キス5題




01.ふれるだけ (柳生×) 2010.01.18up
02.見つめ合って (幸村×) 2010.01.19up
03.情熱的に (ブン太×) 2010.01.24up
04.無理矢理 (仁王×) 2010.01.27up
05寸止め (赤也×) 2010.01.21up


(お題配布元「いろいろお題 5と10の配布処」様)




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01.ふれるだけ (柳生×




どうして、してくれないのかな?


そんなことを考えてたから、先輩が私のことを呼んだことに気が付かなかった。


「…さん」


もう、3ヶ月なのに。


さん?」


一度も、してくれない。


さん!」


ポンッと肩を叩かれる感触に、ハッとする。

それでようやく我に返って、慌てて隣の先輩を見上げたら、心配したような目とぶつかった。


「す、すみません!ボーっとしたりして」

「どうかされたんですか?」


立ち止まって、心配そうに私を見つめる先輩。


「い、いえ…なんでもありません」


心配させてしまったことが申し訳なくて、ひたすら首を振って恐縮する。


「…そうですか?具合でも悪いのではありませんか?」


今日は、ずっと上の空のようでしたし。

少しため息混じりに付け足されて、私は、ごめんなさいとしか言えなかった。

先輩との帰り道。

いつもだったら、先輩といろんなお話ができて楽しいのに。

たくさん話したいことがあって、駅までの道のりが短いって感じるくらいなのに。

今日は、ちょっと違っていた。




事の発端は、休み時間の友達とのお喋り。

恋とかお洒落とか、女の子の好きなことを思いつくままに適当にお喋りする、いわゆるガールズトークのときだった。


「ねぇねぇ、は当然もうキスしてるよね?」


ひとりの友達が、唐突に切り出した。

するとその言葉に反応したのか、それまでアイドル雑誌を眺めたり、好きな子との恋愛相談をしていたはずの子達も、興味津々の顔で一斉に私を見つめてくる。


「え!?」


一方の私は、思いがけない質問に一瞬で真っ赤になった。

キスって…あの、キスだよね?

そんな当たり前なことを改めて考えてしまったくらい、混乱してしまった。

すると、目敏い友人のひとりが、まさかという表情で私を見つめてくる。


…もしかして、まだしたことないの?」

「………」


ものすごく改めて大真面目な顔で聞かれると、まるで自分が悪いような間違っているような気持ちになってしまい、何も答えられなかった。

すると、その無言で真実を察した友人達が、次々に驚きの声を上げだす。


「うそ!信じられない!」

「え、だって、付き合ってもう3ヶ月でしょ!?」

〜、ちゃんとデートしてる?」


口々に言われ、私は少し不安になる。

柳生先輩と付き合い始めて3ヶ月。

まだキスをしたことがないのは、そんなに変なことなの?


「…変、かなぁ…?」


ぽそりと、呟いてみると。


「絶対変!!」


満場一致の答えが返ってきて。

私は、ますます不安になってしまったのだった。




(でも、まさかこんなこと言えるはずないし)


柳生先輩と付き合い始めて3ヶ月。

先輩はとっても優しくて、いつもいろんなことを話してはいるけれど。

まさか、どうしてキスしてくれないんですか?なんてことはさすがに言えるはずがない。


(普通は、とっくにしてるもんだって言われちゃったんだけど…)


デートもしてるし、毎日登下校も一緒にしてる。

でも、今までキスをする雰囲気になったことなんて一度もない。

いつも、先輩の隣を並んで歩いて、いろんなことを話して笑い合っているだけ。


(私とは、キスしたくないのかな…)


