日常の中の甘い5のお題




01.おとまり (ブン太×) 2010.03.22up
02.日曜日の朝 (幸村×) 2010.03.26up
03.おそろいのカップ (柳生×) 2010.03.24up
04.ならんだ歯ブラシ (赤也×) 2010.03.27up
05.合い鍵 (仁王×) 2010.07.22up


(お題配布元「キミの記憶、ボクの記憶」様)




読みたいタイトルをクリックすると、ページ内ジャンプします。
読んだ後、上記タイトル部分へ戻りたい場合は、ブラウザの戻るを押してください。

























01.おとまり (ブン太×




「ブン太先輩。私、そろそろ帰りますね」


その言葉に反射的にリビングの掛け時計を確認すると、時刻は22時を指し示している。

いつもの時間。

が帰るときの決まり文句を口にする時間。

ここからの家までは、およそ40分。

門限が23時に設定されているにとって、22時はタイムリミットだ。


「じゃ、行くか」


座っていたソファから立ち上がり、一度だけ伸びをする。

その隙にも、もう一度だけ時計を確認する。

何度見たって変わるわけがないのに、さっき見た時間が間違いであればいいと願っているからだ。


「はい」


何も知らない、気付いていないという顔で、が笑ってハンガーにかけていたスプリングコートを着始める。

その笑顔が憎らしいと思うのは、俺の間違いだろうか。

その笑顔に苛立ってしまうのは、俺が悪いのだろうか。


「先、行ってる」


玄関を指差し、一足先にリビングから出たところでため息を吐く。

は何も間違っていない。

が悪いことは何もない。

言葉にもしないで、何も気が付いていない顔のに勝手に苛立つだなんて、完全に俺が悪い。

頭では分かっていても気持ちが上手くコントロールできない。


「…たった一言、だってのに」


それを言葉にすることができない。

思ったことは何でも言えるタイプのはずが、これだけはどうにも言いにくい。

反応が怖いからだ。

言葉にした後、がどんな反応を示すのかが怖くて言い出す勇気が出ない。

普段は怖いと思うことなどあまりないのに、が関わると怖いことが増える。


もしも断られたら。

もしも怒らせたら。

もしも傷つけたら。

もしも泣かれたら。

もしも嫌われたら。


そんなことを考えると、たまらなく怖くなって言えなくなる。

そのくせ、察してくれないに小さな苛立ちを感じる身勝手さは持ち合わせていたりする。


「お待たせしました」


背後から声をかけられて、振り向くと帰る支度を整えたが立っていた。

にこにこと無邪気な笑顔を浮かべているを見た瞬間、また身勝手な苛立ちを覚えかけたものの、それを慌てて振り払おうとに手を差し伸べる。


「――行くか」


当然のように添えられた手を握り締めると、手の平に硬い感触が伝わる。

2年前のホワイトデーに俺が贈った指輪。

その感触が、俺の中に生まれかけた身勝手な感情を急激に和らげる。

そればかりか、

の手にこの感触があるだけで今はまだいい。

とさえ思えた。


「はい」


が再び笑って、繋がれた手に自分から力を込めてくる。

柔らかくて温かいの手。

その手を更に強く握り返しに微笑みかけると、


「今夜は泊まっていけよ」


いつか無理に勇気を振り絞らなくとも、自然とそう言葉にできる日を想像しながら、俺は扉に鍵をかけた。




2010.03.22


このキーワードで、まさかの言わない泊まらないEDです(笑)
キーワード的には、もっと甘いものを書くべきというか書いたほうが良かったんじゃないかとは思いますが、変なところで天邪鬼なもので、敢えてこんな話に。
ブン太ならこんなに悩まずに言ってしまうような気もしますが、私の中の実はこうだったらいいなあという願望を今回は書いてみました。
ハッキリ言えそうなタイプだけど、初めて言葉にするまではやっぱりいろいろ悩んで、ドキドキしていてほしいです(笑)







