Greedy










「好き」って気持ちは、難しい。

初めは、ただ見ているだけで満足なのに。

だんだん、それだけじゃ足りなくなって。

いつも傍にいたいって思うようになって。

そのうち、私だけを見ていてほしいと思ってしまう。

それが叶わないと、今度は傍にいることを辛いと思ってしまう。

あなたのことを好きになって、「好き」は人をとても欲張りに、そして我儘にするものなんだって、初めて知った。






「…はぁ…」


鞄に教科書をしまいながら、ふと零れ落ちたため息。

放課後特有のガヤガヤとした喧騒に、それは人知れず飲み込まれた…はずだった。


「何ため息吐いてんだ?」


唐突に投げかけられた言葉と共に、コツンと軽く頭を小突かれる感触。


「!?」


予想外のことに驚き慌てて振り返ると、そこにはやっぱり予想外の人物が立っていた。


「宍戸先輩!?」

「よう」


私の驚きの声に、改めて軽く手を挙げて答える宍戸先輩。

その隣には、先輩を教室に招き入れたと思われる親友が立っている。


「宍戸先輩が何度ものこと呼んでるのに、ってば、全然気づかないんだもん」

「あ、ごめんね。ありがと」


にお礼を言い、お先にと帰っていく姿に手を振ると。


「先輩、どうしたんですか?ここ、長太郎くんのクラスじゃないですよ?」


先輩のことを見上げ、首を傾げる。

先輩が2年の教室に来るということは、長太郎くんに用事があるのだろうと思ったからだ。

思わずキョロキョロして、いるはずもない長太郎くんを探す素振りさえしてしまう。


「違うっつーの。お前に用事だ。お前に」


そんな私の様子に、少し呆れ顔の先輩。

お前のこと呼んでるのに、なんで長太郎に用事だって思うんだよ。…激ダサだぜ。

そうボヤいてから、まあ正確に言うと俺じゃなくて、跡部がお前に用事なんだけどな。と付け足した。


「…跡部先輩が、ですか?」


その言葉に、私はキョトンとしてしまう。

だって跡部先輩なら、用事はいつでも携帯に連絡して…

と、そこでハッとあることを思い出し、私は慌てて鞄の中から携帯を取り出す。


「す、すみませんっ!!朝のHR前に切ったままでした」


開いても真っ暗なままのディスプレイに焦って、私は何度も先輩に謝る。


「ったくお前は、激ダサだな。そのせいで、たまたま廊下ですれ違った俺が使いっ走りだぜ」


あ〜あ。と先輩はわざとらしくため息を吐くけれど、その顔も言葉も苦笑混じりだ。

それに私はホッとして、


「本当にすみませんでした」


もう一度ペコリと頭を下げてから、跡部先輩のご用事って何でしょうか?と、小首を傾げた。


「部活のことで話があるから、部室行く前に生徒会室に来いってよ」

「分かりました。部活前にわざわざ、ありがとうございます」


先輩から伝言を聞き、お礼を言うと、私は鞄を持って席から立ち上がる。


「じゃあ私、先に生徒会室に行きますね。他のメンバーにもそう伝えていただけますか?」」


言いながら、教室の出口に向かって歩き始めた私を、


「おい、


先輩が呼び止めた。


「はい。何ですか?」


立ち止まり振り返ると、心配そうな表情で先輩が私を見ている。


「お前、さっき何でため息吐いてたんだ?」


「………」


予想外の問いを唐突に投げかけられ、私は何も答えることができなかった。



ため息の理由。

それは、私の我儘。

言ってしまえば、たった一言で終わる短すぎる理由だ。

でもだからこそ、そんなこと誰かに言えない。

私の我儘なのに、誰かに相談なんて申し訳ない。



「ま、聞かなくてもだいたい分かるけどよ」


何も言わない私に、しばらくの間の後、先輩は諦めたように小さく息を吐いた。


「長太郎のことだろ?」

「………」


今度も、私は何も言えない。

でも、その無言こそが今はどんな言葉よりも雄弁に真実を物語っていた。


「独りで抱え込んでると、ロクなことになんねぇぞ?」


そう言って、先輩は私の頭を軽くポンポンっと叩く。

その優しさに私は思わず涙腺が緩みそうになって、慌てて唇をキュッと噛み締める。


「ま、無理に話せとは言わねぇけどよ。あんま思い詰めんなよ」

「――ありがとう、ございます…」


泣いてしまわないように、それだけ呟くのが精一杯だった。

先輩はそれには何も言わず、もう一度ポンッと頭を軽く叩いて、


「わりぃ。跡部が呼んでたんだよな。早いとこ行かねぇと、アイツの機嫌が悪くなってお前が怒られるな」


今までの雰囲気をわざと壊すような明るい声を出すと、


「激ダサだな」


と笑ったので、私もそれに釣られて小さく笑った。










2010.01.11


2010年初のお話なのに、いきなり中途半端ですね(><)
脳内でぼんやり妄想している違う視点のお話を書いたら、多少中途半端感もなくなると思っているのですが…
今回は中途半端なままでごめんなさい。

しかもこれだけだと、CP設定もイマイチ分かりづらいですよね。
一応脳内では、鳳×←宍戸で妄想が広がってます。
なので、最初はカテゴリーも鳳にしようと思ったのですが、鳳がまったく出てこなかったので宍戸にしました。
未だに宍戸カテゴリーにしてよかったのか不安です。。。

最後まで読んでいただいてありがとうございました!
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Greedy→直訳すると、強欲な,貪欲な。このお話では「欲張り」という意味合いでつけています。