そんなことを考えたら、悲しくて思わずため息が零れた。


「やはり今日は、様子がおかしいようですね」

「…あ、す、すみません…」


ため息に気づいた先輩が、再び心配そうに私を見下ろした。

また、先輩に心配をかけてしまった。


さん、何かお悩みでしたら話していただけませんか?私でもお役に立てるかもしれません」


先輩の優しい言葉に、胸が痛む。

本当に私のことを心配してくれているんだ。

それなのに私は…




「ご心配をおかけして、すみませんでした」


すべてを話し終え、深々と頭を下げた私の頭上に、先輩の小さなため息が落とされる。

そのため息ひとつで、私の心はひどく不安でいっぱいになる。

でも、友達にからかわれて不安になって、先輩の気持ちを少しだけ疑ってしまったなんて、先輩が気分を害して当然のことだと思う。

とても心配させてしまった分、先輩が怒るのは当たり前なんだ。

だから私は、先輩が許してくれるまで必死で謝り続けなくちゃいけない。


「――さん」

「本当にすみませんでした」

さん…」

「もう馬鹿なこと考えたりしません」

「あの、さん。私の話を…」

「もう絶対、先輩の気持ちを疑ったりもしませんから」


だから、許してください。


そう続けようとしたところで、ふわりと私は先輩に抱きしめられた。

あまりにも突然すぎて、一瞬何が起きたのか分からなかったけれど。

先輩の腕の中にいるんだって気が付いたら、緊張で身体が固まってしまった。

心臓もドキドキと異常に速くなって、言おうとしていた言葉もすべて抜け落ちる。


さん。私の話を聞いてください」


私が先輩の腕の中で硬直して言葉をなくしてしまうと、先輩が代わりに静かに口を開き始めた。


「貴方を不安にさせてしまったのは、私のせいです。申し訳ありません」


紡がれる意外な言葉に慌てて、まだ思うように動かない身体をどうにかしようと試みるも、先輩はそれを制するように更にギュッと私を抱きしめた。


「貴方が大切だからこそ今まで触れずにいたのですが、それがかえって貴方を不安にさせてしまったようですね」


申し訳ありませんと、耳元で囁かれて。

私の心は、嬉しさと情けなさでぐちゃぐちゃになる。

先輩が、私をとても大切にしてくれていたことに対する嬉しさ。

そして、そんな先輩のことを少しでも疑ってしまった自分の情けなさ。

ふたつの感情が心の中で渦巻いて、どうしたらいいか分からなくて、私の瞳には涙が溢れた。


「――ごめ、なさ…」


先輩のブレザーを両手でギュッと握り込んで、小さな声で謝ったら。

私の背中に回していた右手を、そっと右頬に移動させて先輩が言った。


「泣かないでください」


そのまま、零れる涙を優しく拭ってくれる。

でも私の涙は止まらない。

こんなに優しくされると、自分の情けなさにますます自己嫌悪がひどくなる。


「そんなに自分を悪く思わないでください。私は、むしろ嬉しく思っていますよ」


私のことをとても想ってくれているという証明ですから。

泣き止まない私に、少し困ったような顔で言った後、先輩は一瞬私を見つめた。

次の瞬間。

頬を何かが掠める感触がして。


「貴方が泣き止んでくれないと、私は非常に困るのですが」


再び、耳元で囁かれた。


「――せん、ぱ…」


今…

今のって…

突然すぎて、あまりにも一瞬すぎて。

何がなんだかよく分からないけれど。

でも、たぶん、きっと。

今、私の頬を羽根のように掠めていったのは――。


そんな私に答えを与えるように、


「今の私には、これが精一杯です。貴方のことを大切にしたいんです」


少しだけ顔を赤くした先輩が、恥ずかしそうに微笑んだ。




2010.01.18


「ふれるだけ」というキーワードで最初に浮かんだのは、柳生がの頬にKissしてるイメージでした。
私の中で、柳生は紳士なだけあって、付き合ってもしばらくは何もしないイメージです。
しても、いいとこ頬とか額へのKiss止まりなイメージ。唇なんて、とんでもない!みたいな(笑)
なので、今回はそんなイメージどおり柳生氏に動いていただきました〜