02.日曜日の朝 (幸村×




カーテンの隙間から射し込む陽光がしだに薄暗かった部屋を明るく照らし、ベッドの中で幸せな夢と戯れている私にゆっくりと覚醒を促す。


「…ん…」


まだ幸せな夢の世界の住人でいたくて、この至福のまどろみから覚めたくなくて、半分無意識のまま毛布の中に潜ろうとする。

けれど。

毛布を引き上げ、その中で猫のように小さく丸まろうとしていた私の頬に一瞬鈍い痛みが走って、私はその感覚に閉じていた瞳を開けた。


「………」


焦点が定まらず、頭もボーっとしているため、瞳を開いたものの視界に映っているものを即座に認識することができない。


「おはよう」


耳元に甘く響く囁くような声が届き、私はそこで初めて完全に覚醒する。

ハッとして、目を見開き、今にも飛び上がらんばかりの勢いで上半身を起こした。

その行動がよほど面白かったのか、


「そんなに驚かなくてもいいじゃないか」


そんな言葉と共に聞こえてくるのは、クスクスと楽しげな笑い声だ。


「だ、だって…!」


囁かれた左耳が異常なほど火照っていてくすぐったくて、左手で左耳を抑えながら私は少し泣きそうになる。


「『だって』何?…ああ、『だって、恥ずかしい』ってところかな?」

「!」


図星を言い当てられ、私が耳だけではなく顔中を赤くすると、ますます楽しげな声が響き渡る。


は本当に可愛いね」

「………」


普段私をからかうときと同じ声音に、私は照れながらも拗ねた様子を見せたけれど、精市先輩はそんなことお構いなく私の左頬に手を伸ばしむにっと軽く引っ張った。

さっき感じたのと同じ鈍い痛み。

寝ている間に感じた鈍い痛みは、先輩がイタズラで私の頬を引っ張ったせいだったのだ。


「…精市先輩は、意地悪です」

「おや、そんなこととっくに知っていただろう?」


照れからうっすらと瞳に溜まった涙をそのままに、私なりに先輩を思いっきり睨んでみても、先輩にはまるでダメージがない。

むしろ逆効果で、頬を引っ張っていたはずの左手が私の左腕を捉えたかと思うと、そのまま軽く引っ張られて先輩の胸の中に倒れ込むように閉じ込められた。


をからかったら、なんだか眠くなってきたよ。もう一眠りしようかな」


胸の中からなんとか逃れようともがく私をしっかりと抱きこんでしまってから、先輩は小さなあくびをひとつする。


「え!?も、もう朝ですってば!」


このままの態勢で先輩に眠られてしまったら、私は次に先輩が目を覚ますまで身動きが取れないまま大人しく抱きしめられていなければならない。

そんな恥ずかしいことにはとても耐えられそうもないので、ますます焦ってジタバタしてみたけれど、先輩の腕の力は強まるばかりで緩む気配がまったくない。


「いいじゃないか。今日は日曜日だよ?たまには、朝寝坊するのも悪くないんじゃないかな」


言うが早いか、先輩は閉じ込めた私の髪をさらさらと梳いたと思ったら額に口付けを落とすなり、


「おやすみ、


本当に瞳を閉じてしまった。


「や!ちょ、先輩!?起きて!起きてくださいってばっ」


慌てた私は先輩の腕をどうにか外そうとしばらく悪戦苦闘したものの、結局は先輩の力に敵うはずもなく、この後再び先輩が目覚めるまでの間、先輩の胸の中に本当に閉じ込められたままだった。




2010.03.26


日曜日の朝といえば、これでしょう!ということで、二度寝ネタでした。
状況的には、が幸村の家に泊まった翌朝という感じで。
の初々しい恥ずかしがりっぷりからして、お泊まり自体にもまだそんな慣れてない頃でしょうねぇ。大学生くらい、かな?
ちなみに幸村は、が目を覚ましそうになる随分前から起きていて寝顔を見てたから、ちょうど良いタイミングで頬を引っ張るイタズラができたのだと思われます(笑)







