『つまり、この世の中にはパラレルワールドと言うのがあり。今我々が生きているのとは別世界の、違う自分が存在するって事ですよ』
「………何言っちゃってんの、このおっさん?」
TVを見てたら流れて来た解説。
言っている意味が解らなくて、思わずTVをマジマジと見て、そう言ってしまう。
だって、そうだろう。
違う自分って、つまりそれは他人だろう。
『いつもそこにあるんです。ただ、我々が気づかないだけで。でもそこに行く事は出来ない。何故ならパラレルワールドはいつだって我々の世界と並行しているのだから』
「じゃぁ、誰も確かめられねーじゃんかよ」
あまりにもきっぱり言うTVのおっさんに。
俺は聞こえもしない突込みを入れつつ、TVの電源を消そうとリモコンを持ち上げる。
消す寸前に。
『パラレルワールドは、もう1つの世界。我々が辿らなかった、もう1つの人生、なのかも知れませんね』
にこやかにアホな事を言ってるTVのおっさんの声に、俺は一瞬動きを止めて。
「…アホらしい」
そう言ってTVの電源を切る。
んな存在するかも解らないパラリルワールド?の事なんか、知ったこっちゃねーっての。
「馬っ鹿らしー」
チラリと時計を見ると、良い時間帯になっていた。
この時間なら、アイツももう来てんだろ。
俺はリモコンをテーブルに置き、玄関に向かって歩き出すのだった。
・
・
・
・
・
「遅ェ…」
「…悪ぃ」
屋台で暖かいおでんと熱燗を飲んでると、ようやく現れたアイツ。
バツが悪そうな顔して暖簾をくぐって、俺の隣に腰掛ける。
「親父、俺にも熱燗」
「あいよー」
「親父、俺にもー。…こぉんなに待たすなんて、アレだね。お仕置きもんだよ」
「時間、約束した訳じゃねーだろー」
「大体こんくらいの時間に終わるつったのオメーだろー」
「しょうがねェだろ、出掛けにバタバタしちまって…」」
「あ〜……事件?」
こそっと聞いた俺に、土方が笑って。
…ぁ、コイツいっつもこんなツラしてたら、さぞかしモテんだろーなーとか思ったり思わなかったり。
「ちげーよ。隊士共が騒いでたから、それ治めて来ただけだ」
「へ〜…喧嘩?」
「喧嘩、つうか…」
「?」
「へい、熱燗2つ、お待ち!」
「…まっ、下らねー事だ」
「ふ〜ん」
来た熱燗を何を言うでもなく、お互いの杯に注いで。
やっぱり何を言うでもなく。チン、と杯を合わせて、口に運ぶ。
「…あぁ、あったまんな」
「うん。やっぱ冬は屋台におでん、熱燗だよなー」
…そう言えば。
いつからだろう。こうやって一緒に飲むようになったのは。
「…!……ぉい」
「ん?」
「ん、じゃねーよ。何?下で手ぇ繋ぐとか、ベタな上に、バレたらどーすんだよ」
「寒ぃからとでも言っとけ」
「この行為が寒ぃよ!」
「ほっぺた真っ赤であったかそうだけどなぁ?」
「これは酔ったの!!」
いつからだろう。
コイツとこんな関係になったのは。
最初はお互い、大っ嫌いだったのにな。
反発して。殴り合って。罵り合って。斬り合って。
でも。
いつからだろう。
惹かれてしまった。惹かれ合ってしまった。
「…?何だよ」
「んでもねーよ」
こんな穏やかな気持ちでコイツと杯を重ねるなんて。
本当、もう嘘みたいだ。
「ぁ、そう言えばさ。さっきTVでパラリルワールドの事言ってたよ」
「はぁ?ぱら…パラレルワールドの事か?」
「あぁ、それそれ。何でも俺達じゃない俺達が、この世界とは別に存在するかも知れないんだって」
「何だ、そりゃ。そりゃすでに俺達じゃなくて、ただの他人だろが」
「あはは、だーよーね。俺もそう思う。でもさ、ちょっと興味、ねェ?」
「あ?」
「そのTV曰く、もう1つの人生らしいよ?そしたらさ、俺達は、もしかしたら違う関係にもなってるかも知れないって事」
「違う関係って…、どう言う意味だよ」
「俺達は今でもいがみ合ってて。ツラ合わせりゃ喧嘩ばっかして。こんな風に一緒に飲んだりしてないかも知れないって事」
