未来ネタです。
ふたりとも中学生ではありません。
中学生以外のふたりには興味がない方や苦手な方は、この先をスクロールされないことをお薦めいたします。
大丈夫!という方だけスクロールをして、どうぞお読みください。↓
タイトルは、お題配布サイト「my tender titles.」様より、君がいる生活内の「おうちに帰ろう」をお借りしています。
おうちに帰ろう (幸村バージョン)
「もう。どうして、いつもいつも、わざと心配させるようなことするんですか?」
子どものように頬を膨らませて怒るその表情も、俺にとっては可愛いものでしかない。
でも、今それを口にすると君は更に怒ってしまうから、さすがに「可愛いね」という一言は自粛しておくよ。
「すまない」
「謝るなら、最初っから心配かけないでください!」
言っても言わなくても結局怒った君を見て、どうせ怒られるなら言っておけばよかったかな?
そんなことを密かに考え、思わず笑いが込み上げた。
「人が怒ってるときに、どうして笑うんですか」
真面目に話を聞いていないと不機嫌そうな顔で、君が俺をじっと見る。
その理由を答えれば君は間違いなくもっと怒るだろうし、かといって黙っていたとしても、君はきっと怒るだろう。
どちらを選択したところで、結果に大差はない。
そのことは、さっきすでに証明済みだ。
それならば、どちらを選択するか?
それは、もちろん。
「怒っているも可愛いなと思ったら、なんだかおかしくなってね」
冗談とも本気ともつかない声音で、さらりと言ってのける。
もちろん俺は、いつだって本気のつもりだけど。
君にしてみれば、こんな状況で唐突にそんなことを言われても、恐らく本気とは到底思えないだろう。
「からかわないでください」
案の定、君は明らかに機嫌を損ねた声のトーンで呟いた。
眉間に微かに皺が寄っているのも、相当不機嫌な証拠。
だけど、そんな表情でさえ俺は好きだと思う。
普段は温厚で優しい君が、こんな風に不機嫌なことをハッキリと表情に出すのは、俺の前でだけだから。
だからたぶん、俺はときどき君をわざと怒らせる。
君には本当に悪いと思うけど、俺にしか見せることのない君の特別な表情を望むあまり、つい小さな心配をかけたり、些細なイタズラをしてしまう。
「俺は、いつでも本気だよ?」
柔らかく笑んでみると、不機嫌な君は俺の視線から逃れるように顔を思い切り背けてしまった。
いつもなら、たいていこの辺りで「もう。精市さんは、いつもそうなんだから」と、君の諦めたようなため息が零れるのだけど。
今日の君は、いつもと違かった。
一瞬の沈黙の後、怒ったままの声で、
「――精市さん。今日こそ本当に反省してくれないなら、私、実家に帰っちゃいますからね?」
幸いまだ入籍もしてないですし、式だって挙げてないですから。
そうハッキリと脅しをかけた。
それにはさすがの俺も一瞬本気でドキリとしたけど、今君にそれを悟られることは今後の展開的に得策じゃないことは明白なので、学生時代の部活動で磨きをかけた持ち前のポーカーフェイスでやり過ごす。
「…私が帰っちゃってもいいんですか?」
内心の読めない表情で自分を見つめる俺を君はどう解釈したのか、少し不安そうな顔を覗かせた。
とっておきの脅し文句で、君は明らかに優勢になりかけていたのに、俺のポーカーフェイスひとつで自ら優勢を無にしてしまう。
そんな、君の駆け引き下手なところも愛しくてたまらない。
クスクスと声を立てて笑い出すと、君はますます不安の色を濃くしていく。
「精市さん…?」
「は、本当に可愛いね」
「だから!…って、きゃっ」
またからかわれたのだと思い、怒った声を上げようとした君を無視して、そのままギュッと腕の中に閉じ込める。
「あ、あの…」
私、怒ってるんですよ?
そんな呟きさえ、思い切り抱きしめて有無を言わさず最終的に飲み込ませてしまう。
「が実家に戻ったら、俺は寂しくて死ぬよ?」
それでもいいのかい?
