今日も一仕事終えて、虎徹はシャワーを浴びて久しぶりに自宅へと帰った。
ここ最近はそう。バーナビーの家に行く…というか、連れ込まれることが多かった。
今日はそれを振り切って、逃げるように帰ってきた。
バーナビーと身体を重ねる関係になって、虎徹も次第に慣れてきた。
いまだにバーナビーのことをどう思っているのかよくわからない。
いや、好き、なのだと思う。ただ、好きだからといって突っ走ることもできない。一歩、立ち止まってしまう。行こうと足を踏み出しかけて、戻してしまう。
なぜこんな風に思うのか分からないけれど、でも怖い。好き、だから怖い。
虎徹は玄関を抜けて、リビングにつくとバサバサと服を脱ぎ捨てて風呂に向かう。
浴槽に湯を張り、その間に身体を洗う。一人で風呂に入ること自体も久しぶりで、なんとなくほくほくとしてしまう。
シャワーで泡を洗い流し、ちょうどいい具合にお湯が晴れたバスタブに身体を沈める。
「…はぁー…」
心地よい温度のお湯が身体を包みこみ、つい声が漏れてしまう。
ぐーっと足をのばし、両手で湯を掬い顔を洗う。
やはり風呂は気持ちいいと、虎徹は表情を緩めて、肩まで沈める。
やはりシャワーだけでは物足りなく、湯に浸かることで身体の中でぐるぐると渦巻いていた疲労感が溶け出していくようだ。
虎徹はぼんやりとしながら、できるだけ身体を伸ばすように浴槽の中に沈み込み、天井を眺める。
目を閉じると、思わず寝てしまいそうな穏やかなまどろみの中に意識が泳いでいく。
ここ最近でいろんなことがありすぎた。
好き、だけれど、好きだと告げるのはなんだか恥ずかしい。
「それに…おじさんだしなぁ」
なにより、釣り合わない、というのもある。
あんな前途ある若者が、ここまで執着してくる理由が分からない。
おじさんで、子持ちで……冴えないヒーローだ。
ずるずると浴槽で身体を沈み込ませ、虎徹は膝を抱える。湯から少しだけ膝が顔を出し、身体を丸めて膝の上に顎を載せて足を抱える。
娘が大事、で。なかなか一緒にいることもできない、駄目な父親だけれど、彼女の父親なのだ。彼女の、楓のために生きねばならないのだ。
自分を優先している場合じゃない。バーナビーに応えることができないのだ。バーナビーを一番だと言えない。
「どう、したらいいんだよ……」
好き、だけど言えない。
膝に乗せていた顔を傾け、代わりに頬を押し当てる。
苦しい。心が痛い。こんな風になるのは初めてで、どうしていいのか分からない。
抱かれるのは……そう、嫌じゃないのだ。気持ちいいし。
若いだけあってバーナビーは執拗で。最近あまりおじさんと呼ばなくなってきた。
先輩、もしくは虎徹さん、とあの甘い声で呼んでくる。虎徹といるとき、虎徹を呼ぶときにその声はひどく甘ったるい。
いつかまわりにバレるのではないかと、時折ひやひやしてしまう。
スキンシップ、も増えてきた。さりげないふりをして、虎徹の身体に触れてくる。
すれ違う時も、不意に触れられてびくっとしてしまう。
いちいち意識させられる。
あのきれいな手が触っているのだと思うと、嫌でも情事を想像させられる。
あの手が与えてくれる快感が…忘れられなくなってきている。
「ふ…ぅん…っ」
なまめかしい声をあげて、虎徹は少し身体を起こすと自分の胸に触れる。
しっかりと筋肉がついていて、柔らかさなとみじんもない胸板を、バーナビーはしつこいぐらいいじってくる。
その手を思い出しながら、ゆるくゆるく撫でまわしていると、胸の突起が勃ち上がる。。
以前に比べて、少し大きくなったような気がするそこに触れると、確かな弾力で指を押し返してくる。
「あっ・……んぅ…」
鼻から抜けるような声を出して、指でつまみあげると、びりびりとした快感が背筋を駆け抜けて、そのまま下半身に直結する。
おずおずと手を下半身にのばして、その屹立を握りしめた。
びくびくと震えていて、先端からは蜜があふれ出して湯の中に溶けだしている。
眉根を寄せて、そのまま扱き立てる。
だが、バーナビーが与えてくれる快感からは程遠い。
自分でシても、あれほど気持ちよくなれない。少し、空しくなる。
それでも快感のかけらをかき集めるために、手の動きは激しくなる。
片方の手は胸をいじり、もう片方はそっと手を欲から離してその奥の蕾に這わせる。
初めてされるまで、ここが感じるなんて思ってもみなかった禁忌の場所。
「ひぃッ…」
気持ちよくなれるのは分かっていても、中に入ってくる違和感はぬぐえなくて声をあげてしまう。
中は熱く…とろけるように指に絡みついてくる。
肩で息をしながら、ゆっくりゆっくり指を動かすとすぐに違和感は消えて、むずがゆいほどの気持ちよさが腰から全身に波及する。
「あ…ぁ……。や……イイ…ぃ…っ」
バーナビーの前で声を出すのは恥ずかしい。でも、ここなら誰にも気にすることはない。
声をあげたほうが、素直に快感を追いかけることができる。
「んぅ……イイ…もっと…あ、あっ…あ、あぁあっ…!!」
バーナビーに教え込まれた快感のツボを押し込むと、身体が強張り、白濁を吐き出してしまう。
吐精後の倦怠感に身を任せてぐったりとしていると、だんだんと熱に浮かされた頭が冷えてくる。空しくなってくる。
ゆっくりと立ち上がり、シャワーで身体を流すと浴槽の湯を流してバスルームを後にする。
軽くタオルで湿り気をとって、下着だけ身につけるとキッチンへ向かう。
冷蔵庫からビールを取り出し、一気に中身をあおる。
これっぽっちじゃ酔えやしない、ともう一本取り出して栓をあける。
今度はゆっくりと喉に流し込みながら、ベッドルームに移動する。
ベッドのふちに腰掛けて、ぼんやりと窓から見える外の風景に目を向ける。
バーナビーの寝室から見える風景とは全然違う。なんとなく、自分とバーナビーの立ち位置の違いを理解させられるようで苦しくなる。
やはり、自分じゃバーナビーには釣り合わないと、心が痛い。
釣り合うわけがないと分かっていても、それでも辛い。
好きだと言えたらどんなに楽だろう。
でも決して言えない。言うことは許されない。
ああ、なぜこんなにも苦しいのだろうか。