馴れ初め


裁判官といういう仕事は、人に感謝されることよりも恨まれることのほうが多い。とくに裁いた人間に。
 分かっていたからこそ、ユーリ・ペトロフは常に身の回りには気をつけていた。
 何度か不審物を送りつけられたこともあったし、あわや、という事件も何度か経験してきた。
 だからこそ、細心の注意を払っていたのだ。
 だが、最近仕事の忙しさからわずかに気が緩んでいた。あまりの忙しさに少しぼんやりとしていたのは否めない。
 そこを、ユーリは背後から急に襲われた。
 ガツン、と後ろからいきなり殴られ、いきなりのことにぐらりと身体が揺れた。
「ふっ…ぅ…」
 何事かと思う間もなく、口元にハンカチを当てられ、何かの薬を嗅がされる。
 ぼんやりと頭がしびれてくる。NEXTの能力を使おうとするが、その前に首筋に何かをつき立てられた。
 もう一人、背後から人が回ってくる。どうやら二人組のようだった。
 一人がユーリの肩を、もう一人がユーリの足を持ってそしてそのままずるずると裏路地に引きずり込んだ。
 だんだんユーリの身体が痺れたように感覚がなくなってくる。かと思えば、じんじんと身体の中が疼き始める。ひどく肌がざわついて仕方がない。
「へへ…裁判官殿もこうなっちゃあ、抵抗できねぇな」
 背後を押さえていた男が下種な笑いを浮かべた。
「お前のせいで実刑くらったんだ。復讐、させてもらうぜ裁判官さん」
 くらくらとする頭で、ちらりと視線を向けると、どこかで見たことがあるような気がした。
 だが、それ以上は思い出せない。
 前にいた男が、力任せにユーリのシャツを引き裂く。ぶちぶちと音が響いて、あっけなくボタンは弾け飛んだ。
 ぐらぐらとしながらユーリはぐったりとする。声もまともに上げられない。
 月の光の下、ユーリはこのまま終わるのかと悲壮な気分になった。だが、自分のしたことを考えれば、ここで終わるのも仕方ないのかもしれない。
 そんな思いでいると、不意に白磁の胸元にぬるりとした感覚があった。気持ち悪い、と思うより先に肌が泡立って震えた。
 それよりも何よりも、服を身体がはぎ取られるたび、布が擦れるたびに身体が快感に震える。
「んッ…あ…ぅ…」
 抵抗しようにも思うように手が動かず、緩慢に持ち上げられただけだ。その動きにすら、肌は敏感に反応を甘受してユーリの身体に快感をすりこんでいく。
 おかしい、と思うが先ほど首筋に打ち込まれたものが媚薬か何かのたぐいだったのだろう。
 殺すのではなく、男たちはユーリを犯したいらしい。
 後ろからユーリを抱え込んだ男は、ユーリの青白いほどに色のない胸元の、唯一色づいた部分に手を伸ばす。
「ひ…ぃっ……!!」
 思いっきり捻りあげられ、ユーリは喉から絞り出すような声をあげ、涙を零す。
 そしてそのまま前にいた男が、無理やりユーリの口に雄をねじ込んできた。
 吐き出そうと、せめて噛みつこうとするがうまく力が入らない。
 結局はもごもごと口を動かすだけで、男を刺激するだけに終わった。
 背後でユーリを支えるようにしている男は、荒い息をユーリの耳元で吹きかけながら興奮したようにかさついた指でユーリの突起を捏ねまわす。
 痛みが次第に快感へとすり変わってくる。じんじんと身体の中から熱があふれ出し、次第に肌が赤く染まってくる。
 視線も定まらなくなり、酒に酔ったかのようにくらくらとしてきた。
 思考回路も停止したように回らなくなってくる。
