※導入部分・・・魔王の死により、一時的に停戦状態となった人間と魔族。PTSDから奇跡的に回復したロウスは、フィアラと共に戦争孤児の面倒を見ていた。父の作り上げた束の間の安息。しかし、永遠の平和が約束される事は無かった。ロウス達に平穏な生活は許されなかったのだ。暴走を始めた『超科学』の研究者達。そして、魔族の新たなる指導者の登場。ロウス達は世界の崩壊を止められるのか?第一部のテーマは『自分の存在価値を見出だすこと』。

  −登場キャラ設定−
今作品の登場キャラ設定は、うらぱらを参考にして下さい。


〜第一話:幸せの純度〜
※導入部分・・・仮初の平和の中で、カフェを経営しているロウスとフィアラとアクセル。裕福ではないが、それなりに平和に暮らしていた。しかし、そんなある日、ロウスとアクセルが買い出しから帰ってくると、店が無残にも荒らし尽くされていた。そして、床には腹部から夥しい量の血を流し、倒れ伏すフィアラの姿があったのだった。その状況に追い討ちをかけるように、店内にゼツが率いる小隊が舞い込んでくる。絶体絶命な危機的状況の中で、ロウスは希望を失いかける。そんな時、常連客であるテツが友人と一緒に店に現れたのだった。

「大将、コーヒー牛乳…ってオーダー出来る状況じゃなさそうだな。」
「その顔、知っているぞ。貴様の通り名は確か…『西部戦線の狩人』…だったか?それに…」
ゼツは一拍置き、ちらりとテツの横に立つ男に眼をやる。
「横に居るのは『蒼天の白壁』だな…?死んだと聞いていたが…」
「知られているたぁ、光栄だね。アンタは『あの』ゼツ・クウガだろ…?引き連れてるザコはまだしも、アンタは俺にゃあちょっとばかり荷が重いな。…いけるか?オキタ。」

どうやら、テツの横に居る男の名、もしくは姓はオキタというらしい。

「正直、かなりキツいですが…やるしかないでしょう…?」

その時、現状を理解しきれていないロウスが突然テツに問い掛けた。

「オッサン、あんた何者なんだ?」
「俺か?俺はテツ。それだけだ。お若い大将、今までのコーヒー牛乳、美味かったよ。悪かったなぁ…ツケばっかりして、さ…。さて、いいかい、よ〜く聞きなよ。ここから逃げたらこの国の中央病院に行くんだ。あそこなら、その娘を助けられるはずだ。そして、そこでヒロウという男を捜し、合流するんだ。わかったかい…?」
「逃げたら…だって?アイツらからは逃げきれやしないだろ?」

こんなロウスの素朴な疑問に、テツは一切茶化した様子を見せず、真剣な面持ちで答える。

「俺達でも、足止めくらいにはなるさ…」
「………………」

黙り込んだロウスは、それ以上テツに何かを問うことはなかった。本当は、何故自分達を助けてくれるのか?など、聞きたい事は山ほどあったのだが。

「さぁ、行きな。」

そう急かされて、今すぐ店から飛び出さざるを得なくなったロウス達を、ゼツは部下の下級魔族3人に追わせ、テツとオキタとの戦いに臨む。

「…小笠原流弓術師テツ、参る!」
「『西部戦線の狩人』と『蒼天の白壁』……相手にとって不足はない!」

極限まで洗練された技能をそれぞれ持ち合わせる三人の闘いは、想像を越えた激しさを見せた。テツの弓が軋み、鋭い高音を出す度、空気が張り詰められていく。

「弓…か…。時代錯誤もいいところだな。」
「そういう台詞は、僕達を殺してから言って欲しいですね…」

ゼツがテツの動向に気を取られていると、不意にオキタが背後から斬撃を加える。
しかし、ゼツはまるでそれを知っていたかのように、軽々と攻撃を回避する。
…一進一退の攻防はこのような調子で繰り返され、まだまだ決着はつきそうもなかった。それどころか、全員の実力が伯仲したこの戦いは、永遠に続くようにも思われた。


