未来ネタです。
ふたりとも中学生ではありません。
おまけに、今回も前作に続いてまた+αキャラが登場します。
中学生以外のふたりには興味がない方や苦手な方、及び+αキャラが苦手な方は、この先をスクロールされないことをお薦めいたします。
大丈夫!という方だけスクロールをして、どうぞお読みください。↓
タイトルは、お題配布サイト「my tender titles.」様より、君がいる生活内の「おうちに帰ろう」をお借りしています。
おうちに帰ろう (柳生バージョン)
私を心配してくれてるってことは、よく分かってるの。
だから、たぶん全面的に私が悪いのだろう。
でも、それを素直に認められないのは、心の中の「心配しすぎ」という気持ちが消えないため。
「………」
「………」
テーブルを挟んで向かい合い、お互い無言のままでじっと見つめ合う。
でも、それは決して甘い雰囲気なんかじゃなくて。
ましてや温かい空気でもなくて。
互いに無言の心理作戦を展開しているというのが、今の私たちの状況に一番似合う表現。
「…では、どうしても私の言うことは聞いていただけないのですね?」
先に根負けして口を開いたのは、彼。
元来論理的な彼は、心理作戦よりも言葉を駆使し、理詰めで言い含めることを得意としているので、長い沈黙には耐えられなくなったのだと思う。
「………」
彼には言葉じゃ到底敵わないことを充分すぎるほど承知しているから、私は頑として口を開かない。
それが一番ずるい手段だということも分かってるけれど、私にとっては最後の手段だから。
「さん。黙っていては、分かりませんよ」
「………」
「さん?」
何を言っても固く口を閉ざし続ける私に、彼がひとつ大きなため息を吐く。
それを聞いた私は、頑なに閉じていた口をとうとう開いてしまった。
いつもなら、この時点で私の負けが決まっているのだということには気づかないまま。
「――だって、大丈夫なんです」
彼の目を真っ直ぐ見つめ返すことができなくて、視線を落としたまま呟く。
「貴方の大丈夫という言葉は、一番信用できないんです」
テーブルの上のお茶を一口飲んでから、彼は軽く首を振った。
「でも、もう本当に大丈夫です。これからは、絶対に心配かけませんから」
「そう仰るなら、私のお願いを聞いていただきたいものですが」
「…それは、嫌です」
「さん。私は、貴方のことが心配なんです。今は無理をせずに自分の身体を一番に考えてほしいんですよ」
「分かってます。比呂士さんが、私のことを心配してくださっていることは充分分かってます。でも、少し心配しすぎだと思います」
「さん…」
堂々巡りの、私たちの会話。
さっきから延々とこうしたことが繰り返されて、結局無言作戦の振り出しへと戻るのだ。
けれど、さすがにこのままでは埒が明かないと感じたのか、彼は今度は無言にはならなかった。
「…このままでは、いつまでも話し合いがまとまりませんね」
眼鏡のフレームを直す仕草をしてみせてから、彼はおもむろにソファから立ち上がると、「少し頭を冷やしてきます」と言った。
「どこに行くんですか?」
予想外の行動に俯いていた私も、慌てて顔を上げて驚く。
彼が話し合いの場を中座するなんて、そう何度もあることじゃない。
どちらかというと、きちんと話し合いがつくまでとことん話すタイプの人なのに。
「お互い今のまま話し合っても主張は変わらないでしょうし、少し時間を置いたほうがいいと思いましてね。少し外へ出てきますから、貴方もその間に気分転換をしてください」
「え、でも、外は寒いですよ?」
何も外へ行かなくても、と言いたげな私の視線には柔らかく笑んで、
「近所を少し散歩してくるだけですから、大丈夫ですよ。同じ家にいては、貴方も私も気分転換にはならないでしょう?」
そう言うなり、コートを取りにリビングを出て行ってしまう。
「本当に、行っちゃうんですか?」
彼の後を追いかけて寝室の入り口まで追いかけると、彼はすでにコートを羽織り始めていて、私の声に苦笑して振り返る。
「ほんの少しですよ。携帯も持って行きますから、もし何かあったら連絡してください」
携帯を私に見せてからコートのポケットにしまい、ドアに手を掛けて立っている私の頭をポンと軽く叩く。
「いってきます」
そのまま玄関へ向かった彼は、本当にドアを開けて外へと行ってしまった。
パタン。とドアが閉まる音だけが後に残されて、私はその音を寝室の前で背中越しに聞いたのだった。
