BEST PRESENT










女の喜びそうなものなんか、分かんねぇ。

ましてや本命の彼女が喜んでくれそうなものなんて、何をあげりゃいいのか。

いつも一緒にいるわりに、こういうときになって初めて思い知らされる。

俺は自分で思ってたよりも、のことが分かってないのかもしれねぇ。

街に出りゃどこの店でもホワイトデーの文字が並んで、女の喜びそうな「可愛いもの」が溢れ返ってるってのに、たったひとつのプレゼントすら決まらねぇ。

だけど、しょうがねぇ。

俺が探しているのは、「女の喜びそう」なものという曖昧なカテゴリーのものじゃなくて「が喜ぶ」ものだから。

店頭に並んでる「可愛いもの」は、俺にとって役に立つような立たないような微妙な代物でしかねぇ。

そうなると本人に聞くのが一番確実なんだろうけど、それはそれで面白味がない気がするんだよな。

だって、プレゼントの一番の醍醐味は、受け取って何が入ってるのかドキドキしながら開ける瞬間だろ?

なのに中身が何か初めから分かってたら、楽しみが半減すると思うんだよな。

それにのことだから、もしホワイトデーのお返しは何がいいかなんて聞いたら、何にもいらねぇなんて言い出しかねねぇし。


「気持ちだけで充分だよ」


とか、なら言いいそうだ。

…いや、確実に言う。

だからやっぱり俺は、には内緒での喜ぶものを探す必要がある。

の行動をさり気なく観察して、今一番興味のありそうなことや、欲しそうにしているものを探らなきゃなんねぇ。

たとえ、


「赤也くん、最近挙動不審じゃない?」


なんて言われようとも!




だいたいは、物欲っていうものがあんまりないから問題だ。

おそらく一般的な女の反応程度には可愛いものにも反応するし、甘い物も好きだけど、これがどうしても欲しい!という感情は乏しい気がする。

ふたりで買い物に出かけたって、は買うよりも見てることのほうが多いし。

たまに反応を見せたところで、


「わ〜、これ可愛い」

「欲しいのか?」

「え?うぅん。別に欲しいってほどではないけど」


と、結局見て満足して終わることばっかりだ。


(何をあげりゃ喜ぶんだよ…)


ここ数日、のことをいつも以上に観察していた俺も、さすがに期限が迫ってきて焦りを覚える。

はやく決めないと、それこそ本当に「プレゼントは気持ちだけ」になりかねない。

…そんなのマジでシャレになんねぇだろ?

そう思った俺は、少しでも参考になればとネットでホワイトデーについて検索をしてみた。

ネットなら、お返しに人気のあるものとかいろんな情報が出てくるだろうと踏んでのことだった。

が、結果としては、これも正直惨敗だった。

なぜだって?

そりゃあ、ネットで見た「女性が望むホワイトデーのお返しランキング(本命)」の1位が、まさかの「お返しはいらない」だったからだ。

これじゃあ、俺が想像したの答えと同じだろ?

2位以下はアクセサリー、食事、クッキーといった順に並んでたけど、アクセサリーはやっぱり好みや趣味の問題があるから、勝手に俺が選んでも気に入らなかったら悪いと思うし、食事っつったって、俺の小遣いで奢ってやれるものなんてロクなもんじゃねぇ。

クッキーは、買うより断然の手作りのほうが美味いし。

――役に立たなすぎる。


「どうしろってんだよ…」


思わず声に出してボソっと呟いたら、隣のがどうしたの?と見上げてきた。

部活を終えた帰り道。

こうして一緒に下校することが当たり前になって半年近いってのに、の喜ぶものを探すのにまさかこれほど苦労するとは。


「なんでもねぇ」


自分が情けないやら呆れるやらでため息混じりに首を振ると、何を勘違いしたのかが、


「大丈夫だよ。赤也くんは赤也くんらしい部長を目指せばいいんだよ」


心配そうに、じっと見つめてくる。

先輩たちの卒業がいよいよ目前に迫ってるから、部活のことを考えてため息を吐いたとでも思ったんだろう。


ばーか。

違うっての。

お前へのお返しだ。お前への。


心の中でそう呟きながら、言葉では「サンキュ」とだけ伝えた。

的外れだけど、なりに俺を真面目に心配してくれてるんだろうしな。


「うん。あのね、一番大切なのは気持ちだからね?赤也くんが一生懸命頑張ってれば、部員にも絶対それが伝わるから」


そうしたらみんな、自然と赤也くんを中心にまとまっていくよ。

が俺を励まそうと懸命に語る言葉に、俺はまるで眠っていた意識が覚醒するかのように、ハッとした。


一番大切なのは気持ち。


それが、胸にすーっと染みこんでくる。

は部活のことを言ってるに過ぎないのに、まるで俺がここ数日悩んでいたことを見透かされたような気になって、でも不思議と気が楽になった。

今までさんざん迷って悩んでいたのが嘘のように、お返しをするという気持ち、を好きだと思う気持ち、それこそが一番のプレゼントなのかもしれないと思えた。

物は物に過ぎない。

どんな物をあげるかよりも、その物をどんな気持ちであげるかのほうが、たぶん重要なのかもな。


「サンキュ、


の言葉で、本当に「が喜ぶ」ものをようやく見つけた俺は、隣を歩くの手をギュッと握った。







2010.03.14


ホワイトデーということで、急遽書き上げました。
内容に登場するランキングは、私自身がネットで見て意外だなあと思ったものです。
で、瞬間このお話書こう!となりました。

赤也がホワイトデーのお返しに独りで勝手に(笑)悪戦苦闘する様子と、大切なのはプレゼントする物よりもプレゼントするときの「気持ち」だということが伝わっていれば幸いです。

それでは、ここまで読んでいただいてありがとうございました!

WEB拍手ボタンです。