Un sentimento

 あまりの恥ずかしさに虎徹はいい歳をして、泣き出したくなってしまう。
 まさかパートナーであるバーナビーの目の前でこんな痴態をさらしたうえに、今にもイきそうになっているだなんて。
 バーナビーはおもちゃでも見つけたように、一心不乱に虎徹の下半身をいじっている。
 ドロドロになった手は滑りやすく、いやらしくからみついてくる。
 時折片手は虎徹の背筋をたどり、尻を気まぐれに揉んでいる。
 決して柔らかくもなんともないのに。
 手が自由なら、間違いなくバーナビーの手を掴んでやめさせるのに。
 幾度もがいてみても、手首を戒めたタオルはほどけそうにない。むしろさらにきつく締まってきている気がするのは気のせいだろうか。
「も…やめてくれよ……バニー…」
 すん、と虎徹は小さく鼻をすすりあげてしまう。
 まさかこんなことになるなんて思ってもみなかった。
 いい相棒でいたかったが、こんな関係になるなんて思ってみなかった。
 濡れた音を響かせながら下半身をしごかれ、不意に先端に爪を立てられた。
「…っ……ぅ……!」
 かろうじて声を呑みこみ、身体が震える。
 腰が強張り、我慢する間もなく白濁を放つ。
 我慢していた身体に、不意の刺激はきっかけになる。
「先輩…濃いですね」
 その声にうっすらと潤んだ瞳をバーナビーに向ければ、バーナビーはまっすぐに虎徹を向いて、見せつけるように掌に飛び散った白濁に舌を這わせている。
 その視線に射られ、虎徹はぞくりと背筋を粟立たせる。
 思わず力が抜けてしまいそうになる腰を何とか気力で支え、虎徹はバーナビーを見つめる。
「先輩…そんなに気持ちよかったんですか? こんなとこまでとがらせて」
「ッ……!!」
 精液に濡れた手をそのまま、虎徹の胸に這わせる。
 そこにあるのは、今まで存在すら忘れていたような突起。普段なら全く気にしないそれが、今に限って固く尖り、じんじんとした熱を虎徹に伝えている。そこだけまるで別になってしまったように、小さいながらも存在を主張している。
 バーナビーの指に押し込まれ、それは形を変えて押し込まれる。
 指を離せば、ゆっくりとまた尖って前にせり出してくる。
 そしてまた、同じようにゆっくりと、今度は先ほどよりも長く強く、ぎゅっと突起を押し込む。
 ちりちりとした痛みとうずきに、虎徹は身をよじるが、タオルが食い込んでくるだけでバーナビーから逃げることもできない。
 そうするうちに虎徹の下半身はまた頭をもたげ始める。
 ぴん、と指で胸の果実をはじかれて虎徹はのけ反る。こんなところで感じるとは思っていなかった。思いたくもなかった。
 何度も何度も指ではじかれ、押し込まれるうちにまた虎徹はぎりぎりまで追い詰められてくる。
 だが、先ほどとは違ってどれだけ胸をいじられても一向に絶頂は見えてこない。
 身体の中でくすぶる熱をあおられるだけで、肝心の瞬間は訪れる気配さえない。
 これだけじゃ無理なのだ。
 なのに、バーナビーは肝心のものは与えてくれない。
 悔しくて、でも身体は出したい。
 あっけないほど欲望に忠実な身体の中心はいじってほしいのだと訴えるように滴を零している。
「な……バニー…」
 呼びかける声はひどく弱く、媚びるようだ。
「なんです? 先輩」
「もう…駄目なんだっ…」
「何がです?」
「なに…って…!!」
 バーナビーは妖しく虎徹に視線を向ける。身体の芯から解かすような熱い視線に、虎徹は身体を震わせながら訴える。
 もう足の力も抜けて、手首がシャワーに固定されているおかげで何とか立っている状況。正直、手首にタオルが食い込んで痛い。
