未来ネタです。
ふたりとも中学生ではありません。
中学生以外のふたりには興味がない方や苦手な方は、この先をスクロールされないことをお薦めいたします。
大丈夫!という方だけスクロールをして、どうぞお読みください。↓

タイトルは、お題配布サイト「Traum der Liebe」様より、キスシーン10箇所内の「5.手の甲は王子と姫のようで」をお借りしています。





























手の甲は王子と姫のようで










その日の精市さんは変だった。

どこが?と聞かれると的確に表現するのは難しいけれど、いつもの精市さんじゃなかった。

いつものように笑い、いつものように話し、いつものように穏やかな言葉遣いをしていたけれど。

確実にいつもと違ってた。

思い切って、


「精市さん、どうかしましたか?」


そう尋ねてみても、何でもないよって笑っていたけれど。

やっぱりそれすらいつもと違う感じがしていた。


なんだろう。

何が違うのだろう。

それが分からなくて、酷く不安を感じてしまう。


精市さんは、いつでも穏やかな声と穏やかな表情を備え持っている人だから、感情が読みにくい。

本気なのか冗談なのか、怒っているのか面白がっているのか。

すべてが彼特有の穏やかさによって、分かりづらくなってしまう。

良く捉えるならば、それは常に人当たりが良く優しいということ。

でも悪く捉えるならば…


――本当は何を考えているのか分からない。


さすがに付き合いが長い今となっては、多少は精市さんの変化を読み取れるようになった。

でも、それだって「多少」に過ぎない。

これほど付き合っているのに、未だに精市さんの感情や考えていることがよく分からないことのほうが多い。

だから今だって、今日の精市さんは変だと思っているのに、それがどこなのかも、どうしてなのかも分からずにいる。


こういうとき人間は不思議と無性に不安になって、嫌なことばかりを考え始めてしまう。

何か悩みでもあるのだろうか?

具合でも悪いのだろうか?

それとも、何か怒らせるようなことをしただろうか?

私のことを嫌いになったのだろうか?

もしかしたら別れ話を切り出すタイミングを窺っているのではないだろうか?

不安は心の中で勝手に増殖して、どんどんネガティブ思考に陥っていく。

そんな自分にもう一人の自分が馬鹿馬鹿しいと呆れていても、このマイナス思考に歯止めはかからない。





穏やかだけれど感情が読めない声。

優しいけれどいつもより硬い気がする。


「なんですか?」


その間も増殖し続ける不安に負け、微かに震え始めた声で返事をする。

何を言われるのだろう。

何を言う気なのだろう。

内心、ビクビクと脅えていた私の左手を精市さんが右手でそっと取った。

そのまま腰かけていたソファから立ち上がり、私の目の前で跪く。


「あ、の…精市さん…?」


突然のことに驚いて私があたふたしても、精市さんは私の左手を取ったままその場で立て膝をついている。


「ど、どうしたんですか?」


さっきまでのことといい、突然の行動といい、とにかく何がなんだかよく分からなくて、私は更に不安になって精市さんの隣にしゃがみこもうとする。

けれど、それを精市さんが咄嗟に目で制したので、私の身体はソファから立ち上がった状態で動けなくなった。


その構図は、まるで絵本やお伽話の世界で姫の足元に跪く王子のようで――


「姫。私と結婚してくださいませんか?」


まさに、そんな台詞で王子が姫に求婚するときのようで…


「――って…え!?」


我が耳を疑って、思わず零れた心底驚いた声。

同時に足元の精市さんを凝視してしまう。


「想像以上の反応だね、


あははと面白そうに笑い始めた精市さんと目が合っても、まだ私は混乱して驚きの声を上げ続ける。


「ちょ…え?何?今…」

「おや、聞こえなかったかい?」


対照的に精市さんはひとしきり笑うなり、あっという間に落ち着きを取り戻す。

さっきまで感じていたいつもと違う雰囲気も、とっくに消え去っている。


「聞こえ、ました…けど…」


少しずつ脳内が整理されていくと共に、今度は恥ずかしさや照れから、顔が赤くなって声も小さくなる。


「けど?」

「…不意打ちすぎて、ずるいです」


いつもと違うと不安を感じていた正体は、このタイミングを狙って様子を窺われていたせいなのだと気付いた今、私ができる唯一の抵抗。

それは、精一杯の拗ねた表情を見せることだけ。


「もう一度言ってくれないと、答えてあげません」


答えを焦らして、思いっきり拗ねた顔をして。

もちろん精市さんは、私が何と答えるかなんてお見通しなのだろうけれど。

それでも唯一にして精一杯の意地悪。

分かったよと答えた精市さんの顔に、満面の笑みが浮かぶ。

それは、私が見慣れているいつもの精市さんの笑みだった。






数十秒後。

跪き真摯な瞳で見上げる精市さんが私の左手を取り、


「――。俺と結婚してくれないかい?」


二度目の言葉と共に、手の甲に優しくて羽根のように軽い口付けを落とした。







2010.03.20


このお題見た瞬間、幸村がにプロポーズしている姿が脳内に浮かんだので書いてしまいました。
私の中で幸村は長い事謎の多い人だったのですが、最近では、こういう王子様っぽいことでも照れずに真剣にやってくれそうな人に変化してきました。
ただしこれには続きがあって、幸村がそういうことをするのは、それに確実にが驚いたり照れたりして面白いからだという理由が存在します(笑)
ハッキリ言えば、イタズラ心でをからかって面白がってるんですね。可哀想です(苦笑)
あ、もちろんプロポーズの部分は本気ですよ!それゆえ、幸村もさすがに緊張していつもより硬い声が出たのだと思います。

以前「おうちに帰ろう」で婚約中のふたりを書きましたが、たぶんこの後に同棲→結婚と進んでいくのだと思われます。

それでは、ここまで読んでいただいてありがとうございました!

WEB拍手ボタンです。