────ロウス達は逃げた。逃げて逃げて…それでもまだ逃げ続けた。みっともなく、生にしがみ付いて。
ロウスは、闘おうにも片足が不自由な状態では、ザコを相手にしてですら手間取ってしまう。
しかし、幸いにも、アクセルは運転の天才だった。どんな状況に置かれても、神憑かったハンドル捌きで爆走を維持する。
オーエンの中央病院は店からそんなに離れているわけではなかったし、アクセルのドラテクの協力もあって、追っ手も全員ツブすことができた。

一行は、無事に病院に到着。フィアラはすぐに集中治療室に搬入される事となった。かなり危険な状態だったが、医者たちの懸命な処置と、超科学の恩恵を受けた高度な医療器具によって、彼女は何とか一命は取り留める事が出来た。しかし、何日間かは意識が戻ることはないかもしれないそうだ。

「くそっ…どうして…」
「ロウス…早くヒロウという人を捜さないと…」
「…ッ!アクセル!お前はッ!」

アクセルの冷淡な言葉にロウスは苛立ちを覚え、咄嗟に彼の胸倉に掴み掛かる。そのまま激しく壁に打ち付けられたアクセルは、表情一つ変えずに淡々と言葉を紡いだ。

「……こんな所でいじけてても、何の解決にもならないことくらいわかってるだろ!?」
「…………………」

確かに、アクセルの言う通りだった。いくら嘆いてみても、決して現状が変化することはないのだから。

「俺達は、今俺達に出来る事をやるべきなんじゃないのか!?それともお前は、いじけて拗ねるのが正しい事だと勘違いしてるのかよ!?もしそうだとしたら、俺はお前を殺してでも、その曲がった根性を叩き直してやる!」
「俺は………」
「悲劇のヒーロー気取りやがって!今時流行んねぇんだよ!」
「違う!俺はっ!」
「違う…?違わないだろ!?本当に違うなら、口で言ってないで行動で示せよ!」

アクセルがそう叫んだ瞬間、ロウスは思い切り…先刻の、アクセルを壁に叩きつけたのと同じくらいの勢いで、自分の頭を壁にぶつけた。そして、鈍い音の余韻が消えきらないうちに、ロウスはゆっくりと言葉を零した。

「…これで……目が覚めた。待たせたな、アクセル。」
「それでこそお前だよ…さぁ、行こうぜ。」

こうして、悲壮に暮れる暇もなく、哀愁に溺れる事もなく、ロウスはアクセルと共に病院内でヒロウを捜し始めた。


────しかし、探索は難航を極めた。手掛かりすら見つけられない二人は、英気を養うため、院内の食堂で昼食をとる事にする。
そこで、ロウスはアクセルと話している時、突然見知らぬ女に話し掛けられた。

「その声…貴方は…もしかしてロウス?…やっぱり、ロウスよね…!?」

名札をしている為、病院の者だということはすぐに判った。名前はティーナ…だろうか?光の反射で少し見えにくいが、多分そう書いてある。勿論、ロウスはティーナなんて女は知らない。その女は盲目なのだろうか、常に軽く眼を閉じ、白い杖で辺りを確認しながらロウスに近付いてくる。

「アンタ…誰だ?」
「私がわからないのね…無理もないわ。私は一度死んだんだもの…」
「…?何を言ってるかさっぱり……」
「…私は…ユリナよ。ユリナ・ムラド。覚えてる…?」
「…!もちろんだ!生きてたのか!?なんで連絡しなかった!?」
「…新しい人生を歩もうと思ったからよ…。『業』を背負いながらだけど。」
「『業』…?」
「そう…あの時、防御魔法で生き延びる事が出来たのよ…私だけは。でも、膨大な魔力の砲身となった右腕はボロボロ。損傷、甚大って感じね。それに、魔力の限界突破放出の継続による魔力の損失及び失明…これが、私の背負った業よ。」

どこか悲しげに俯いた彼女の服装は、よく見ると(よく見ないでも)、右腕は長い袖で覆い隠され、手には手袋がはめられているというものだった。

「お互い、なにもかもあの時とは変わってるんだ。わかるわけがないだろ?しかし、本当に…目が、見えないのか?」
「ええ…右腕の傷は消せると言われたケド、視力はどうにもならないって。ホラ、ちゃんと眼球はあるんだけど、神経がやられたみたいで…」

