La jalousie 1










部活帰り。

レギュラーメンバー全員で下校をしていると、突然、赤也が何かに気が付いたように声を上げた。


「あ」


「赤也。どうかしたか?」

「どうかしましたか?切原くん」

「何だ?美味そうな店でも見つけたのか?」


赤也の声に反応した他のメンバーがそれぞれ声をかけると、赤也は前方を指差し、


「あれ、ッスよね」


思いがけない名前を口にした。


「…何?」


その名前にピクリと反応した俺は、赤也が指差す方向へと急いで視線を移す。

続くように、残りのメンバーもそれぞれが赤也の指先を追った。


「あの後ろ姿は、確かにさんだね」

「まだ帰ってなかったのか」

「急用じゃからと先に帰ったんじゃなかったんかのう?真田」


仁王の言葉で、全員が一斉に俺に視線を向ける。


「…そう聞いているが」


とっくに帰宅したと思っていたを街中で発見し、俺は内心で困惑する。

毎日というわけではないが、可能な限り俺の部活が終わるまで待っていてくれる

だが今日は、「急用が入ったので先に帰ります」というメールが届いていた。


「用事でどこかに寄っていたのかもしれないね」


幸村がそう言い、みんながそれに納得しかけた瞬間。


「あーーーーー!!」


再び赤也が声を上げる。

今度は、先ほどとは比べ物にならないほどの大声だ。


「な、なんだよ、赤也。急に大声上げんな!」

「このような街中で大声を上げては、周囲の方々に迷惑です」

「本当に騒がしいのぅ。赤也は」

「な、なんだよ。びっくりするだろぃ!」

「うるさいよ、赤也」

「赤也!お前は、このようなところで!まったくたるんどる!!」


突然の大声に驚いたメンバーが口々に赤也を注意する中、俺もいつものようにその頭上へ拳骨を落とす。


「ってー! わー! 副部長!たんま!!」


容赦なく落とされた拳骨に悲鳴を上げ、頭を抑える赤也。

問答無用でもう一発お見舞いしようとする俺から逃げ、ジャッカルの背後へと隠れる。


「ち、違うんッスよ!」

「おい、俺の後ろに隠れんなっ」

「ほぅ。何が違うと言うんだ」


必死に俺の視線から逃れようとする赤也と、矢面に立たされた状態のジャッカル、ふたりまとめて睨みつけながら、じりじりと近づいて行く。


「わー!だから、待って!待ってくださいって!!」


が他校の男子と一緒にいたッスよ!!


殴られまいと必死の赤也の叫びに、不覚にも俺の動きは一瞬固まった。


――何?

が他校の男子と…?


だが次の瞬間には、さっきを見た方向へと勢いよく振り返る。

と、信じ難いことに、そこには赤也の証言どおりの光景があった。

見知らぬ男子の隣を歩く

後ろ姿ではあるが、その制服から立海の生徒ではないことが分かる。

会話が弾んでいるのか、ときどき楽しそうに顔を見合わせて笑う姿も確認できる。


「…ほぅ。もなかなかやるもんじゃのう」


空気が読めないのではなく、読めていてわざと読めない発言をした仁王のからかうような声が、しばしの沈黙を破った。


「に、仁王くん…!」


珍しく慌てたような柳生が遮ろうとするも、当の仁王はお構いなしに言葉を続ける。


「お前さんに急用だと連絡して、他の男と会っちょるっとはな」

「浮気の確率72%といったところか」

「柳くん、貴方まで…!」


仁王に続いて冷静に確率を計算しだした蓮二に柳生が渋い顔をしてみせるが、その決定的な単語は俺の耳に確実に届き、消し去ることができなくなった。


「………」


俄かには信じがたい気持ちと、現実に目撃してしまった状況からの疑念で言葉を失う。

に限ってそのようなことをするはずがないと思うのだが、状況証拠としては限りなく悪いものばかりが揃っている。


「と、とりあえず、に直接聞いてみたらどうだ?な、真田」

「ジャッカル、良いこと言うじゃんか!」

「そ、そうですね。それが良いと思いますよ。きっと何か事情があってのことでしょう」

「そうッスよ!あ、ほら、兄弟かもしれないッスしね!!」

ジャッカル、丸井、柳生が黙り込んだ俺を気遣うように提案し、自分の発言が発端となった事態に焦る赤也が、フォローするように慌てて口を開く。

だがそのフォローは、焦りのためか初歩的にして大きなミスを犯していた。


「…に兄弟はおらん」


それはメンバーの誰もが知る事実だった。

は一人っ子で、それ故に兄妹のいるメンバーを羨ましがる発言を過去に何度かしていたのだ。


「………」

「………」

またしても気まずい空気が流れ始めたとき、それまで黙っていた幸村が名案を思いついたとでもいうように、ポンっと片手を打った。


「この際、後を追ってみたらどうかな」


まあ、あまり良い趣味とは言えないけどね。

それでも、何も分からずにいるよりはいいだろう?


最後にはニッコリと微笑みがついてされた提案に異論を唱えられるメンバーはなく、必然の流れとして、そのままの後を追うことになったのだった。







2012.01.29


1話で纏める予定が、前振り(?)が予定外に長くなったため、分けることにしました。
せっかくだから立海っ子全員出そうとしたら、収集がつかなく…まさに計画性ゼロ…orz

好きだけど書くのは難しい。真田は私の中でそんな位置づけにいるキャラなので、のモノローグ的なもので誤魔化してない(笑)SS書くのはこれが初めてです。
今のところ次でENDマークつけるつもりなので、もう少しお付き合いいただけると嬉しいです。

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La jalousie→仏語。嫉妬の意。