マーケティング戦略を実践する
                                2009年10月 志村英盛
1.藤吉郎的二ーズ洞察力を磨け

潜在顧客を発見して、隠れているニーズを見抜くためには、
視野を広げ、視点を変えて観察し、レーダーのように自分から
電波を発射して(自分の方から働きかけて)ターゲットを発見し
他社に負けない顧客ニーズ情報を収集する努力が必要である。

企業を取り巻く環境も顧客ニーズも重なり合って変化を続けている。
【独り善がりの思い込み】によって判断を誤ってはならない。

戦国時代、織田信長に仕えた藤吉郎(後の豊臣秀吉)は、
武技や格闘能力や学識は優れてはいなかったが、
足軽(ワーカー)のときから、主人・信長の刻々変わる二ーズ
(信長が解決を迫られたていた問題)を的確に洞察し、
タイムリーに問題解決のために自発的に行動し、
実績を積み重ねることによって異例の大出世をとげた。

信長は、足軽のような最下級の家来に、
自分の二ーズを教えることはしなかったと思う。

藤吉郎のほうも、信長が教えてくれることは
微塵(みじん)も期待していなかったのではないか。

藤吉郎は常に情報感度を研ぎすまして、
信長が直面している状況の変化を
レーダー的情報収集力で的確に把握して、
信長の二ーズをタイムリーに洞察したのだと思う。

藤吉郎は、蜂須賀小六や、竹中半兵衞や、黒田官兵衞などの
優れたスタッフの知恵をフルに引き出し、把握した信長のニーズを
満足させる様々な創意工夫で信長の信頼を深めていった。

特筆すべきことは、藤吉郎は、これらの優れたスタッフを、権力、武力、
暴力、カネの力で部下にしたのではなく、理念、情報力、判断力、戦略、
方針等で部下にすることができたということである。

顧客を信長と考えなければならない。
顧客が二ーズを教えてくれることを期待してはいけない。
顧客二ーズは、
藤吉郎のように企業が自力で洞察しなけばならない。

企業は競争に勝てると見さだめたマーケットにおいて、
新しく生まれた顧客二ーズや、
既存の顧客二ーズがどのように変化したかを、
どのライバル企業よりも的確に洞察しなければならない。

これからの時代の企業間競争において勝ちぬけるかどうかは、
この藤吉郎的二ーズ洞察力にかかつている。

情報惑度が鈍くてはダメである。
レーダー的情報収集力が弱くてはダメである。
藤吉郎的二ーズ洞察力がなければダメである。

2.マーケティング戦略の構成


3.マーケティング及びマーケティング戦略の定義

筆者はコンサルティングの実務上の経験から「マーケティング戦略とは、
顧客が気づいていなかった隠れているニーズを顧客に気づかせ、継続的に
ベネフィット(=顧客が感じる価値=customer value)を開発し、絶えず
プライスベネフィット(=価格対満足感比=割安感、値ごろ感、値打感)
向上させることによって、顧客に新鮮な購入満足感を持ってもらう、
企業全体の活動である。流通経路全体のシステム構築、あるいはシステム
改善を必要とする。」と定義している。

コトラー教授は『 Marketing Insights from A to Z 』
(2003年 John Wiley & Sons,Inc. New Jersey 刊)のxiii頁で、
マーケティングを次のように定義している。
「Marketing is the business function that identifies
unfulfilled needs and wants ,defines and measures
their magnitude and potential profitability,
determines which target markets the organization can
best serve,decides on appropriate products,services,
and programs to serve these chosen markets,and calls
upon everyone in the organization to think and serve
the customer.」

日本語訳本による上記の定義:
日本語訳:『コトラーのマーケティング・コンセプト』(恩藏直人監訳・大川修二訳 
東洋経済新報社2003年5月発行

「マーケティングとは、充足されていないニーズや欲求を突きとめ、その重要性
と潜在的な収益性を明確化・評価し、組織が最も貢献できる標的市場を選択した
うえで、当該市場に最適な製品、サービス、プログラムを決定し、組織の全成員
に、顧客志向、顧客奉仕の姿勢を求めるビジネス上の機能である。」


伊東光晴編『岩波 現代経済学事典』
(岩波書店 2004年9月発行)
第743頁には、
2156マーケティング 企業が行う市場需要の創造・開拓・拡大を目的とした
活動のことであり、
より具体的には顧客ニーズを充足させるための仕組みづくりと、
その仕組みに基づいて行う市場活動・市場実践をいう。
」とある。続けて
「マーケティングでは、【顧客の集まり】をもって市場ととらえる。しかも、
それは売り手が新たに考える【顧客の集合】でありさえすればよい。そこで
マーケティングではつねに潜在ニーズの顕在化が問題となり、それがひいては
潜在市場の開拓という市場創造活動をともなうことになる。」とある。

4.プライスベネフィットを高めることが肝心
(かんじん)

マーケティング戦略についての筆者の定義のなかで、核となる考え方は
プライスベネフィット(=価格対満足感比=割安感、値ごろ感、値打感)
という考え方である。

筆者は20年前からクライアント企業のコンサルティングにおいて、
プライスベネフィットとは割安感、あるいは値ごろ感、あるいは値打感であり、
顧客が状況に応じて、支払う価格と様々な価値を勘案して感じるものであると
説明してきた。顧客に割安感、あるいは値ごろ感、あるいは値打感を感じて
もらえるベネフィット(=顧客が満足する価値=customer value)とは何かに
ついて勉強し、企業の知恵を、そのベネフィットづくりに、組織的に絞り
出さなければならないとコンサルティングしてきた。

ベネフィットとは、品質、機能、デザイン、使いやすさ、安全性、品揃え、
買いやすさ、分割支払い、メンテナンス、アフターケア、配送サービス、
体験体感満足、生きがい実感感動、セキュリティ(安全確保)、コンサルティング、
商品説明、空間アメニテー、快適な時間消費、店舗の雰囲気、接客態度、
スピードなど、顧客が状況に応じて、あるいは必要度の強弱に応じて感じる価値
である。ベネフィットとは、【商品+サービス+情報提供+システム】
組み合わせであるともいえる。

たとえば災害発生時においては、水や食料確保の必要度が高まる。
値段は度外視される。事故に遭ったときや車が故障で動かなくなったには
救助や医療や修理のスピードが最優先ニーズである。

電氣、水道、ガス、ガソリン、灯油などの基礎的生活必需品や、医療、
ゴミ収集・衛生管理・義務教育などの行政サービス、基幹交通インフラ、
郵便、宅配便などは、安定供給が最大のベネフィットであり、価格が安定して
いることが最大のベネフィットである。

注:Philip Kotler『 Marketing Management
The Millennium Edition
  (Prentice-Hall,Inc. 2000年発行)
第34頁:Total customer value is the bundle of benefits  
      customer expect from a given product or service.


商品については、品質向上、機能向上、デザイン洗練化、操作簡単化、
安全性向上、環境汚染防止などが積極的に行われてきた。
品質の向上=ベネフィット開発である。これからの時代、各種サービスの
品質の向上と、情報提供の品質の向上と、総合的な顧客満足システムの
有無とレベルアップに顧客の鋭い目が向けられることになる。

最近増えてきた中高年女性や中高年夫婦向けの豪華なパッケージ旅行は、
質の高い総合的な「生きがい実感感動」にベネフィットを感じる人達が増えた
からだと思う。

堺屋太一氏は著書『知価革命 工業社会が終わる 知価社会が始まる』
(PHP研究所 1985年発行)の第220頁~第221頁において
「産業革命以来の技術革新は、物財の量的増大を求める欲求に従って進んだ
ものであり、主として物財供給量の増大と加工度の向上に役立った。ところが、
今、進行している技術革新は、主として多様化、情報化による【知価】部分の
増大と省資源化による物財消費の削減を目指すものだ」「この違いはきわめて
重要であり、本質的でもある」。

「物財生産はみな、数値化が可能なものだった」「しかし、今進んでいる技術
革新が増加させようとしている【知価】創造は、現実的にも理論的にも数値化
不可能な性格のものである。デザインの善し悪し、イメージ価値の大小、
技術の高低、生活の快適さや都市空間のアメニティといったものは、本質的に
主観的か、少なくとも相対的である」と述べている。

成熟消費者のベネフィットとは、一人ひとりが主観的に感じるものであり、
一人ひとりの状況に応じて変わるものであり【商品+サービス+情報提供+
システム】を組み合わせたものについて一人ひとりが感じとるものである。

いろいろな商品とサービスと情報提供を組み合わせてシステムを構築する
【ソリューション・ビジネス】ということも、これから開発すべきベネフィットである。
これらの点についてこそ、中堅中小企業がレーダー的情報収集力と創意工夫と
小回りと低固定費を活かす余地が大きい。

システムのベネフィットとして重要なことは、システムの信頼性である。
絶対にシステム障害を起こさないということである。以前某金融機関のシステム
で振り込んだカネが相手口座に入金されていないことがあった。すぐ問い合わせ
たところ、金融機関内部の処理の手違いで未処理になっていた。今後携帯電話
とIP電話を組み合わせた利用が大きく拡大すると思われるが、その場合システム
の信頼性がいちばん重要なベネフィットになると思う。

プライスベネフィットが向上するとその商品の需要は爆発的に増大する。
筆者は大卒初任給を基準としてプライスベネフィットの向上度を観察してきた。
【大卒初任給月数価格】」という考え方である。

たとえば海外旅行である。筆者は1967年、米国中小企業経営視察団に
随行した。団員の一人当たり費用は約200万円であった。

当時は1ドル=360円と固定レートで、大卒初任給は2万6200円であった。
従って約200万円ということは大卒初任給の約76か月分ということである。

現在の大卒初任給は約20万円、海外視察旅行の費用は約80万円程度で
あるから、だいたい大卒初任給の4か月分ということになる。つまり、この
36年間の間に、筆者の言う【大卒初任給月数価格】」は76か月から、
4か月と19分の1に下がったわけである。これは、逆に言えば、仮に、内容が
同じであるならばプライスベネフィットは約19倍になったわけである。

プライスベネフィットの驚異的な向上が海外旅行の爆発的増加につながった。

日経MJ(=日経流通新聞)2004年11月8日第3面で、感性と効率重視の
経営で1100店を展開している【しまむら】の藤原秀次郎社長は、「需給で決まる
原材料相場と違い、消費財は値ごろ感が決め手」と語っている。
藤原社長はまた日本経済新聞(朝刊)2004年11月8日第3面においては
「今の消費者は既存の販売統計ではとらえられないほど多彩な商品・サービス
を利用しており、全体的な消費は落ちていない」とも語っている。

5.「新規学卒者の初任給」(産業計)年次推移
ドル建て大卒初任給時給は志村英盛の計算。
為替レートは日本銀行の資料による。月労働時間数は厚労省の資料による。
為替レートは4月のスポット・レートの月末相場。
産業計の平均時給は大卒初任給時給の約2倍程度である。

