェーン(ナスターシャ・キンスキー)を探すということで気持ちを通わすことが出来ます。

息子との切れていた絆の端を掴まえることができた。
長い時間を経て探し当てた妻とも心の痛みをわかちあうことも出来た。

でもトラヴィスは息子と妻との絆を結びつけても、自分はその中にはいろうとせず去っていきます。
ジェーンの心の傷を癒すことで母親を求めている息子と妻をさえぎるものはなくなります。
でも、妻と自分の関係は違うのだと。
トラヴィスには、分かっていたのかもしれません。
過去のことがわかりあったからといって無くした時間をとりもどすことは出来ないこと。
わかりあえた感傷から一緒に生活を始めるのには二人の間にある溝はマジックミラー越しの距離のまま縮まらず、また傷つけあってしまうかもしれないこと。
4年前と同じように妻と子の前から去っていくトラヴィスですが、人の心の痛みをわかったトラヴィスのとった道は、4年前とは全く違う、海岸で8mmで家族を撮ったときのように暖かいもののような気がしました。

このあとハンターとジェーンはどうなったのでしょうか?
ハンターを息子同然に育ててきた、子供のない弟夫婦はどうしたでしょう。
この弟夫妻の奥さんを演じていたのがオーロール・クレマンで最近観た『エル・スール』にも出ていたのでハンターをトラヴィスにとられてしまうのではないかと不安になる気持ちに共感したりしてしまいました。

この作品を観て、以前から脇役でよく見かけるちょっと気になる俳優さんハリー・ディーン・スタントンが主役をやっているのにビックリ。そしてナスターシャ・キンスキーはなんて綺麗なんだろう。トラヴィスがいろいろ考えたり不安になったりして心を壊してしまったのもわかるような.......

2001.1.21
ADU


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