母の眠り ―ONE TRUE THING―
UIP配給/ユニヴァーサル映画
シャンテシネ 11月18日
この観賞記は映画の観賞記としては、なりたたないものかもしれませんが、「母の眠り」という作品を観ての、私の観想です。
この作品の予告編を見たとき、すぐに「この映画観たい!」と思いました。それは、きっと自分が娘であり、自分でも母にたいして、憧れと、羨望と、憤りと、思慕と、嫌悪といろいろな感情をもっているから。娘として、この感動的に伝えられた作品を観てみたいと、そんな思いにかられました。
原作がピューリッツアー賞作家のアナ・クィンドレンの作品だということ以外の余計な先入観はなしで観ました。実際には”ピューリッツアー賞作家のアナ・クィンドレンの作品”というだけで、普通の母ものではないぞという気持ちはあったのですが・・・。
この作品は、クリスマスの感動を伝えるコピー、感動的な予告編の映像、主演がメリル・ストリープ、邦題が「母の眠り」と、これは観てみたい(感動したい)という人と、これらを見ただけで、これはパスと、ひいてしまう人に別れてしまった作品だなと思います。
この作品を観た人の口コミで、この作品はもっと、何か奥の深いものなのだよと伝えて、ひいてしまった人にもいつか、ビデオででもいいから観てほしい作品だなと思いました。
人間が生きていくうえでの、強さのなかのもろさ、弱さのなかの勇気、やさしさのなかの信念、いろいろな、相反する意識が混在する大切さを知ることができます。
この作品は、エレン(娘)の目から見た世界です。彼女のこころの変化に伴って、他の出演者の印象がまるで違ってきます。ケイト(メリル・ストリープ)を映しだす映像も、エレンの彼女に対する認識の仕方の変化によって、病魔に侵されて弱っていくケイトの姿とはまた別のところで変化していくのです。ジョージ(ウイリアム・ハート)にしても最初の父としての印象から一人の普通の人間の姿に変わっていくような気がしました。それがすべて、エレンの心に写しだされた彼らの姿なのです。いつのまにか自分がエレンとリンクして、自分でもエレンの目をとおして、母であるケイト、父であるジョージを見ているのに気付きます。
観る印象を観る側に、変化させていく様子を伝えていくエレン役のレニー・ゼルウィガー、その変化を表現していくメリル・ストリープ、ウイリアム・ハートの演技も素晴らしいものでした。メリル・ストリープのアカデミー賞ノミネートも、やさしく感動的な母としての役ではなく、人間というものをすべてさらけだした演技に対して贈られたものなのではないかと思いました。
クリスマスのシーンは本当に感動的です。本当に、心から素直に感動出来る場面は、あのクリスマスシーンだけといってもいいかもしれません。
でも、それ以外の場面は、辛辣な描写が多いのです。いろいろな行動の、ひとつひとつの裏にかくれた心の葛藤や、ひとつひとつの言葉の奥にひめられた人間としての生き方。そして、テーマの奥底には信頼と誇りと尊厳と愛情、人間が人間として生きていくためのエゴイズムとその弱さがひかれています。
そして、意外なことには、エゴイズムと尊厳がしめる割合が多いのです。(そう感じたのはわたしだけかもしれませんが)
この作品は母と観たのですが、私はエレンの気持ちが良くわかるし、母はケイトの気持ちが良くわかる、そして自分が娘だったときを思い出し、エレンの気持ちもわかると、そんな作品です。
娘としての気持ちの中には、いつのころか母という同性の存在に、いろいろな感情をもつ面があります。どんなに憧れ信頼し好意をもっていても、心の奥底には敵対する気持ちがわきでてくるのです。それは多分、母がよい面をもっていればいるほど強くなるような気がします。
母もまた、いつのころからか、ありあまる愛情とは別のところで、娘に対して敵対する気持ちがわきでてくるようです。
そして、娘として父に対しても、いつもそばにまとわりついて、肩車をしてもらっていたような自分から、いつか脱皮する自分がいます。これは、多分、父としかみていなかった、父の中に一人の人間を見つけたときからはじまるようなきがします。
わたしとしては、エレンの目や心を通して、そんな気持ちが伝わってきたのです。
わたしには、語ることができませんが、この作品の中には、父と娘、母と娘、家族ということの他に、夫婦というテーマも大きくひそんでいると思います。
わたしは娘としての、心と目でこの作品を観ましたが、観る人それぞれが、その人の心のありかたで観て、その人それぞれのいろいろな形で心に残る作品なのではないかなと思いました。
最初から分かっていたことは、母が末期がんであること、その母が死ぬこと。
でも、この作品をみて分かったことは、人間として生きていくことをとても深く、とても考えさせられること。
映画を観たあと、アナ・クィンドレンの原作本を買いました。
末期医療、尊厳死、介護者の葛藤、家族、それをとりまく社会というものを、心から考えさせられるものでした。表面をなぞった映画の、奥底にひそんでいる大きな課題を感じることができます。
Anna Quindlen原作『One True Thing』
新潮社 定価:2300円
監督…カール・フランクリン(Carl Franklin)
原作…アナ・クィンドレン(Anna Quindlen)
脚本…カレン・クローナー(Karen Croner)
音楽…クルフ・エイデルマン(Cliff Eidelman)
編集…キャロル・クラベッツ(Carole Kravetz)
撮影…デクラン・クイン(Declan Quinn)
主題歌…ベッド・ミドラー(Bette Midler)―マイ・ワン・トゥルー・フレンド
出演
ケイト・グールデン(Kate Gulden) …メリル・ストリープ(Meryl Streep)
エレン・グールデン(Ellen Gulden) …レニー・ゼルウィガー(Renee Zellweger)
ジョージ・グールデン(George Gulden) …ウイリアム・ハート(WIlliam Hurt)
ブライアン・グールデン(Brian Gulden) …トム・エベレット・スコット(Tom Everett Scott)
ジョーダン・ベルツアー(Jordan Belzer)…ニッキー・カット(Nicky Katt)
ジュールス(Jules) …ローレン・グラハム(Lauren Graham)
地方検事 …ジェームス・エクハウス(James Eckhouse)
トゥイーディー(Mr.Tweedy) …パトリック・ブリーン(Patrick Breen)
オリバー・モスト(Oliver Most) …ギャリット・グラハム(Gerrit Graham)