昭和平成 西暦 大卒初任給 為替レート $ ドル換算
30年 1955 10,700円 360円 $ 29.72
31年 1956 10,800円 360円 $ 30.00
32年 1957 10,900円 360円 $ 30.28
33年 1958 11,800円 360円 $ 32.78
34年 1959 12,200円 360円 $ 33.89
35年 1960 13,100円 360円 $ 36.39
36年 1961 15,700円 360円 $ 43.61
37年 1962 18,800円 360円 $ 52.22
38年 1963 19,800円 360円 $ 55.00
39年 1964 21,200円 360円 $ 58.89
40年 1965 23,000円 360円 $ 63.89
41年 1966 24,900円 360円 $ 69.17
42年 1967 26,200円 360円 $ 72.78
43年 1968 29,100円 360円 $ 80.83
44年 1969 32,000円 360円 $ 88.89
45年 1970 36,700円 360円 $ 101.94
46年 1971 43,000円 308円 $ 139.61
47年 1972 49,900円 308円 $ 162.01
48年 1973 57,000円 265.5円 $ 214.69
49年 1974 67,800円 279.75円 $ 242.36
50年 1975 83,600円 291.35円 $ 286.94
51年 1976 94,300円 299.4円 $ 314.96
52年 1977 101,000円 277.5円 $ 363.96
53年 1978 105,500円 223.9円 $ 471.19
54年 1979 109,500円 219.15円 $ 499.66
55年 1980 114,500円 238.3円 $ 480.49
56年 1981 120,800円 215円 $ 561.86
57年 1982 127,200円 236.3円 $ 538.3
58年 1983 132,200円 237.7円 $ 556.16
59年 1984 135,800円 226.3円 $ 600.09
60年 1985 140,000円 251.4円 $ 556.88
61年 1986 144,500円 168.1円 $ 859.61
62年 1987 148,200円 139.65円 $ 1,061.22
63年 1988 153,100円 124.82円 $ 1,226.57
01年 1989 160,900円 127.15円 $ 1,265.43
02年 1990 169,900円 159.08円 $ 1,068.02
03年 1991 179,400円 137.42円 $ 1,305.49
04年 1992 186,900円 133.38円 $ 1,401.26
05年 1993 190,300円 111.1円 $ 1,712.87
06年 1994 192,400円 102.38円 $ 1,879.27
07年 1995 194,200円 83.77円 $ 2,318.25
08年 1996 193,200円 104.29円 $ 1,852.53
09年 1997 193,900円 126.92円 $ 1,527.73
10年 1998 195,500円 131.95円 $ 1,481.62
11年 1999 196,600円 119.59円 $ 1,643.95
12年 2000 196,900円 106.44円 $ 1,849.87
13年 2001 198,300円 124.06円 $ 1,598.42
14年 2002 198,500円 127.97円 $ 1,551.14
15年 2003 198,100円 119.46円 $ 1,658.30

参考情報:
日本経済新聞(朝刊)08年9月10日第40面でノーベル賞を受賞された
野依良治(のよりりょうじ)理化学研究所理事長は「1968年(昭和43年)、
当時、名大助教授の私の
月給は2万3000円、1ドルは360円であったから
60数ドル。米国のハーバード大学でコーリー教授のもとで博士研究員として
働くことになった。
月給は600ドル(日本円では21万6000円)、10倍になった
当時、日本では1本1万円(27ドル78セント)したジョニー・ウォーカーの
黒ラベルがわずか9ドルであった」と述べている。


6.マーケティング戦略の焦点を明確にする

長野県伊那市に本社を置く、粉末寒天が主力商品の食品㈱は、
1958年会社設立以来48期連続で、売上高増と雇用の維持達成という
素晴らしい実績を積み重ねている。同社は「粉末寒天の用途開発」に
焦点をあて、顧客が製造する商品のベネフィットを向上させるという
マーケティング戦略を実践している。

【用途開発】マーケティング戦略を支えているのは【顧客が製造する商品の
ベネフィット】を向上させることができ、顧客の隠れたニーズの掘り起こしに
対応できる研究開発力と、海外での原料調達と大型原料備蓄倉庫と新鋭生産
設備による粉末寒天の安定的供給である。

同社は早くから、常に全従業員の1割以上を研究開発要員にあて研究開発
に注力してきた。研究開発要員は自ら、それぞれの研究成果を持って顧客の
商品開発現場を訪れ、顧客の商品開発に自分の研究成果を活用する
【用途開発活動】に取り組んでいる。こうした活動によって粘性を高めた
粉末寒天や、常温では固まらない寒天の用途を開発してきた。

安定的に原料を調達するために25年前から海外の原料調達先を開拓して
きた。現在では原料輸入国は20か国にのぼる。ここ10年あまり毎年
約7億円の設備投資を行って設備の新鋭化に努めてきた。

同社の土台は働く人を大切にする【人間尊重経営】である。同社の
T会長は「時代と共に経営手法は変化しても、企業の社会的責任と義務、
そして人間のためにあるという本来あるべき姿を、いつの時代も忘れない経営を
目指します。私達は当社を構成する人々が、精神的にも物理的にも、より一層の
幸せを感じるような会社をつくると同時に、永続することにより、環境整備・
雇用・納税・メセナなど、様々な分野でも社会に貢献いたします」という
企業目的を掲げている。

T会長の優れた先見的対策はすべて「従業員を幸せにするためには
企業は僅かでもいいから、毎年、安定的に成長しなければならない。
そのためには、今、何をすべきか?」という発想に基づいている。

7.マーケットセレクション

ドラッカー教授がマーケティング目標設定の記述のなかで最初に述べられて
いる「何が自分の市場であるか」ということについて、筆者はそれは
「顧客のニーズを的確につかめ、かつ競争に勝てるマーケット(市場)を
見さだめる」
ことであると解釈してきた。

マーケットセグメンテーション(=市場細分化)を行って、そのなかから
マーケットセレクション(=市場の選択)を行うことだと考えてきた。生き残れる
場を選択するということである。多様化・情報化・グローバル化・高齢化・少子化
・車社会化の進行によって、社会全体の複雑な分業構造が、時々刻々と変わりつつ
ある。しかもその分業構造変化のスピードが速くなってきている。マーケットセレ
クションの重要性が今ほど高まった時代は無かったのではないかと思う。意識して
マーケットセレクション(=市場の選択)を行うことが必要な時代である。

マーケティングの世界的権威者コトラー教授は著書『コトラーのマーケティング
・コンセプト』(恩藏直人監訳・大川修二訳 東洋経済新報社 刊)の第091頁
において、「選択肢はゴリラになるか、ゲリラになるかの二つしかない。つまり、
ニッチャーに市場を奪われるか、自らニッチャーになるかのいずれかだ。
私としては、ニッチのなかに富があると主張しておきたい。」と述べている。

同書第099頁においては「製品やサービスが、市場に完全に浸透しきっている
ことなど、ごくまれにしかない。企業はこの点を見落としがちである。すべての
市場はセグメントとニッチから成り立っている。」と述べている。

第203頁-第204頁においては「今日、多くの企業は過ちを犯している。
市場細分化が行きすぎているのではない。むしろ、市場細分化が不足している
のである。」と述べたうえで、セグメントのやり方として、「ニーズ・グループ」
や「行動グループ」ということをあげている。第214頁において「特定の顧客
グループや特定のニーズを標的とし、独特のベネフィットを提供している企業は、
戦略を持っているといえる。」と述べている。

コトラー教授は『 Marketing  Management  Eleventh Edition 』
(Prentice Hall 2003年 発行)の第341頁において
「経営資源の少ない中小企業は、single-niche strategy をとるのが
賢明な選択である」と述べている。さらには single-niche strategy
からmultiple-niche strategyへ進むのが中小企業のとるべき
マーケティング戦略の定石であるとも述べている。

成熟消費段階に達した商品やサービスは必然的に小市場化する、すなわち
マーケットがセグメントされてくる。そこでマーケットセレクションが必要と
なってくるわけである。選択したマーケットで顧客ニーズを的確につかむという
ことは、たとえば小さな婦人服店の場合ならば顧客一人ひとりの好みやサイズや
購買歴を全部頭に入れて仕入れをするということである。顧客情報量で勝負する
ということである。【情報と知恵の組み合わせ】が必要となってくる。

マーケットセグメンテーションのやり方はいろいろある。顧客のさまざまな属性
による区分(=セグメント)、顧客のさまざまな属性と地域、業界、業態、業種、
規模、情報化の程度などを組み合わせた区分など、自社の置かれた立場から考えて
千差万別のやり方がある。要は自社に合ったマーケット区分をして生き残れる
マーケットを見さだめることである。選択するという点については地球上の無数の
生物が、棲息生存できる場所を本能的に探し求めることと同じである。
生物の場合と違うところは、現在の「トランスナショナル経済圏」での企業間競争
という状況下においては、選択したマーケットにおいて、個々の企業が、厳しい
競争に打ち勝って必死に生き残る努力を続けることが、社会全体の進歩発展に
繋がるということではないだろうか。

筆者は消費財の場合、消費者を大きく九つに分けて考えている。まず
A安定高所得層と、B安定普通所得層と、C不定所得層 に分ける。
次に、それぞれについて、
①住宅費負担低額層
②住宅ローン返済層
③家賃支払層        に分ける。


次に、それぞれの層の家族構成別に、ニーズの状態を区分して考えている。
マーケットセグメンテーションは必要ではあるが極めて難しい。マーケット
セグメンテーションを行えば狙うべき顧客のニーズは簡単に把握できると誤解
してはならない。マーケットセグメンテーションは顧客ニーズ把握の第一歩で
あり、その後の継続的なレーダー的情報収集を欠かすことはできない。

コトラー教授は、著書『コトラーのマーケティング講義 基本コンセブト
300』(木村達也◎監訳/有賀裕子◎訳 ダイヤモンド社2004年10月発行)
の第214頁で「企業が自社のマーケティングについて健全性を知りたい場合は、
どうすればよいのでしょうか?」という問いかけに対して次のように述べている。
1 市場セグメンテーションを行ってもっとも望ましいセグメントを選び、
  各セグメントで強固な地位を得る。
2 顧客のニーズ、考え方、嗜好、行動などを分析したうえで、顧客に奉仕して
  満足をもたらすように、さまざまな利害関係者に働きかける。
3 どの企業が主な競争相手であるかを見極め、その強みと弱みをしる。
4 社員、仕入先、流通業者など、主な利害関係者を事業パートナーと見なして、
  厚遇する。
5 事業機会に目を留め、評価を行い、もっとも魅力的な機会を選び出すための
  仕組みを設ける。
6 マーケティング・プランニングを管理して、長期、短期の両面で的確なプラン
  づくりができるようにする。
7 製品ミックスやサービス・ミックスの管理を万全にする。
8 費用対効果の面でもっとも優れたコミュニケーション・ツールやプロモーション・
  ツールを用いて、強大なブランドを築き上げる。
9 マーケティングに秀でた企業としての地位を築き、部門間のチーム精神を育む。
10絶えず新しいテクノロジーを取り入りて、市場での競争優位を保つ。

8.ライフサイクルが成熟期の商品は
  プライスベネフィット向上が不可欠


安定供給・安定価格が必要な電氣、水道、ガス、ガソリン、灯油などの基礎的
生活必需品を除く商品の 商品間競争においても同様である。

顧客が1台目商品(成長期にある商品)に求めることは【良くて安いこと】
ある。しかし3台目、4台目、5台目とその商品の使用経験が増すにつれて、
つまり商品が成熟期に入っていくにつれて、顧客は状況に応じて、価格と
ベネフィットの両方を十分に勘案して買うようになる。

使用経験が増し、目が肥えてくると単に価格が安いということだけでは
買わない。状況に応じて、必要度の強弱に応じて、自分のニーズや好みに合う
ベネフィットがあるかどうか、それに見合う価格かということを勘案して買う傾向
が強くなる。