そう言うと、ユリナは目を見開いてみせた。虚ろな光を宿した、何物も映すことがないガラス玉であるかの様な眼は、ロウスが目を合わせた時にだけ、光を反射し、輝いていたように見えた。

「そう…か……」

消せるはずの傷をあえて消さずに残しておくことに…しかも、それを隠して生きることに何の意味があるのか、ロウスには理解できなかった。伸びた前髪で、ユリナ…いや、ティーナの顔の右側は隠れている。そのため、表情の全てを窺い知る事は出来ない。おそらく、そこにも傷があるのだろう。ただ、目に見える限り、今の彼女は微笑みとも泣き顔ともとれるような複雑な表情を浮かべていた。
儚げで、何故か物淋しい雰囲気を湛えたその曖昧な表情を見た時、ロウスは、戦後、ユリナがあえて姿を隠していた理由は何となく理解することができた。が、何度考えても、あえて傷を消さない理由だけは、わからなかった。

「昔のよしみで、一つ教えてアゲルわ。最近では、オーエンも中立って言うより、人間側についてるの。簡単に言えば、各病院で優秀な研究者達を匿って、軍の薬物兵器開発に協力させてるってワケ。大事なのはここからよ。最近、人間軍に送る事になった、こんなクスリが出来たんだけど…欲しい?」

ティーナは、3本の簡易注射器をロウスに差し出した。

「これは…?」
「私は、超科学を平和の為に使おうと努力してきたわ。それで、偶然、実験中にこんな薬が出来たの。これを使えば、理論上は神経が一時的に研ぎ澄まされ、貴方の右足も、薬の効力が持続している間は自由に動かせるようになるハズよ。こんな危ないもの、人間軍にくれてやるわけにはいかないわ。かといって、これは私には必要ないから……」
「…俺にくれる、と?しかし…どうして俺の右足がまだ不自由だとわかった?」
「わかるわよ…貴方の事は全部。目が見えない方が、色々と『見える』のよ。」
「…よくわからないが、わかったことにしておこう。その薬をくれるついでと言っては何だが…もし、知っていたら、ヒロウという人についての情報を教えてはくれないか?」
「ひろう…?ああ、ヒロウ!それなら、この病院にそんな名前の医者がいるわよ。今は多分待機室ね。」
「…薬と情報、ありがたく受け取らせてもらう。協力、感謝する。」
「急にかしこまらないで…」

一瞬の内に広がる静寂。ロウスはその静寂にユリナの姿が溶け込む様な気がして、たまらなく嫌だった。堪えられなかった。
だから、不意に溢れる感情を声として漏らしてしまったのかもしれない。

「ユリナ…!」
「何……?」

この時、ロウスの胸中には、ユリナに戻ってきて欲しいという思いが去来していた。しかし、彼女を再び戦いの渦に巻き込むわけにはいかない。今のユリナの姿は、戦いの中で彼女自身が思い描き、ようやく手に入れた…掴み取った『平穏』そのものだったから。仲間の…大切な人の平穏を奪う事など、出来るはずがない。 …いや、してはならないだろう。

「何でも…ない。研究、頑張ってくれ。」
「もちろんよ…。縁があったら、また逢いましょう。」

ユリナと別れの言葉を交わしたロウスだったが、もしかしたら、これが永遠の別れになるかもしれない。そう思うと、名残が尽きる事はなかった。
しかし、ロウスは後悔と自責、そして悔恨の念に駆られ、それら全てに苛まれながら生きていくことになっても構わないと思った。
────ユリナの為なら。

「…アレ、誰だよ?」

ユリナが去っていくと、ようやく終わったか、といったような様子でアクセルがロウスに尋ねる。

「俺の…大切な人だ。」
「何臭いこと言ってんだ?似合わねーぜ?」
「お前にだけは言われたくない…」
「…さて、と。ヒロウとかいう人の情報も入ったことだし、待機室とやらに急ごうぜ。ぐだぐだしてると、また一からやり直しになっちまう。」
「お前…自分が不利な話題になるとすぐ話を変えるよな……」


────こうして運命に導かれ、事態は急変していくのであった。

 続く