触れてほしい衝動


きっかけは唐突だったけれど、お互いゆっくりとゆっくりと着実に近づいていた。
 非常に穏やかな付き合いが続いてもう数カ月。
 その間にした事といえば、映画を見に行ったり散歩をしたりカフェで語り合ったり……非常に健全な付き合いをしていた。
 いい歳をした「恋人同士」と呼ばれる関係になった二人が、まだ手をつなぐに至っていないのはどういうことなのか。
 まあ、確かに、一度身体を繋げてはいるが、あれは仕方なかった。そう。仕方なかった。
 薬でユーリがボロボロになっていたのだから。
 後から調べると、とくに常習性はないが非常に危ない薬だった。常用して死んだ人間もいるということだった。あんなにも性欲が止まらなかったのは薬のせいだった。キースの前でするなんて…。
 だが。だがしかし。それから付き合い始めて何もないというのは一体どういうことなのだろうか。
 もうユーリ自身いい年頃。落ち着いてはいる。そこまでがっつくつもりはない。ないが、だからといって手すら握っていないことへの現状は如何ともしがたいものがあった。
 逢えばお互い穏やかな時を過ごせる。
 ユーリにとってゆっくりと時間が流れていくような、安心できる関係はひどく新鮮で、満足できるものだ。
 だが、人間生理現象はある。
 どうにもこうにも体内からあふれ出る欲望を押さえられない時もある。
 恋人がいるのに、どうにもこうにも言いだせず、ユーリは一人浴室で処理したこともある。
 最初が最初だから、してほしいとも言いだしにくいのがユーリ・ペトロフの現在の心情だ。
 キース・グッドマンというのは、明るい太陽のような真っすぐな人間だった。
 正直……どう誘っていいのかもわからない。ユーリの性格として、してほしいなどとは素直に言えない。
 言えないけれど、でもして欲しい。けれどキースは鈍感なのか何なのか、気づいてはくれないし、手すらも握ってくれない。
 人前で手をつないでほしいということではないけれど、二人きりになった時に何かしらの接触があってもいいとは思うのだが、何もない。
 それは要するに、ユーリ自身に魅力がないということなのだろうか…。
 ユーリは執務室で仕事をしながら、眉間にしわを寄せて悩んでいた。
 仕事のことなど事務的に処理をしているが、中身は一向に頭の中に入ってこない。
 どうすればキースに触れてもらえるのか…それだけを考えて頭の中がいっぱいになってしまっていた。
 あまり感情を表に出すことが得意ではないゆえに、ひどく無表情になってしまっているのにユーリ自身は気づいていない。そして周りが、そんなユーリが機嫌が悪いのだろうかとビクビクと様子をうかがって遠巻きに見ていることにも、まったく気づいていない。ユーリのご機嫌を取ろうと、秘書たちが普段はそんなことなどされたことがないのにユーリのためにはちみつたっぷりの紅茶を持ってきたことにも、ユーリ自身はあまり気にしていなかった。好きなものが出てきて嬉しい、くらいにしかとらえていなかった。
 ユーリ自身、自分の身体があまり好きではなかった。男として頼りないし、筋肉もない。ひどく貧相な身体をしている自覚はある。周りから見れば、細身でスタイルがいいと捉えられているが、本人はそれがコンプレックスだった。
 だが、一度は抱いてもくれた身体だ。アピールの仕方でどうにかできるかもしれない。
 ユーリは恋人としての一歩を踏み出すため、覚悟を決めた。




 休みの前日、ユーリは自宅にキースを招いて夕食を一緒にしていた。もちろん、ジョンも一緒だ。
 ジョンは初めて来たときは所在なさげに、見知らぬ場所で戸惑っていたようだが、次第に慣れてきて現在ではユーリの自宅でも寛いでいる姿をよく見せる。