1台目商品の顧客は未成熟消費顧客であり【良くて安い】商品に対するニーズは
根強い。3台目、4台目、5台目の商品の顧客が成熟消費顧客である。同一顧客の
中にも、未成熟消費ニーズと成熟消費ニーズが混在している。

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世界各国において約4700店舗(内、米国約3400店舗)を展開するウォル
マートの存在は、米国を含む世界各国において、未成熟消費ニーズ、つまり
【良くて安い】商品に対するニーズが大きいことを物語っている。ウォルマートに
DVDプレーヤーとビデオを、デルにプリンターを供給している日本の船井電機は、
徹底的なコストダウンと製品開発と部品内製と月百万台単位の生産で「価格は
中国メーカーよりも安く、性能は中国メーカーよりも優れている」つまり中国メーカー
の商品よりも【良くて安い】商品を供給することで上記3品目については台数ベース
で米国ではトップシェアを確保している。

参考事項:日本経済新聞2005年2月16日第3面は「米ウォルマートが傘下の西友の
経営立て直しのため導入した低価格販売が壁に突き当たっている。米国流の安売りは
日本の消費者に支持されず、売り場の運営も混乱。今期は価格や品種を豊富にそろえる
日本的な売り場に戻しつつある。日本市場参入丸三年で戦略の修正をせまられている」
と報じている。ウォルマート全体は好調である。2005年1月期の通年決算では純利益は
前年比13%増で初めて100億ドルを突破した。
(日本経済新聞朝刊2005年2月18日第9面)
日本経済新聞2005年2月19日第11面は「ウォルマートは米国外でも10か国で事業を
展開するが、戦略の核である低価格販売が壁に突き当たった国は、ほかに例がない」と
報じている。


日本経済新聞(朝刊)09年10月8日第11面より抜粋転載
流通ガイシ 低価格に支持 息吹き返す
日本の消費者変化追い風


外資系小売業が攻勢を強めている。米ウォルマート傘下の西友が
徹底した低価格路線で息を吹き返した。09年度上半期の既存店の
売上高は1%前後増加した。イトーヨーカ堂やイオンは5%以上の
減少であった。

金融危機で消費を取り巻く環境は一変した。所得や雇用の不安で
消費者は買い物の合理化に走った。外資系小売業の幹部は
「安さを求める消費者の意識は日々強まっている」とみている。
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未成熟消費ニーズに対応する【良くて安い】商品を調達する力は、資本力と
店舗数と売り場面積とシステム力に基づく大量販売力である。予習挑戦型の
プロ・マネジャーや、プロ仕入担当者、プロ販売員、プロサービス要員が不足して
いても資本力とシステム力でカバーできる。

成熟消費ニーズに対応してマーケティング戦略競争に勝ち抜いていくためには、
様々な分野において多数の予習挑戦型のプロ・マネジャーと予習挑戦型プロ販売員
と予習挑戦型プロサービス要員が必要である。日本の小売業におけるトップ経営者
である鈴木敏文氏の率いるセブン-イレブン・ジャパンとイトーヨーカ堂との
業績格差は【予習挑戦型プロ・マネジャー+予習挑戦型プロ販売員】と
【復唱前例型・漫然先送り型マネジャー+復唱前例型・漫然先送り型販売員】との
構成比率の違いであると思う。

成熟消費者の多くは、商品の使用経験が豊富であり、買い替え、買い増しする
商品については、いろいろな角度から研究しており【こだわり】を持っている。
従ってプロ仕入者が仕入れを行っており、ブロ販売員が販売しており、買った後も、
プロサービス要員によるアフターケアを受けられる店から買うことが多い。
それぞれの分野のプロの責任感ある仕事が高く評価される時代になったと思う。

かって多くのスーパーがパソコンの販売で失敗している。ダイエーも秋葉原の
パソコン専門店から何人かの人財を引き抜いてパソコン販売に取り組んだが結局
失敗している。筆者は横浜から町田まで出かけてダイエーでパソコンとプリンタを
買ったがこりごりした。購入後の使用をサポートする体制・仕組みを欠く企業が、
素人の顧客対象に、素人の販売員に売らせたわけだから、トラブルが続出して、
二度と買わないと顧客が失望するのは当然である。

参考事項:日本経済新聞2005年2月17日第29面で川本裕子早稲田大学教授は
「なぜ金融機関の収益体質の転換が進まないのか。金融サービスにおいては【人】
が重要である。高い付加価値を生むことができるか否かは、サービスを提供する
人材にどのような訓練をし、動機付けを与えるかにかかっている。日本の金融機関
は、店舗やシステムなどハードの投資には熱心に取り組んできたが、商品を開発し、
金融サービスを提供する【人】の能力を活用するための人材システム作りや、
知識・経験の【組織知】化が遅れている」と述べている。


日本の大都市のデパートの主顧客層はレベルの高い成熟消費ニーズを持って
いる顧客である。地方都市のデパートの主顧客層は、一概には言えないが、
成熟消費ニーズのレベルは大都市ほど高くはなく、かつ数が少ない。
ここ二十数年来の新幹線と高速道路と国内航空の拡大に、バブルの崩壊に
よる主顧客層の数の減少と購買力流出と専門店の出店増大とインターネットに
よる通信販売激増が重なり合って、地方都市デパートのマーケティング戦略は
非常に難しくなってきた。

海外旅行の場合でも初めて行く人は、当然、安くて内容が充実している旅行
商品を選ぶ。しかし海外旅行10回目、15回目、20回目という人の判断基準は
そうではないわけである。

パソコンも1981年に筆者が買ったときは、今から見るとオモチャのようなもので
約130万円、当時の大卒初任給約12万円であるから【大卒初任給月数価格】
約11か月であった。現在はデスクトップで機能は当時のものの数千倍、数万倍の
ものが10万円以下である。【大卒初任給月数価格】は0.5か月以下で、月数価格
は22分の1であるが、内容は、おそらく数万倍であると考えられるから、
ブライスベネフィットは無限大に向上したといえる。もう1981年のパソコンは比較の
対象にはならない。

写真の場合も同様である。筆者はフィルム写真カメラから最新の高性能デジカメ
に切り替えることによって、フィルム代、現像代、焼増代、電池代はゼロになった。
1回の旅行でデジカメ2台で約300シーン撮影する。帰宅後、約30分で2台の
パソコンに整理・選択して保管している。コピー印刷代以外の費用はゼロである。
筆者の仕事に関する限りでは、コストの点と処理スピードの点で、以前のフィルム
写真撮影はもう比較の対象にはならない。フィルム写真では、迅速に画像サイズ
変更、文字入力、合成などができない。

インターネットや各種ソフトの開発や著しい機能向上、数多くの周辺機器の開発
や機能向上などがあって、パソコンのプライスベネフィットはここ数年あまりでも
信じられないほど向上した。プライスベネフィットの向上が、ビジネス用途だけ
ではなく、広範囲なさまざまな分野で広くパソコンの需要を掘り起こし、今では
パソコンは生活に欠かせないものになってきている。顧客も初心者から、3台目、
5台目、10台目というベテラン・ユーザーと非常に幅広くなってきた。

携帯電話も、メール機能、カメラ機能、GPS機能、IP電話接続機能という
ベネフィットが開発されたことで膨大な買い替え需要が発生した。個人がどこで
でも、手軽にメールや映像を送受信できるということは文字通り画期的な大発明で
あり、これにより仕事のやり方も日常生活も今後大きく変わっていくと思う。
2003年12月にはテレビが見られるというベネフィットが登場した。
災害発生時に非常に役立つものと思われ、携帯電話は個人のセキユリティ器具と
しても欠かせないものになるのではないだろうか。携帯電話のカードの代替機能も
注目されている。ICカードの普及と相まってベネフィットの内容そのものが
大きく変わっていく。つまり顧客の価値判断基準が現在よりも、更に速く変わって
いくのではないだろうか。

逆にプライスベネフィットが大きく低下した石炭製品、高級和服関連製品、木製
建具(障子、襖、欄間)などは需要が大幅に減少してきた。安くてもベネフィット
が伴わない商品も顧客に見捨てられる。一時の輸入100円ビールが良い例である。

書籍の場合、たとえば太平洋戦争敗戦後間もない昭和24年(1949年)に
森下書房から発行された「福澤諭吉 著 福翁自傳」は220円であった。
当時、ニコヨンと呼ばれた失業対策事業の日雇い労働者の1日の日当は245円
であった。昭和24年6月に発表された労働省(当時)の全国賃金調査によると
男子勤労者平均月収は7557円であった。当時の1か月の労働日数を25日と
すると1日当たり約300円、時給約37円である。
『福翁自傳』は当時の平均的な時給の約6時間分に相当する。

厚生労働省発表「毎月勤労統計調査」の「産業別月間現金給与総額」の
調査産業計の平成14年度の額は387、600円である。残業時間も考慮して
1か月の労働時間を180時間とすると、時給約2150円になる。現在、岩波文庫の
『福翁自伝』は700円である。これは現在の時給の約0.33時間分に相当する

筆者の言う「賃金時間数価格」は約6時間から約0.33時間と約18分の1に、
約2時間から約0.36時間と約6分の1になったわけである。

9.中国とのマーケティング競争
   【初稿2003年6月 志村英盛 随時補筆

太平洋戦争敗戦後の奇跡的な日本の経済成長をもたらした主役は、先進的な
大企業及び中堅企業の、画期的な新製品の開発であり、その新製品を生かし
成長させたマーケティング戦略とマネジメントであり、新製品開発とマーケティング
戦略とマネジメントを、国内及び海外で、自覚的・自発的な貢献感を持って、
地道にたゆまずに実践してきた人たちであり、生産現場でQCサークル等により、
技術と品質の向上とコストダウンを、自覚的・自発的な貢献感を持って地道に
たゆまずに実践してきた人たちである。

徹底した国際平和主義のもと、マーケティング戦略とマネジメントを軸として、
知恵と技術と工夫と努力で高付加価値開発商品の輸出を伸ばしてきたことが、
言い換えるなら、提供する商品に対する世界の顧客の支持(=継続購入)を、
地道にたゆまずに増やしてきたことが日本を豊かにしてきたのである。

今では死語になった「安いが粗悪なメイド イン ジャパン」を「高品質で
故障の起きないメイド イン ジャパン」に変えた自助努力が戦後の経済成長の
原動力である。いくつかの経済的幸運に恵まれたことは事実である。しかし
それだけでは持続的な経済繁栄は得られなかったはずである。

新製品開発とマーケティング戦略とマネジメントの勉強を怠っていたが
「土地神話」の恩恵で規模拡大できた企業は、「土地神話」の崩壊で淘汰を
余儀なくされてきた。マーケティング戦略不在ではあったが、1ドル360円の
固定レートと、1964年ごろまでの(昭和30年代までの)低賃金による輸出で
潤った業種の企業もあっけなく淘汰された。

消費財について見ると現在、企業規模の大小を問わず、日本の企業が直面
しているのは、中国のみならず世界各国とマーケテイング戦略とマネジメントと
プロ人財確保の競争をしているということである。

単純に価格競争という観点から見れば、変化に柔軟かつ迅速に対応している
中国の製造業は実に強力なライバルである。労働集約的な分野のみならず、
多額の先行投資を必要とする最新鋭の機械設備を利用する分野においても、
機械設備の24時間フル稼働を可能にする、賃金の安い、若い優秀な、しかも
やる気のある労働力の数が多いということはたいへんなことである。

