〜第五話:止まらない涙〜
※導入部分・・・オキタ達と合流し、頼りになる人員の追加に成功したアクセルは、言い知れぬ不安を払拭しきれないまま、決戦の日に臨んだ。
4人が乗り込んだ『ヴァルシオン』は確実に『neo-demise arch』に近付き、また、それは、決戦の時が近付いている事も意味していた。
「―――それにしても、アンタといい、テツさんといい、よく生きていたな。五常将最強との呼び声高い『あの』ゼツを相手に……」
「いえね…彼、僕達を見逃してくれたんですよ。「お前らと殺り合う理由は無い。」とだけ言って…。お陰で、命までは持っていかれずに済みました。彼等は、どうやらフィアラさんに用事があった様でしたよ…?」
「…ヤツらの狙いが何なのかは、正直言ってまだよくわからないな。…それより、『neo-demise arch』まであとどれぐらいかかるんだ?」
「まぁ、そう焦らずとも、じきに見えて来ますよ……『噂をすれば、なんとやら』ですね。アレが…『neo-demise arch』……」
「…やけにデカいな。」
「旋回して、戦闘機用の滑走路に降りましょう。」
同時刻――――『neo-demise arch』管制室―――――
「ソフィ!左舷高角砲、対空機銃、10時の方向、75度に射撃開始!熱誘導式迎撃ミサイル射出用意!」
――深いしじまの中、突然、部屋の通信機を通して艦長室からの指示が下った。
「…艦長!?急に一体どうしたんです!?あそこには何もいませんよ!?レーダーにも何ら異常は……」
「いえ…あそこには必ず敵さんがいます♪」
「何故、そう言いきれるのですか…?」
「カンですよ、カン♪ソフィももっとカンを働かせて下さいね♪」
「は、はぁ…」
「さ、早くオペレータールームに指示を出して下さい♪」
「り、了解しました。―――オペレータールームへ、こちら管制室。たった今、艦長から命令を授かった!至急、左舷高角砲、対空機銃、10時の方向、75度に射撃を開始!並びに、熱誘導式迎撃ミサイル射出用意!用意でき次第射出しろ!」
「…上出来ですよ、ソフィ♪弾丸やミサイルが何かに命中したり、何かを撃墜した場合は、必ず報告してくださいね♪それでは♪」
「はっ…!」
―――艦外では、攻撃指令が下ったのとほぼ同時に迎撃が始まっていた。
「銃撃!?なんでバレてるんだよ!?」
「知りませんよっ!」
「クソッ…!ミサイルまで…脱出するぞ!用意はいいな!?」
「もちろんです!」
アクセル達が機体から脱出した直後、ミサイルの直撃を受けた『ヴァルシオン』は爆砕四散し、海の藻屑となった。
―――『neo-demise arch』に降り立った4人は、ただひたすら、がむしゃらに進んだ。
一人、艦内を縦横無尽に駆け回るアクセル――そして、ゆっくりだが確実に前に進む、オキタとその取り巻きたち。
「…艦長!航空機らしきものは撃墜しましたが、そこから脱出したとみられる敵が艦内に侵入!数は…4!」
「それでは、乗員に迎撃命令を出して下さい♪」
「はっ!―――各乗員に告ぐ!至急侵入者の迎撃に当たれ!」
『neo-demise arch』の乗員は、大部分が機体兵と下級魔族で構成されていて、個々に大した攻撃力は無い。奇襲の利点である反撃が少ない、敵の対応が遅れる、といった特性を生かし、好機を逃すまいと、アクセルは『バディル』1丁と『例の袋包』を持って戦場となった『neo-demise arch』の中を駆け抜ける。彼は着艦時にオキタ達と別れ、孤独な戦いを強いられる事となったのだが、実はその方が彼にとっては好都合だった。
向かい来る敵兵の群れに対して、アクセルは狙いを定めず、焦点も合わせず、ただ、『バディル』に弾丸を吐かせ続ける。元々、彼は銃の扱いは得意ではない。が、敵が密集しているお蔭で、適当に撃つだけでそれなりの損害を与える事が出来た。
しかし、もちろんそれだけで全ての敵を片付けられるわけではない。素早く動き回り敵を翻弄しつつ攻撃を継続するアクセルだったが、敵の数に対応しきれず、あっという間に機械兵に囲まれてしまった。
形勢が不利と見るや否や、彼は弾の切れた『バディル』を捨て去り、背に負った例の袋包を降ろすと同時に迅速に解き、そのまま目にも止まらぬ速度で、ジッパーのついたギターケースの様な物を露にした。間髪入れず、火花が散りそうなほど勢いよくジッパーを開ける。すると、子供の身長を軽く超えるほどの巨大な剣が姿を現した。