02.見つめ合って (幸村×







穏やかで優しい声が、私の名前を呼ぶ。

たったそれだけで、トクンと胸が高鳴ってしまうのは、たぶんその先を知っているから。


「精市先輩…」


応えるように顔を上げると、柔らかな笑みを浮かべている先輩と目が合った。

トクン。

その笑みに、また高鳴りを覚える私の胸。

じぃっと、私のことを見つめる先輩。

じぃっと、先輩のことを見つめる私。

お互いに逸らせない視線。

お互いに逸らさない視線。


…」


やがて、先輩がもう一度私の名前を呼んで。

ゆっくりと私の頬に、手を伸ばしてくる。

まるで壊れ物でも扱うかのように、そっとそっと。


。大好きだよ」


温かくて安心する先輩の手で優しく頬を撫でられながら、そっと囁かれる極上の甘い言葉は。

トクン。

また、私の胸を高鳴らせた。


「私も、精市先輩のことが大好きです」


そう私が微笑んだのとほぼ同時に、頬に触れていた先輩の手が私の顎を捉える。

そして、そのまま少しずつ先輩の顔が近づいて…


私はそれを合図に、ゆっくりと瞳を閉じた。




2010.01.19


書きながら、途中何度もゴミ箱行きにしようかと思ったくらい恥ずかしかったです…(笑)
個人的には通常の3割増しくらいで甘さを投入したつもりです。
が、あくまでも私の基準なので、たいして甘くないよ!と感じる方もいるかもしれませんね…(^^;

幸村部長は、私にとってはまだまだ謎が多い人です。
今のところ、こういうとき照れずに見つめ合ってくれそうなイメージを抱いているのですが、実際はどうなのでしょうね?