しかしながら、消費財マーケティング戦略の視点から考えると、中国企業の
弱点は共産党政権下、民主主義が存在せず、報道・言論の自由が無い
経営環境に置かれていることと、多くの企業において、マーケティング戦略の
基盤となるマネジメント・イノべーションが行われていないことである。
日本経済新聞(朝刊)2005年12月23日第23面で、翟林瑜(てき・りんゆ)
大阪市立大学教授は、「粗放型成長続く中国企業、効率重視へ転換必要
持続可能性に限界企業統治の強化が不可欠」と指摘している。

参考資料:興梠一郎著 『中国激流-13億のゆくえ』 岩波新書 2005年7月発行

 翟林瑜(てき・りんゆ)大阪市立大学教授が指摘しているように、
中国企業は、【投資飢餓症】と形容される強い規模拡大志向を持っており、
それが、自動車メーカーの乱立、電化製品の値下げ競争が象徴する、
各地域における収益性無視の重複投資や過当競争に繋がっている。
知的財産尊重とか連結決算透明化などの企業倫理が確立されていない企業も
多い。経営者の不正とか環境規制無視とかの経営以前の状態の企業も多い。
マーケティング戦略不在では、消費者の継続的支持を得ることはできない。

 中国の社会的環境も消費財マーケティングの視点から見ると問題が多い。
大多数の中国国民は【貧困】から逃れることができないでいる。

 歴史的に見るならば、清朝末期の西太后のデタラメ極まる政治、
それに続く欧米列強による中国の植民地化、日中戦争、国共内戦、
毛沢東の大躍進運動・文化大革命と激動が続き、あらゆる面で資本の
蓄積・コモンズ(社会共有財産)の形成・蓄積が妨げられてきた。

 現在、中国において大きな問題となっている【あまりにも大きい貧富の格差】、
【深刻な公害・環境破壊】、【土地と株式と許認可に係わる共産党幹部と
行政組織幹部の汚職の横行】は現時点では解決の目途はたっていない。
同様の問題は、日本、米国、EUでも起きているが深刻さの度合いが全く違う。
中国ではこれらの問題は本当に深刻で国民生活に深く係わっており、
暴動すら頻発している。

中国で生産されている模造品・偽造品はあまりにも多い。何から何までそっくり
ホンモノに似せてつくるニセモノには欧米の多くの製造業者が怒りの声をあげて
いる。筆者は多くの中国企業において、「ウソはつかない」「絶対に手抜きはしない」
「責任を回避しない」「違法なことはしない」ということが守られていないのでは
ないかと想像している。中国製品=模造品・偽造品というイメージが世界中に定着
すると、中国の企業が高付加価値商品を売ることは非常に難しくなると思う。

中国では工場爆発・炭鉱爆発などの事故や河川汚染、大気汚染が頻発して
いる。中国においてはテレビによる映像放送は厳しく制限されている。2005年
4月、日本国民を慄然とさせた、すさまじい反日デモの映像も中国国内では一切
放映されていない。貧富の差も非常に大きい。大多数の中国国民は貧しい。
このような状態では、兵器・軍事的輸送機器・軍事的情報機器・軍装品などは
別として、創造的な高付加価値な消費財製品の独自開発は難しい思う。

参考事項:2005年12月27日、米国政府は、【イラン拡散防止法】に基づいて、イランにミサイル・
化学兵器の関連物質を輸出したとして、
中国企業6社、インド企業2社、オーストリア企業1社に
対して
【米国企業との取引を禁止する】制裁を発動した。

日本経済新聞(朝刊)2005年12月13日第9面は、「中国科学技術協会の
鄧楠副主席が、中国の対外技術依存度が50%に達し、工場などの設備の
60%を輸入に頼っている。国産携帯電話とコンピュータは売上高の、それぞれ
2割、3割を特許料として海外に支払っていることを明らかにした」と報じている。

中国の大学大学院在学者数は、日本の3倍以上の900万人に達する。
2004年7月22日放送のNHK『クローズアップ現代-中国【日本語人材】を
育てろ』では、日本の情報系学部の卒業者は年間約2万人だが、中国の
情報系学部の卒業者は年間約18万人に達するとの情報を紹介している。
日経ビジネス誌2004年10月25日号第146頁は、米国の『Business Week
2004 Oct11』号の「中国の大学卒業生の数は今年280万人に急増しており、
その約30%が就職していない」とのニュースを載せている。

10.信用第一こそ企業が生き残る道

日本においても、生産財中心で企業知名度は高いが、マネジメント・イノベー
ションを怠ってきた企業は、消費財マーケティング戦略では失敗を重ねている。
高付加価値商品のマーケティングにおいては、
①ウソはつかない
②絶対に手抜きはしない
③責任を回避しない
④違法なことはしない     
という企業倫理が企業の隅々にまで行き渡っていなければならない。
特に経営者がこの四つを率先垂範しなければならない。

2007年10月~2008年1月、日本でも、
信じられないような事実が次から次へと明るみに出た。

伊勢名物【赤福もち】の製造メーカーであり、【おかげ横丁】でも全国的に
有名な
(株)赤福の不正行為は下記の通りである。
300年にわたって【信用第一】を旨としてきた歴代の経営者たちは、
悲しさのあまり泉下で泣いていると思う。


資料出所:日本経済新聞(朝刊)2007年10月23日第43面

12月10日、全国的に有名な老舗高級料亭グループ・船場吉兆
経営者の指示による数々の偽装を全面的に認めた『報告書』を
近畿農政局に提出した。次いで記者会見を行った。
無残に崩れ落ちた
【高級との信用】を取り戻すことはできないと思う。


資料出所:東京新聞(夕刊)2007年12月10日第10面

先日、ある地方都市の駅前百貨店と商店街、近接するスーパーを視察した。
ピーク時と比較して、約6%、人口は減っているが、それでも約8万人弱。地上7階、
地下1階のこの駅前百貨店は土曜の午後だが閑散としていた。商店街の路上は
業務車の駐車場になっていて人影なし。スーパーは百貨店ほどではないが閑散で
あった。約10キロほど離れている隣の市の商業集積地に顧客の支持を奪われている。

テナントを持つデパートや、専門店モールや、駅モールなど先進的な商業集積施設
では、顧客のニーズに合わせた商業集積施設全体の施設リニューアルと、テナント
の入れ替えが常識となっている。従って退場を余儀なくされた、いわば負け組の
テナントも少なからずある。しかし、テナントの入れ替えによって商業集積施設
全体としてはプライスベネフィットが高まり顧客の支持の維持・増大に成功している。

不振にあえぐ多くの商業集積地や観光地においては、テナントではなく、店舗や
施設を自分で所有しているオーナー主体であり、いろいろな永年にわたるしがらみ
や、複雑な利害関係・権利関係もからんで、先進的な商業集積施設では常識として
実践されている構成店舗の入れ替えがおいそれとできないことが問題なのである。

変化に適応するイノベーションを行うという意識革命がなされていないところでは
構成店舗入れ替えリニューアルや、退場者がでる規模縮小リニユーアルは、
退場オーナーの財産・のれん・既得権・営業権・生活権・名誉の侵害であり、
まさに、血が流れる革命そのものであるから、なかなか関係者全員の合意が
できないのが実情ではないだろうか。

車社会となっている地方都市では、顧客の選択は旧来の市内商店街や
駅前商店街から、郊外大型店、郊外ショッピング・センター、広い通りの両側に
大型店舗が数十軒、軒(のき)を連ねるショッピング街道(たとえば松江市の
学園通り、西九州自動車道につながる佐世保市日宇の国道35号線通り)、
ロードサイド大型店集積ストリートへと移っている。

このような大型店舗を経営している小売業の企業や外食産業の企業や
デベロッパーは、必死にマーケティング戦略を研究している。マネジメント・
イノベーションにも取り組んでいる。絶えず国内・海外のライバルの研究実地調査も
行っている。旧来商店街は商店街全体のマーケティング戦略を見直さなければ
ならない。商店街全体のマーケティング戦略が不在ではどうにもならない。
商店街全体のマーケティング戦略やマネジメント・イノベーションを推進する
共同経営体が機能していなければどうにもならない。

地域ぐるみの【情報と知恵の組み合わせ】が必要とされる時に、幕末の
徳川幕府のように、将軍の命令を守らず、てんでんバラバラで、戦略も
情報も知恵も欠けている
という状態ではどうにもならない。

11.原因自分論(=地動説的発想)で
   問題を分析する


原因自分論(=地動説的発想)で問題の分析をするということは、
結果がよくないことや、赤字の原因は自社にあると考えることである。

顧客のニーズに応えられるベネフィットが欠けていたことや、
情報収集が不足していたことや、市場選定を誤っていたことや、
顧客のニーズを見誤っていたことや、ライバル研究が不足していたことや、
行動のタイミングを間違えていたことや、価格設定を間違えていたことや、
過去のクレーム処理で信用を失っていたことなどが原因であると
反省することである。

売上高が長期的に低落している。あるいは本業で利益を確保できない
という状況に直面したならば、辛くて、悔しいことではあるが、
原因自分論で問題の分析をして、マーケティング戦略を練り直すことである。

ベネフィツトとは顧客が満足する価値であり、
企業が顧客に押しつけるものではない。
ベネフィットはあくまでも顧客が評価するものである。

企業が売りつけるものではない。
従って、売れないということは、
顧客は企業がベネフィットと思っているものに
顧客は満足を感じないということである。

個人として考えるならば、自分はこんなに能力があるのに、
と思っていても、他人はその人に価値ある能力があるとは
思っていないということである。

まず企業の信用度を良く考えることである。
きわめて当たり前のことであるが、
企業であっても、個人であっても、
信用度が低くては顧客の支持は得られない。

株式会社であるとかないとか、
ブランドがあるとかないとかの問題以前に、
信用度をいかにして高めるかが問題である。

広辞苑(新村出編 岩波書店)によれば
「信用とは現在の行為から考えて、
将来必ず義務を履行するだろうと推測し
信任すること」とある。

信用=信頼感であり、信頼感=信用でもあるわけだから、
どんなに有名な老舗であつても、有名な大企業であっても、
顧客の信頼感を裏切る事実が明白になれば
顧客の支持を失うことになる。

脱税・粉飾決算・詐欺・有害食品販売などの
明白な法律違反・犯罪行為以外でも、
万一、企業が、手抜き工事、品質管理の手抜き、
事実わい曲発表、約束不履行、産地詐称、不正表示などを
行えば、その企業はたちまち顧客や社会の信頼を失い、
信用が無くなり、販売どころか存続自体が極めて難しくなる。

米国のエンロン事件で、会計士約8万5000人を擁した
世界規模の名門監査法人アーサー・アンダーセンが
消滅したことはこのことを証明している。

原因自分論で問題の分析をした上で、では、
どうすれば良い結果を得られるかを考えぬくことである。
そのうえで再挑戦することである。

再挑戦には【情報と知恵の組み合わせ】が必要である。
顧客ニーズに、現在より、より良く応えるためには
どうすればよいか?

ライバルより、より良く応えるためにはどうすれば良いか?