03.おそろいのカップ (柳生×




あ、と思ったときにはもう遅かった。

ガシャンっと物凄い音を立てて、それは無残にも砕け散った。

床に飛び散る破片。

思い出の残骸。


「うそ…お揃いだった、のに…」


慌ててしゃがみこみ、目に付いた大き目の欠片をふたつ拾い上げると、どうにか元に戻らないかと合わせてみる。

当然だけれど、それは元の形を取り戻すことはない。


「おねが…戻って…」


それでもどうしても元に戻したくて、必死で破片を集めようとしたら。


「…たっ」


小さな破片が指に刺さった。

流れてくる赤い筋。


「…いた…」


それを見ていたら、いつのまにか瞳も潤みだして勝手に涙が溢れてくる。

指が痛くて泣いているわけじゃない。

割れてしまったことが悲しいのだ。

おそろいのカップが。

ふたりで選んで、ふたりで買った思い出が。

ずっと大切にしようねとあの日誓った約束が。

すべて粉々に壊れてしまったことが、悲しくて痛い。


「…やだ…」


ポロポロと零れる大粒の涙を拭いもせず、手にしたままだった破片を握り締める。

手の平に切れるような微かな痛みを感じたけれども、それでも私は構わずひたすら泣き続けた。






さん、ただいま戻りました。さんのお好きなケーキを…」


どれくらいその場で泣き続けていたのだろうか。

外出していた彼が帰宅したらしい物音が玄関から聞こえたかと思うと、まもなくリビングの扉が開かれ、彼の明るい声が室内に流れ込んでくる。

その声に、それまで呆然としていた私はほとんど機械的に涙に濡れたままの顔で振り向く。

彼はそんな私と目が合うと、一瞬息を呑み固まったものの、すぐに異常に気付いて最後まで言い終わらないうちに駆け寄ってくる。


「何をしているんです、危ないでしょう!」


焦ったような怒ったような声と同時に、まだ手にしていた破片を強引に奪われ、直後に私の身体はふわりと宙に浮く。

彼の両腕に抱き上げられていたのだ。

温かくて安心するぬくもりを感じ、呆然としていた私はしだいにハッキリとした感覚を取り戻し、再び大粒の涙を零し始める。


「――ごめ、なさ…割れちゃ…」


ボロボロと泣きながら、必死で謝罪の言葉を紡ぐ。

おそろいのカップが割れたせいで、これまでのすべてが壊れたような気がして酷く怖かった。

思い出も。

約束も。

彼も。

すべて粉々に砕け、何もかも失ってしまったような、そんな感覚に襲われていた。

必死に許しを請い続け、彼の首にしがみついて泣き続ける。


「いいんですよ、さん。泣かないでください。大丈夫ですから」


彼はそんな私を抱いたままソファに座り、私が落ち着きを取り戻して泣き止むまで背中をあやすように撫で、耳元で優しく囁き続けてくれた。






「…本当に、ごめんなさい」


落ち着きを取り戻した私は、彼に破片で切った手の消毒をしてもらいながら、しゅんとうなだれた。

彼はそんな私に小さな苦笑を漏らし、


「マグカップは割れ物ですからね。気を付けていても、いつかは割れてしまうものです。それよりもさんの怪我が軽くて安心しましたよ」


消毒したばかりの手の平にそっと唇を寄せてくる。


「で、でも、大切にしようって約束して買ったのに…私がうっかりしてたせいで割っちゃって…」


ほんの一瞬、そっと寄せられただけの彼の唇の感触が妙にハッキリと感じられ、私は気恥ずかしくて、うなだれていた顔をますます俯ける。

赤く染まった頬を見られるのが恥ずかしかったのだ。


「確かにこのマグカップは私たちにとって特別なものではありますが、それでも私にとっては貴方のほうが大切ですからね。お揃いのマグカップが割れることよりも、貴方が怪我をすることのほうが大問題ですよ」