「はっ。仮想話に付き合ってられっかよ」
「でもさ、何がどう転んでこうなったか覚えてねーけどさ。そう言う可能性だってあるかも知れないじゃん」
「まぁ…そうだけどよ」
「そんな俺達が、今の俺達見たらビックリすんだろーなー。しかも。こーんな事しちゃってるし」
俺はそう言って。
下で繋いでいる土方の手をキュっと握る。
「こんな俺達見たら、土方は切腹しそうだ」
「…どっちかって言うと、斬り掛かりそうだな」
「はは、確かに〜」
もしも。
そのパラレルワールってのがあるんだとすれば。
俺達の関係はどうなっているんだろう。
今と変わらず、会って。何でもない事を話し合ったり。言い合ったり。
手を繋いだり、笑ったり。穏やかな時間を過ごしているのだろうか。
…肌を重ねたりするんだろうか。
それとも。
どうにも転ばず、やっぱり仲の悪いままで。
この穏やかで優しい時間を知らないままなのだろうか。
(それはそれで勿体ないかなーなぁんて)
「…そろそろ行く?」
「ん、あぁ…じゃ、行くか。……親父、勘定」
まぁ俺には関係のない、その世界で。
俺達がどうなろうが知ったこっちゃなくて。
ただ出掛ける寸前で見た、そのどーでも良いTVを何とはなしに話題に出しただけだったのだ。
…その時の俺は。
・
・
・
・
・
「何つーか、むーなしー」
翌日。
ベランダで洗濯物、…もとい、シーツを干していた。
空はピーカンで、超良い天気。
しかし俺としては微妙な気分だった。
何故って。
「…ラブホとかにすりゃぁ良かったよなー」
自分のやら相手のやら、ドロドロになったシーツを洗濯して、干してるんだから。
アホらしいちゅうか、空しいちゅうか。
「…いートシしたおっさん2人が何してんだかねー」
バサっとシーツを干して、思わず呟く。
肝心の土方と言えば、奴は今朝早くに屯所に戻ってった。
何でも急な呼び出しとか。
複雑そうなアイツの顔を思い出し、思わず笑いが漏れる。
そりゃ残念って気持ちがなくはないけど、でも仕事じゃしょうがねーしさ。
「んなのに駄々捏ねるほど、子供じゃねーっての」
そんな呟きをしていたら、家からピーピーっと言う音が響く。
「お、洗濯物第二弾、終わったか」
流石にナニでドロドロになった洗濯物を一緒に洗う気にはなれず。
元々洗濯機に入ってた洗濯物を取り出し、シーツが洗い終わってから溜まってた分の洗濯物を洗った。
それが終わったと言う、洗濯機の音だろう。
「…ぁてて」
洗濯機から洗濯物を取り出し、カゴに入れる。
結構ズッシリとしたそれを持ち上げた時。
昨日酷使した腰が痛みを訴える。
ヨロヨロしながらそれをベランダに持って行って、干す。
ふと。
「…洗濯しちまったけど、大丈夫だよな」
取り出した洗濯物の中に、土方が今朝忘れて行った真選組の制服のスカーフが出て来る。
別に汚れちゃいなかったが、煙草臭かったから洗濯機に一緒にブチ込んでしまった。
取りに来なかったって事は、屯所に代えがあるとかって事だよな。
ジっとそれを見て、何とはなしに、匂いを嗅ぐ。
「うん、落ちてる」
煙草の匂いはもうしない。
乾いてアイロン掛けて、今度会う時にでも返せば良いだろう。
「じゃ、早速干しちまうか」
部屋から見えないように、奥へ。
…追求されるのは、本当勘弁して欲しいからね。
「って、ぅわ?!」
洗濯バサミに引っ掛けようと思ったら、スルリと手から抜け出して。
「おい、ちょっ、せっかく洗濯したのに…!」
ヒラヒラと風に乗って下へ落ちて行こうとする、スカーフを追い掛けて。
「おっしゃ!捕まえ…」
…ミシ…
「た…って、ミシ?」
不吉な音がしたと思ったら。
「ぅ、そだろぉぉぉぉ!!!!」
体重を預けてたベランダの手摺りが見事に崩れて。
俺はスカーフを握ったまま、下へと落ちるのだった。
・
・
・
・
・
「…あ…」
パカっと眼を開けたら、空が見えた。
あぁ、そう言えばベランダから落っこちたんだっけ?
