Neige poudreuse
「わ〜、雪降ってきましたね!」
外に出ると、さっきまで雨だったはずのものは雪に変わっていた。
「雨のまま終わっちゃうかと思いました」
目をキラキラさせて、傘も差さずに雪の中へと飛び出す。
嬉しくてたまらないというように、はしゃぎだす。
「…寒くてたまらん」
そんなを見守りつつ、耐え難い寒さにマフラーで顔のほぼ半分を隠し肩を窄める。
「先輩は、本当に猫みたいですね」
寒がりなところなんか、特に。と、振り返ったがクスクスと笑っている。
その間も、の両手は舞い落ちる雪を受け取ろうと空に向けられている。
「そうじゃの。俺の前世は、恐らくは猫じゃ」
の言葉に同意を示すような答えを返せば、それにが更に笑った。
「あ、写真!」
しばらく手の平で雪を受けたり、天を仰いで降ってくるところを見つめたりして雪に喜んでいたが、ふと思い出したように鞄を漁り、携帯を探し始める。
「――お前さん、いい加減にしとかんと、風邪引くぞ?」
「大丈夫ですよ。私、身体は丈夫ですから」
そう言っている間にも、にはどんどんと白い雪が降りかかっている。
着ているコートが黒のせいで、余計に白い雪が目立ち、まるで吹雪に見舞われているようにのコートは白くなっていく。
髪の毛にも雪が絡まり、頭上はうっすらと積もり始めた雪で白くなり、それがまるでウェディング・ヴェールのようにも見えた。
(…俺も、案外ロマンチストじゃの)
の頭上に降り積もる雪をウエディング・ベールに見立てた自分に思わず苦笑したところで、雪のせいで冷えたらしい静が、小さなくしゃみをした。
「だから、いい加減にしとかんと風邪引くと言ったじゃろうが」
「…ごめんなさい」
に近寄り、ポケットに突っ込んでいた右手を出して、頭や肩などの身体に積もった雪を払ってやる。
「――いつか本物被せてやるぜよ。だから、偽物は被らんでもいいじゃろ」
言われた意味が分からないというようにキョトンとするを尻目に、俺はニヤリと何かを企むような笑みを浮かべてから、ギュッとを抱きしめた。
(さて。お前さんを永久に捉まえておくには、どんなペテンが有効かのう?)
2010.03.01
今冬、関東地方に初めて雪が積もった夜に書いたおはなしです。2010.02.02のBLOGにて初出。
以下、妄想の最初に断片的に浮かんだネタ。
・雪にはしゃぐ
・対照的に寒さに弱く、猫のような仁王
・の頭に降り積もる雪
・それをウェディングベールに見立てる仁王
・何も分かってないにプロポーズしてみる仁王
Neige
poudreuse→仏語。粉雪の意。