[…ったぁ……!! なにっ…するんだよ…ぅぉ…っ?」
 いきなりシャワーに固定されていた手首のタオルをはずされ、そのまま虎徹は身体を支えていられずに崩れ落ちた。そのせいで尻をタイルの床に打ちつけ、鈍い痛みが走る。
 思わず抗議しようと顔を上げると、目の前にはバーナビーの熱くたぎった欲が目に入る。変な声をあげて虎徹は目を見開く。
「先輩のせいで、こんなになってるんですよ。先輩が…」
 ス、とバーナビーは片膝をついて身体を寄せてくる。
 その端正な顔を虎徹の耳元に近付け、優しく甘く囁いてくる。
「エロいから」
 その瞬間、背中に走った衝撃はきっとこの先も忘れられない。
 ひく、と身体がのけ反り虎徹の下半身は喜んでいるかのように震える。
 その反応にバーナビーは口元をさらにゆがめる。
「かわいいですね、先輩」
 若干混じるからかうような響きに、羞恥で目の前が真っ白になる。
 言葉だけで自分の身体がそんな反応をするなんて、今まで虎徹は知らなかった。
「も……嫌だ…」
 ぐしゃりと顔を崩して、虎徹は泣き言を零す。
 バーナビーはす、と手首のタオルを外す。
 手が自由になった虎徹は、情けなさに思わず顔を押さえる。
 もう、抵抗することは頭になかった。逃げ出すことも思いつきもしなかった。
 年下にいいように煽られて、そして反応する自分がいい年してみっともない。
「そんな顔しないで下さい、先輩。ほら」
「や…めろっ…あ…ぁぅッ…」
 まだ熱の冷めていない下半身に手を添えられ、しごきあげられる。
 ギリギリの淵をさまよっていた身体には、その刺激はとどめだった。
 ギュッと身体を丸めて強張らせると、びくびくと花芯は震えて白濁を放つ。
 本当にいったいどうしてしまったのか。こんなにあっけないほど快感に屈してしまう身体が恨めしい。
 虎徹はぼんやりと倦怠感に身体を預けていると、ぐいっと顎を上向けさせられた。
 いつの間にか立ち上がっていたバーナビーが、バーナビー自身の欲をしごいていた。
 あ、と思う間もなく蜜が虎徹の顔に降り注ぐ。
 大量のそれは、何の前触れもなしに虎徹の顔を汚し、そして滴り落ちていく。
 再び膝を折ったバーナビーは、まだ呆然としていつ虎徹の頬に飛び散ったそれを、指で擦りつける。
「先輩…ヤらしいです。本当にぐちゃぐちゃですね」
 白く濡れた指を、虎徹の口元に押し当てる。
 これはきっとそう。
「そうですよ、先輩。しっかり舐めてください」
 うっすらと唇を開き、指をくわえる。苦いそれに、一瞬眉をしかめるがぼんやりとした頭では、ただ目の前に差し出されるものしか映らない。
 バーナビーの指がきれいになれば、また虎徹の顔に飛び散ったものをすくって何度でも口元に運ぶ。



 ああ。本当にどうしてこうなってしまったのだろうか。
「今日はこれくらいにしてあげますね、おじさん」
 そう言い残すと、バーナビーはぐったりしている虎徹をおいてそのまま立ち去ってしまった。
 残された虎徹が立ち直るのには、少し時間がかかってしまった。
 どうしてこうなったのか。
 この状況は理解した。
 バーナビーに襲われたのだ。
 だが、納得できるものではない。なぜ、襲われたのか。
 これからどうしろというのだ。しかも『今日は』ということは、次があるというのか。
 身体は…すっきりした。悔しいことに。だが、この気持ちの持っていく先はどこだ。
 しかも男にされたのに、嫌悪感がないというのは何だ。
 男…いや、バーナビーだから嫌悪感を抱かなかったのではないだろうか。
 「マジ……意味わかんねぇ…。俺、明日からどうすりゃいいんだよ…」