 呼吸をふさがれ、苦しさに涙が止まらない。
 下半身を弄られ、すでに反応し始めていたユーリ自身を乱暴に扱き立てられる。痛いほどに勃起した欲はだらだらと先走りを零している。
 情けなさとみっともなさと、これからどうなってしまうのだろうかとさまざまな思いが錯綜して、この状況で何もできないことに諦めを覚える。
 されるがままに口を犯されながら、ユーリ自身も悦楽に呑み込まれていく。
 どうなるのかという思いより、もっともっとこの禁断の快楽がほしい。心なしか、色々な部分が疼いてきている。
 頭を押さえつけられ、中に白濁を吐き出される。飲み干すことができずに唇からあふれさせ、胸元にこぼれる。それすらもユーリの快楽をあおって、身体を条件反射的に震わせた。
 身体をひっくり返され、地面に押しつけられる。冷えたアスファルトが肌に突き刺さって痛い。だがそれも、ユーリの身体の中の熱をあおる結果にしかならなかった。
 ごり、と肩が変な方向から力をくわえられて地面に押さえつけられる。
 ユーリは精液だけでなく涎も飲み込みきれなくなり、うつろな視線をさまよわせてうつぶせにさせられ、腰だけを突き上げるような体勢にされた。
「んぁーっ…」
 何の準備もなしに後蕾に指を突き立てられ、ユーリの背中が大きくのけ反った。痛みの中に、それを上回る快感が潜んでいる。
 すでに潤み始めていた秘蕾は少し抜き差しされるだけで、ぐちゅぐちゅとはしたない音を立てはじめる。まるで何かを待ちわびるように。
「すげぇ…」
 暴漢たちは自ら襲ったくせに、ユーリの痴態にごくりと生唾を飲み込んだ。
 ひくひくと震えながら、欲からははしたなく蜜を零し続けている。白い肌が興奮のせいか上気し、うっすらと赤味がさしていて何ともいえない色気を放っていた。
 どれだけ身体が冷えているのだろうかと周りが心配したくなるほどに紫色の唇も赤く染まっていて、はふはふと呼吸を繰り返している。
 びっくりするほどに薄い身体は、男たちの欲望を受け止めるには余りにも頼りなさ過ぎて、だからこそ支配欲をそそられた。
 路地に吹きこんでくる風にすら感じるのか、ユーリはビクッと自身を揺らして仰け反る。
 これだけ先走りをあふれさせても、ユーリ自身はまだ達していなかった。絶頂を迎えることはできていない。
 がちがちと震えながら、次第に強くなる風にうっとりと眼を細めた。
 不意にユーリの身体が舞いあがり、大げさなほどに腰が震えた。肌をなぞる刺激に耐え切れず、みっともなく腰を揺らす。
 すとん、と音がしそうなほど温かい何かの中にユーリの身体はおさまった。
 ぼんやりとする頭を何とか動かして定まらない視線をふらつかせると、見たことのある顔が真っ青になってユーリを見下ろしていた。
「裁判官…? なぜ裁判官の貴方が…?」
 わなわなとふるえながら、スカイハイことキース・グッドマンが言葉を吐いた。
 そして、あまりにも普段と違うぐったりとした様子にさすがのキースもすべてを悟り、そしてキッと地面を見下ろす。
 ユーリを襲った暴漢たちは、現れたキングオブヒーローに目を白黒させ、一目散に逃げ出す。
 たくましい腕に抱きしめられ、安心感とともにユーリは意識を飛ばした。 




 ユーリの意識がわずかにはっきりしてきたとき、ユーリはキースの部屋のベッドに寝かされて、丁寧に蒸しタオルで身体をぬぐわれていた。
「あ…ぅ…」