ムクっと起き上がって、辺りを見回す。
気を失ってたのか?んな高いトコから落ちた訳じゃねーのに?
首をコキコキ回して、手を見る。
「…あれ?」
掴んだと思った土方のスカーフがない。
バっと辺りを見渡したが、何処にもなかった。
立ち上がって探したがやっぱり見つからない。
気を失ってる間に風で飛ばされたか…?
「ん〜?」
ぁれ、俺いつもの服着てる…。
確かさっきまで寝巻と言うなの甚平服じゃなかったっけ?
あれ?いつ着替えた?
首を傾げながら、万事屋に戻る。
取り敢えず洗濯物を片づけようとベランダに行って気づいた。
「ぁれ、シーツがねェ…?」
一番最初に干したシーツがない。
それも風で飛ばされたか、と考えたが、洗濯バサミでしっかり止めたのを覚えてるし。
それに何より、シーツを干してた場所に別の洗濯物が干されている。
「…どう言う事だ」
まだ残ってたと思ってた洗濯物も全て干し終わってるみてーだ。
俺は取り敢えずシーツはあるんだろうかと、布団が入ってる襖を開けると、洗濯したと思ってたシーツは布団を包み、布団と共に襖に納まっていた。
「ぁっれー?えー?どうなってんのー?」
まさかあのぐちゃぐちゃのまま襖に入れたとか、ねーよなぁ?
そう思って布団を襖から引きずり出してみれば。
シーツは別に汚れてなくて。
俺はますます首を捻った。
「…ん〜、でもこの感触はな〜」
でも下半身は間違いなく、情事の後を残している。
この下半身に残るこの違和感は、確実にヤったからだろう。
って事は実際ヤったんだろう。…アイツと。
トテトテ歩いて洗面所に行く。
「…うん。やっぱある」
バサっと着物と上着を脱いで、確認。
うん。あるよ。馬鹿が残したキスマーク。
白いから赤が綺麗に映えるとか抜かして、いっつも1つだけ着けるキスマーク。
…まぁ、こっちはアイツの肩に思いっきり歯形残してやったから良いけども。
「え、じゃぁ、どっから夢よ。つか、これが夢?」
ギューっと自分の頬を抓っても、…痛い。
「この痛みは確実に現実だな」
自分でやっときながら、痛い。
サスサスと頬を擦る。
「神楽ー、居るか?」
トントンと神楽が寝てる襖をノックするが、返事はない。
そう言えば定春も、新八も居ねェな。
確か昨夜は土方と飲んで、そのままこっち来る予定だったから、新八ん家に泊まるよう言ったが。
(…10時過ぎればいっつも戻って来るのに)
チラリと壁に掛かった時計に目をやると、もう12時間近だし。
「あ〜、もう訳解んねェ」
俺は息を1つ吐き出して。
せっかくだからこのまま新八ん家でも行くか。
どーせ、帰る途中で遊んでんだろーから。
俺は足を新八ん家に向け、歩を進めた。
雑踏の中、微かにダルい身体に、やっぱ家で待ってた方が良かったかなーなんて思ってると。
「銀ちゃん!」
「…お〜、神楽」
「どっか行くとこアルか?」
「違ェよ!お前がなかなか帰って来ないから、寄り道でもしてんじゃねェかと思って、散歩がてら迎えに来たんだよ」
「お〜。それは御苦労アルな!」
「お前なぁ…。…まぁ、昨日は悪かったな」
「?昨日」
「家飲みすっからって、新八ん家行ってもらっただろ?」
「?何言ってるアルか、銀ちゃん。私、昨日も家に居たアルよ?」
「へ?」
「夜に誰か来たアルか?でも今朝も別にお酒の匂い、充満してなかったネ。銀ちゃんもお酒臭くなかったし」
「え?えー?!」
「とうとう糖が脳まで来てヤられてしまったアルか?」
「え、えぇ??!神楽ちゃん、昨日家に居たの??」
「居たヨ。何言ってるアルか、銀ちゃん。マジでボケたアルか」
えぇぇぇぇぇ?!
じゃ、土方と飲んだのも夢ぇ?!
じゃぁ、この下半身の違和感、何?!
え、ちょっ、ちょっと待て、俺!!