 キースがユーリになついているせいか、ジョンもユーリには喜んで飛びかかり、過剰なほどの好意を示してくる。飛びかかられる方ユーリはのたまったものではないが、懐いてくれているのが分かるので、それはそれで嬉しかった。
 ジョンはうつらうつらとリビング隅で丸くなって眠っていた。
 日常の事や趣味のことを離しながら、ユーリは内心かなりドキドキしていた。
 誘惑すると心には決めたが、どうも自身がないし…失敗した時が怖い。
 だが、行動しないことには何も変わらないのだ。
「キース、先にお風呂入ってきてはどうですか?」
「……そう、だな。では入らせてもらおう」
 ユーリがぎこちない笑みを浮かべて進めると、キースは一瞬微妙な間を開けて頷いた。
 その間に不安を感じつつもキースを見送り、食卓の上の食器を洗って片づけた。
 心臓が破裂しそうなほどの緊張感に、ユーリは思わず目眩がした。こんなにも緊張したことなど、今まであっただろうか? いや、なかった。
 近年最大級の緊張と不安に、思わず手が震えてしまう。こんなに緊張してまで果たしてするほどのことなどか…。
「わんっ」
 不意に足もとに温かいものが触れ、吠えられた。
 ジョンが少し心配気に、ユーリを見上げていた。その表情は大丈夫? と問いかけているようで、ユーリはしゃがみこんでジョンを抱きしめた。
 ぎゅっとジョンに抱きつき、その毛並みに顔を埋めると少しキースの匂いがした。
「ジョン…頑張るよ…」
 ジョンはじっとユーリに撫でられてくれていた。
 少しするとようやく落ち着いてきたユーリは、ゆっくりと立ち上がって風呂場に向かう。
 出来るだけ足音をたてないように向かうと、水の流れる音がする。水しぶきが跳ねかえる音に合わせて、ユーリの心臓もどくどくと跳ね上がる。 
 脱衣所に着くと、これまた衣擦れの音をたてないように慎重に慎重に服を脱ぐ。髪を押さえているピンとリボンをほどくと、ふわりと髪の毛が落ちて広がる。
 以前にキースと一緒に街に出かけたときに、いい匂いだと言っていた花の香りがユーリの鼻孔をくすぐる。
 自分でも情けないと思うが、キースが好きだと言ったからシャンプーも変えてみた。気づいているのかは…微妙だが、ユーリが近づくとキースの表情が少し緩むので、それはそれで良しとする。
 ばくばくと大きな音を立てる心臓のあたりをぎゅっと押さえると、深呼吸をして思い切って浴室のドアを開けると、キースは広めの浴槽でリラックスしているようだった。
 だが、入ってきたユーリにびっくりしたように眼を見開くと、パクパクと口を開いて呆然とユーリに視線を向けていた。
 青白い肌が羞恥のためか、ほんのりと赤く染まりながら、ユーリは精いっぱいの普通を装うとした。
「きょ…今日は一緒に入りたくて…」
 だが声は心なしか上ずっていて、はたから見ると、みっともないほどに震えていた。
 何も言わないキースに耐え切れなくなり、その沈黙を誤魔化すようにユーリはシャワーで軽く身体を流すと、大人二人だと少し窮屈なバスタブに身体を沈める。
 ザバァ、とお湯をあふれさせながら、向かい合うようにしてユーリはわざとらしく身体を擦りよせてみる。少しぬるめのお湯はねっとりと身体を包み込んでくる。
 いつも鍛えているキースの身体はしっかりと筋肉に覆われていて、自分にはないそれに少しの嫉妬と、羨ましさを感じる。
 そっと白魚のようにほっそりとした指を、キースの胸元に這わせる。
 指にはしっかりとした筋肉の感覚が伝わってきて、それが自分の胸をいくら触っても感じることのない感触がなんだか不思議でラインをたどるように指を動かす。
 キースの足の間に身体を差し入れて、ユーリは少しだけ大胆になって逞しい腹筋に下半身を押し当てる。しっかりとした弾力が心地いい。