まず情報収集である。

次に知恵を絞り出すことである。

その上で情報と知恵を組み合わせることである。

コトラー教授が言われる「企業の隠れた資産」、
すなわち顧客との良い人間関係、
市場における評判(=企業イメージ)、
いろいろな取引関係、情報網などを、
もっともっと活用してベネフィットを新しく生み出すことである。

規模の大小を問わずマーケティング戦略を実践し、
たえずレベルアップしなければ生き残れない時代になった。

事前の情報収集が不十分で、
マーケティング戦略が明確でないのに
先行投資を行って失敗する場合が多い。

先行投資の金額の多少にかかわらず、
投資予定額の10%程度の金額を情報収集に使って、
徹底的に調べなければならない。
情報収集のカネを惜しんではならない。

経営者自身が情報を十分に把握しておらず、
明確なマーケティング戦略を持っていなければ先行投資はできない。
情報不十分、マーケティング戦略不明確で先行投資を行い
失敗した場合、悔いを千載に残すことになる。
マーケティング戦略不在では問題にならない。

12.顧客とマーケットの状況変化を把握する

筆者は日本気象協会のホームページを毎日見ている。気象衛星が時々刻々
撮影する地球半球の気象状況、日本列島を中心とする地域の気象状況を、
報じている。顧客の状況変化についても、マーケットの状況変化についても、
気象のように毎日把握する工夫が必要である。

中堅中小企業においては、経営者自身が下記10項目を
実践することが肝心である。他人に任せられることではない。

①「顧客ニーズを的確につかめ、かつ競争に勝てるマーケット」を見さだめる
 ために、必死に情報を集める。寝ても醒めてもそのことを考え続ける。
②商品別に見て、なぜ売れているか、なぜ売れていないのかをよく考える。
 自分が「これが顧客ニーズだ」と思っていることと「実際の顧客ニーズ」とに
 食い違い(=ニーズ認識のズレ)がないかを常に検討する。
③現在の顧客について、一人ひとり、一軒一軒、必死に情報を集める。
 「継続購入」の実態について、いろいろな視点から研究する。
 「顧客の実態」についてもいろいろな視点から研究する。
④顧客の意見を集中管理する部門として顧客情報センターを設ける。
 その上で、顧客がほしがる商品、サービス、情報提供について、顧客の意見を
 集める仕組み、たとえばアンケート調査、試用サービス、モニター会などを
 工夫する。
⑤顧客とのさりげない会話などから、どこが現在のライバルであるかを的確に
 つかみ、必死に情報を集める。
⑥クレーム処理システムを再構築する。クレームが発生した場合、クレーム対応を
 一般ワーカーに任せない。担当マネジャーかクレーム担当者を即日、顧客に所に
 伺わせ、よく謝ったうえで、顧客の承諾を得て、顧客のクレームの内容を、録音
 録画、映像入り文書化させる。電話でのクレームは、顧客の承諾を得て、必ず
 録音する。クレーム対応は、タイミングが重要で、手間と時間と費用がかかる
 ものだということを、マネジャーやクレーム担当者によく理解させる。
 録音・録画・映像入り文書化させたクレーム内容は、翌日中に連絡会議で検討
 させる。
⑦どんな些細なクレームであっても経営者に即日報告させる。
⑧わが社の商品、サービス、情報提供、システム及びそれらを組み合わせたものの
 ベネフィット一覧表を作成する。それを貼りだし、常に眺めて考える。
⑨信用維持のためのマネジメント方針を明確にして完全実行する。
⑩マネジャー及び従業員との相互信頼感を強化して、質の高いサービスと、新鮮な
 情報を顧客に提供する。

13.住民サービス機能の集積を図れ
  初稿2004年6月 志村英盛 随時補筆

車社会化した地方都市においては、広域商圏を想定したロードサイド大型店の
ショッピング街道(例えば島根県松江市の学園通り、西九州自動車道につながる
佐世保市大塔-日宇の国道35号線通り=ロードサイド大型店集積地)
や、
郊外ショッピング・センターや、福井市大和田町の8号線一帯に広がる大型小売店、
大型サービス店集合団地(結婚式場、サラリーローン店、シネマコンプレックス、
医療施設、日帰りレジャー施設、パチンコ店、ビジネスホテルなどもある)、
建物一体型モール専門店街(たとえば2005年11月11日、茨城県水戸市近郊に
オープンしたイオン水戸内原ショッピングセンター)
に、顧客の支持量
(=継続購入量、売り手から見れば販売高)を奪われている。

広い広い駐車場、広い店舗で豊富な品揃え、安い価格、各種フードサービスを
含むバラエティに富んだ業種構成などがこれらの郊外大型商業施設ベネフィット
(=顧客が感じる価値)である。まさに、ベネフィット集積地と呼ぶにふさわしい。


05年12月志村英盛撮影:イオン水戸内原

イオン水戸内原の建物と駐車場の配置図

イオン水戸内原ショッピングセンターは、5階建て建物の1階~3階が売場、
4階・5階が駐車場である。全体の敷地面積は約12万平方メートルとのこと
である。建物の周囲は全部駐車場である。5000台駐車できるとのことである。
売場の特徴は、一体型モールであるから、一つの建物に全店舗がある。
1階のレストラン・エリアには43店舗が勢揃いしており壮観である。ジャスコの
食品売場と180の各種専門店、映画館、簡易郵便局、料理教室、英語学校、
カルチャーセンターなど、何でも有りである。

人口20万-40万程度の地方都市では、超大型食品スーパーがある。
広い店舗面積を生かして、生鮮3品(魚・肉・野菜)については、自社の
直営売り場の他に、専門業者の売り場を設けている。同一店舗内で、
2種類の生鮮3品の売り場があり、店内競争をしているわけである。
未成熟消費ニーズと成熟消費ニーズの両方をきめ細かく取り込もうという
マーケティング戦略と思われる。従来、中心市街地商店街全体が提供していた
ベネフィットの組み合わせを、1店舗で提供するようになったのである。


05年4月志村英盛撮影:福井市大和田町大型小売店大型サービス店集合団地

車社会化が高度化している地方の人口8万人~40万人の都市においては、
ロードサイド大型店の進出が活発化している。

新しいタイプの大型商業集積施設に、大きく顧客の支持量
(=販売高)を奪われた従来型の中心市街地商店街は、今後、
立地条件が許すならば、市区町村の公的機関の住民サービス機能の
集積地として徹底的なスクラップ・アンド・ビルドを行うべきである。
住民サービス機能の集積地としては適さない立地であれば、
自然消滅させるより他はないと思う。


鉄道の駅を中心として、先ずバス・センター機能を充実させる。
国・県・市町村の住民サービス機能を学校、病院を含めて、
全部、この住民サービス機能集積地に移転させることである。

車を運転しなくなった中高年の非ドライバーが、この機能集積地に
来れば、全部、用が足りるようにすることが必要である。

当然、従来の中心市街地、あるいは中心市街地商店街を
【再生する】という発想は完全に捨てることである。

市町村役場、保健所、病院、税務署、法務局出張所、郵便局、
金融機関、保育所、幼稚園、小中学校、各種教育サービス施設など、
住民サービスに必要な機能を集積することである。その上で、
必要な商業施設を誘致すべきである。

ディーサービスセンター、宅配給食受付センター、家電修理受付センター、
各種レンタル・サービス受付センター、ミニ図書館、生涯学習センター、
税理士事務所など、準公的サービス機関を組み合わせることである。

情報提供、地域密着24時間対応小回りサービス、低額サービスなどの
機能を集積すると共に、すぐ利用できる駐車場・駐輪場と公共トイレを
整備することである。

落ち着いて歩き回れ、楽しく時間を過ごせる雰囲気、何でも気軽に
相談できる雰囲気、お互いに話し合える雰囲気を持った、いわば
住民サービス集積地域を誘致すべきであると思う。

日本経済新聞(夕刊)2005年5月18日第1面は「『郊外ショッピングセンター
交番・医療・・・ 地域に密着 異色施設続々』」との見出しで「病院や銀行、
自治体の出張所など従来にない機能を取り込んだ郊外型の大型ショッピング
センターの開業が相次いでいる。消費低迷が続く中、SC各社は買い物だけで
なく生活に必要なサービスを拡充。利便性を高め、地域に密着することで
来店客の増加を狙う」と報じている。
大都市を除いて、地方都市では、多くの従来型の商店街は存在価値を失っている。
文字通り【壊滅の危機に瀕して(ひんして)いる】


完全に壊滅したある商店街

マーケティングという考え方は、顧客ニーズ情報収集から始まっても、商品・
サービス・提供情報・システムの開発、生産、販売、代金回収等のプロセスを
経て、アフター・ケアで終わる一連の企業活動のことであるが、特徴的なことは、
全体像の把握、あるいは全体観が根底にあるということである。

野中郁次郎・勝見明共著『イノベーションの本質』(日経BP社 2004年5月発行)
第185頁-第204頁『CASE8 黒川温泉観光旅館共同組合「黒川温泉」「個と全体」の
バランスをとり、独自の世界を醸し出す~「主語論理」と「述語論理」の矛盾をいかに解消するか~

に熊本県の黒川温泉の成功例が詳しく紹介されている。黒川温泉成功の秘訣は
同書第195頁に述べられている【全体像を大切にするたゆまぬ努力】という
ことである。

《うどん屋が新しくできるというので見に行けば、全然外観が黒川に溶け込んで
おらんかった。これでは客は来んよ。黒川崩しになるよと、はつきりゆうて
止め(とめ)ました。1軒の店で景観を崩せば、黒川全体が崩れる。店が死ねば、
旅館も死ぬるとです。》

第194頁では《この討議の中から「黒川温泉一(いち)旅館」というキャツチフレーズ
が浮かび上がる。個々の旅館は黒川という大きな旅館の一つ一つの離れで、
通りは回廊という発想だ。》

東京ディズニーランドの持続的な成功が示しているように、マーケティング戦略は
「商品+設備+サービス+情報提供+システム」を組み合わせたベネフィットを生み
出さなければならないソフトウエアである。ハードウエアをつくれば、あとはうまく
いくというものではない。商店街に関係する総ての人たちが「顧客ニーズ情報に
基づく文殊の知恵」を出しあって、自分たちでマーケティング戦略のソフトウエアを
創りあげなければならないものである。東京ディズニーランドが成功しているからと
いっても、真似した同じことをやっても、地域の事情が違う場合は成功しない。現在、
成功しているエンターティンメント施設は、地域の事情に合った独自の工夫を積み
上げてきている。この意味で、長野県小布施町のマーケティング戦略や、九州の
黒川温泉のマーケティング戦略は参考にすべき事例である。

平成12年国勢調査結果によれば、当時は3229市町村あった。当時の全国平均
高齢化率(65歳以上の比率)17%を超える高齢化率18%以上の市町村は
2591に達し、市町村数の80%を占めている。一方、平成13年の事業所統計に
よれば、従事者数4人以下のミニ事業所(=零細事業所)数は386万で、全体の
635万の60%になる。平成17年版高齢社会白書によれば、平成15年10月
1日現在の高齢化率は19%に達した。

高齢化率とミニ事業所(=零細事業所)数の多さから考えると、地方においては、
介護サービス、医療保健周囲分野のケアサービス、リフームサービス、省エネ化
省力化サービス、各種設備機器の予防保全サービス(=PM=プリベンティブ・
メンテナンスサービス)、公共財等のメンテナンスサービス、情報機器映像機器
使いこなしコンサルティング、個人住宅庭園メンテナンスサービス、小口物流集配
サービス、地域内配送サービス、地域内清掃サービス、公共行政サービス、社会
保険請求事実現地審査サービス、通信情報教育関連サービス、産業人材カレッジ、
税務会計サービス、バンキングサービス、保険サービス、カルチャースクール、
外国語スクール、スポーツクラブ、料理教室、寝たきりボケ防止教室、リサイクル
センター、人材派遣センター、高齢者就労支援センター等の地域内ワークシェア
リングが必要
になってくると思う。

