茶運び人形・弓曳童子・文字書き人形製作のスペシャリスト

榎本誠治の世界

茶運び人形 弓曳童子 文字書き人形 品玉人形
五段返り人形 連理返り人形 指南車 鼓笛児童 他多数


◆はじめに・・・・

江戸時代直前に西洋から機械時計が日本に伝来しました。その時計に用いられていた歯車やカム、制御機構にヒントを得て、様々なからくり人形が江戸時代に作られていきました。そして幕末期に生まれ、活躍した田中久重や大野弁吉達の作った精工な人形によって絶頂期を迎えるに至りました。

それらの資料、映像、復元された人形の実演などに魅せられて、からくり人形の復元製作を思い立った次第です。

ここには江戸からくり人形を代表する最も人気の高いものを復元し発表することにしました。まだここに取り上げていないものも、順次復元製作し、発表する予定です。


(一)茶運び人形

動画①      動画②

1796年に刊行された細川半蔵による機械技術書『機巧図彙(からくりずい)』の中の茶運び人形を忠実に復元しました。

江戸時代に作られた茶運び人形は完全な形では一体も現存していませんでした。

明治、大正、昭和の戦争や大震災を経てようやく安定した昭和四十年代になって「機巧図彙」をもとにある大学の学生たちが立川昭二氏と製作、復元したのが現代の茶運び人形のはじまりでした。

各部品及びその構造について徹底的に研究し、改良、進化させて、耐久性を重視し、一年を通して安定した動きを実現しました。

そして、ゼンマイの力を最大限引き出す為に歯車の歯形にはインボリュートを採用し、高温多湿の日本の気候による材料の変化を最小限に抑える工夫をし、樫、欅、さくら、檜等を使用しています。そして江戸中期から幕末にかけて進化した形態を三種類の形で作成しました。

①原形

人形が持つ両手の茶托に茶碗をのせると客に向かって自動で進み、茶碗を取るとその場で停止し、空の茶碗を茶托に戻せば、180°回転して元の位置へ帰る。

①’ 完全復元型

動力源であるゼンマイと5か所のバネをセミクジラのヒゲを使用して江戸時代に作られた茶運び人形の完全復元に初めて成功しました。

走行距離が十分であることを立証するために敢えてストップさせずに一往復させています。

茶運び人形の全部品の図面集は完成しています。
現在製作しやすいように懇切丁寧な製作マニュアルを作成中です。

②茶酌娘型

田中久重(東芝の創業者の一人、からくり儀右衛門)らが考案したもので、茶碗を茶托から持ち上げなくても自動で客の前で止まり、茶碗を戻すと元の場所へ帰る。

(二)弓曳童子
(その一)

動画③ 動画④

からくり人形の中でも「文字書き人形」と共に最高傑作と称賛された名作…田中久重作

高さ29㎝ 幅32㎝の台座に仕込まれた7枚のカムに連動する13本の糸によって、人形が矢台に置かれた4本の矢を順番に弓につがえ放ち、的に当てます。

資料、写真、映像等から忠実に復元に成功しました。木工、金工、漆芸(蒔絵、螺鈿)着物等はすべて自作によるものです。

その精巧かつ複雑な機構でも耐久性を重視し、故障しないように工夫、努力した自信作です。

(その二)

弓曳童子の一連の動作の中で弓を弾く動作は左手だけで、本来の両手で弓を引くものとは違っています。これは右手が5本の糸によって複雑な動作をするため、右手でも弓を引くことは今日まで誰も考えてきませんでした。

そこで私は両手で弓を引く、弓曳き童子に挑戦し、原形を変えることなくカムを1枚増やすだけで遂に自然な形で弓を引く、弓曳き童子を完成しました。

150年以上、誰もが成し得なかった絶対の自信作です。

(その三)手廻し弓曳童子

動作の仕組みが良く分かるように、手でハンドルをまわして弓を射る様子が透明アクリル板を通して見ることが出来ます。

(三)文字書人形
(その一)