「私今まで定春の散歩してたアルよ。…さ、定春、早く家に帰るアル」
「わんわん」
「銀ちゃんも。天パ抱えてないで、早く家に帰るネ」
「お、おぅ…つうか、好きで抱えてんじゃねーよ。漏れなくついてくる、銀さんのオプションなんだよ、天パは!!」
「行くよー、定春」
「わんわん!」
「…聞いてねェし」
つか、い、意味解んね…。
「………………………………………」
…仮に、だ。
土方と飲んだのも夢だとしよう。
そうすると、昨夜の俺は誰と一緒に居たんだ。
独りで飲んでた?
でもそうすると、この違和感ありまくる下半身の説明がつかない。
誰かと飲んで、その誰かと……
「……………………………………」
いやいやいや。
ない。それはない。
ないつって。誰か。誰でも良いから。ないつって。
「幾らダラしなさを売りにしてる銀さんでも、そう言うダラしなさは売ってねェよ…」
ヨロリとよろける足を何とか前に出して。
俺はすでにもう見えなくなった神楽を追い掛けつつ、万事屋へと引き返す。
もう何が何なんだか、さっぱり解んねーよ。
もう頭ん中パーンってなりそう。
もうぐっちゃぐっちゃのどろどろで、もうパーンってなりそう。
…どうしよう。
何かもう、どうして良いのかも解んな……
「!…あれ」
脳みそぐるんぐるんの俺の視界の端に微かに映った、黒いモノ。
あれは。
「…っ、じかた!」
咄嗟に腕を伸ばした。
人込みに消えそうな奴の腕を掴んだ。
「っ、良かった、ちょっと聞きたい事、が……」
とにかく昨夜、お前と飲んだ事を確認したかった。
泥酔するまで飲んだ覚えなんか、これっぽっちもねーが、何か俺の記憶と周りに何かすんげー違いがあんのは確かで。
微かに香る煙草の匂いに、俺は何となくホっとして見上げた、土方の顔は、俺の予想とは遥かに違った表情だった。
「ぇ、土方君、何怒って…」
「……何、気安く触ってんだよ」
「……ぇ……」
明らかに嫌がった表情と、振り払われた腕。
え、何?何で??
「ぇ、何…」
「つーか、テメーが街ん中で俺に声掛けるたー珍しいじゃねェか。とうとう決着付ける気になったのか?あぁ?」
「え、何の話…」
「良い度胸じゃねェか。その汚ねー頭、真っ赤に染めてやんよ」
「え、えぇぇぇぇ?!何抜刀してんのぉぉぉぉ?!!」
声掛けただけでいきなり抜刀して来たコイツに。
俺は慌てて両手を空高く上げたが、コイツの殺気立った目は変わらない。
「ちょっとぉぉ?!俺、何もしてないよぉぉ!!つか、ちょっと聞きたい事がね!!」
「…あぁ。後で聞いてやんよ。口が利けたらな」
「殺す気満々じゃねェか!!」
「テメっ、待ちやがれ!万事屋ぁぁ!!!」
何、何何何何?!
何でいきなり抜刀してんの、あの馬鹿!
つか、いつも以上に瞳孔全開、殺気全開なんですけど?!
俺、殺されるような事した?
「え、やっぱ下半身の違和感、違うの?」
浮気、…ゃ、そもそも浮気かどうかも解んねーけど、この違和感の原因は土方じゃなくて?
それがバレた(?)とか??
「ぇ、マジで…?」
全然身に覚えないんですけど。
つか、これって言い訳になりませんかね?
サァっと引く血の気を感じながら、俺の脳はますますぐちゃぐちゃになって行く。
「おいおいおいおい、一晩明けて、何がどうなったってんだよ」
ぐしゃぐしゃと頭を掻きながら。
とにかく一旦万事屋に戻ろうと、俺は土方に会わないよう、裏道裏道を使い、万事屋へと戻った。
「あぁ、もう、マジダルい…。…ただいま〜」
「あ、銀ちゃん、遅かったネ!何処で道草喰ってたアルか!」
「しょうがねーだろ。…何か知んねーけど、土方のアホが斬り掛かって来るから、裏道使って戻って来たんだよ。時間掛かってしょうがねェよ…」
「またあの、ニコチンコアルか。本当に銀ちゃんと仲悪いアルな」
「…は?」
神楽の紡いだ言葉に、俺は一瞬マジマジと神楽を見た。
だって。
まぁ、仲こそ公にはしちゃいねーが、つか、出来ねーが。
俺達が何とはなしに和解したのは万事屋の連中、また真選組の連中も知ってるはずだ。
それが…仲が悪い?