日本経済新聞は、2005年12月24日第2面の【社説 地方衰退を加速する
まちづくり法改正】
で次のように論じている。

「政府・与党は、床面積10,000平方メートルを超えるスーパー、ショッピング
センターなどの出店について、従来の原則自由から原則禁止へと大転換する
【まちづくり三法】の改正案をきめた。中心市街地衰退の責任を大型店に押しつける
この規制強化には大きな問題がある。前提となる事実を見誤っているからだ。

中心市街地がさびれたのは、地方都市が車社会になり、住宅も郊外に広がった
結果である。消費者にとって最も便利な商業施設である幹線道路沿いの
郊外型大型店が発展したのは当然だった。地方都市住民は大型店のおかげで
豊かな消費生活を手に入れた。一方、中小商店が都市の構造変化に対応する
努力を怠ったことも(中心市街地)衰退に拍車をかけた。地域が衰退しても地価が
高止まりする日本独特の土地事情が長く続いたことも変化を阻んだ。

この(政府・与党の)規制強化に多くの地方自治体がくみしている。不可解と
言うほかない。なぜなら地方自治体自身が中心市街地の衰退傾向を加速した
ケースが全国各地で見られるからだ。地方自治体の庁舎や公立病院、大学
などの郊外移転は大型店進出よりはるかに大きい打撃になった。地方自治体の
【まちづくり】に対する自覚かあればこんなことになるはずはなかった。

この(中心市街地衰退という)惨状を招いた本当の原因は、地方自治体を
筆頭に、住民、さらには商店主たち自身が【まちづくり】や地方自治への自覚を
欠いていたことなのである。

今回の【まちづくり三法】改正の柱は都市計画法の改正である。にもかかわらず、
そこでは、日本の都市計画への反省や、将来ビジョン、住民参加や、情報開示の
あり方など原点に戻った議論は全く行われず、中小商店街団体の政治要求だけ
が目立った。大型店規制に頼るみせかけだけの都市計画では、中心市街地の
復活が望めないばかりか、地方都市全体が衰えていくおそれもきわめて大きい。」

オフ・シーズン、地方へ旅行して、1000円-2000円程度の運賃で大型路線
バスを、ほぼ私一人の貸し切り状態で利用させていただいて、何時も感じることだが、
大型バスを使った超赤字路線の運営をいつまでも続けることはできないと思う。
経営者や監督官庁は、定期長距離路線バスの長期間の赤字の継続に対する
危機感を持っていないのでは無いかと危惧している。バスや地方鉄道の赤字路線
など、交通機関の赤字を検討する際には、原価・経費を、固定費と変動費に分けて、
利用者1人当たりの赤字を正確に計算することが必要である。固定設備の稼働率
ということを中心に固定費生産性ということについて真剣に検討して、
固定費生産性が70%以下の固定設備を税金で維持することはできない
ことを住民に理解させなければならないと思う。

地方鉄道と地方バスと地方タクシーは従来の発想を根本的に変えて、鉄道はどこを
終点とすべきか、バスセンターとタクシー拠点はどこに設置すれば顧客満足を高める
ことができるか、大型バスと大中型タクシーをどういう車種に変えるべきか。どういう
運行方法をとるべきか、バスセンターとタクシー拠点に付属する連絡受信発信機能、
サービス機能としてはどういうものが必要か、運転手の雇用形態、賃金形態を
どのようにすべきかについて、現状を変え黒字経営を実践するため、マーケティング・
データに基づいて徹底的に検討して、対策に知恵を絞り出さなければならない。

大型店舗に顧客の支持(=継続購入)を根こそぎ奪われて壊滅したのではないか
と推定されるかっての商店街が千葉県鴨川市のJR安房鴨川駅(外房線特急、内房線特急
の終着駅、東京、横浜への高速バス発駅)
の駅前にある。かっての繁栄を物語る立派な
舗道の舗石は廃城の石垣を連想させる。筆者は04年10月に視察に行ったが、
このもう蘇生不可能と思われるかっての商店街を含めて、鴨川市の、市役所、JRを
含めた各交通機関、各レジャー施設の、電車・バス利用の個人観光客に対する
観光マーケティングの不在を強く感じた。団体客中心・マイカー族中心の発想が
変わっておらず、電車・バス利用の個人観光客無視を強く感じた。全く余計なこと
ながら、筆者は、鴨川市役所は、JR安房鴨川駅の建て替えに協力して、安房鴨川
駅舎の一部に市役所の市民に対するサービス機能をすべて集約すべきと感じたが。

ちなみに、この県の某町の町役場は市街地から遠く離れた丘の上にある。昔の
ヨーロッパの国王の別荘のイメージがあるすてきな建物である。しかし老人には不便
であり、この場所にいると、町の日々の実態把握には疎くなるのではないかと思う。



廃線した鉄道軌道土地は、将来の状況変化や小型で極めて効率的な新型車両の
出現の可能性も考えて、自動車とか、オートバイとか、人の歩行は一切認めない、
自転車専用道路、あるいは、制限時速20キロ-25キロ以下のスクーター専用道路
にして、通学・通勤は全部、自転車、あるいは、スクーターを利用していただくという
ことも考えられる。専用道路にいくつかの「電動自転車貸出ステーション」とか
「スクーター貸出ステーション」を設けるということも考えられる。バスは予約制通勤
通学専用デマンド・バスとか福祉バス(=コミュニティ・バス)との組み合わせということも
考えられる。例外的な高齢者の長距離移動はボランティア活動に頼るしかないと思う。

高齢化と人口減少が続く地域においては、バラバラ、単独、専業、ウィークディ9時
-5時営業、パソコン活用無し、携帯電話活用無し、高齢者活用無し、駐車場無し、
駐輪場無し、サービス機能の集積無しではやっていけないのではないだろうか。
高齢者の短時間断続的就労で高齢者の相互援助も必要になると思う。従来の発想、
従来のやり方、従来の労働条件の維持、従来の法的規制、従来の生活内容の維持
では、グローバル化・情報化・高齢化・少子化・車社会化・人口減少の進行が
進んでいる現在、各地で黒字経営ができない企業・自治体が増えるばかりである。

日経MJ(日経流通新聞)2006年11月6日第4面より抜粋転載
14.中心市街地活性化、効果上がらず
国費負担は2兆円   会計検査院調べ


会計検査院は旧中心市街地活性化法に基づく「中心市街地活性化
プロジェクト」の検査報告をまとめた。

国がかかわった事業の総額は5兆円で、うち国費負担は2兆円だった。
プロジェクトの骨格となる各地方自治体が作成した基本計画を調べたところ、
未着手の事業がある地区が多数を占めるなど、
多くで効果が上がっていないことが改めてわかった。2006年8月に
中心市街地活性化法の改正法が施行されたが、会計検査院は、改正前の
国の支援はムダが多かったと分析・指摘した。

旧法下のプロジェクトの実態が網羅的にわかったのは今回が初めてだが、
こうした反省から、改正法では基本計画に数値目標を盛り込み、進捗状況を
国に定期的に報告する仕組みに改められた。

16.首長(市長、町長、村長)自ら推進する
   住民サービス機能集積を
     2008年5月 志村英盛 随時補稿

2005年2月初旬、霞が関の中央官庁合同庁舎3号館9階にあった
【中心市街地活性化推進室】で、筆者がかって視察した市の
『中心市街地活性化基本計画書』を読んだ。同室には全国630市区
町村の652地区から提出された『基本計画書』が保管されていた。
筆者が読んだ範囲内では【地域マーケティング戦略】【住民や観光客の
ニーズ】
【ベネフィットの組み合わせ】【コストパフォーマンス(=費用対効果)】
等の用語を使っている『基本計画書』はなかった。

【中心市街地活性化関係府省庁連絡協議会】が平成16年8月に作成した
『中心市街地活性化のすすめ 2004年版』の第21頁には「①関連予算の確保等」
として「市町村による基本計画の作成や関連事業の推進を強力に支援するため、
平成16年度当初予算においても、
関係8府省庁で総額数千億円から
一兆円規模の国費を確保しています
」と述べられている。各市が提出している
『基本計画書』にはプロジェクト遂行に必要な予算の見積りは入っていない。

中心市街地活性化事業は、平成10年7月に施行された『中心市街地における
市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律(略称:中心
市街地整備改善活性化法)』に基づいて行われてきた。
施行以来、6年経過して
いるが、結果はまことに芳しくないと報じられている。

プロジェクト評価の基本は
【コストパフォーマンス(=費用対効果)】であるから
当然、どれだけの資金が投入され、その結果がどうであったかの検討が必要である。

中心市街地の商店街の活性化事業は、大企業のリストラに匹敵する極めて難しい
事業であると思う。対象商店街の規模と投入予定資金の金額により違ってくるから、
一概には言えないが、多数の人や事業体の利害が複雑に絡み合っており、いかなる
説得にも応じず頑として成田国際空港の滑走路建設予定地から立ち退かない反対
農家と同類の人も少なくない。関係する人たちの財産権や生活権の問題もある。
対象地区にある商店以外の一般住宅や事業所も関係してくる場合もある。

【現在の中心市街地の商店街を残すのが良いのか、
それとも衰退に任せて自然に消えてしまうのを待つのが良いのか】
という基本的な問題がある。

筆者は【中心市街地商店街】という発想は完全に捨てるべきであると思う。

商店街については、
①非シャツター通り商店街

シャツター通り商店街
とに分けて考える必要がある。

②のシャツター通り商店街衰退に任せるより他はないと思う。

②のシャツター通り商店街は顧客の支持を失い、存在価値がなくなった
のである。車で家族連れでショッピングに出かける家族にとつては
必要のないものになってしまったという現実を正視しなければならない。

では車で出かけない非ドライバーの中高年者にとつてはどうか。
②のシャツター通り商店街は、もはや非ドライバーの中高年層のニーズを
充たす機能をも持っていない。非ドライバーの中高年も②の
シャツター通り商店街を必要としないのである。

地方の市町村は、②のシャツター通り商店街を見棄てて、
①の非シャツター通り商店街
住民サービス機能
集積対策に取り組むべきである。
役所、社会保険事務所、登記所、診療所、保健所、保育所、ケアセンター、
郵便局、金融機関などの住民サービス機能の可能なかぎりの移転、
バス路線とバス停留所の整備、コミュニティー・バスの導入、
タクシー事業の大幅規制緩和(兼業タクシーの認可)、
駐車場、駐輪場、公共トイレの整備に取り組むべきである。

①の非シャッター通り商店が存在しないのであれば、
【住民サービス機能集積地づくり】事業に取り組むべきである。

しかしながら、何れも、この事業は極めて難しい事業である。
松下電器の中村邦夫会長のような、高い理念と、的確な判断力と、
摩擦に屈しない強い改革意思を持った市長、町長、あるいは村長が、
自ら強力に事業を推進しなければ成功しない。

地方自治体の首長・議員選挙において、住民である有権者は
候補者に【まちづくり】についての具体的な政策表明を求めることが
必要である。

参考資料:広域圏別人口増減予測


17.マーケティング戦略について真剣に勉強しよう
    2004年4月 志村英盛 随時補筆

日本経済新聞(朝刊)2004年4月2日第21面の『大機小機』に「東日本
旅客鉄道副社長からりそなホールディングスに転じた細谷英二氏は、
会長就任が決まった直後の昨年6月に「銀行に欠けているのは収益力と
マーケティング力。花王などから見ればマーケティングがゼロと映るだろう」と
語っていた。りそな再建を任された身として、マーケティング意識の薄さが
気になってしかたがなかったのだろう。」という記述がある。細谷会長が言われる
マーケティング力には筆者は、マーケティング戦略とマーケティング意識が
含まれると考えている。マーケティング戦略が重要なことは言うまでもないが、
マーケティング意識を持つということも欠かすことはできない。

