マイ・リトル・ガーデン
そして「壁のむこうの街」
(THE ISLAND ON BIRD STREET)
マイ・リトル・ガーデンの原作となったのはウリ・オルレブ著の「壁のむこうの街」という小説です。
ウリ・オルレブは1931年ポーランドに生まれて8歳から10歳までワルシャワのゲットーに隠れ住んでいましたが母の死後はベルゲン=ベルゼン収容所へ送られ終戦まですごしたそうです。
戦後はイスラエルに渡っています。
この「壁のむこうの街」はウリ・オルレブの経験と、同じように生き延びた子どもたちの話をもとにつくられているのでしょうか?
ベルゲン=ベルゼンは強制収容所のひとつです。
強制収容所ではマウトハウゼンと並んで15万人を越す死亡者をだした所です。
特にこのベルゲン=ベルゼンは女性や子ども、病人の収容者が多くチフスの蔓延による被害は大変なものでした。
1944年11月、アウシュヴィツ=ビルケナウからベルゲン=ベルゼンに移送されてきた女性たちの中にはアンネ・フランクがいたそうです。アンネ・フランクは1945年3月にチフスで死亡しています。
第二次世界大戦中のユダヤ人を描いた作品のなかで、『聖なる嘘つき』やこの『マイ・リトルガーデン』は収容所ではなくゲットーでの生活を描いています。
ウリ・オルレブは、このゲットー時代のあとに過酷なベルゲン=ベルゼンでの収容所を経験しているのですが、この小説のなかでは、収容所には触れずにゲットーを中心に描かれています。収容所のにおいのしないホロコーストものと言えると思います。
ウリ・オルレブは「壁のむこうの街」の中で触れていますが、ゲットーにいるうちは、強制移送、選別を経て収容所に行くということが、今の生活を奪われて工場で強制的に働かされるというくらいにしか思っていなかったそうです。
この作品中でも、ゲシュタポの描写が意外とやわらかく感じるような気がします。
それに比べると、同じ境遇の中で同じユダヤ人のしたことや、密告者のこと、どろぼうのことに強く触れているような気がします。
アレックスの目を通して良い人、悪い人がはっきりわかれてうつしだされているように感じます。
そういうアレックス自身も生き抜くために、持ち主を失ったものをどろぼうをしていくのですが。
これには、きちんとした理由をもっているのです。
劇中、アレックスの隠れ家の縄ばしごが落ちかかるシーンで、おもちゃの車を持ち帰るゲシュタポにその家族の姿をみれるような気がしました。
そしてまた、家庭の存在がある世界と、壊された家庭の存在が映し出されます。
この作品がうまいなと思うのは、カメラを通してこの二つの世界が絡み合いながらも決してまじわらない部分で描かれているような気がします。
原作の中では、ゲットーでの隣人であるグリン一家の非情な仕打ちが描かれています。
そして、自分たちの一番の敵はゲシュタポではなく、ふだんなにげなく近くにいる密告者であることを言っています。ただ、密告者たちも、自分たちが少しでも災難を逃れるために、密告するのであって密告したことによって連行されたものたちがどのような運命をたどるのかということまでは、あまり知ってはいなかったのではないかと思います。
この作品の中をいっぽんでつないでいくのは、おとうさんが迎えにきてくれる。という自分にとって最も信頼できるひとを信じることで強く生きていくことを伝えているような気がします。信頼できるものと、裏切るものの姿がいたるところに描かれています。
そして、いっしょに生きているのがネズミのスノーだということ。自分の心のうちを気兼ねなく話すことができたのだと思います。
ホロコーストの中で、こどもたちは強制収容所の中でも体力があるうちは何か遊びをみつけて遊んでいたといいます。アレックスの辛い隠れた生活の中にも、どこか遊びを感じる部分がたくさんあるのに気づきます。
強制収容所を経験した子供たちにとって、辛くてもまだましだったゲットーで遊び、肉親に連れられて助け出されるというのはみんなの夢だったのではないでしょうか?
「マイ・リトル・ガーデン -My Little Garden-」
1997年 デンマーク・ドイツ・イギリス映画
監督:ソーレン・クラウ・ヤコブセン
脚本:ジョン・ゴールドスミス
原作:ウリ・オウレブ
CAST
ジョーダン・キズック
パトリック・バーギン
ジャック・ワーデン
ステファン・サウク
ジェームズ・ボラム
シモン・グレゴー
♪ BGM by Torazo ♪
ADU
2001.2.26
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