「いっつも銀ちゃん見ると斬り掛かって来るネ。今日は銀ちゃん、迎え討たなかったアルか?」
「迎え討つって…」
「『一遍、完膚なきまでに叩き潰さねーと気が治まらない』って言ってたじゃないアルか」
「え、えええぇぇ??!俺が?アイツを?」
「?うん」
え、えぇ…どうなってんの。
仲が悪いとかの問題じゃねーじゃねーか。
お互い殺意抱いてるよ。
つか、俺が?アイツを?完膚なきまでって…。
「…今日はエイプリルフールか」
「そんなのもうとっくのとうに終わってるネ。どうしたアルか、銀ちゃん。今日は何かおかしいアルよ」
いやいやいや。
おかしいのはオメー等だから。
オメー等つーか、土方だ、土方。
何だ、アレ。最早別じ………。
「…………………いやいやいや。まさか。ないよ。幾ら何でも。だってベタ過ぎるじゃん?TVで聞きましたー。実現しちゃいましたーとか」
「?どうしたアルか、銀ちゃん」
あははははは、と自分でも乾いた笑いをしながら、自分の思考を否定する。
嫌々。それはない。流石にない。
だって並行してるんだよね?行けないんだよね?
『パラレルワールドは、もう1つの世界。我々が辿らなかった、もう1つの人生、なのかも知れませんね』
「もう1つの、人生…」
突如変化した土方の態度。
これがもし、もう1つの人生だつうんなら。
俺とお前が和解しなかった時のもう1つの人生って…。
「よりにもよって殺し合いかよ…」
…だって。
そうじゃなきゃ説明がつかない。
ベタです。とか、在り来たりです、とか。
んな突っ込みしても始まらない。
……あの、本気で憎んでる。『敵』を見る目で俺を見てた土方。
一晩で変わるなんて、ねーだろ、普通。
「てか、何で俺、ココに居んだ…?」
さっきも思ったが、確か並行してんだろ?
並行してんなら交わる事ぁねーだろう。
なのに何で俺は、そのパラレルワールドに来てる訳?
「んな扉、開いた覚えもねーぞ…?」
目が覚めるまでの行動を思い返しても。
別段、変わった事をした覚えはないんだけど…。
「…あ」
それでフと思い出した。
そう言や、落ちたな。ベランダから。
土方のスカーフ取る為に。
「……それ、か」
それ以外変わった事はなかった。
「ん〜…。ん〜…?」
そう思いつくと。
何だか本当にそれが原因なような気がして。
「あぁ、もう!しょうがねェな!!」
いつまでも。
こんな気味の悪い世界に居たってしょうがねェから!
俺はスラっとベランダに続く戸を開いて、ベランダへ出る。
「銀ちゃん?」
「ごめんな、神楽。多分、これで戻れっから」
「??」
不思議そうに俺を見る神楽にそう言って。
多分だが、これが原因。
ベランダから落ちて、何でか入れ替わっちまったんだろう。
もう1回落ちれば、こっちの世界の俺とあっちの世界……あっちでどっちだ?!
まぁ、良い!!…とにかく!
「もっかい落ちれば入れ替わんだろう!!…せーの!」
「銀ちゃん?!」
「おらぁ!!!」
ドサ!!!
「……………………………………………」
「何してるネ、銀ちゃん」
「あ〜るうぇ〜?」
入れ替わるはず、なんですけど…。
「何でだ…原因はアレじゃねーのか…でも、アレ以外に変わった事なんて…」
「何ブツブツ言ってるネ。お昼にするから、早く上がって来る、ヨロシ」
ブツブツと呟いてる俺に。神楽はそう声を掛けて、さっさと中へと姿を消す。
…どうなってんだ、一体。
ベランダから落ちたのが原因じゃねーのか。
じゃぁ、どうやったら元に戻れんだよ。
「……………………………………………ま、いつか戻れんだろ」
色々考えてみたが、考えんのもめんどくさくなって来た。
まぁ、来れるんなら帰れんだろ。
幸い、土方君以外の奴は別段変わった様子もねーから、困んねーし。
俺はボリボリと頭を掻いて、よっとと起き上がる。
パンパンっと服についた埃を払って、万事屋へと戻って行く。
「…………そう言や、こっちの世界の俺って、前に俺が居た世界に居んのかねー」
ふと、この世界に居た俺の事を思う。
土方とあんなんだったから、あっちの世界との土方とのギャップに驚いてんだろーなー。
俺から斬り掛かるって事はないだろうけど、でも、この世界の俺はどうも土方嫌いみてーだしなー。
『完膚なきまでに叩き潰す』かぁ…。
「何があったんだかね、こっちの俺達は」
切腹とか、斬り掛かるとかの次元じゃないみたいよ、土方君。
・
・
・
・
・
それから。一週間が過ぎた。
(やっべぇぇぇぇぇぇ…!!)