「気づいたのですね、裁判官! よかった、本当によかった」
 小さく呻いて目を開けたユーリに気づくと、キースは心の底から安心したというように、表情を緩めてユーリを見つめた。
「ああ、まだ動かないでください。病院へと思ったのですが…」
 何とか起き上がろうとするユーリを制止しようと、キースはそっとユーリの肩を押さえる。
 まだ薬の効果が切れていないのか、温かい手が触れた肩からじんわりとした熱が全身に広がる。
 思わず小さく息をのむユーリに気づかなかったのか、キースはわずかに顔を赤く染めて視線を反らした。
 ユーリの身体には乱暴の跡が残っている。突っ込まれはしなかったが、蕾はひくひくと蠢いて蕩け、胸の突起も乱暴に捏ねられたせいで熱を持って赤くはれ上がっている。
 しかも、その性別は男だ。男が男に襲われたなど、正直外聞はよくない。しかも裁判官だ。キースなりに気を使ってくれたのだろう。
「…すみません…。キングオブヒーローに気を遣わせてしまい…」
 かすれた声でありがとうと言えば、キースは赤くなってぶんぶんと首を横に振った。
「気にしないでください! これもヒーローの務め。それに…名前を、名前を呼んでください」
 ほんのりと頬を染めながら、キースはユーリに告げる。
「ありがとう、キース」
 小さく微笑めば、さらにキースは赤くなる。
 軽くユーリが身じろぎすると、柔らかなシーツが身体にこすれ、びくん、とユーリの身体が跳ね上がる。
 その瞬間に小さく声をあげて喉を晒した。
 今度はさすがにキースも気づいた。ユーリの声と、その意味に。
 キースの顔がとたんに困惑に染まる。 
 常日頃真っすぐで陽だまりのようだと思っていたキースにこんなところを見られ、薬を使われたとはいえたかが布にこすれただけで反応している自分にユーリは泣きたくなった。
 襲われてもこんなに泣きたくはならなかったのに、キースに見られたというだけで恥ずかしさのあまり逃げてしまいたくなる。が、実際には逃げることなどできない。
 キースの視線から身体を隠そうと動くたびに敏感になった皮膚がこすれて、自分自身で追い詰める結果になっていった。
 欲は立ち上がり、いまだ煽られるだけで達していないそこはすぐに涎をたらし始める。後ろも物欲しげにひくひくと蠢いているのが分かる。
 いったんは落ち着いていた身体に火が着けられ、すぐに燃え上がってしまった。
「ぅ…んッ…や…み、ないで…くださいっ…」
 ガラス細工のように透明で不思議な色合いの瞳を潤ませながら、ユーリはか細い声で告げる。
 だが、キースの視線はユーリの身体から離れない。
 絡みつくように、驚きと戸惑いをないまぜにした視線がユーリを犯す。
「ゃ…や、ですっ…。見ない…で…見ないでっ……!!」
 一人勝手に盛りながら、ユーリは自分の身体を抱きしめようとベッドの上で身体を丸めた瞬間、ぐりっとユーリ自身がベッドに擦れ、それだけでユーリは今までが嘘のようにあっけなく精液を放ってしまった。
 一度放ってしまったことで、ユーリの頭の中で何かが振りきれてしまった。
 恥ずかしいし止めたいという気持ちはあるのだが、手が勝手に動いてしまった。
 ゆるゆると片手を前にまわし、もう片方の手を後ろに回してしまった。あの時男に指を突き立てられた場所が、ひどく疼いて仕方がない。
 もうすでにみっともないところを見られてしまったのだ。これ以上は…もう同じだった。
「ぁんッ…や、ぅ……!!