03.情熱的に (ブン太×




「どうぞ召し上がれ」


そう目の前に差し出した瞬間。

ブン太先輩の瞳がキラキラと輝くのが分かって、可愛いな。と思う。


「おーすげー。美味そーだな!はやく食おうぜぃ!!」


箱の中身を覗き込んで、待ち切れなさそうに声を上げる先輩。

そんなところも可愛くて、思わずクスリと笑みを零す。


お昼休み。

いつもお昼は、先輩と屋上で食べているのだけれど。

今日は、午前中にあった調理実習で作ったケーキのデザート付き。

甘いものが大好きな先輩に食べて欲しくて、自分の分を半分に切り分け取って置いたのだ。


「授業中に試食しましたから、味に関しては保証済みです」


先輩の全身から溢れる、はやくはやくというオーラが一層強くなったので、私は持ち運んできた箱から急いでケーキを紙皿に移し替え、フォークを先輩に差し出す。


「お前が作るもんなら、なんだって美味いって!」


そう言いながらも視線は常にケーキに釘付けで、「いっただきまーす!」と元気に言ったかと思うと、握り締めたフォークを早速ケーキに突き刺した先輩。

やっぱり、それもまた可愛いなあ。と思う。

先輩は普段はとってもカッコイイのに、ときどき年下の私から見ても「可愛い」と思ってしまう部分がある。

特に、甘いものを前にした先輩は「可愛い」ところだらけだ。

ほら、今だって。


「先輩」

「んー?」

「ついてますよ?」


食べることに夢中で、頬に生クリームがついてることにも気づかない。

私はクスクスと笑いながら指摘すると、小さなイタズラ心を起こし、それを掠めるような頬へのキスで舐め取る。


「――甘い」

「ちょ…っ、おい!!?」


不意を突かれた形の先輩が赤い顔をして驚いた声を上げたけれど、それさえも私には可愛く思えてしまった。


「…先輩。可愛いすぎます」


けれど、私が笑いながらそう呟くと、先輩は少し不満そうな表情を浮かべる。


「お前…男に可愛いはねぇだろ…」

「でも、可愛いって思っちゃうんですから仕方ないですよ」

「男が可愛いって言われても嬉しくねぇよ」

「えー?だって先輩、本当に可愛いなって思うんですもん」

「…あのなぁ…」


先輩は何か言おうとしたものの、そこで諦めたようにため息をひとつ吐くと黙ってしまう。


「先輩?拗ねちゃいました?」

「………」


黙り込んだ先輩を小首を傾げて覗き込んでみれば、その表情は完全に拗ねているようで。

そんな先輩がまた可愛くて、私のイタズラ心をますます刺激する。


「ねぇ、ブン太先輩?」

「………」

「すぐ拗ねちゃうのも、可愛いポイントですよ?」


自然と溢れてしまう笑いを噛み殺し、目を合わせようと先輩との距離をグッと縮めたら。

その瞬間に、ペチョッて頬に指で生クリームを付けられて。


「――…からな」


耳元で、聞き取れないほど早口で何かを囁かれたかと思うと、掠めるように頬に口付けられた。


「!?」


その目にも留まらぬ早技と、予想もしていなかった反撃に、今度は私が驚かされる。


「さっきの仕返しだぜぃ」


驚く私に満足そうにニヤリと笑った先輩は、続けて私をしっかりと抱き寄せ、唇に狙いを定めてくる。

突然の形勢逆転からまだ復活しきれていなかった私は、それに対抗する間もなくあっさりと唇も掠め取られた。

それに気を良くしたのか、先輩の反撃はどんどんエスカレートして。

額、瞼、頬、耳、顎、首筋、と、顔中にキスの嵐が降ってくる。


「…やっ、せ、せんぱ…ちょっ…」


止まないキスの嵐に焦る私にお構いなく、先輩の反撃は続いて。

再度唇に羽根のようなキスが落とされたかと思うと、それを合図に何度も何度も啄ばむように口付けられる。


「…くすぐっ、た…」


くすぐったさに耐えかねて身を捩ろうとしても、先輩のキスは止むことがなく。

それどころか何度も角度を変えて繰り返されているうちに、いつのまにか深さも増して。

最終的には、息苦しさで漏れる声さえも先輩に奪い取られてしまうほどの、深い深いそれへと変わったのだった。




「あー、。お前、顔真っ赤。…可愛すぎだろぃ」


存分に私の唇を堪能した後、先輩はまだ耳まで真っ赤な私を見て、心の底からおかしそうに笑う。


「だ、だって…!」


それは先輩がとか、あのキスの嵐は反則だと思うとか、いろいろ浮かんだ言葉はあるのに、それらはすべて先輩の次の一言によって声になることはなかった。


「お前が俺のことからかったりするからだろぃ?ま、自業自得ってやつだな」




2010.01.24


WEB拍手メッセージでブン太×を読んでみたいというリクエストをいただいたので、早速参考にさせていただいて出来たおはなしです。

イタズラ心からブン太をからかって、最終的には反撃に遭ったでした(笑)
がやたらブン太を可愛い可愛い思っているのは、おはなしを書いている人間のブン太に対する評価がそうだからです(^^;
男の子だからカッコイイって言われるほうが嬉しいんだろうけれど、私にとっては、やっぱりブン太は可愛いと思うことのほうが多いです。

たぶんこの一件以降、はブン太を滅多にからかわなくなります(笑)







04.無理矢理 (仁王×




「なぁ、お前さん。こういうゲーム知っとるか?」


雅治先輩の部屋。

少しだけダーツで遊んだ後、ふたり並んでお茶を飲んでいたら、先輩が唐突に言った。


「どんなゲームですか?」


マグカップをテーブルの上に置きながら、首を傾げて隣の先輩を見上げると、


「何を聞かれても、『はい』としか答えちゃいかんゲームじゃ」


同じくテーブルにマグカップを戻そうとしながら、先輩が言った。


「あ、知ってます。実は小学生の頃、ちょっとだけ流行ったんですよ」


回答者がうっかり「いいえ」って答えてしまいそうになる質問をわざとしたりするんですよね?