彼はその柄を右手で保持し、もう片方の手で2,3センチほどその柄をつばに押し込んだ。それと同時に、一瞬で刀身が赤熱を始め、刀身の周りの空気が揺らぐ。
その剣を軽々と操るアクセルに、機械兵達の装甲は成す術もなく、何の抵抗もなく、溶解され、無力にも斬られていく。
力任せに巨大な赤熱剣を振り回し、並居る敵を薙ぎ払い、アクセルは進み続ける。
―――そして、遂に、運良く彼は艦長室の前に辿り着いた。
「俺は運がいいな…。やってやる!」
扉の向こうに待ち受ける残酷な運命も知らず、彼は己の思うがままに道を創り出すことを選択した。
―――その頃、オキタ達の戦いは熾烈を極めていた。
迫り来る機械兵と下級魔族に対して、両手に『バディル』を持ち、弾薬を撃ちまくる豹変したイスズと、一丁の『バディル』で冷静に狙い撃つワドズン。『バディル』は装甲貫徹弾を装填した自動小銃で、機械兵さえも簡単に貫く事が出来、上手く動力部を狙えば、一撃で動きを止める事が可能だった。その『バディル』の形状は、弾道を安定させ、命中率を高める為、銃身が長く、明らかに重火器の部類に入る。
勿論、反動も並ではないのだが、イスズはそんなことはお構いなし、といった様子で、立ち位置一つ変えずに撃ち続ける。ただ、微動だにしない彼女の顔には、恍惚とも言える、笑みという名の白化粧がべったりと武骨に塗りたくられていた。
「オラオラァ!じゃんじゃんかかって来んかい!」
「イスズ!あまり調子に乗ってはいけませんよ。」
特に何の支障もなく一通り雑魚を片付け終わった時、不意にオキタは違和感を覚えた。
【この警備の薄さ…異常だ。それに、さっきから微かに感じるこの魔力…軍人にしては無邪気過ぎる。】
…魔力の扱いに長けた魔族や、オキタほどの歴戦の者になると、魔力の『質』というものを肌で感じる事が出来るようになる。(さらに鍛錬を積めば、魔力の『質』から持ち主の性格なども判るようになる。もちろん、オキタは『例外』に含まれない。)
オキタが辺りに仄かに漂う魔力の持ち主について思慮を巡らし、我に返った正にその時、紅い物が目前に迫ってきていた。
「…ッ!」
「若様!危ないっ!」
咄嗟に、イスズがオキタを庇い、オキタはその紅い物体との接触を避ける事が出来た。
―――しかし、紅い物体に触れてしまったイスズは、その瞬間、音も無く消え去った。影も残さず、骨も残さず、灰も残さず。
紅弾の向かって来た方向から声が聞こえてくる。
「あ〜あ、エリス!あんまり、むやみやたらに人を殺しちゃダメだよっ!」
「五月蝿いぞ、エルス…。侵入者は一人残らず排除しろとの艦長直々の命令に、「は〜い!了解です。艦長様っ!」と、乗り気で言っていたのはどこの誰だ?」
「――そんなっ…!子供!?」
[※画像クリックで大きい絵が出ます。]
オキタは目の前に現れた、先ほどから感じる魔力の主に驚嘆し、言葉を失った。
「初めまして。私はエルス・ガーネット。」
いかにも明るい一人はこう言い、見るからに大人しげなもう一人は
「敵に名乗る名は無い…」
と言い放ち、黙り込んだ。二人の少女の自己紹介の最中、イスズの死で感情的になったワドズンが『アンフィムル』を放つが、少女たちの傍らに控える燃え盛る巨鳥の翼で容易に防がれ、逆に、もう一匹の荒れ狂う獣から『死』という名の報復攻撃を受けてしまった。
あまりに衝撃的な光景を前にし、地面にへたり込んだオキタの眼に映ったのは、仲間の仇。そして、宿ったのは殺意の光。
本当は、彼は消し炭となった二人を弔う様に泣き崩れたかっただろう。
しかし、現在、彼の殺意に満ちた心にそんな余裕はなかった。
「よくもっ…よくも二人をっ!相手が子供であろうとも、魔族なら…人間じゃないのなら、関係ない!紳士な振る舞いはもう止めだ!貴様ら魔族は…皆殺しにしてやる!」
――動き出した歯車は、止まらない。
時を同じくして、艦長室に攻め入ったアクセルは、聞こえて来た音楽に耳を疑った。心地良いクラシック音楽が、高ぶった心を宥めるかの様にアクセルを包み込む。残酷な現実。変えられない運命。過去の自分への、堪えがたき憎しみ…憎悪。それらの全てを包み込むような―――万物を鎮め、慈しむような音色だった。