動画⑤

江戸時代末期に作られたもので、現存するものは二種類あります。一つは安城市にあるもので右手で松の字、口にくわえた筆で竹の字を同時に書くと考えられます。

もう一つは右手に筆を持ち、寿・松・竹・梅の文字を12枚のカムを動かして書くものです。

私の作品はこの型で、資料、写真などから研究して作製したものです。

現在、改良を加えながら2号機を製作中です。

台の大きさは弓曳童子より一まわり大きいので、蒔絵、螺鈿にはかなりの時間を要しました。堅牢を重視して、地固めには輪島の地の粉を使い仕上塗りまで十数回も手をかけています。

(その二)

動作の仕組みが良く分かるように透明アクリル板を使い、ハンドルを手で回しながら、文字を書く様子が見れるようにしたものです。

(四)五段返り人形

動画⑥

「からくり図彙(ずい)」を基に作成したもので、人形の体内には水銀が仕込まれています。

水銀は流動性があり、かつ比重が重いので非常にゆっくりと移動します。この特性を生かした重心移動によって人形が上から下の段におりてゆくからくりです。

(五)連理返り人形

動画⑦

段返りと同じように、水銀の重心移動を利用したからくりです。

棒を肩に抱えた2体の人形が壇上におかれ、後ろの人形がまえの人形を宙返りしながら飛び越していきます。棒の中に水銀が封入されていて、その移動によって、人形の肩を中心に回転して次々に階段を降りていきます。

(六)品玉人形

動画⑧

①一般型

「からくり図彙」下巻の最後に記述されているからくり人形です。

「品玉(しなだま)」とは手品のことで、人形が箱を両手で持って上げ下げする度に、中から違う品物が出て来ます。動力はゼンマイで、人形の腕の上げ下げに連動して台の中の四角形の箱の各面に付けてある品物が順に台の表面に表れるものです。

②進化型

大津屋金蔵作(1836年製)の七妖(ななよう)品玉人形を参考に、右手で箱を上げ下げし、左手で扇を上下させながら5種類の品物を順に登場させます。

変化する品数を増やすと構造上出て来る品物を小さくしなければならないので、実演には5種類位までが良いと思います。

(七)指南車

日本のからくりの始まりは諸説ありますが、日本書紀(斉明天皇4年、658年)に見られる指南車が最古のものとされています。この指南車は唐から帰化した僧侶の智踰が658年に作り朝廷に献上したとされるもので、押し車の上の軍師が中の歯車の動きで常に南を指すというものです。なぜ南かというのは中国の皇帝の玉座が南に向けられていたからで、人にものを教えるのに指南するというのはこれから来ています。

(八)鼓笛児童

細川半蔵の『機構図彙』に出てくる座敷からくりで、人形が笛を吹き、鼓を叩くからくりです。


なお、作品に関する展示や公演依頼などは、メールでお問い合わせください。
茶運び人形に関してはキット販売する予定です。しかし完ぺきな動作をする人形を作るには1,2回の製作指導を必要とします。

展示・公演 実績
2015年 TBSテレビ番組Γものづくり日本の奇跡」で弓曳童子を実演
〃 日本橋三越で弓曳童子を展示
2010年~2017年 深川江戸資料館、日本メカニズムアーツ研究会主催 江戸からくり展にて全作品を展示、実演
2017年~ みなとみらい三菱技術館(メカニズムアーツ研究会)協力の公演で数種の作品を実演
2019年公演実績
5月3,4日 三菱みなとみらい技術館(メカニズムアーツ研究会協力)
8月17,18日 深川江戸資料館
11月17日 三鷹市コミュニティーセンター
2020年公演実績(すべてキャンセルとなりました)
4月9日 明治大学博物館
4月25,26日 三菱みなとみらい技術館(メカニズムアーツ研究会協力)
8月1,2日 深川江戸資料館
10~12月 千葉県立現代産業科学館(作品展示、実演予定)
2021年公演予定
2020年と同じ月、同じ場所で公演が予定されていますがコロナ禍でいずれも中止又は未定となっています。
新たな依頼もありますが、本年はすべてお断りしています。

メールアドレス s-enmt@mti.biglobe.ne.jp

日本メカニズムアーツ研究会 会員