「はぁ…」
吐いた息が白い。
春先になったとは言え、夜はまだまだ冷える。
しんと静まり返った部屋の窓辺に俺は一人、ぼんやりしてる。
『銀さんも一緒に行きましょ?』
『俺ぁ良いから。オメー等楽しんで来い』
『でも…』
『たまには一人でゆっくりしたい時もあんの!…解ったらとっとと行った行った』
あぁは言ったものの。
こんな…寒くて静かな夜。
暗闇に一人。
世界に一人。
…取り残された気分になる。
自ら望んだ一人。
時々こんな気分になる。
誰かに傍に居て欲しい。
誰にも傍に居て欲しくない。
相反する2つの気持ち。
矛盾。相反。相違。
寂しい。淋しい。
誰かに居て欲しい。
…じゃぁ誰に?
そう思っても思い浮かぶ人物なんか居やしない。
不意に浮かんだ人物は。
素直になるには似つかわしくない人物で。
俺はそれを振り払うように首を左右に振る。
声が聞きたい。
こちらから連絡を取りたくない。
傍に居て欲しい。
弱味を見せたくない。
やっぱり相反する、俺の気持ち。
矛盾。相反。相違。
静かな夜。一人きりの部屋。白い息。果てしない…孤独。
寂しい。淋しい。…悲しい。…哀しい。
「ぅわ、んだよ、この部屋。外と同じ温度じゃねェ?寒ぃな」
「………………………」
「暖房着けろよ。凍え死にてェのか、テメー」
「………何、してんの?」
「あぁ?暖房着けてんだろうが。寝ぼけてんのか?」
「ゃ…じゃなくて…」
「酒とツマミ買って来たから…ぅわ、テメーマジ冷たてェな。良い歳こいて遭難ゴッコか」
「じゃなくて…何、しに来たの…?」
「何しにって…仕事終わって暇だから来たんだよ。悪ぃかよ?」
相反する2つの気持ち。
傍に居て欲しい。
傍に居て欲しくない。
…でも。
それは誰に?
「ガキ共は?もう寝てんのか?…早ェな」
「………………………」
「ほれ、いつまで寒ぃ窓辺に居んだよ。飲め。どーせテメーんトコには酒がねェと思って買って来たんだ」
「…………………………」
声が聞きたいと思った。
でもこっちから連絡をしたくなかった。
一度タガが外れてしまったら。
もう戻れないと思った。
求めてしまったら。
意思を示してしまったら。
二度と戻れないと解っていたから。
なのに。
「ぉい、いつまでそこに居るつもりだ?さっさと来いよ」
「…………………………」
手招きされるまま、引き寄せられてしまったら。
多分、きっと。
もう二度と。
この場所には戻れない。
孤独には戻れない。
解ってる。
解ってた。
それ…なのに…。
「銀時?」
優しい…多分奴にとってはいつもと変わらない、呼び声。
視線を合わせて。
まるで。
意思を確かめるみたいに。
「な…何だよ…」
「………………………」
…解る訳ねェ、か。
視線を合わせただけで相手の気持ちも、意思も解ったら苦労なんてしない。
戸惑ったりする訳ねェんだ。
解らないから。
不安になって。迷って。
そして…。
「…土方」
「?何だよ」
名前を呼んで。
返事をもらって。
「…呼んで」
「…は?何を?」
「呼んで。…俺の事。もう1回」
名前を呼んでもらって。
…存在を確かめる。
「呼べって…何で?」
「良いから。もう1回くらい呼んでも良いじゃん。…ほら」
「銀、時?」
「…ぅん」
「…………………………」
「…………………………」
俺の存在。
お前の存在。
今。
ここに在る、存在、時間、空間…。
それが全て。
それが幸せ。
「何か…あったのか?」
「…何も。ただ…ぅん、多串君が居るな〜って」
「…………………………」
何かあったのか?
何もない。
何もない…けど。
時々…本当に刹那。
世界に独りの気分になる。
誰にも理解されず、存在すら知られず。
ただ…独り。
「…銀時」
「…ん」
そっと、差し出された手の平。
包まれた頬。
…あったかい…。
「あ〜…その、何だ?」
包まれた手に、自分の手を重ね、その温もりを確かめる。
独り、嘘…本当は。
「う、うまい事言えねェけどよぉ…その、げ、元気…出せよ?」
「ぅん?もしかして心配してくれてんの?」
「ばっ…、そ、そうじゃねェよ…何か、テメーに元気がねェと、その…調子出ねェだろうが」
「…ぅん。そだね」
近くに居る。
矛盾する気持ち。
相反する想い。
でも。
本当は。
「…電話」
「そだね」
「出ないのか?」
「出るよ」
突然鳴った電話。
それを終わらす為に、受話器を取れば。
「はいはい、万事屋銀ちゃんで〜す。営業時間はもう終了してます〜」
『銀さん?』
「…へ?」
『まだお休みになってなかったんですね…良かった』
「や、そりゃぁオメー、まだ寝る時間じゃねェけど…。どったの?何かあったのか?」
『ゃ、その…出掛けに銀さん元気なかったんで…でも気のせいだったみたいですね。取り越し苦労みたいで…良かった』
暗闇に一人。
世界に一人。
誰かに傍に居て欲しい。
誰にも傍に居て欲しくない。
相反する2つの気持ち。
矛盾。相反。相違。
寂しい。淋しい。
誰かに居て欲しい。
「…っっ…」
『銀さん?どうかしたんですか?』
「ぃや…あんがとな」
『へ??』
「有難な。…元気だよ、俺ぁ」
『そうですか。良かったです』
「あぁ。…だから、その…また、明日な」
『はい。お休みなさい、銀さん』
『お休みアルよ〜銀ちゃん!』
「はいはい、…お休み」
寒い夜。
でも。
世界は気づけば。
…こんなにも暖かい。
「誰からだったんだ?」
「ん〜?俺を愛する可愛い奴から」
「あぁ?!誰だ、そいつはぁ?!!」
「俺の声が聞けなくて寝れねェって。可愛いよな〜」
「あぁ?!誰だ、ソイツ!!」
「あははは〜、なぁに多串君、ヤキモチ?」
刹那の夜。
寂しい夜。
…でも。
ほら。
手を伸ばせば。
「だ、誰がヤキモチなんか妬くか!も、物珍しいから、誰なのか確かめてやろうとだなぁ…!」
「素直じゃないな〜多串君は」
「誰が多串だ!!」
…近くにある、幸せ。
・END・
2011/05/12UP