 ずっと固まっていたキースも、さすがに胸元を触られて、下半身を押しつけられると慌てたようにユーリの手を掴む。
 手首を押さえられると、パシャんとお湯が跳ねて、ユーリは少しびっくりする。
 すると、そのびっくりしたユーリの表情に驚いたように、キースはパッとユーリの手首を開放してあわあわと首を横に振った。
「いやっ…そのッ…! ユーリを驚かせるつもりはなかったんだっ! そのッ…触られると我慢できなくなるから駄目だ」
「が、我慢できなくなるって…?」
「それは…ユーリに触れたくて…食べたくなる」
 我慢できないとでもいうように、キースはぎゅっとユーリを抱きしめると、その動きに合わせて大きく湯も跳ねてユーリの顔を濡らした。
 しっかりと抱きあうように抱きしめると、キースは片手でユーリの細い腰を支え、もう片方の手でユーリの頭を抱き寄せて緊張のせいで赤く染まっているユーリの耳朶を甘噛みする。
 今まで触れてくれなかったのが嘘のように、堰を切ったようにキースはユーリの腰を撫でまわしながら首筋へと唇を押し当ててくる。
 そう。ユーリはこれが欲しかったのだ。
 もっともっとして欲しくて、ユーリは自分から身体を押しつけると、下腹部に固いものが触れる。キースのそれはすでに張りつめて反り返っていた。
「ユーリ…折角我慢していたのに…。今日は…覚悟して欲しい」
「え…っ?」
 いつもとは違う甘くかすれた声に、ユーリは赤くなって小さな小さな声をあげた。
 がばっとユーリを抱きしめたままで立ち上がると、そのまま浴室を出る。
 一時もユーリを離したくないというように、しっかりと抱き抱えたままでタオルで軽くお互いの身体を拭いてキールはずかずかと寝室に向かう。
 ドアを片手で開けると、ぽん、とユーリを軽く投げるようにベッドに置いた。スプリングが軋んでしっかりとユーリの身体を受け止めた。
 乱暴なキースの行動に、ぞくりとユーリの背中を言い知れぬ感覚が這い上がっていく。
 どう、されるのか…。
 ユーリはぎゅっと手を握りしめると、見下ろしてくるキースを潤んだ瞳で見つめてそっと足を開いた。開いた、といってもほんの少しだけ…。今はこれが精いっぱいだった。
 それでも兆し始めた自身を見せつけるようにしながら、ユーリは震える唇を開く。
「私も…ずっと、して欲しかったんです…。今日は…してください…」
 恥ずかしくてそっぽを向くと、ぎしりとベッドが軋んでベッドに乗り上げてきた。
 ドクドクと大きく心臓の鼓動を響かせ、ユーリは無駄な肉など一切ない、細すぎる太股をさらに少しだけ開く。
 恭しく、女王陛下に使える騎士のようにキースはユーリの右足を軽く持ち上げた。躊躇うことなく足の指に口づけると、一本一本をねっとりと唇に含んで舌を絡ませる。風呂場で言った、食べてしまいたくなる、との言葉通りにキースはユーリをその舌で味わっていた。
「い…やぁッ…」
 か細い声が漏れる。
 足の指がねっとりとした粘膜に包まれ、今まで感じたことのない刺激に背筋が反り上がった。
 シーツを握りしめ、身体がくねりだすのを止められなかった。
 鼻から抜けるような吐息を零しながら、ユーリはシーツの上で陸に揚げられた魚のように身もだえる。
 ひとしきり全ての足指を舐め終わると、足の甲をべろりと舐め上げ、そこからゆっくりとふくらはぎを這いあがり、太股までやってきた。
「あ、あっ…あ…ぅッ…」
 足の付け根までとうとう到着したキースが、きゅっと吸い上げる。
 掠れた声をあげ、ビクッと思わず足を閉じてキースの頭を太ももで思いっきり挟み込む。そのせいで勃ち上がったユーリの先端がキースの頭を打つ。
 いきなり挟み込まれたキースは、唇の端を持ち上げながら笑い、そっと両手でユーリの足を拡げさせた。先ほどよりも大きく。