マグカップなら、また買いなおせばいいのですから。

手当ての仕上げに左手の人差し指にカットバンを貼ると、彼は俯いたままの私の右頬に触れて親指で涙の跡を拭ってくれた。


「――また、おそろいにしてくれますか?」


彼の手が頬に触れ心臓が小さく跳ねるのを感じながら、私はちらりと上目遣いで彼を見上げる。

割れてしまったマグカップは、もう元には戻らないけれど。

その代わり、新しいマグカップでまた新たな思い出を作りたい。

新しいマグカップで、新しい約束をして、新しい思い出を作りたい。

そうすれば、このマグカップ以外に失ったものは何もないのだと心から思えるから。


「ええ、もちろんです。また、ふたりで選びましょう」


私の言葉に彼がにこりと笑顔を浮かべ、頬に触れていた右手で今度は私の髪を優しく梳く。


「あ、ありがとうござ…」


髪を梳かれる感触が少しくすぐったくて、私が思わずその手から逃れようと小首を傾げたとき。

まるで天使の羽根のように軽いキスが降りてきて、私のお礼の言葉は途中で遮られた。

あまりにも突然でわずか一瞬の出来事に言葉もなく瞳を丸くして驚く私に、彼は今度はイタズラっ子のような微笑みを浮かべ、


「明日にでも、早速買い物へ出かけましょうか」


そう言うなり、もう一度私にキスをした。

今度は、小鳥のように啄ばむそれだった。




2010.03.24


会話文で察してもらえると思ってるのですが…柳生です(笑)
このお題が「日常の中の甘い5のお題」となっているので甘いものを書こうと思っていたはずなのに、キーワード見て最初に浮かんだのが、カップが割れるところでした…(^^;
最終的に少々強引に甘さを投下したつもり…です。

ちょっと補足ですが、このおはなしのふたりは私の脳内設定では新婚ということになっています。
なので、がカップが割れたくらいで大泣きしたりと若干子どもっぽい言動なのも、新婚ほやほやだからだと見逃してやってください(笑)







