「…ん…」


徐々に覚醒していく意識と、目蓋に感じる光に、土方は微かに声を上げる。

(朝、か…)

どうやらグッスリ眠っていたようだ。
土方は身体を起こそうとして、微かに身体を動かそうとしたが。


「…あぁ、そうか」


微かな違和感に、視線を向ければ。
そこには気持ち良さそうに寝息を立てている銀時の姿。
それを見て、フと土方が笑みを浮かべる。
昨日は珍しく仕事が夕方には片付いて。
土方は隊士に何かあったら携帯に連絡しろと告げ、屯所を出て万事屋へと足を向けた。
久々に銀時とゆっくり過ごそうと思ったから。
万事屋に着くまでに、携帯で連絡を入れると。


「丁度、新八も神楽も出掛けてて退屈してた」


と何ともグットタイミングな返事が返って来て。
子供達が居ないなら、思う存分銀時と濃密な時間が過ごせると。
土方は電話を切って、微かに口元を緩ませた。
土産にケーキを買って、土方は万事屋へと訪れる。
簡単なものだけど、と銀時が夕飯の用意をしてくれて。
それに舌鼓を打ちながら、お酒も飲んで。
2人でゆっくり風呂に入り。
ゆっくりと互いの熱を分かち合った。
そして朝を迎えたのだ。


「…銀時。……おい、銀時」
「ん…」
「朝だ。…起きろ」
「ん〜…ぁと、ご…じかん…」
「…そこはせめて5分、つっとけよ」


寝惚けていても。
銀時らしい言葉に苦笑を洩らしながら。
銀時を抱えるように寝ている土方は、銀時が起き上がらなければ起きる事も出来ず。
もぞもぞと寝心地の良い場所を探す銀時の頭を軽く叩く。


「オメーはまだ寝てて良いけど。俺ぁ仕事に行かなきゃなんねーから。そこ、退け」
「…何処ぉ?」
「俺の上…、正確には腕から」
「んー…」
「…おい、人の話聞いてるか?」
「んー……」


土方が今度はツンツンっと銀時の髪を引っ張れば。
嫌々、とするように銀時が頭を動かして。
その時。


「…っ…」
「…ぁ、…じかた?」


微かに息を詰めた土方に。
銀時はムクリと起き上がる。


「…んだよ。起きてんなら、さっさと退けよな」
「ほああぁぁぁぁぁ…、ぅっせーなー。誰かさんが夜明け前まで頑張るから、眠くてしょうがねーんだよ」
「あぁ、そうかよ」
「………腕、どうかしたの?」
「別に。何とも」
「……………………………………………………」
「……………………………………………………」

ツン

「〜〜〜〜〜〜〜〜っっ!ば、馬鹿!触るな!!」
「ニヒー、もしかして。痺れてんのか?」
「だ、誰が…!!」
「あぁ、そう?じゃぁ、もっと触っちゃおうかなー」


ジリジリとにじり寄る銀時に、土方は思わず腕を庇うようにして後ずさる。


「テメー、いい加減に…!」
「まぁまぁそう言うなよ。マッサージすれば早く良くなるかもよ?」
「嘘吐け!」
「本当だって。痺れって血行の詰まりとか、圧迫から来るんだから。それ直せば、すぐ治るって」
「……………………………………………………」


尤もらしい銀時の言葉に、頷き掛けた土方だったが。


「?!」
「?」
「ちょっ、待て!」
「へ?どったの?」
「こ、これ…!」
「え?時計がどったの?」
「遅れてねェよな?!」
「うん?遅れてないと思うけど…」
「っ、ヤッベ!遅刻だ!!」
「は?」
「朝の会議の時間!ここから屯所までの時間だと、ギリギリだ…!」


急にバタバタと用意し始めた土方に、銀時はポカンと眺める。


「えーっと…手伝おうか?」
「…あ?」
「着替え?」
「……………………………………………………」
「痺れてんなら、着替え難いだろ?」
「…嬉しい申し出だが、良い」
「そう?」
「あぁ。仕事行きたくなくなる」
「…あのなぁ」


何言ってんだ、と思いながら、銀時は傍にある、いつもは着流している着物を羽織り、部屋を出る。
急いで出るにしても、何か腹に入れといた方が良いだろうと、昨日のご飯の残りを握り飯にする。
おにぎりのおかずになるようなものが、残念ながらなかったので、梅干しとマヨネーズを入れて。


「土方ー…って、何してんの、お前」
「チっ、片手じゃ、スカーフが巻けねェ…」


首にスカーフを巻いたまでは良かったが。
いつもの形にするのに、どうやら片手では難しいようで。
片手で四苦八苦している土方の姿に、銀時は苦笑して。


「…しょうがねーなー。だから手伝ってやるつってんだろーが。ほら、貸せ。銀さんが結んでやっから」
「あ、あぁ…って、お前解んのかよ」
「……前に1回着た事あっからね。真選組の制服」
「……あぁ」


そう言えばそんな事もあったか、と思案していると。
土方の目の前でスカーフを結ぶ銀時の姿。
どうにも手持無沙汰で。
土方はジっとそんな銀時を見つめる。


「……………………………………………………」
「よっし、出来…」

チュっ

「……………………………………………………」
「…サンキュー。んじゃ、行って来るわ」


スカーフを巻き終わり。
離れようとした銀時の眉間に、暖かく柔らかい感触。
思わず固まった銀時に、土方は素早くすれだけを言うと、玄関へと足を向ける。


「…土方!」
「あ?」


ヒュっと放られた何かを、土方は反射的に掴む。


「…っ!」
「あーらら。お前、痺れてる手でキャッチするなよ」
「お前がいきなし何か放るからだろうが!」
「はは、でもナイスキャッチ」
「んだよ…」
「仕事行くなら何か腹に入れとけよ。上等なモンは入ってねーけど、それなら帰りがてら食えるだろ?」


放られたのは、ラップに包まれたおにぎり。
それを見ながら。


「…何か、嫁さんもらった気分だ」
「は、はぁ?!アホな事言ってねーで、さっさと行け!遅刻しそーなんだろ!!」
「行ってらっしゃいのキスはねーのか?」
「ある訳ねーだろ!!」


土方の言葉に大いに動揺したらしい銀時は。
真っ赤な顔をして、そう怒鳴る。
それがますます土方は面白くなって。


「んじゃ、またスカーフ、巻いてくれよ」
「!…っ、気が向いて、またオメーの腕が痺れたらな!」
「あぁ。腕枕してりゃぁ幾らでも腕なんか痺れるからな」


ニヤリと笑う土方に。
今日はどうやら分が悪いと思ったらしい、銀時は。


「はいはい、行ってらっしゃい」

チュっ

「…!」


大股で玄関に居る土方に歩み寄り。
ソっと頬に唇を寄せる。
それに驚いたのは土方で。
微かに赤くなった土方を見て。
銀時は満足そうに微笑むのだった。





・END・
2011/04/16UP