 食べられてしまう寸前の野兎のように震えながら、ユーリは涙でいっぱいになった瞳をキースに向けた。
「我慢できない…無理だよ、ユーリ。もう我慢なんてできない」
 キースの瞳が欲望でぎらついていた。視線で犯される、というのはこういうことを言うのかもしれないと、ぼんやりとユーリは考えていた。
 真っすぐと射抜くような視線を向けられて、ユーリはゾクゾクと背中を何かが駆け上がっていった。
 キースはさらにユーリの足を押し開くと、その奥にある隠された蕾に舌を押し当てた。
 まだまだ固く閉じたままのそこを、ドアをノックするように舌でつついた。
「ふぁッ…」
 思わず甲高い声をあげ、ユーリは片方の手の甲でで口元を押さえた。溢れてしまう声に恥ずかしくなったのだ。
 がじがじと指の背を噛んで、必死に声を押さえるが、押さえることなんてできずにすすり泣くような声をあげて、ぶるぶると震える。
 その間もキースはゆっくりと舌を侵入させて、内壁をも舐め上げる。
 敏感な粘膜を器用な舌で舐められ、思わずユーリは腰を跳ねさせて呆気ないほど簡単に精を吐き出した。
 ドロドロと垂れ、それは蕾にまで伝い落ちてくる。
 キースはまた小さく笑うと、顔を離して落ちてきた白濁を掬いあげる。そのまま精液に濡れた指を蕾に押し込む。
「ユーリの中は温かいな。温かくて…気持ちいい。突き上げて…もっともっと泣かせたい」
 危ないことを口にすると、キースは中をほぐすように指を動かす。
 ユーリの足が閉じてしまわないように、しっかりと足の間に身体を挟み込ませて、じっくりとユーリの肢体を観察する。
 栄養不足かと思えるほどに細い身体のくせに、その尻は他に比べて肉が付いていて確かな弾力を持っている。全体的に薄い身体は、快感のせいか今は赤く上気していて壮絶な色気を放っている。胸の突起は立ち上がってその存在を忘れないでと主張していた。
 そっと指を増やしてかき回しながら、キースは顔を近づけて乳首をぺろりと嘗めた。
「い…ぁあっ…」
 ふっくらと膨らんだ胸の屹立は、舐められてさらに大きく膨らみ始める。
 いきなりの刺激に驚いて、ユーリはぼろりと涙を零して身体をよじった。そのせいで体内に呑み込んでいた指の角度が変わって、さらに悲鳴を上げることになった。
 足先を丸めてシーツをぐしゃぐしゃに蹴り上げ、腰を突き上げて自身を揺らす。
 ぐちゅぐちゅと濡れた音が響き、ユーリは思わず耳を覆いたくなってしまう。
 恥ずかしさを誤魔化すように指の背を噛んで、きゅっと眉根を寄せた。
 不意に刺激が止み、くちゅ、と音がして指を引き抜かれると、足を抱えあげられてユーリは閉じていた瞳を開いてキースに向ける。
 耳まで真っ赤に染めながら、ユーリはいつになく真剣なまなざしのキースに、こんなときだというのにドキッとして胸を高鳴らせる。
「ユーリ…入れるよ」
 蕾に固いものが押し上げてられると、ぐっと一息で最奥まで突きいれられた。
「い……うぅーっ……!」
 余裕のない突き上げに、ユーリは涙を零して唇をかみしめて痛みをこらえる。
 解していたとはいえ、いきなりの挿入にボロボロと涙を零して、薄い腹筋を痙攣させる。肉がないせいで、キースの怒張を受け入れた腹は少し膨らんでいる。
 キースもぎゅうぎゅうに締め上げてくるユーリの内壁に、苦しそうに眉間にしわを寄せて耐える。
 しばらくその状態で固まっていたが、キースはユーリの足を肩にかけて担ぎあげ、膨らんだユーリの腹をそっと撫であげた。
「あ…ふ…んッ…」
 優しい動きに、痛みが少し和らいで鼻から抜けるような声を出す。そっとそっとキースはユーリの腹を撫で、ユーリから力が抜けるのを根気よく待った。