そう先輩に確かめ、懐かしいなあと笑ってみせると。

先輩は、知っとるなら話がはやい。と呟くなり、


「今から、ちょっとやってみんかのう」


思いもかけないことを続けた。


「私と先輩で、ですか?」


予想外の提案に、私は少し戸惑う。

だって、このゲームを面白がってやっていたのは小学生の頃。

正直、それだって本当に僅かな期間のブームで終わったくらいだし、今の私たちがやって面白く感じるとはとても思えなかった。

でも、先輩はなぜかこのゲームをとてもやりたがっていて。


「そうじゃ。俺とお前さんでじゃ。…どうかのう?」


お伺いを立てるように、私を見下ろして首を傾げる。

見下ろされた私は、一瞬だけ考えたけれど、


「別にいいですよ」


と、ゲームをすることを了承する。

簡単なゲームだし、先輩もやりたがっているし。

そんな軽い気持ちでした返事だった。




。お前さん、暗いところは好きか?」

「…はい」

「それじゃ、お化けはどうじゃ?好きか?」

「い、…じゃなくて。は、はい」


まもなく始められたゲームは、相手が「いいえ」と答えてしまいそうな質問をする質問者と、それに惑わされまいとする回答者の攻防が延々と繰り広げられる単純なゲーム。

小学生の頃にやっていたのとまったく同じだ。


「お前さん、この前『ケーキはしばらく食べません』と言っとったが、本当は、食べとるじゃろ?」

「え!?ど、どうして、それを…じゃ、なくてっ。――はい」


始めた直後から感じていたけれど、このゲームは圧倒的に私の分が悪かった。

先輩のする質問は、つい「いいえ」と言ってしまいそうなものばかりで、私は何度も「いいえ」と答えそうになっては、慌てて言い直したりしている。

そのたびに先輩は本当に面白そうに笑うので、単純なゲームとはいえ、ちょっと悔しい。

始める前は“やりたがっている先輩に付き合う”程度の感覚でいたのに、今ではすっかり“先輩に負けたくない”とまで思い始めている。

そんな私の気持ちの変化に、先輩も気が付いたのだろう。

ゲームを開始して以降投げかけ続けていた質問を一旦中断して、


、このままじゃとお前さんの負けぜよ」


とても面白そうに笑いながら言った。


「で、でも、まだ辛うじて言ってないですし!」

「けど、さっきからギリギリの橋ばっかり渡ってるぜよ」

「う〜…それは、そうですけど」


先輩に痛いところを突かれて、私は唸る。

すると先輩が、


「何にせよ、次の質問で最後じゃ。絶対、お前さんは『はい』って答えられん」


余裕のある顔で、堂々の勝利予告宣言をした。

それを聞いた私は、もちろん黙っていることができなくて。


「そんなことないです。私、答える自信ありますから!」


対抗するように胸を張ってみせる。


「ほぅ。相当自信があるようじゃの。…なら、賭けてみるか?」


自信たっぷりに反論した私に、ニヤリと笑った先輩。

その提案に、勢いで乗ってしまう私。


「なら、次でお前さんが『はい』と答えられたら俺の負け。答えられんかったらお前さんの負けじゃ。いいか?負けたほうは罰ゲームぜよ」


私の答えを聞いた先輩は、楽しそうに罰ゲームを提案した直後、


。――キスしてもいいか?」


私の耳元に顔を寄せ、わざと吐息がかかるように問いかけた。


「!!」


その吐息のくすぐったさと、想像もしていなかった質問で驚いた私は、咄嗟に何も答えることができなかった。

先輩は、そんな私の様子に耳元で満足そうに笑い声を上げてから、両手を私の両肩に置き、しっかりと顔を覗き込んできた。


「なんじゃ。答えられんのか?」

「………」


答えられんのなら、お前さんの負けじゃ。

罰ゲームをしてもらわんとな。


言いながら、私の答えも待たずに、覗き込むために近づけていた顔を更に近づけてくる先輩。

肩に置かれていたはずの両手も、ごく自然な流れで背中へと滑り落ちていく。


「――やっ…せん…」


そこで我に返った私が、慌てて身じろぎをして抵抗を見せると。

意外にも、拍子抜けするほどあっさりと私の身体は解放されて。

至近距離だった先輩の顔も一瞬にして遠くなった。


「…答えられるんか?」


