〜第四話:冷め止まぬ熱〜
※導入部分・・・先の戦いでロウスは昏睡状態になり、彼の付添人であるフィアラも身動きがとれない状態となった。テツは無理が祟って即入院、さらに、ヒロウは、名目上はただの中立国の医者なので、表立った行動はとれない。今日で、あの日から一週間が経つ。そろそろ魔族も次の手を打ってくる頃だろう。次に魔族…それも、ミレル級の相手が来た時、ロウス達に命の保証はない。ただただ全滅を待つしかない現状。そんな最中、何故かアクセルが姿を消す。彼は姿を消す3日前、どうやらヒロウと、ある事について話をしていたようだ。
「―――――ヒロウさん…頼みが有る…。話を盗み聞きするようで悪いが、最初にミレルがここにやって来た日の、ロウスの病室の監視カメラの画像と音声のデータを戴けないか?」
「別に構わんが…どうしてだ?」
「特に理由なんて無い…。何となく…だ。それと…『original four』とかいう奴らの情報も欲しいんだが……」
「『original four』…?それを何処で聞いた?」
「あの時、ミレルと共にここに攻め込んで来た奴がその中の一人だったと言っていたんだ…。何か引っ掛かる事でも…?」
「『original four』は人間軍の所属のはずだ…。魔族と手を組んでいるわけが……」
「…その話、詳しくお聞かせ願いたい。」
不意に、アクセルの脳裏に何か言い知れぬ不安が過った。
――――この話は、深く聞いておかないといけない気がする。そう思うと、口が勝手に言葉を紡ぎ出した。
「…『original four』…それは原初の超科学によって造り出された、偽りの4つの命……」
「偽り…?」
「そうだ。『original four』は超科学の発掘・復元作業当初、既に完成した状態で発見された。それも、自壊プログラムが作動していたはずなのに、だ。」
アクセルは、これといって機械工学について造詣が深いわけではない。
しかし、ヒロウが何を言わんとしているのか、わからないわけではなかった。
「それで、特徴は…?」
「奴らは現代では再現不可能な超高性能CPUを積んでいる。それによって人間…いや、それ以上の力と思考能力を有する。『original four』は大戦時にはもう実戦に投入されていた。ボディに多少の改修を加えて…な…。その時の戦果のデータなら有る。『original four』は、現在は『sharp edge corps』の隊長として各自が単体で行動しているらしい…。少し待っていてくれ。データを持ってくる……」
「………………」
―――――――-それから約五分後、医師室内に入ったヒロウは、一枚の紙切れを手に、帰還した。
「これが、現時点での『original four』に関する全てのデータだ。ヤツらの詳しいスペック等は、全くの謎だが、このデータから二、三はわかることがあるだろう。」
「ありがたい……」
アクセルは紙切れを受け取ると、さっそく目を通し始めた。
−初陣戦闘データ−
『キョウギク』→損傷多数。起動には支障無し。
戦果:兵士1961体・指揮官クラス:28体
『スイレン』→胸部に一カ所の損傷。刀傷だと推測される。他に目立った外傷無し。
戦果:兵士31体・指揮官クラス67体
『アヤナギ』→外傷は全く無し。限界起動による内部損傷が少々有り。
戦果→:兵士843体・指揮官クラス129体
(※兵士とは、ここでは基本的に魔力兵の事を指す。指揮官クラスも、魔力兵のそれを表す。)
「どうだ?ヤツらは…化け物だろ?」
「……確かに、化け物だな…。特に、アヤナギとかいうヤツは…。しかし、ヒロウさん。一つ気になることが…」
「何だ…?」
「『four』なのに…何故3体分のデータしかないんだ?」
「ああ、それは、最初から動かないヤツが一体あったからだ…。『マハス』と名付けられていたが、起動に失敗し、今では何処にあるのかすらもわからない。何にせよ、『original four』に関してはデータがなさすぎるんだ。」
「そうなのか…」