 ユーリがその大きさに慣れてきたころ、ようやくキースがゆっくりと抽挿を繰り返す。
 中を探るように、そっとそっと動き出した。
 じれったいほどの動きに、ユーリの腰が揺れる。大きさに慣れてしまえば、後は快感だけだった。あさましくも、ユーリの腰は刺激をねだって擦りつけるような動きをする。
 その動きに気づいたキースの腰は、少し動きが大胆になる。中をぐっと突き上げると、ある一点に当たった瞬間ユーリは全身を痙攣させてキースを締めつけた。
「あぁああっ…!」
 嬌声をあげていやいやをするように首を横に振ったユーリを見て、キースは彼らしくないニヤリとした笑みを浮かべた。
 思った以上にしなやかで柔らかいユーリの身体を折り曲げ、キースはユーリが声をあげた一点を狙って突き上げる。
 前立腺を刺激され、ユーリはじっとりと身体を汗ばませて、与えられる刺激にがくがくと身体を躍らせる。
 髪がべったりと額に張り付き、身体の快感とは別に奇妙な不快感を与えてくる。
 指の背噛んでいた唇は次第に半開きになったまま閉じられなくなり、手はぐったりとベッドに投げ出された。
 キースはそんなユーリの様子を真剣なほどに見詰め、その脳裏に焼きつけようとしているかのようだった。
 何度も身体を由良ぶられていると、ユーリの限界が近づいてきた。
「ユーリ…可愛い…可愛い…。本当に可愛らしい…私のユーリ…」
 さらに身体を折り曲げられて息苦しさに呼吸が止まりそうになるが、キースの顔が近くなって少しユーリは嬉しくなる。
 耳元で囁かれ、ふぅーと息を吹き込まれると、ぞわぞわとしたものが身体中を駆け巡って手足を痺れさせる。そのまま身体の中心まで電気が流れ込み、ぎゅぅっと中を締め上げるとキースの欲がひときわ大きく膨れ上がる。
 小さなうめき声をあげると、ぐっと腰を押しつけてユーリの最奥に精を放つ。
 ドクドクと熱いものが流れて込んでくる感覚に、ユーリも身体を痙攣させながら腰を揺らして精液を吐き出した。





 キースは担いでいたユーリの足を下ろし、自身もベッドに横になるとユーリをしっかりと抱きよせる。顔の周りに張り付く髪の毛を丁寧にはがしてやりながら、ユーリの頬を撫でる。
 強烈な刺激に意識を飛ばしているのか、ユーリは瞳をうつろにさまよわせて荒い息をついている。
「折角我慢していたのに…キミは本当に罪作りな人だ…」
 ぼそりと零すと、キースは宝物を扱うようにしっかりとユーリを抱きしめてその頭に頬を寄せる。
「あ…ぅ……ん…」
 ようやく気付いたのか、ユーリは掠れきった声で小さく声を出して身じろぎする。
「ユーリ…気持ちよかった…本当に気持ちよかったよ」
 場違いなほどにさわやかな笑みを浮かべて、キースはユーリの顔を覗き込む。
 次第にユーリの瞳の焦点が合ってくると、一瞬で真っ赤になって慌てたように首を左右に動かし、そして恥ずかしそうにキースの胸元に顔を埋めた。
 そしてしっかりとたくましい身体に腕をまわして、甘えるように自分から身体を擦り寄せた。
「わ…私も気持ち良かった…。ずっと…触ってもくれない、から…して、欲しくて…」
 ユーリは切れ切れにそういうと、さらに恥ずかしくなったのか身体を丸めるようにして、すん、と鼻をすすりあげた。
「そうだったのか。私もユーリに触れたかったのだが、触ると歯止めが利かなくなってしまうのが分かっていたから、なかなか触れられなかったんだ。でも、ユーリが嫌がっていなかったのなら、もっと早くからこうしていればよかったな」
 にこっと笑うと、キースはユーリの淡い色をした髪を撫でる。いつもはさらさらとなびいている髪が、今はしっとりとしていた。
 その感触が気持ちよくて、ユーリはうっとりと眼を閉じ、キースは何度も髪を撫でる。
「ユーリ…好きだ…」
「わ、私も、です…」