マーケティングの世界的な権威者、フィリップ・コトラー教授は、03年5月に
出版された『コトラーのマーケティング・コンセプト』(恩藏直人監訳・
大川修二訳 東洋経済新報社 刊)の第077頁において、「多くの企業では、
製品の製造よりも製品を市場に送り出すことのほうにコストがかかっている。
マーケティング・コストが企業の総コストに占める割合は、
平均で50%に達している。
生産者は、コストがかかりすぎるという理由で仲介業者を排除したがっている。
しかし、仲介業者を排除することはできても、仲介業者が担っていた機能を排除
することはできない。どんな企業も市場進出戦略を策定する必要がある。」
と述べている。

また同書第004頁において「マーケティングは、しばしば販売と混同される。
だがマーケティングと販売は、ほとんど正反対ともいえる活動だ」と述べている。

ジェリー.I.ケンドール著 小林英三監訳 岸良裕司/櫻井忠雄/
佐々木俊雄/谷澤俊彦/平鍋伸忠/村上悟 訳
『バイアブル・ビジョン 実現可能なビジョン』
(日本工業新聞社 2005年4月15日 発行 )の第103頁~第120頁は
マーケティングについて次のように述べている。

マーケティング-とうもろこしの実を撒き、自分の猟場に鴨をおびき寄せる」
セールス-鉄砲を手にして、猟場で餌を食べている鴨を撃つ。猟場に鴨が
いなくても、セールスを責めることはできない


「多くの会社は、顧客を見出そうとしていろいろな努力を払うが、なかなかうまく
いっていない。それは、今日、ほとんどの会社で、私の定義によるマーケティング
が見られないからです」
「ほとんどの会社は、製品の機能ばかりに目を向け、自分たちの持つさまざまな
市場で、顧客にとって本当に重要なものがなんであるかが
見えなくなっています


「顧客が見る価値は、供給者が製品やサービスとして提供するものにより、
顧客が抱えている問題が解決され、その結果、顧客にどのような利益や利点が
もたらされるかによって決まります。製品やサービスが解決する問題が
大きければ大きいほど、顧客が見出す価値は大きくなります」


「マーケティングの役割は、市場で競合する他社製品に比べ、自社製品について
顧客が見出す価値を増大させることです」

「マーケットセグメンテーションは、単に、市場のニッチを埋めるというだけでは
ありません。この戦略の極めて重要なルールは、資源ではなく、市場をセグメント
することです。これにより、必要に応じ、自分の意思で、資源をセグメント間で
移動できる柔軟性を得られます」

1993年10月、NTT出版㈱から、
フランシス・マキナニー&ショーン・ホワイト共著、鈴木主税監訳
『日本の弱点-アメリカはそれを見逃さない』(原題 Beatig Japan)という
本が出版された。
マーケティング戦略の視点から見てたいへん示唆の富む意見が述べられている。
第114頁『第5章 出荷がすめばそれでおしまい 致命的欠陥その3-顧客との
接触不在』を読んで感じることは赤字企業の経営者の顧客との接触の「接触内容
と接触回数」はどの程度であったかといことである。

第79頁『第4章 東京本社が采配を振れば、最優先されるのは日本である 
致命的欠陥その2-顧客の無視』を読んで感じたことはクレームに対する企業の
取り組み方である。筆者の体験では、商品の品質やサービスについて、品質管理
担当者や品質管理担当役員あて手紙を出しても
「ナシのつぶて」で音沙汰ない
会社は、ほとんど数年後、ダメになるか、新聞種になる事件を起こしている。


数年前C企業の製品の部品の品質不良について品質管理担当役員あて手紙を
出した。「ナシのつぶて」であった。「この企業が!」と正直、筆者はびっくりした。
その後、この企業についての新聞や雑誌の記事を注意深く読み、販売店の
店員にこの企業の評判をそれとなく聞いている。この企業のあまりの評判の悪さ
に驚いた。この企業のトップは製造現場・販売現場を訪れたことがないという
噂さえ流れている。品質管理担当の役員はいないのかもしれないと思った。
筆者が手紙を出してから約4年後、2006年、この企業の問題の部品についての
トラブルが大きく報道された。上述の
「ナシのつぶて」企業は新聞種になる事件を
起こすということが、ここでも実証された。


企業のみならず公的機関や業界団体を含めて、ダメな組織では、たとえそれが
組織の信用を損なうことであっても、組織のイメージを傷つけるようなことで
あっても、「自分に都合の悪いことは無視・黙殺する」「自分の責任になることは
やらない、報告しない、連絡しない、知らぬふりをする、問題を先送りする、
他の人の責任にする」という気風が蔓延しているのではないだろうか。

マーケティング戦略において一番重要なことは「顧客の信頼感を第一と考える。
信用第一を旨として迅速に行動する。」ということである。この極めて基本的な
考え方を現場の隅々にまで徹底させることは経営者の責任である。

「マネジャーに命じてあるのに・・・」「自分は知らなかった・・・」
「自分には刑事上の責任はない・・・」と弁解して済ませられる問題ではない。
経営者に、事実を確認する習慣があり、常に顧客の声を聞く姿勢があり、あるいは
現場を自分の目で観察して、現場の声を聞く姿勢があれば、
「企業の信頼感を損なう事実」があれば、率直に経営者に忠告してくれる顧客や、
ステークホルダーや、従業員が必ず存在する。事実を確認して、担当者更迭を含む
必要な手をすぐに打てない者は経営者を務める資格はないと思う。

コトラー教授は、近著『コトラーのマーケティング講義 基本コンセブト
300』(木村達也◎監訳/有賀裕子◎訳 ダイヤモンド社2004年10月発行)
の第19頁において「マーケティングの敵は【売り逃げ】の発想です。とにかく
売れさえすればよく、顧客と長い付き合いをしようなどとは思わないのです。
おとり販売、誇大広告、誤解を招く価格設定などはすべて、マーケティングの
精神に反します。」と述べている。

黒字企業は「商品やサービスについての手紙での意見表明」には、100%
例外なしに必ず文書で返事が来る。ダブル・チェック・システムで、顧客の意見を
一担当者が勝手に無視・黙殺できないシステムができている。「信用第一」の精神
が現場に徹底している。地方の役所には「ナシのつぶて」が多いが、中央官公庁は
問い合わせに対して親切に答えてくれる時代である。

読売新聞(朝刊)05年8月22日第13面より転載



資料出所:日本経済新聞(朝刊)08年8月24日第3面

日経ビジネス特別編集版04年6月28日号第28頁-第37頁より抜粋要約転載
日経BP社の転載許可をいただいて転載しています。コピーは禁止します。
18.フィリップ・コトラー教授が語る
   最新マーケティング理論
     聞き手は酒井耕一

顧客の視点で企業価値を高める


マーケティングの成功にはまず企業内の壁を取り払うことが大切です。
マーケティングをうまく進行させるには、会社が一丸となって取り組むことです。
社員全員が「顧客獲得」を意識しなくてはうまくいきません。社員が、給与は会社
から貰うものではなく、顧客からいただくものだということを再確認したうえで
マーケティング活動に取り組む心意気が大切です。   

マーケティングの役割は人々が快適に消費活動ができるように、様々な点から支援
することです。消費予想や、製品計画や、市場調査といったことは大切です。
しかし、肝心なのは顧客満足を高めるためには自社に何が欠けているかを分析して
そこから製品やサービスを加えるという発想です。
顧客の視点からビジネスチャンスを見つけなくてはなりません。

最近のマーケティングにおいては顧客がその会社の製品にどれだけ愛着を持って
いるかを見る、
カスタマー・ロイヤルティー(顧客忠誠心)が重視されています。
短期的に利益を落としても、顧客の信頼と忠誠心を高めなくてはなりません。
これこそがライバルに勝つ秘訣です。

企業のブランド価値とか知的財産のような無形資産が重要になります。
自社のブランド価値価値とか知的財産を分析することは大きな意味があります。
お客が会社に何を求めているかが、そこからわかるからです。マーケティングに
おいては、常に
ROI(=Return On Investment=事業投資に対する収益還元)という視点で
マーケティング投資効果を分析することが重要です。
ROIはコストと利益と
いった財務指標だけではなくマーケティング効果も考えているからです。
 
特別インタビュー:日経ビジネス03年4月号36頁-41頁から転載 
03年4月25日 日経BP社より転載許可をいただいています。

19.ピーター F.ドラッカー教授に聞く、
   テクノロジストが企業と社会を変える
 抄録 

先進国を襲う2つの大きな挑戦
先進国にとって、とりわけ日本にとって大きなチャレンジとなる2つの社会変化が
目の前で起きています。

1つは人類がかって経験したことのない人口の減少であり、
もう1つは単純労働が中国に移るなど働き手の質の変化です

テクノロジストが変える経営者の役割
実はこの2つの大きな社会変化に連動して新しい働き手が増加しています。
「テクノロジスト」と私が呼ぶ新しい勤務者たちです。
テクノロジストとは高度な専門技術や技能を持ったナレッジワーカー
(知的労働者)のことで、米国をはじめ欧州や日本などでも活躍の場を広げて
います。

先進国で製造業の生産性が飛躍的に向上したのは製造業の中で単純労働者が
減り、テクノロジストが増えたからです。20年後にはほとんどの職業が
テクノロジストに占められることになるでしょう。幅広い業種でテクノロジストが
増えると、組織の在り方も変わってきます。大切なのは、社員の国籍ではなく、
専門分野になります。連携する外部のテクノロジストも増えます。こうした変革の
中で、役割の見直しを一番求められるのは企業経営者です。どの職種を機軸にした
組織を作るのか、経営者は熟慮することが大切です。


雇用を増減できる流動化が必要
日本がテクノロジストを活用する国になるには直していかなければならない
こともあります。過去50年間、日本の強さは終身雇用にありました。しかし
今は企業にとって雇用を増減できる流動化こそが強さになります。終身雇用に
加えて、年功序列制度や、系列取引など変えなければならないものは多いでしょう。

小さい市場で強さを磨け
どんな企業でもよそに負けない何かを持っています。世界1位でなくても、
もつと小さい市場でも探せば必ずあります。それを見つけて、どうして強いのか、
これからその強さを何に生かすのか、そこから組織と戦略作りが始まります。
自分を取り巻く環境が大きく変わる時はまず自分自身を見つめ直してみる。
強さを確認したうえで、さらにそれを増すために情報を活用する。
テクノロジストはそんな行動をする人でもあります。 
            」

久保村隆祐著 ダイヤモンド社ビジネス新書昭和55年12月発行 
20.マーケティング 〔改訂版〕
第45頁
対象となる市場の選択
マーケティング戦略は特定の市場を対象として立てられるのであって、
その選択の如何により成果は異なってくる。
  
第28頁
顧客志向ということ
現在の顧客志向とは広く顧客の満たされない欲求を見出して、これを満たして
いくことである。これが企業のおもな機能であって、メーカーの場合は商品開発に
重点がおかれる。また顧客の欲求に合った商品を提供しさえすればよいのではなく、
それを使用または利用した顧客の満足をつくり出すことを目標とする。
「商品は顧客の満足の複合体である」という考え方である。
 