全然戻る、戻れる気配のない俺に、さすがに焦りが出て来た。
「え、マジで。マジでか。ずっとこのままとか、んなの冗談じゃないって、マジで…!」
前にも思ったが、土方以外、元の俺の世界の連中と変わりはない。
変わりはないから、まぁ良いか、とか思ったけど。
その土方が問題だ。
巡回なのか何なのか知らねーが。
歌舞伎町歩けば、必ず出会う。
出会った瞬間、抜刀して来やがる。
最初は、まぁ顔見知りんなった時のコイツみてー(んな過激じゃなかったが)とか思って、ちょっと懐かしんだが。
徐々にうっとしくなって。…若干避けた。
真選組の奴と話してる時に、そ〜っと横を通り過ぎようとした時には舌打ちされるし(こっちがしてェよ)
すっげェ嫌なものを見る目で俺を見る。
「…最初から、んな目で見られてたっけ…」
確かに当初は本当仲悪くて、喧嘩とか罵り合いばっかしてたけど。
あんな目で見られてたっけっか…?
「は〜…マジ、この世界の俺、アイツに何したんだよ…」
あんな目で俺を見る土方なんて、俺は知らない。
土方にパラレルワールドの話をした時、土方は「そりゃすでに俺達じゃなくて、ただの他人だろが」と言ったけど。
「…俺もそう、思うんだけどさ」
でも、オメー想像してみろよ。
オメーの顔したオメーが。嫌なものを見るように。目の敵にするように。
俺を見るんだぞ。
「………会わなけりゃ、思い出しもしねーのに」
会わなきゃ、思い出しもしねーのに。
外歩く度に居やがる。
何だ、ありゃ。監視か。
「…酒でも飲みに行こう」
どうにもこうにも気が滅入ってしょうがなくて。
俺は溜め息1つ吐き出して、立ち上がる。
今日は寒くて丁度良いから。
前に土方と言ったおでんの屋台に行こう。
俺は心にそう決めて。
一週間前とは全く真逆の気持ちで、屋台へと向かった。
「な・の・に」
「…テメェ…」
「なーんで、来ちゃうかな」
熱燗とおでんでホクホクしてたら。
暖簾をくぐって来た男に、俺は思わずそう呟く。
あぁ、そうね。
確か、別の世界の土方君、な訳ね。
そりゃー思考は同じだわ。
「チェッ、おりゃー飲み始めたばっかだつうの」
グイっと残りの酒を飲んで、立ち上がる。
「…おい」
「……何。斬り合いならやんないよ。俺はもう帰るから、オメーはゆっくり飲んだら良いじゃねェか」
「気に食わねーんだよ。これじゃぁまるで俺が、譲ってもらったみてーじゃねーか」
「たまたまだよ。そろそろ帰ろうかと思ってたところなんだよ」
そのまま顔も見ないで擦れ違ってしまおうとした俺に、土方がパシっと俺の手首を掴んで文句を言い始める。
何々だよ…!