04.ならんだ歯ブラシ (赤也×




たとえば、それはほんの些細なこと。

ふと目に入った洗面台で、仲良くふたつの歯ブラシが並んでいたり。

毎朝淹れるコーヒーのカップがおそろいだったり。

宅配便が届いたときに押す印鑑だったり。

そんなふとした些細でありふれている日常の中にこそ、結婚したんだなあという実感と幸せが隠れていたりするのだ。


「そういうもんか?別に結婚してなくたって、歯ブラシは並べられるし、マグカップだってそろえられんだろ?」


ま、宅配便の印鑑は確かにそうかも知れねぇけどな。

仮にも新婚の夫であるはずの赤也くんは、私の言葉に少々ガッカリする返答をくれたけれど。

それでも、私の話を聞いている間の瞳は普段よりもずっと優しかったから、たぶんこの発言は赤也くんの精一杯の照れ隠しだったのだと思ってあげることにする。

――だって。

洗面台で仲良く並んでいる歯ブラシも、食器棚でまるで寄り添うように置かれているペアのマグカップも、赤也くんが買ってきたものだから。

結婚を決めて、ふたりで新居に必要な家具や諸々のものを買い揃えているときに、ある日赤也くんが買って帰ってきたものだから。


「そういや大きな家財道具ばかり買って、細かい雑貨は買ってなかったよな」


なんて言いながら。


「確かに結婚してなくても揃えられるけど、結婚した後だとまたちょっと違う幸せっていうか、喜びがあるんだってば」


ふーんと気のない振りをしている赤也くんをチラ見しながら、こっそりと笑みを零す。


「…なに笑ってんだよ」


私の内心を見抜いたのか、まるでふてくされたような声を出して唇を尖らせる。

そしてそのまま、軽く頭を小突かれた。


「ひどいなあ。何にもしてないのに」


小突かれたところを大げさにさすって不満気な表情をわざと作ってみようとしたけれど、つい零れてしまう笑みを誤魔化すことができない。


「人の顔見てニヤニヤするからだろ」

「ニヤニヤなんてしなていってば。ニコニコしたんだよ」

「…どっちでも一緒じゃん」

「違うよ。ニヤニヤとニコニコは全然違う!」


傍から見たらきっと呆れられるようなくだらない言い合いも、どこか楽しくて。

あ、そうか。

こういうときも幸せだって思う瞬間かもしれないなんて、密かに思った。


「――お前って、意外と頑固だよな」


しばらく一緒だとか違うだとか言い合っていたものの、先に根負けした赤也くんが、降参とばかりに苦笑交じりに呟く。


「意外じゃないよ?私、昔から頑固だもん」


知らなかった?と首を傾げてみせると、赤也くんはますます苦笑をしたけれど、それ以上はその話を続けようとはせず。


、そろそろ寝ようぜ。俺、超眠いわ」


ふぁぁと大き目のあくびをひとつと背伸びをして、ソファから立ち上がった。


「あ、待って待って。その前に歯磨かないと」


放っておいたらそのまま寝室に行ってしまいそうな赤也くんに慌てて声をかけると、腕を引っ張って洗面所へと連れて行く。

そこには、当然のように仲良く並んでいる歯ブラシがあって。

やっぱり幸せだなあと、その光景にひとり密かに幸せを感じつつ、隣の赤也くんをちらっと見上げたら。

ちょうど赤也くんの視線も並んだ歯ブラシに向けられていて、とても柔らかな横顔をしていたので、私はそれにまた、小さく笑みを零してしまった。




2010.03.27


今回が一番苦しい展開になった気がするネタです…。
どうやって話に歯ブラシを絡ませるかが、難しくて無理矢理感満載になってしまいました(><)
とりあえず新婚バカップル(笑)な雰囲気が伝われば、今回はそれだけでヨシです(笑)







05.合い鍵 (仁王×




「あれ…?」


カバンの中を覗いた私が思わず零した呟きに。


「なんじゃ。どうかしたんか?」


雅治先輩が、隣で小首を傾げる。

キョトンとしたような、本当に不思議そうな顔で。

けれど私は、そんな先輩を少しだけ頬を膨らませて見上げると。


「もう。『どうかしたんか?』じゃないですよ。鍵返してください」


はい、と自分の左手をおもむろに差し出してみせる。

カバンにしまっておいたはずの家の鍵が、いつのまにか消えている。

けれど、犯人は分かっている。

雅治先輩だ。

先輩が、いつものイタズラで鍵をどこかに隠してしまったのだろう。

だってその証拠に、そろそろ帰りますと告げた私に対し、


「忘れもんはないかのう?」


と、普段言った事もないような一言を口にし、帰る前に忘れ物がないか確認したほうがいいと促したのだ。


「先輩。ほら、はやく返してください」


左の手の平を目の前に差し出しながら拗ねたような表情をする私を見ても、先輩は素知らぬふりで、


「鍵なんて知らんのう。証拠もなく人を疑っちゃあいかんぜよ」


などとしばらくとぼけ続けていたけれど。


「もう。そんな見え透いた嘘ついても無駄ですよ?先輩のイタズラ以外に鍵がなくなるなんて、あるわけないじゃないですか。ほら、はやく返してください。本当に怒りますよ?」


まったく取り合わない私にさすがに観念したのか、


。すっかりお前さんも俺のペテンに騙されなくなってしまったのう」


つまらんものじゃと、自分のポケットに手を入れ、中に隠し持っていたらしいものを、差し出していた私の手の平にポンっと乗せた。

私は、その感触と共に視線を先輩から手の平に移し、


「当然ですよ。先輩と何年付き合ってると…」


小言を呟きながら、少しだけ呆れたような表情を浮かべようとした。

けれど、それはできなかった。

呟いていた言葉は途中で途切れ、呆れたような表情は途中で固まり、驚きのそれへと変わる。


「………」

?」


先輩がそんな私を見て、ひどく楽しげな表情を浮かべている。

イタズラが成功したときに見せるそれだ。

けれど私は、驚きすぎて何も言えずにいる。

ただ、自分の手の平に乗せられたキーホルダーにいつのまにか増えている見慣れない鍵と、先輩の顔を交互に見つめるだけ。


「大成功ってところかの。これほどうまくいったのは、久しぶりじゃ」


満足そうに笑う先輩は、大きな手の平で私の頭をポンポンと何度も軽く撫でた。


「いつでも来てエエぜよ」


耳元で優しく囁かれた言葉に、私は涙が零れないように頷きながら、ギュッと大切な宝物を抱きしめるように左手を握り締めることが精一杯だった。




2010.07.22


長期放置からの復帰作です…。
本当に長い事放置状態になってしまい、申し訳ありませんでしたm(_ _)m
あまりにも久しぶりすぎて、ただでさえない文才がさらになくなってしまったので、おはなしを書くリハビリしないとダメですね(汗)

内容はタイトルまんまな感じで、仁王がにアパートの合い鍵を渡してるだけです(^^;
精進します。



途中に長期放置を挟みつつ、なんとか全部消化しました。
長い事放置本当に申し訳ありませんでした。
重ね重ね、お詫び申し上げます。
そして、気長に待っていてくださった方、本当にありがとうございます。

読んでくださってありがとうございました。
ウィンドウを閉じてお戻りください。

2010.07.22記

お話がお気に召しましたら、応援よろしくお願いします。