 控えめな声をあげながら、ユーリはそっと自分の蕾に指を突き立てる。ぐずぐずに緩んだそこは待ってましたとばかりにユーリの指を飲み込んで絡みつく。
 中の熱さにびっくりしつつ、内壁を捏ねまわすように指を動かすとそこから全身に途方もない快感が広がっていく。
 勝手に乳首も立ち上がり、いじめて欲しいと主張を始める。
 キースの見ている前だというのに、ユーリは前を擦りあげながら後ろを掻き回して一人で快楽に身もだえる。
「…ユーリっ…」
 名前を呼ばれ、そして後ろに入れていた指を無理やり引き抜かれた。
 普通、助けてくれた相手のベッドの上で一人でこんなことはしない。正直おかしい。キースに幻滅され、そして追い出されても仕方がない。
 頭では分かっていても、止めることはできなかった。
 快感にかすむ瞳でキースを見上げると、熱っぽい瞳で食い入るように見つめてくるヒースの顔がすぐそばにあった。
 そして、口づけられる。触れ合わせるだけの単純なものではなかった。舌で唇を押し開き、ユーリの口腔を蹂躙してくる。
 舌を絡めたかと思えば歯列を舐め上げられ、そして思いっきり吸い上げられる。
 普段の天然なキースからは想像もできないほどの熱い口付けに、ユーリは口の端から飲み込み切れなかった唾液を零しつつ、再び白濁を放った。
 ユーリがびくびくと腰を突き上げていると、ようやくキースは唇を離した。銀の糸を引きながら離れていく唇をぼんやりと見つめ、ユーリは今の状況が飲み込めていなかった。
 ぼぅっとしていると、キースが乱暴に服を脱いで裸になる。鍛え上げられた肉体に、思わずうっとりとユーリは目を細めた。このたくましい腕に抱かれ、突き上げられたらどんなに気持ちいいのだろうか。
 そんなことを考えていると、無言のままキースはユーリの足を押し開き、先ほどからユーリ自身がほぐしていた蕾にその剣を突き立てた。
「ひ…ぁあああっ…」
 その肉体に見合うようにたくましく巨大なキースに挿入され、それだけでユーリは悲鳴をあげてまた精を放った。もうずいぶんと量も少ない。
 そして細いユーリの腰をキースに掴まれ、そのまま激しく突き上げられる。
 目の前が真っ白になるほどの激しい刺激に、ユーリは意識を飛ばしそうになりながら揺さぶり続けられる。薬の効果もあってか、ユーリの欲からは常に白く濁ったものがドロドロと滴り落ちていた。



 そしてまた気を失い、次に気づいたときにはユーリの真横にはキースが穏やかな寝息を立てていた。
 しっかりとユーリを抱きしめ、キースの分厚い胸板に頭を載せるようにしてユーリは横になっていた。
 びくりとして慌ててユーリが起き上がると、その動きに気づいたのかキースが目を開いた。
 腕の中のユーリに気づいた瞬間、キースはユーリが驚くほどの速さでその場から飛び上がり、ベッドから降りてユーリに土下座した。
「すまないっ! 本当にすまない!!」
 いきなり謝られて、ユーリはあっけにとられて言葉も言えなくなる。
 黙ったままで何も言わないユーリに、キースは額を床に押しつけながらただ謝り続ける。
「ユーリが薬で苦しんでいるというのに私はそれを利用してユーリにとんでもないことをしてしまった! 申し訳ない。実に申し訳ないっ。だが…ユーリを見ていると抑えきれなくなってしまったんだ。いつも好きだと、きれいだと憧れていたユーリが目の前であんな痴態を…!!」
 キースは土下座しながら青くなったり赤くなったりと変化を繰り返していた。
 そして、キースが何気なく口にした「好き」という言葉に、ユーリはどきりとしてしまった。
 キースのこと。深い意味はないのだろう。きっと誰にでも言っているのであろう言葉。
 だが、それに不覚にもユーリはときめいてしまったのだ。
 いつも太陽のようで、自分とは正反対だという思いで見ていたキース。そのキースが自分にわずかでも好意を持っていてくれて、しかも今、この場でユーリを責めるのではなく必死に謝っている。
 今まで恋をしたことがなかったユーリにとって、それは初めて訪れた恋の自覚。
「顔をあげて…こっちに…」
 ユーリは小さな声で言うと、ばねのようにキースが顔をあげてベッドに飛び乗ってきた。
 そしてユーリの真横で正座して、じっとユーリの顔を見ている。
 なんてまっすぐな瞳なのだろうか。
 あまりにもまっすぐすぎるキースの視線に耐え切れなくなって、ユーリは赤くなりながらわずかに視線を伏せる。
 ゆるゆると、緩慢な動きで手を伸ばすとそっとキースの背中に手をまわした。
 驚いたのだろうキースは、それでもしっかりとユーリを抱きしめた。
 その広い胸板に包み込まれると、不思議な安堵感がユーリの全身を包み込んだ。
「私のほうこそみっともないところを見せてしまって…。でも…貴方にされて…嫌じゃなかったです」
「それは…好きだと受け取っていいのだろうか!?」
 キースが大きな声で叫ぶものだから、ユーリはわずかに耳が痛くなったが、小さく、本当に小さく頷いてキースの肩口に顔を埋めた。