それから数十分が経過したけれど、未だに彼が帰ってくる気配はない。
出て行く前に、ほんの少しですよ。と言い置いて行ったけれど、本当に帰って来てくれるのかが心配になってきてしまう。
(私が、悪いんだよね…)
彼の主張が私を心配するが故のことなのは、私自身が一番よく分かっている。
それなのに、それを拒否しようとしているのだから、間違いなく私が悪いのだろう。
(でも無理しすぎなければ、もう普通にしてていいって言われたし)
こども部屋のベッド脇に座り込み、眠っている天使の姿をぼんやりと眺めながら、小さな吐息を漏らす。
(心配してくれてるのに『心配しすぎ』は悪かったかなあ)
話し合いでの自分の言動も、心配してくれている彼に悪かったのではないかと、彼がいなくなった後から急に不安になった。
彼が心配しすぎだとは思いつつも、心配してくれている相手に対して、私の言動は失礼だった気がして仕方ない。
気分転換をと言われたけれど、独りにされたほうが余計にさっきのことが気にかかってしまう。
(はやく、帰ってきてくれないかなあ)
そう思いつつ、天使の額に手を伸ばしたら。
「…まぁま?」
すやすや寝ていた天使が、ぼんやりと目を開けた。
「おはよう。ごめんね、起こしちゃって」
眠たげに目を擦っている姿ににっこりと微笑みながら、頬にちゅっとキスを落とす。
天使はそれに、きゃっと嬉しそうに笑い声を上げてから、何かを探すように大きな瞳を部屋中にキョロキョロと動かした。
「どうしたの?」
「ぱぱは?」
天使の言葉に、私の身体が一瞬固まる。
「ぱぱは?」
無邪気な天使は、それでも同じことを繰り返した。
「パパは、ちょっとお外に行ってるの」
すぐ帰ってくるから、いい子で待ってようね。
ベッドから抱き上げて、腕の中でギュッと抱きしめて言い聞かせてみたけれど、天使の顔は不満気だ。
パパに会いたいという気持ちを、全身で表現するように身体を硬直させる。
「…じゃあ、パパにお電話してみる?」
額にキスをしながら尋ねると、天使は途端ににこぉっと嬉しそうな笑顔を見せた。
「うんっ」
「それじゃあ、お電話してみようか」
天使を抱っこしたままリビングへ向かい、サイドボードに置かれていた携帯を持つと、発信履歴から彼の携帯へ電話をかける。
その間も腕の中の天使は、ぱぱ、ぱぱと、彼のことを呼び続けていた。
『はい』
「…あ。比呂士さん」
何度かのコールの後に彼の声が聞こえて、私は俄かに緊張を覚えた。
さっきの言動が再び脳内で思い起こされる。
私は無意識のうちに、抱き上げていた天使をフローリングの上へと下ろす。
「何かあったのですか?」
心配そうな声で、彼が何かあったら連絡してくださいと言い置いて出て行ったことを思い出す。
少しだけ、温かくなる心。
「ごめんなさい。そうじゃなくて…」
事情を話すと、彼は受話器越しに小さく笑って、
『分かりました。今から戻ります』
そう答えた。
『ああ、でもその前に』
「はい?」
『声を聞かせてくださいませんか?』
言われて、私の足元でパパと話したそうにじぃっと私を見上げている天使のことを思い出す。
「ごめんなさい。代わりますね」
苦笑したまま、目線を天使に合わせようとしゃがみこみ、はい。と携帯を渡すと、天使は嬉しそうに何やらいろいろとお喋りを始める。
何を喋っているのかまだときどきよく分からないこともあるけれど、それでも楽しそうにお喋りをしている天使の姿に、私の心は温かさと優しさでいっぱいになる。
きっと携帯の向こうの、比呂士さんも同じ気持ちだろう。
あい。と再び天使から携帯が私へと戻されて、比呂士さん?と問いかけたら、今すぐ戻ります。ともう一度告げられたので、私はそれに頷いてから電話を切って。
「パパのことお迎えに行こうか」
天使の頭を撫でながら提案し、風邪を引かないようにふたりともコートとマフラーと手袋の完全防寒をしてから、天使と手を繋いで家を出た。
「ぱぱ!」
マンションの敷地内に造られた住人達専用の散歩コースをふたりでのんびり散歩しながら、マンションの入り口に彼の姿が見えるのをずっと待っていると。
やがて外から敷地内へと入ってきたひとつの姿に天使が嬉しそうな声を上げて、その姿目がけて一目散に走り出す。
「転ばないようにね」
私はそう言いながら、天使の後を追うようにゆっくりと歩いて行く。
「おや。迎えに来てくださったんですか?」
最終的に彼に向かってジャンプをした天使を難なく抱き上げた彼は、少し遅れて彼の前に到着した私を見つめた。
「待ちきれなかったので」