「知ろうとすればするほどわからなくなる…まったく、厄介なヤツらだよ。だが、今は、『original four』の事より、『neo-demise arch』の事の方が重要だと思うがな。まぁ、これは俺の個人的な意見でしかないんだが。しかし、情報自体は、最近入った信憑性の高いものだ。軽視は出来ない…。『neo-demise arch』は、おそらく一隻で戦況を覆す力を持っているだろうからな……」
「『neo-demise arch』…?まさか……!?」
「そのまさかだ。『あの』戦艦の改良型だよ。」
「……ロウスが動けない今、なにもかもを俺がやらなくちゃならない…。ヒロウさん、無理を承知で頼む。…何か武器を…用意して戴けないか…?」
「おいおい、一人で戦艦を落とそうってのか!?無理な話だ。やめておけ…」
「ロウスの父親はやったと聞いている。それなら、俺にも出来るはずだ…」
アクセルはうすら笑いを浮かべながら、軽く肩を回し、首を鳴らした。
「つくづく、命知らずなヤツだな…。だが、どうしてもやると言うのなら、全力でバックアップしよう。勿論、武器も差し上げる。実は光学迷彩の技術はコピー済みでな…。実戦で使うのは初めてだが、良いブツがある。情報では、『neo-demise arch』は現在、魔王軍の領海内に停泊しているらしい。アレはまだ新築艦だ。物資搬入も、おそらく完全には終わっていないだろう。つまり、当分、動く事はない…。魔王軍の領海はさほど広くないから、あんなバカでかい物は直ぐに見つかるだろう。」
「有り難い…」
「ただし、武器等の用意には時間がかかる。まぁ、遅くても、3日後くらいには用意出来るだろうがな。それまでは、ゆっくり身体を休めると良い。」
―――――――2日後の夜、ミレル初襲撃の日の出来事を全て知ったアクセルは、オーエンの海に来ていた。彼は、別段海が好きなわけではないが、何故か、時々海に行かなければならないような感覚に駆られ、足を運ぶ事がある。
…何よりも透き通った、紺碧の海。その、静か過ぎる水面(みなも)には、綺麗な月が映り込んでいた。しかし、ただ、それだけだ。これといった事はない。
「夜の観光地ほど淋しい場所はないな……」
そんな独り言を零し、ふと辺りを見回すと、怪しい人影が少し遠くで蠢いている事に気付いた。
…アクセルは何も考える事無く、引き寄せられる様にその人影の方へ歩いて行く。
「…こんな時間に、何をしてる?」
何となく話し掛けてはみたものの、特にこれと言って目的があるわけではない。そう、いうなれば、一般的な社交的慣習である隣人との交流のようなものだ。
そのアクセルの声に反応して、人影が振り向く。
――――優しい月明かりに照らされたその人影は、容貌の全てをぼんやりと映し出された。
顔立ち(目鼻立ち)や体型からして、どうやら女の様だ。
「別に…何かをしようという事ではありませんよ♪私は、ただ友達と話しているだけで……」
「こんな時間に、女がこんな所に一人で居て…変質者に襲われても知らないぞ?」
「貴方みたいな…ですか?」
出会って間もない女の不躾な言葉に、アクセルは少し顔をしかめた。
…が、少しの沈黙の後、雰囲気と話題を変えるため、口を開いた。
「友達…と言っていたが、そんなの何処にも…」
「居ますよ♪出ておいで!」
女がそう言った直後の光景に、アクセルは自分の目を疑った。
「――いっ、イルカ!?」
「そうですよ♪この子達は私の唯一無二の友達なんです♪」
「…アンタ、変わってるな。」
女の不思議な雰囲気に、アクセルは魅力に近いモノを感じながら会話を続ける。
「こんな時間に、一人で海に来ている貴方に言われたくはありませんよ♪」
この言葉に、さすがのアクセルも少し堪忍袋の緒が切れそうになったが、女の「冗談ですよ、冗談♪」という言葉を聞くと、自然と怒りが治まった。
人をおちょくっているのか、それとも、これが彼女の素の人格なのだろうか。
どちらにせよ、神秘的で掴み所のない、雲のような印象を受ける。
とにかく、どこまでも不思議な女だった。
「――それにしても、今夜は星が沢山流れますね♪世界から戦いが無くなったら、こんな空が何処でも見られる様になるのに……」
「そうだな…。ところで、アンタ…………」
女と同じように空を見上げながら、アクセルが尋ねるが、返事が無い。
…気が付くと、いつの間にか女は姿を消していた。跡形もなく…まるで、初めからそこには何も存在していなかったかのように。