第74頁
企業は商品と運命をともにする
企業は消費欲求に合った商品の開発によって社会的機能を遂行し、その存続と
成長をはかる。したがって、
企業は成長するためには、常にライフサイクルの
成長期、競争期にある商品をもたなければならない
。存続するためには衰退期に
はいった商品に対しては新商品を補充する必要がある。

読売新聞(朝刊)03年12月20日第13面より転載
21.新たな「豊かさ」目指そう

日本経済新聞(夕刊)03年9月19日第1面【あすへの話題】より要約抜粋転載 
本ホームページ転載についての許諾をいただいています。


22.贅沢の中身
作詞・作曲家 小椋佳

ある時期まで職場旅行が勤め人にとって年に一度のありがたい贅沢だったと
思われる。しかし、時は移り、特に若い世代にとっては、逆に疎ましい付き合いと
なった。旅に連れていかれるより休暇をもらった方がよいとなる。贅沢の中身に
ある変化が見られた例といえるだろう。

長期的ブームで少人数の温泉旅行が盛んなようである。大露天風呂、貸し切り風呂、
各部屋露天風呂付き、離れ部屋等、プライベート性重視の趣向が人気を呼んでいると
聞く。ニーズの変化に的確に対応していかなくてはならない宿側も大変だろう。

私なりの要望を一つ述べさせていただこう。それは食事のこと。例外も数多いと
思われるが、概して言えば和風旅館の夕食は過剰に多種大量。もてなしには程良さ
を求めたい。これも贅沢の中身の一変化であろうか。

23.都道府県別 
100世帯当たり軽自動車保有台数と
軽自動車1台当たり住民数
  2004年(平成16年)3月末現在
総務省統計局統計データ住民基本台帳資料、及び全国軽自動車協会連合会の
資料に基づいて志村英盛が作成。

軽自動車は女性に人気があり、使用者の約57%は既婚女性とのこと。
日常の買い物や子供の送り迎えに使っているという。

都道府県 軽自動車
保有台数
世帯数 100世帯
当たり
保有台数
住民数 軽自動車
1台当たり
住民数
北海道 773,848 2,522,295 31 5,650,573 7
青森 349,891 551,806 63 1,479,358 4
岩手 344,617 488,354 71 1,405,060 4
宮城 429,975 856,527 50 2,350,026 5
秋田 302,532 410,308 74 1,173,722 4
山形 334,740 387,732 86 1,225,990 4
福島 489,413 716,505 68 2,116,210 4
東北6県計 2,251,168 3,411,232 66 9,750,366 4
茨城 600,132 1,039,865 58 2,991,804 5
栃木 397,377 701,919 57 2,006,717 5
群馬 489,425 719,576 68 2,022,780 4
埼玉 795,692 2,660,152 30 6,980,889 9
千葉 729,292 2,348,339 31 6,001,032 8
東京 574,631 5,776,805 10 12,082,143 21
神奈川 618,508 3,602,950 17 8,600,109 14
山梨 246,847 319,146 77 882,678 4
長野 680,793 777,553 88 2,200,896 3
新潟 639,653 810,483 79 2,455,996 4
関東甲信越計 5,772,350 18,756,788 31 46,225,044 8
富山 279,561 367,754 76 1,118,661 4
石川 260,142 417,164 62 1,175,071 5
福井 214,376 260,744 82 824,824 4
北陸3県計 754,079 1,045,662 72 3,118,556 4
静岡 817,818 1,347,330 61 3,773,140 5
愛知 1,100,014 2,634,915 42 7,027,499 6
三重 487,154 672,654 72 1,857,773 4
岐阜 495,261 701,408 71 2,106,917 4
東海4県計 2,900,247 5,356,307 54 14,765,329 5
滋賀 329,080 460,199 72 1,353,893 4
京都 381,954 1,048,788 36 2,565,424 7
大阪 869,088 3,657,248 24 8,651,977 10
奈良 253,342 525,535 48 1,439,040 6
和歌山 312,115 411,063 76 1,073,434 3
兵庫 808,599 2,187,130 37 5,566,566 7
近畿6府県計 2,954,178 8,289,963 36 20,650,334 7
鳥取 200,471 216,963 92 614,650 3
島根 240,157 267,189 90 752,534 3
岡山 566,172 732,253 77 1,957,269 3
広島 628,969 1,161,859 54 2,869,555 5
山口 409,698 620,630 66 1,512,333 4
中国5県計 2,045,467 2,998,894 68 7,706,341 4
徳島 236,363 305,362 77 823,304 3
香川 290,689 389,901 75 1,029,356 4
愛媛 405,031 603,933 67 1,496,929 4
高知 249,482 341,873 73 809,554 3
四国4県計 1,181,565 1,641,069 72 4,159,143 4
福岡 952,852 2,023,115 47 5,010,859 5
佐賀 258,875 293,751 88 877,040 3
長崎 390,125 591,017 66 1,511,064 4
熊本 472,326 690,743 68 1,862,895 4
大分 328,508 480,113 68 1,227,107 4
宮崎 369,399 475,947 78 1,177,455 3
鹿児島 525,553 759,742 69 1,769,932 3
九州7県計 3,297,638 5,314,428 62 13,436,352 4
沖縄 334,296 501,093 67 1,362,128 4
合計 22,264,836 49,837,731 45 126,824,166 6

100世帯当たり軽自動車保有台数が多いのは、鳥取県92台、島根県90台、
佐賀県88台、長野県88台、山形県86台、福井県82台である。これらの
県は車社会化している。
これに対して、東京都は10台である。
神奈川県17台、埼玉県30台、千葉県31台、愛知県42台、
大阪府24台、京都府36台、兵庫県37台、福岡県47台、宮城県50台、
広島県54台と、人口密集都府県の100世帯当たり保有台数は比較的少ない。
上記以外の道府県はいずれも、100世帯当たりの軽自動車の保有台数は60台
以上であり、車社会化が進んでいる。


24.マーケティング・ノウハウこそ
   企業の最重要無形資産であり、
   絶えず進化させていくことが必要である

1987年1月、朝日新聞社から、盛田昭夫、下村満子、E.ラインゴールド著
下村満子訳『MADE in JAPAN メイド・イン・ジャパンわが体験的国際戦略 』が発行
された。太平洋戦争敗戦の翌年1946年5月、井深大
(いぶかまさる)
と現在のソニー株式会社を創業した盛田昭夫
(もりたあきお)氏が、
1986年に英語で書かれ米国で出版された本の邦訳である。

今読み返してみて、改めて盛田氏の優れたマーケティング・センスと
マーケティング戦略実践、知的財産死守の先行投資実践に感服するばかり
である。同書第71頁~第73頁にテープレコーダーに関する高周波交流
バイアス・システムの特許のことが述べられている。第80頁~第85頁には
【SONY】の社名決定の経緯と、その後の【SONY】ブランドを守り抜くための
戦略が述べられている。

第97頁では盛田氏が米国ブローバ社の10万個のトランジスタラジオの
OEM注文(=ブローバ社のブランドで売ること)をきっぱり断り【SONY】
ブランドでの販売に固執した経緯が述べられている。当時のソニーにとって、
10万個というのは目もくらむような数字であり、東京本社からは「10万台は
もったいない。そのOEM注文を受けよ」と言ってきたと述べられている。
盛田氏は将来にわたって
【顧客の信頼を裏切らない】ということを最重視して
断ったのだと思う。

ブランドを守り抜くということは
【顧客の信頼を裏切らない】ということで
ある。
顧客は、企業が提供する商品やサービスについて不満を持った時、
あるいは失望した時、その企業に対する信頼感があれば、クレームという形で
不満・失望を企業に伝える。しかし、そのクレームが企業に無視された時は、
以後、その商品やサービスを買わない、あるいはその企業のものは一切
買わないという行動をとる。同種の商品を買わないという行動をとることもある。
盛田氏は、将来、ブローバ社が他社からトランジスタラジオを仕入れたり、
あるいはソニーが期待するアフターケアを行わないことが、十分にあり得る。
その場合【ソニーのトランジスタラジオ】に対する顧客の信頼感を失なってしまうと
考えたのだと思う。

第89頁で盛田氏は「私は、はじめてテープレコーダーを売り歩いた時の経験
から、販売とは一種のコミュニケーションだという結論に到達した」と述べている。

第101頁~第106頁では、1957年、ブロードウエ-のマーク・ヘリンガー
劇場で『マイ・フェア・レディ』を見た時の興奮や、米国の友人から「良いホテル
に泊まって、良いレストランで食事をして、料理の味やサービスの違いが
わかるようにならなくてはいない」と忠告されたと述べている。

藤本隆宏東大教授は著書『能力構築競争-日本の自動車産業はなぜ
強いのか-』(中公新書2003年6月発行)の第55頁~第56頁で、
「能力構築競争を語る上で、もう一つ忘れてはならないことは、消費者の
ニーズや商品評価能力もまた、時とともに高度化・洗練化するということで
ある。供給企業側の組織・製品・技術などと同様、需要側の顧客ニーズもまた
進化するわけだ。今日のユーザーは、車体験の蓄積を通じて、車に複合的な
機能や微妙な意味づけを求めるようになっている。

しかもそれらのさまざまな機能・メッセージの間の【まとまりの良さ】や
トータルバランスに敏感になってきている。つまり進化した消費者にとって
商品力の決め手は、車全体が醸し出すメッセージの一貫性、ユーザーの
生活感覚へのフィットなどである。筆者はこれを【プロダクトインテグリティ
(製品統合性)】と呼ぶ。

顧客満足を維持するためには、企業は能力構築を通じて競争力・商品力を
常に高めていかねばならない。なぜなら、消費者の鑑識眼が徐々に高まって
いくからである。かくして、企業のもの造り能力と消費者の評価能力は、
互いに影響しながら【共進化】するのである」と述べている。

ソニーの成功は画期的な新商品の優れたベネフィットを顧客に認知して
もらった優れたマーケティング・センスとマーケティング戦略実践と、優れた
先見力による知財戦略実践の賜物であった。新製品を生かし成長させる
マーケティング・ノウハウこそ企業の最重要無形資産であり、絶えず進化
させていくことが必要である。企業の経営組織が
陳腐化(=時間が経つにつれて
環境変化に適応できなくなり、役にたたなくなること)
するということは、企業の最重要
資産であるマーケティング・ノウハウを進化させる力がなくなることである。

関連サイト:

「感謝貢献-努力達成-成長進化」の経営理念を明確にする

視野を広げる、視点を変えて観察する

予習挑戦型へ脱皮して潜在能力を開発する

『生きる場を広げるため学び続ける仕組みを創れ』

未経験のこと、すなわち、今までやったことのないことに挑戦すると、
失敗はつきものである。従って、うまくいかないことや、挑戦失敗を、
苦にしたり、悔やんだり、悩んだりすることはない。

しかし、挑戦失敗を教訓にして、学び続けることは必要である。
学び続けることによって新しく蓄積されていく知識・情報が生きる場を
広げる力
(ちから)そのものなのである。

高江常男さんが、何万回もの失敗を乗り越えて、あきらめずに、
学び続けた生き方に深い感銘を受けている。


学び続けることは最高の幸福です。
意識
身体も、使わないと、どんどん錆びつく!
学び続けることは

廃用性萎縮を防ぐ最良の健康法です。





2015年12月 文化出版局 発行

志村冨美子・横浜レース教室、本郷台レース教室

TEL:045-352-7184