少しの快楽に浸っていると、やけにだだっ広い艦長室の真ん中に机と椅子があるのが目に入った。視点をそのままそこに定めていると、椅子から一人の女が立ち上がり、アクセルと目を合わせた。どこか物寂しげなその目は、見ているだけで闘争心を奪われてしまいそうな程、どこまでも純粋だった。
「お前が艦長か…。管制室は何処だ?」
「貴方が名前を教えてくれたら教えますよ?ちなみに、私は嘘はつきませんから安心して下さい♪」
「俺はアクセル、だ。」
「ふふっ…正直ですね♪特別ですよ?この部屋の隣が、管制室です♪そして私が、この艦の艦長であり、『original four』の一人でもある、スイレンです♪ところで…何処かで会いましたか?」
「気のせいだ…。俺は、お前みたいな奴は知らない。」
お互いに、わかっている。出会った事がある事も、理想を同じくしている事も、境遇が似過ぎているという事も、そして…それ故に、解り合えないという事も。
…そう、本当はお互いに心当りが有ったのだ。だが、戦いに余計な感情は不要。決して解り合えるなどとは思わない様にし、アクセルは迷いを振り切る。
「機械人形が音楽を聞くのか。意外だな。」
「一応、趣味ですから♪」
「それもプログラミングされたモノなんだろ?」
「いいえ♪それは間違いです♪私達『original four』の擬似人格はそれぞれが独自の進化を遂げていく、という代物なんです♪どうです?凄いでしょう?」
「超科学お得意の機械いじり、か。」
「まぁ、そうですね♪そんな事より、闘う前に二つだけ聞いておきたい事があるんですが…いいですか?」
「…何だ?」
「貴方はイルカとウミネコ、どちらが得をしていると思います?」
「それは、ウミネコだろう?空を飛べれば、何処へでも行けるしな…」
「何処へでも行ければ幸福ですか…」
「海の中でしか暮らせない、イルカと比べれば、な。」
「それでは、もう一つ。何故、イルカ達は海に留まっているんでしょう?」
「それは、飛べないからに決まって…」
「少し、質問の仕方を変えます♪もし、彼らが昔は飛べたとしたら、何故海で暮らすことにしたのでしょう?」
「さぁな…水が好きだったんだろ?」
「どうやら、貴方という人間の底は想像以上に浅いようですね♪イルカ達が空を飛ばなくなった理由…それは、争いが起きるから…です。」
――瞬間、『音』が場から掻き消えた。
「…それはお前のナンセンスな言い分だ。俺は戦いを正当化するわけじゃないが、時には必要だと思っている。お前も兵器なんだろ?兵器は、あくまで戦いの道具だ。」
「確かに、戦う事が私の存在理由です…。正確には、それを『与えられている』だけですが。」
「空しい奴だな…」
この戦いの先に、再び同じ理想を描くだけと知っても、二人は戦いを止めはしなかっただろう。そう、全ては、互いの存在理由を証明するために。
―――刹那的な静寂の後、スイレンが不意に話し始める。
「貴方ですか?キョウギクを破壊したのは…?」
「いや、悪いが俺じゃない。」
「そうですか…。それなら、貴方に個人的な恨みはありません…。ですが…私達に敵対するというのなら…」
「ここに居る時点で敵だろう?」
「確かに…それはごもっともな意見です。どうやら、話し合いで解決…とはいかない様ですね。…残念……です…。私達の敵であるならば、貴方はこれからの世界に必要の無い存在です。ですから…今、ここで死んで下さい…」
「ハイ、そうですか。わかりました。死にます…って言葉を期待してるのか?俺の存在を消し去りたいのなら、さっさと来い!」
「そうですか。仕方ありませんね…」
スイレンがぼそっと呟くと、彼女が醸し出していた先刻までの穏やかさは、丸ごと殺気に変わり、空気が極限まで張り詰めた。
「へッ…!『original four』はどいつもこいつも過剰な暴力性を持っているんだな…。人間に対する力の制御や抑制は一体どうなってやがるのやら…」
「…実は、力の抑制は関係無いんですよ。元々、私達は人間でなく魔族と戦う為のモノですから。ちなみに、私の設計コンセプトは、一切の相手を近付けずに倒す、究極の長距離一対多数…というものです。近接戦闘は得意ではないんですが…やるしかない様ですね…」
続く