「…一体何者なんだ…?」
浜辺に一人取り残され佇むアクセルの目には、青白い水面(みなも)に沈む月だけが映っていた。
――――ヒロウとアクセルの密会から3日後……遂に武器の用意が出来た。ヒロウが自ら提示した期限の最大までかかってしまったものの、用意されたものは、どれをとっても一級品だった。
用意された武器は、ステルス機能と光学迷彩機能を装備し、完璧なまでの機体隠蔽能力を誇る高性能強行偵察兼強襲用戦闘機『ヴァルシオン』と、『ゲルド・バレル』を新規導入した、27式突撃銃に代わる、新型アサルトライフル『バディル』4丁とその弾薬、さらに、小型にして高初速、高威力を実現したバズーカ砲『アンフィムル』1丁、そして、どこにでもあるような普通の刀2本、更に、アクセルの身長大の袋包だった。
この、充分過ぎる程の装備を目にしても、アクセルは不安を拭いきれなかった。
【武器は揃った…しかし……本当に俺一人でできるのか…?】
大口を叩いていた先日とは対照的に、アクセルは心底思い悩んでいた。
そんな彼に、ヒロウが助言を添える。
「…いいか、一人では行くな。必ず、死ぬぞ…。あの時、聞いていたとは思うが…やはり一度カフェに戻り、オキタと合流しろ。」
「何でアンタがそれを…?」
きょとんとするアクセルの追求を避けるためか、ヒロウは素直に話を始めた。
「俺もテツから色々と聞いているからな…。『蒼天の白壁』オキタ…天才だよ、アイツは。恐ろしいほど、腕が立つ。立ち過ぎる。だからこそ、仲間であるはずの軍部から暗殺されかけ、そして……歴史から消し去られた悲劇の男だ。アイツなら、必ずお前の力になってくれるだろう。」
病院を出たアクセルは、ヒロウに言われた通り『マカ』に戻った。もちろん、VTOLが可能なスペックを持つ『ヴァルシオン』で。
大地に降り立ったアクセルがカフェの扉を開けると、いきなり明るい声が耳を衝いた。
「――待ってましたよ、ロウスく…アレ?貴方は…確か…」
オキタはどうやら、カフェに帰還したのがロウスではなかった事に意表を衝かれたようだ。
一瞬目を丸くして、すぐにその眼を細めた。
「…アクセルだ。今、ロウスは諸事情で手が離せない…俺は、ロウスの代理人、といったところだ。」
「そう…ですか…」
この時、アクセルは一つ、どうしてもオキタに聞いておかねばならない事があった。
それは――――
「顔色がすぐれないようだが…大丈夫なのか?」
…この素朴な質問を、軽く受け取ってはいけない。これは、決して無意味な質問ではない。
アクセルが、どうでもいいような質問を投げかけた真意…それは、オキタの体に何か、病的な陰りを感じたからだ。初めて会った時も顔色はあまり良さそうでは無かったが、この時は、一層青白い顔をしているように感じた。
故に、無意味にも思える問いかけをしたのだ。
「大丈夫、ですよ…。それに、僕の命はテツさんのモノですから…あの人の言い付けを守るため、この世界からはそう簡単に離れるわけにはいきません。本当に、大丈夫ですから…。あの二人も居ますしね。」
アクセルがオキタの振り向いた先に視線を合わせると、見慣れない人が二人、カウンターの向こう側に居ることに気付く事が出来た。
「お初にお目にかかります。私(わたくし)、若(わか)の執事、ワドズンです。以後、お見知り置きを。」
「あっ、あのっ!…私…若(わか)様の使用人のイスズです…。宜しくお願いします……」
「え…っと…あ、ああ。よろしく頼む。」
「…で、アクセル君…でしたっけ?君がここに来たという事は、テツさんは無事という事ですね…?」
「ああ…あの人は無事だ。」
「…良かった…。それじゃあ行きましょうか?敵さんの所に、ね。」
あからさまに安堵の表情を浮かべると、次の瞬間には、その顔はまさに『天才』を冠するにふさわしい威圧感を放つものとなった。
「…!わかってるじゃないか。俺が、ここに来た理由。」
「当たり前ですよ。行くなら早いに越したことはない…早速行くとしましょう。…あ!ワドズンとイスズも連れて行って構わないですよね?」
「勿論だ…。今は一人でも多く人手が欲しい。」
こうして、4人は『ヴァルシオン』に乗り込み、『neo-demise arch』へと向かうのだった。
続く