「嘘吐け。今、飲み始めたばっかつったじゃねーかよ」
「…じゃぁ、言わせてもらいますけど。嫌いな奴とツラ合わせて酒飲んだって美味くねーだろうよ」
「あぁ、そうだな。嫌いな奴と同じ店で飲むなんて死んでもした……」
「っ、じゃぁ!!」
掴んでた手を薙ぎ払うように、腕を振った。
あまりに強くやったもんだから、それはすぐに剥がれて。
「俺が出てくつーんだから、放っとけよ!!わざわざ文句言う為に引き留めんじゃねーよ!!!」
一週間。
ずっと我慢してた。
最初は微かに懐かしいって気持ちがあった。
だって本当に最初の内は、お互い嫌い合ってたから。
それがいつしか。
誰よりも別の意味で、大切になった。
何でもない時間を何でもなく、一緒に過ごして。
手を握って。
抱き合って。
キスをして。
肌を重ねた。
穏やかで優しい時間がそこにはあって。
穏やかで優しい眼差しがそこにはあった。
愛しむ手と腕。言葉なんかじゃなくて、態度とか眼差しで。
ただ大切だって、大事だって。
…言われてる気がした。
なのに、突然。
『敵』を見る目で見られて。
全身で嫌いを通り越した、憎しみを俺に向けるようになった。
何かが原因ではない。
ここは『そう言う』世界なのだ、と。
…そんなの受け入れられる訳ねーじゃねーか。
こんなお前は知らない。
こんなお前、知りたくなかった。
「おい!」
「うるせー!ついて来んな!!俺のツラなんか見たくねーんだろ!!放っとけよ!!!」
「うるせー!好きで構ってんじゃねー!テメーが…っ!」
「っ、離せ…!」
もう何もかもがぐしゃぐしゃで。
とにかく。
早く帰りたかった。
コイツのツラを見て居たくなかった。
俺は足早に屋台を後にし、万事屋へと戻ろうとしていた。
てっきりそのままシカトしてると思ってたコイツが追い掛けて来て。
いきなりまた、手首を掴んで来た時には、もうコイツを殴り飛ばしてやりたい気分だった。
土方のクセに。土方じゃないクセに。土方と同じ顔して、別人のクセに。
んで、俺がこんな気持ちになんないといけないんだよ…!
「…おい、何つうツラしてんだよ」
「どう言うツラもしてねーよ。これが俺のデフォなんだよ」
「嘘吐け。つか、お前、どう言うつもりなんだよ」
「は?何が?」
「…いっつも、俺、見てんだろ…」
「はぁ?自意識過剰ですかってんだ、この野郎。誰が瞳孔全開のお前なんか見るかってんだ」
「ツラの事言ってんじゃねーよ!!…背中だよ」
「背中…?」
「……また、自意識過剰ってテメーは言うんだろーけど。………街中で会って、俺が立ち去る時、いっつも背中見てんだろーが」
「……そりゃ、立ち去る時なんだから、背中向けられれば背中くれェ見るだろうが」
「そん時の目が!…いつもと違う」
ギリっと土方が握っている手に力を込める。
握られているのは、俺の手首な訳だから、当然痛い訳で。
でも俺はそれさえも振り払わず、ポカンっとしてしまった。
だって。
…自覚、なかった…。
「…良いから、もう離せよ。んで、もう金輪際オメーと関わらねーから。オメーも街で俺見掛けても、声掛けんな。抜刀すんな」
「答えろ。…あの目の意味は何だ」
「意味なんてねーよ。…死んでくれねーかなって思ってたんだよ、きっと」
あぁ本当、もう死んでくれないかな。
別人のコイツのお陰で。
俺は毎回つくづく思い知らされんだ。
あぁ、もう。あの眼差しの土方にはもう会えないんだな、とか。
あんな風に俺を見つめる土方をもう見れないんだな、とか。
あの、優しく俺の髪を撫でる土方は居ないんだな、とか。
探しても、もう絶対会えない土方君を、同じ顔したコイツに、俺は思い知らされる。
いっそう、俺の前から消えてなくなれば良いのに。
思い出さなきゃ良いのに。思い出したくないのに。同じ顔したコイツが、それを許してくれない。
憎しみと殺気の籠った眼差しが、ただ俺に、痛みだけを与えて行く。
「教えろよ。あの視線の意味」
「……っ、んで…」
告って来たのテメーじゃねーかよ。
何で俺がこんな必死になんなきゃいけねーんだよ。
何で俺が…。
「んで、俺が、こんな思いしなきゃなんねーんだよ…!」
「は…?」
「告って来たの、テメーだろ?!俺をその気にさせたのはテメーだろ!」
「は?告ってって何の話…」
「俺を…ドロドロにするくらい甘やかしたのはテメーなのに…!」
グイっと。
握られたままだった、手首をそのまま引く。
まさか引かれるとは思ってなかったんだろう。
それは容易に俺の傍に来た。
だから。
「なっ…!」
そのまま、目の前に来た唇にキスをした。
温もりも何も伝わらない、ただ合わせるだけの幼い、キス。
ただ、奴がパッと手首から手を放したから。
驚いて、固まったから。
「…今更引き返せる訳ねーだろ。別世界です別人ですで、済ますなんて納得するか、…馬鹿!」
それだけを言って、俺はタっと走り始める。
まだそんなに酒を飲んでいなかったのが幸いした。
俺はすぐ裏道に入り、万事屋に向かって足を速める。
アイツが追い掛けて来ないように。
もう二度と、アイツの顔を見なくても良いように。
(…多分、もう関わって来ないだろ)
嫌いなヤローにキスされたとあっちゃぁ、もう二度と、そのツラ拝む事もないだろう。
俺は、ハァっと息を吐き出す。
見上げれば、真ん丸い月が夜空にポッカリと浮かんでいる。
…それから翌朝。
ガンガンガンガンガン!!!!
