クリクリのいた夏
この作品を観る前、クリクリという幼い少女の話......ということでロッタちゃんと似たノリなのではなどと思っていたのでした。
でも、観てみたらなんとも、暖かい作品なのです。
それはたくさんの時を経て老婦人となったクリクリが、無垢なころの思い出を話しているからなのかもしれません。彼女の長い人生がすべて幸福だったかどうかはわかりません。でも、この話を語る彼女は幸福なのだと思います。
草の茂る沼地と目に飛び込んで来る緑色。その瞬間、やさしさに包まれるような感覚におそわれます。
わたしたちの身の回りでも、5月、6月と新緑のころの野山にふれた時というのは、なにか暖かいそして生の力強さを感じることが出来るような気がします。
その感覚が画面いっぱいに広がっているのです。やわらかく暖かい色のマジックを感じます。
この作品に出てくる人たちは、多かれ少なかれどこかに何か忘れ物を抱えた人たち、何かが欠けている人たち、心の傷を抱えた人たち。でも、これはとても人間らしいこと。どんな人でも、そうなのだと思う。そんな姿を、原点ともいえる美しい自然を背景に隠さずにうつしだしているから、こんなにも暖かく優しく感じる作品なのだと思います。幼い子供の目には弱さも強さも、すべて平等にうつるのかもしれません。
クリクリの思い出の中の大半をしめる父親のリトンとガリス、リトンはガリスが自分たちを見捨ててどこかへ行ってしまうのではないかといつも不安を語っているけど、リトンにガリスが必要な以上に、ガリスにとっては、ここの暮らしや自分をたよってくれるリトン一家、そして面倒ばかりかけるリトンの存在が必要だったのでは?
わずらわしく思っていても、結局はその空間にとどまっているのは、その空間が自分にとって必要なのだからだと思います(これは、実生活でわたし自身が感じていること)。
やさしい人たちのやさしい話も、最後はやはりどんでん返しかと思ったら、これもまた愛すべき結末という、素敵な作品でした。
2001.4.23
ADU
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