Spearmintとその香り
『Another story』
この物語は、『Spearmintとその香り』の登場人物たちが紡ぎ出す、それぞれの過去、現在、及び未来のいずれかに該当する物語である。キャラクターの知られざる一面を垣間見て頂きたい。
〜From eyes of Kamino〜
〜Melon Complex〜
「――――あ〜、女。どっかにめろんな女はいねぇかなぁ…オ・ン・ナ!」
…とある学園の、とある通学路。何の恥じらいもなく下劣な発言を零す男が一人、いた。
―――そう、俺だ。
「みなさーん!ここに変態がいます!助けて下さーい!それと、僕はこの人とは一切関係ないですよー!今ここで偶然話し掛けられただけなんでーす!」
「おいおい、そりゃねぇだろ!?」
「ちょ…マジで近寄んなって!気持ち悪いから!」
「あぁ!?」
「キモチワルイから。」
「――いや、そこはちゃんと聞こえてたからな。つーか、聞き逃したワケじゃねーっつーの!」
変態の横には、薄情な男が一人。コイツは、俺の悪友『世渡 与利』(せと あたり)だ。
このヤロウは俺が変態だと叫んでいたが、あいにく今、この道には俺と世都の二人しかいない。届かない叫び…何かのタイトルっぽいな。
――いや、ふと思っただけで、深い意味はない。はずだ。
しかし、通学路だってのに人通りが少ないんだよな、ここは。
正直、淋しいモンだ。ま、他に人がいたら困るんだが。(通報されかねないしな。)
そんなこんなで、俺はいつもと同じ道を、いつもと同じヤツの隣で、いつもと同じ様に歩いていく。
「…で、話は変わるけどよ、お前、クラス委員長の仕事は順調なのかよ?」
「まぁまぁだな。」
「…で、また話は変わるんだけどよ、お前のクラスの津浦(つうら)…たしか、波々(なみは)ちゃんだっけ?あのコ、カワイイよな!」
確か、スタイルもなかなかだったと記憶してる。まぁ、めろんじゃないのが残念だが。
「…やめとけ。アイツはただの暴力女だ。ガサツ中のガサツ、男勝り中の男勝りだ。」
「へぇ−、残念。顔はカワイイのにな。」
「ま、まぁ、多少はな。」
「…お?まさかお前、波々ちゃんのことが……」
「べ、別に好きじゃない!」
「誰もそんなこときいてないんだけどなー。ほ〜、そーかそーか。真面目で優秀な与利くんは、ガサツで男勝りな波々ちゃんが好きなのかー。へー、はー、ほー、ふ〜ん。」
「う、うるさいっ!そう言うお前はどうなんだよ?いつまでもめろんめろん言ってばかりいないで…そろそろ現実と向き合えよ!」
「はっはっは!バカだなぁ、与利くん。夢は諦めたらそこで夢のままになっちまうのだぜ?」
「無理して丁寧口調にするな。大部分がおかしいぞ?」
「気にするな。じゃあ、波々ちゃんのことは諦めてやるよ。」
「そうか…」
「あからさまにホッとするなよな…」
与利は波々ちゃんが好き。確定。
ああ、このネタを存分に使って憎たらしい悪友を責め立ててやりたい。
…が、このまま言い続けたらキレかねないな。
―――しょうがない。それじゃあ、他のコについて話すか。
「それじゃあよ、いっつも波々ちゃんと一緒に居るコがいるだろ?あのコは……」
「天崎(あまさき)の事か…?攻略は無理だろうな。」
――即答か。フリでもいいから、少しは『考えています』、というのを演出して欲しかった。
「何でだよ?」
もちろん、即対応。この辺りが、いかにも俺達のやり取りらしい。
「知らないのか?アイツ、何でも『あの』芹川(せりかわ)と付き合い始めたらしいぜ?」
「ま、マジかよッ!?」
「あくまで噂だけどな。」
「確かに、アイツが相手じゃ、さすがの俺でも略奪はムリだな。まぁ、俺は芹川に顔だけなら劣ってないと思うんだが…お前はどう思う?」
「お前は、顔がいい事だけが取り柄だしな。顔では負けてないというその発言、認めてやろう。」
「あ、ありがとよ…」
素直に認められると、何だかこそばゆい。
心底、顔では負けてないと思ってるのは本当だが。
しかし、財力が…な。
―――資産家のオンゾーシか。噂はおそらく本当だろう。アイツには、どことなく気品を感じる。どこか、超越的なものを匂わせる品格。
――そう、それは凄まじいものだ。男には全くと言っていいほど興味がない俺も、何となく興味を抱いてしまうほどに。
「…さってと。そろそろ学校だ。」
「そうだな…。でも、何か俺、今の会話ですっげーユーウツになったんだけど。」
「新しい出会いがあると思ってこのまま登校しろ。もし、サボったら……俺はお前の友達をやめるからな。」
「ああ、はいはい。わかりましたよ、優等生クン。」
―――本当に…本っっ当に、俺達の会話は、基本的には他愛のないものばかりだ。大半が女の話だしな。思春期はとうに過ぎたはずなんだが、今度は発情期が来たらしい。
「―――それじゃ、波々ちゃんによろしくな!」
「…さっさと消え失せろ。」
校内でさわやかに与利に別れを告げると、俺は自分の教室に直進、着席するなり爆睡した。
―――
――――――
―――――――――
…授業後。俺は一人で帰ることになった。
それもこれも、あのバカ与利が律儀にも居残ってクラスの仕事をやってくとか言いやがったからだ。居残りメンバーには、波々ちゃんがいるんだろうな、きっと。ホント、ヤツの魂胆はマルわかりだ。下心丸出しも甚だしい。
「……!?」
なんて、色々と考えている時、不意に、俺は歩みを止めた。いや、止めさせられた。
…目の前に広がる情景に。
―――道の真ん中に、無造作にめろんが落ちていた。もちろん…果物の、だが。
「ちょっと…そんなに見詰めるのはやめてくれるかしら…?」
「え…?あ、あれ?」
狭い道に声が響く。
辺りを見回すが、今、この道には、俺以外人は誰もいない。
「気のせいか…?」
自分を落ち着かせるため、呟いてみる。声ははっきりと、確かに聞こえたんだが…状況からして、気の迷いとしか考えられない。
「このめろんが喋ったなんてことは―――」
――まさか。そんな非現実的で子供じみた事を考えるなんて、俺もまだまだ子供だな。
そんな事を考えながら、道に転がるめろんを何となく両手で拾い上げてみた。
「ちょっ…!さ、触らないで!」
「めめっめっめめっめめめめ、めろんが喋ったぁぁあぁぁぁぁぁぁ!?」
俺は驚きのあまり、そのめろんを地面に落としそうになったが、なんとか体勢を立て直した。
「早く放しなさい!この変態ッ!」
「?????????????????????????」
頭の中が?で埋め尽くされる。一体何が起きてるんだ!?
―――困惑する俺は、この時はまだ…残酷な運命に気付いてはいなかった。まぁ、この時は、あの結末を導くものが目の前のめろんだってことを知らなかったんだから、無理もないだろう。
いつもの通学路。いつもの帰り道。全てがいつもと同じはずだった。
ただ、『その日』だけは悪友が俺の横にいなくて、めろんが道に落ちていた。
唐突に日常を侵食し始めた、非日常。歯車が狂いだした瞬間。
―――それが、俺と不思議なめろん、『キュルケ』の出会いだった。
続く。(氷幕作成)