リーン・・・リーン・・・
―――――今年も、鈴虫が鳴く季節がやって来た。
私はふらりと縁側に出て、ぼんやりと庭を見詰めた。
視線を外にやるまでは、しとしとと雨が降っていることには気づかなかった。
………お世辞にも、何か面白味があるとは言えない空間。その中で、闇夜に浮かぶ、雨雲で霞んだ月の光と、それを受けて佇んでいる一輪の山茶花だけが、自分の存在を主張するかのように沈黙に徹していた。
―――――ただただ流れていく時間と風景を傍らで眺める中、ふと、脳裏を過った思い出……それは、決して心に抱き止めておきたいものではなかった。
―――――私は、今では廃れてしまったとある仕事をしていた。その仕事柄、私は人の死に立ち会う事が多々あった。不思議な事に、その仕事に染まっていくにつれ、私は人の目を見ただけでその人の死期が近いかどうか分かるようになった。
…しかも、それは完璧な能力だった。
親友がこの世を去った時も、私はそう驚きはしなかった。
私は知っていたからだ。
そう、全てを――――――
リーン・・・
鈴虫の鳴き声ではっと我に返る。不意に眩暈と睡魔に襲われた私は、早々に縁側から立ち去った。
―――自分の部屋に向かう途中、ふと、鏡を見た。
鏡の中の自分は、どこか笑っている様に見えた。
…そして。
鏡の中の私の目は、輝きを失っていた。
そう、ちょうどあの日の親友の様に…
ドスッ・・・
私が思慮に耽ろうとしたその刹那、鈍い音が廊下に響き、その音はゆっくりと鈴虫の声に溶け込んだ…いや、掻き消された。
私は、背中に酷い痛みを覚えた。一体、何がどうなったのか。わけがわからない。
――――痛みに震える私が振り向くと、そこには男が立っていた。
その男は、ついさっきまで自分の目の前に居た男だった。
その男の顔では、一種の冷気を感じさせるほどまでに鋭い光を放つ双眸と、気味の悪い不愉快な微笑みを添える口元が際立っていた。
―――床にみっともなく倒れ込んだ私は、薄れゆく意識の中で確かに見た。
その男が満足げに延々と微笑みを浮かべていたのを―――
…外では止むことなく、鈴虫が鳴いている。