赤い顔をしている私に対して、先輩は平然とした様子で。

それがまた悔しくて、半分以上意地だけでコクリと頷いてみせたら。

相変わらず平然としたままで先輩は、なんじゃ、つまらんのう。とぶつぶつ呟きながらも、


「それなら、言ってみんしゃい」


と、私に答えを促した。




「――は、はい…」


しばらく心の中で格闘したものの、どうにか最後の質問にも「はい」と答えを返した私。

これで、先輩との賭けは私の勝ち。

――と、思いきや。

なぜか答えた瞬間、私は再び先輩に引き寄せられ、胸の中に閉じ込められる。

そしてそのまま、何の前触れも前置きもなく。

瞳すら閉じる暇もないままに。

先輩の唇が、私の唇に唐突に重ねられた。


「〜〜〜っっ!?」


半分強引にキスをされている形の私が、突然のことに混乱しつつも、その混乱を閉じることも忘れている瞳で先輩に訴えたら。


「キスしてもいいか?って聞いたら、お前さんが『はい』って答えたんじゃろ?」


だから、キスしただけのことぜよ。

と、唇を離した後に先輩は悪びれる様子もなく飄々と語り。


。お前さん、詐欺師と呼ばれる男を簡単に信用しちゃいかんぜよ」


挙句の果てには、企みが成功した満足感から今日一番の満面の笑みまで浮かべてみせた。

そして私は、そんな先輩の憎らしいほど輝いている笑顔を複雑な思いで見つめながら、もう二度と詐欺師とゲームはしないと固く心に誓ったのだった。




2010.01.27


詐欺師VSのゲームでした。
当然ながら、仁王は初めから勝敗がどっちに転んでもにキスする気でいました。
というか、にキスしたかったからゲームを持ちかけました。…お分かりかと思いますが(笑)
すべてが詐欺師の計算ずくです。それに単純がまんまと騙されてしまうという(^^;

このおはなしが、キス5題の中で一番難しかったです。
何が難しいって、まずは仁王の喋り方!!
彼の口調は独特なので喋り方が掴み切れず、結局、偽者臭が漂うままになってしまいました。
仁王じゃない!と思われた方、申し訳ありません。私の勉強不足ですm(_ _)m

あとは、どこまで言葉通り無理矢理にしていいものかも悩みました。
結果的に、無理矢理の中にもイタズラっぽさを全面に押し出してソフトに濁すことにしたので、不快感はないとは思うのですが…(不安)







05.寸止め (赤也×




「なぁ、〜」


誰もいない放課後の図書室。

隣に座る赤也くんが、私の名を呼ぶ。

周囲に人影は見当たらないけれど、図書室という場所に気を遣ったその声は、いつもよりもずっと小さくまるで囁くようだった。


「なに?赤也くん」


開いているページに落とした視線を上げないまま、私はそれに返事をする。

声のトーンは、やはりいつもより落としている。


「なぁ、なぁ」


顔を上げない私に、今度は軽く肩を揺すりながら再度呼びかける赤也くん。


「………」


内心でひとつため息を吐いてから、そこでようやく私は、渋々ながら読んでいた本から顔を上げた。


「何か質問?」


問いかけながらも、そうではないことを私はちゃんと知っている。


「や、質問ってわけじゃねぇけど…」


案の定、赤也くんは少し歯切れが悪そうに呟いた。

私はその答えに、今度は内心ではなくため息を吐き、


「もう。真面目にやらないと、間に合わないよ?」


赤也くんにお小言を言った。

ついでに、ちらりと図書室に掛かっている時計を見る。

時刻は17時半。

あと30分でタイムリミットだ。


「ほら、もうあと30分しかないよ」

「分かってるけどよ…」


私の視線に釣られるように時計を見た赤也くんは、そう呟いた後に、でも、と遠慮がちに付け足す。


「『でも』なに?」


続いて発せられる言葉のおおよその予想をつけながら、私は一応続きを促してみる。


「…飽きた」

「………」


そのあまりにも予想通りの答えに、呆れるのを通り越して思わず笑ってしまいそうになったけれど、辛うじて笑いを飲み込む。


「元はと言えば、きちんと提出期限までにやらなかった赤也くんが悪いんじゃない」

「わーかってるよ。でもよ〜、いい加減飽きてきたっての」


もう1時間半だろ?