頷いて笑ってみせた私に、彼は少し何かを考えるような素振りをして。
「誰が、ですか?」
首を傾げてみせる。
「はい?」
「誰が『待ちきれなかった』んですか?」
彼の質問の意味が分からず問い返した私は、再度の問いかけに顔が赤くなるのを感じた。
たぶん、彼はすでにお見通しなのだろう。
会いたいと言い出したのは天使でも、私も同じ気持ちだったことを。
天使を口実にしている私の心を。
「…私です」
私が、待ちきれなかったんです。
かなり恥ずかしいけれど、素直にそう言葉にしてみたら。
彼が本当に嬉しそうに微笑んだので、それを見た私の顔は、ますます赤くなってしまう。
「ありがとうございます。貴方にそう言っていただけて、嬉しいですよ」
両腕で天使をしっかりと抱き上げていたはずの彼は、私の言葉に天使を下ろして。
そのまま、そっと私のことを抱き寄せた。
「やっぱり、一緒にいないと嫌なんです」
抱き寄せられた胸に顔を埋め、彼の背に両手を回しながら小さく呟いてみせる。
皮肉にも、少し時間を置こうと彼が言ったことで、それが身に染みて分かった。
私は、やっぱり彼と一緒にいたい。
心配してくれる気持ちは分かるけれど、一緒にいられないことだけは受け入れられない。
私が悪いと分かっていても、心配してくれた彼に対して失礼な言動だったかもしれないとは思っても。
彼と一緒にいられないのなら、私は絶対に彼の主張を受け入れられない。
「――そうですね。私も、この時間で同じ結論に達しました」
予想外の答え。
「…え?」
思わず顔を上げて彼を見上げたら、彼が困ったような気恥ずかしそうな苦笑をしてみせて。
「いろいろ考えましたが、私も貴方といられないことは、やはりとても辛いです。ですから、今回は私の負けということになるでしょうね」
珍しく負けを認めたので、驚いた私は、しばらく何も言えなかった。
驚きの表情を隠しもせず、ただ彼を見上げ続ける。
「それでも、貴方のことが心配なことに変わりはありませんが」
何も言えない私に、さっきよりも困った笑顔で彼は、それだけは忘れないでほしいと付け加えた。
「…はい。分かってます」
ようやく言葉になった一言の返事。
それだけでも彼がにっこりと頷いてくれたので、たぶん私の言いたいことはすべて伝わったのだろう。
ごめんなさい。とか、これからはもっと気をつけます。とか、心配かけるようなことは自粛します。とか、頭の中に浮かんでも言葉にできなかった様々な言葉たちも。
全部、彼には伝わったのだろう。
きっと、言葉ではなく心で。
「ぱぱ、まま。おうち」
今度は、甘い雰囲気という形容が似つかわしい状況で見つめ合っていた私たちのコートの裾を、ちょうどいいタイミングで天使がギュッと引っ張って、己に注意を惹きつける。
「…申し訳ない。今すぐ帰りましょう」
「ごめん、ごめん。今帰ろうね」
自分の存在が忘れられかけていたなんて気づいたら、きっと天使は大いにご機嫌ナナメになってしまうから、私は慌てて彼の腕から逃れ、天使の目線までしゃがみこむと、誤魔化すようにその頭を撫でる。
彼も同じようにしゃがみこみ、天使の小さな手をギュッと握り締めている。
「さん。帰りましょうか」
「はい。帰りましょう」
彼が握ったのとは反対の天使の手を私がそっと取ると、それを合図に私たちはほぼ同時に立ち上がる。
真ん中に天使を挟み、親子3人でゆっくりと歩き始めながら、私はふと、こんな風に3人で歩くのもあと少しだなあと感慨に耽る。
それは彼も同じだったようで、
「帰ったら、新しい家族の名前を考えましょうか」
一瞬だけ立ち止まって私を見つめ、穏やかな声でそう提案した。
2010.02.04
調子に乗って、また書いた夫婦ネタです。今回は、柳生×です。
この妄想は、実は赤也ネタより先に浮かんでました。
ただ赤也ネタよりも+αが存在感あるので、どうしようか悩んだ挙句、先に赤也ネタを書きました。
紳士とは、喧嘩というよりも意見の相違に関してはとことん話し合ってそうだなあと思っています。
でも言葉では紳士に敵わないので、いつも途中でがだんまり作戦を展開するという、そんなイメージですね(笑)
ちなみに今回の喧嘩?の原因は、ふたりめのいるを心配した紳士が、しばらく実家に帰ったらどうですか?的なことを言い出したのが発端です。
たぶんが無理して、一度くらい倒れたんじゃないかなあと私は勝手に妄想してみてるのですが。
それでは、ここまで読んでいただいてありがとうございました!