囁くたびに吐息がかかるほど耳元近くに唇を寄せると、君の耳が瞬時に赤くなり、同時に密着していた君の胸から伝わる鼓動も激しくなる。
「…ま、また…そういう、嘘ばっかり…」
離してくださいと、君は俺の腕の中でもがく。
だけど当然、そんなことで俺が君を離すはずはなく、むしろさっきよりも強い力で俺の腕の中へと閉じ込めようとする。
それこそ、もがく隙さえ与えないほどに。
「――俺は、いつでも本気だって言っただろう?」
冷静になって考えれば、中学時代に本当に生死を彷徨ったことのある俺が、簡単に生きることを放棄するはずがないことくらい分かるはずなのに、基本的にあまり人を疑わないらしい君は、俺が少し真面目な顔でしんみりと呟いてみせれば、初めは多少疑っていたことでも最終的には信じてしまう。
もちろん、それも君の魅力のひとつだと思っているけど。
「は、俺がいなくなっても平気なのかい?」
身動きひとつ取れない強さで抱き寄せたまま、語りかけるようにそっと呟いてみれば。
君が動かしづらそうにしながらも微かに頭を横に振ろうとしている気配を感じたので、思い切り込めていた腕の力を緩めて少しだけ解放してやる。
「…嫌です。精市さんが、いなくなったら…私…」
自由を得た君は俯いたままそう言った後、うっすらと涙の浮かんだ瞳で俺のことを見上げる。
精市さんがいなくなるなんて考えたくない、そう君は俺を見上げたまま泣き始めたので、俺はその頬に手を伸ばし、伝ってくる涙を拭ってやった。
「すまない、。君を泣かせるつもりじゃなかったんだ」
今度は力任せなんかじゃなくて、労わるように優しく抱き寄せると、君は縋るように俺の背に両手を回し、ギュッと服を握り締める。
「」
この期に及んでこんな告白をすると酷い人間だと思われそうだけど、俺は君が涙を必死に我慢しているときの表情も、俺のために大粒の涙を零す姿も好きだと思っている。
だけど、やっぱり一番は君が笑っている顔だから。
毎日コロコロと変わる君の表情の中でも、最も愛らしくて好きだと思うのは、君が俺に笑いかけてくれるその瞬間だから。
「ねぇ、。式の日取りは変えられないけど、入籍だけでも済ませてしまわないかい?」
君が泣き止み落ち着きを取り戻した頃を見計らい、身体ひとつ分ほどの隙間を開けた状態で君の両肩に手を置き、顔を覗き込む。
まだ胸に縋りついたままだった君は、唐突に身体を引き離されて戸惑ったように顔を上げたところに思いがけないことを言われたせいで、よく理解しきれていないという様子だった。
「精市さん…?」
言外のもう一度言ってという言葉を読み取り、
「今すぐ入籍だけでも済ませてしまわないかい?」
今度は、お互いの視線がしっかりと合っていることを確認してから告げた。
「…え?で、でも、挙式の日に入籍もって…」
結婚することを決めたとき、挙式日に入籍もすると話し合ったため、君の驚きは当然だった。
「確かにずっとそのつもりだったよ。だけど、急ぐ理由ができたからね」
「急ぐ…理由?」
ポカンとした顔をする君に、とびきりの笑顔を向ける。
「君を実家に帰さないっていう理由だよ」
入籍すれば、君が「帰る」家は名実共にここだけだからね。
もう二度と君に「実家に帰る」なんて言葉を使わせなくて済む。
「………」
まだ理解しきれず混乱してるのか、それとも嬉しくて何も言えないのか、君は俺の言葉に何も返さずただ、俺のことを見つめている。
そのため、うっすらと再び溜まり始めた涙を見て、俺はようやく君の無言が嬉しさからくるものなのだと知った。
「これから『帰る』と言ってもいい家は、ここだけだよ?実家には、これからは『帰る』じゃなくて、『遊びに行く』だからね?」
言い終えるなり、君が今日2回目の泣き顔を見せ始めたけど。
今回の泣き顔はさっきの泣き顔と違い、もしかすると一番好きだと言った君の笑っている顔より、場合によっては好きかもしれないとこっそり思いつつ、頬に伝ったそれを優しく吸い取るように、ゆっくりと唇を寄せた。
2010.02.08
BLOGから幸村の「おうちに帰ろう」を読んでみたいというリクエストいただいたので、考えてみました。幸村×の夫婦ネタです。
夫婦ネタとはいえ、今回は今までの3人と違って正式には結婚してない婚約中。挙式までのカウントダウン状態ですね。
でもたぶん、話の流れからして既に同棲はしてると思います。…なのに「実家に帰る」という一言に敏感に反応する部長(笑)
このふたりは喧嘩しても、最終的には幸村がを上手く丸め込んで、肝心なことが有耶無耶のまま終わってそうだなあと妄想しています。
そんな妄想に基づき、話の中でも発端の喧嘩は結局解決させてません。わざとです(笑)
恐らく、幸村が体調不良の振りでもしてを心配させた的なことが発端じゃないでしょうか。
そういえば前3話と違って、今回は視点も幸村ですね。実は冒頭を無意識に書き始めたのですが、どういうわけだか幸村が語ってました(笑)
それでは、ここまで読んでいただいてありがとうございました!