そうブツブツと言って、赤也くんは握っていたシャープペンを放り出してしまう。

テニスではいつも桁違いの集中力を発揮している赤也くんなのに、どういうわけかその集中力が勉強に活かされているところを見たことがない。

特に苦手な英語ともなると、集中力不足は顕著に現れる。


「でも、今日こそ提出しないと先生にものすごく怒られちゃうよ?」


完全にやる気を失っている赤也くんを横目に見ながら、どこまでできたの?と開かれている問題集を覗き込む。

問題は思ったよりも解かれていて、すでに終わりの目処がついていると言ってもいいくらいだった。


「あと少しじゃない。これなら30分あれば充分終わるよ。がんばって!」


なんとかあと少しだけやる気を取り戻してもらおうと、笑顔でそう言ってみたけれど。


「や、もう無理。マジで限界」


赤也くんは、そう言うなり机に突っ伏してしまう。

そんな姿に、私は仕方ないなあと呟き、手にしていた本を閉じて机の上に置くと。


「も〜。あと少しなのに。どうしたらやる気出るの?」


突っ伏している赤也くんの頭をそっと撫でた。


「ね。お願いだから、あと少しだけがんばって」


その手を赤也くんが嫌がらないので、今度は髪の毛を指に絡めてみる。

赤也くんのふわふわした髪の毛を私の指に絡めては梳くと、少しくすぐったい気持ち。


「ね、赤也くん」

「………」


返事がない。


「こうしてる間にがんばれば、終わるよ?」

「………」


それでもやっぱり返事がない。

よっぽど飽きてしまってるんだろうなあと思うけれど、それでも何とかがんばってもらわないといけないので、


「も〜、あと少しがんばってよ。私にできることなら、何でもしてあげるから」


小さな子をご褒美で釣るような感覚で、ついそう言ってしまった。


――あ、ヤバイ。


そう思ったけれど、後の祭り。

私のその一言を耳にした赤也くんは、突っ伏していた身体を起こし、


「マジで?何でも?」


確かめるような目で、私の顔を覗き込んだ。

その目は、さっきまでの退屈そうなそれからは想像もつかないほど活き活きと輝いている。


「…代わりに課題やって、とかはナシだからね」

「分かってるって!」


私の打った先手にも、ニコニコと…いや、むしろニヤニヤと評したほうが正しいような笑顔を浮かべている赤也くん。


(ますます、ヤバイ…)


その笑顔に、嫌な予感を抱かずにはいられない。


「あ、あんまり無謀なことはダメだからね!」


赤也くんのニヤニヤした笑顔に私の心が焦り、視線も泳いでしまう。


。こっち見ろよ」


そんな私に、赤也くんがククッと可笑しそうに声を上げたかと思うと、両肩にポンッと手を置いた。


「な、なに」


それだけで、私の身体と心はぴくっと小さく跳ねる。


「――分かってるくせに」

「!!」


少しだけ意地悪に響く含みのある声に、悔しいけれど赤く染まってしまう顔。


…」


赤也くんの右手が肩から離れたかと思うと、私の顎を捉えて上向かせる。

ニヤニヤしていたはずの表情も、いつのまにか真剣な顔つきに変わっていて。


(…や、うそ…!)


まだ心の準備が済んでいない私にもお構いなく、だんだん近づいてくる赤也くんの唇。

そして、次の瞬間には私の唇に――




「って〜〜〜!!」


図書室に響く悲鳴。


「何すんだよ、!」


鼻を抑える赤也くんは、微かに涙目だ。

一方の私も、耳まで真っ赤になってやっぱり涙目になっている。


「だ、だって、赤也くんが急に…せ、迫ってくるから…」

「だからって、んな分厚い本で阻止することねぇだろ〜!?鼻の骨が折れたかと思っただろーが!!」

「咄嗟でそんなこと考えてる余裕なかったもん〜〜」


赤也くんの半泣きでの非難に対して、必死に弁解する私。

その顔の前には、さっきまで私が読んでいた軽く500ページは超える分厚いハードカバーが、まるで盾のようにしっかりと立ちはだかっていた。




2010.01.21


お題がお題なので、少し可哀想な目に遭っている赤也です(^^;
でも私は、一瞬で分厚いハードカバーを机から持ち上げ、赤也の顔面を叩けるのほうがすごいなと密かに思っています(笑)
意外と力持ち…?
そして、結局がうっかり約束してしまった「何でもしてあげる」の行方はどうなったのかが気になるところです(笑)



クリスマスに続いてのお題ものでした。
やっぱりお題ものは、書いていて楽しかったです!
もしよろしければ、拍手などでご感想等いただけると幸いです。

ここまでお読みくださり、ありがとうございました。
ウィンドウを閉じてお戻りください。

2010.01.27記

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