「ん〜…こんな朝早くに誰ぇ?」
「銀ちゃん、早く出てヨ〜…」
早朝にも関わらず、激しく万事屋のガラス戸を叩く音に叩き起こされる。
おいおいおいおい。
こっちは自棄酒かっくらって、二日酔いなんだよ。頭ガンガンなんだよ。
響くだろーがー!!
「はいはい、誰よ〜、こんな朝っぱらから」
ガラッと開けた玄関先に、思ってもいない人物が居て、俺は早々に玄関の戸を閉めようとした。
が。
「おいおい、人の顔見るなり、閉めるってどー言う事だ、コラ」
「いやいやいや。お引き取り下さい。てか、昨日言ったよね?俺に関わるなって」
もう会わないだろうと思ってた土方がそこには居て。
玄関を閉めようとした俺に、いち早く気づき、玄関に手を掛け、俺が閉めようとしたのを阻止するのだった。
「帰れって!もう300円あげるからぁ!!」
「要るか、んな端金!!」
玄関の戸を開けるか閉めるかの攻防を繰り返し。
俺がそう叫ぶと、土方はそう叫び返して、玄関戸を無理矢理開かせた。
焦った俺は、と言うと。
「おま、端金とは何だよ。300円馬鹿にしちゃ駄目だよ」
後退りつつ、どう逃げるかの算段をつける。
ジリジリと迫って来るコイツに。
「誰アルか〜?銀ちゃん」
「か、神楽はまだ寝とけ!新聞のかんゆーだ、かんゆー」
「…ふ〜ん。お休みアルよ〜」
「……誰が新聞の勧誘だ」
「…本当に勧誘だったら良いのにね…」
起きて来そうな神楽にそう声を掛け、土方に向き直る。
…やっべー、マジ切れしてんなー。
昨日のか?昨日のだよな。
ちょっとした茶目っ気で許されるか?
許される訳ねーよなー。
あー、もう。昨日の今日だってのにノコノコツラ現しやがって。
本当もう空気読んでー!!
「話があって来た」
「…あっそ。でも俺は何も話す事なんかねーよ」
ふいっと顔を背ける。
あぁ、いっそうの事、俺がパラレルワールドから来た事言って。
俺が元居た世界では、俺とお前は恋人同士なんだって言っちまえば良いかもな。
それで頭の可笑しい奴だと言われるも良し、からかわれてると怒り狂って出てくのも良し。
もうこれ以上。
アイツの顔したコイツに、ジクジクとした傷をつけられんのは腹が立つ。
そう思ってるのに。
「…どう言う意味だ」
「な、何が…?」
「昨日の…告ったとか、その気にさせたとか。後、……キス、とか」
「…………………………………………………」
ポツリポツリと呟かれるコイツの言葉を聞きながら。
俺はジリジリと後ろに下がる。
気づけば窓んトコまで来たから、気づかれないように鍵を開けて、窓も開く。
…いつの間にか、逃げる準備をしてる自分が居る。
「…何、してる?」
「え…や〜、部屋の空気が濁ってるかな?と思って、空気の入れ替え?」
「んなもん、後にしやがれ。人が真剣に話をだな…って、おい、何処に行く気だ?」
「いやいやいや、今日も良い天気だな〜と」
会話をしながら、俺はベランダに出る。
それをコイツも追っ掛けてきやがる。
あぁ、もう、本当にしつこい奴だ。
「逃げてんじゃねェ、万事屋!!」
「いやいや、もう良いってば。昨日の事は忘れて、お互い、もう関与しないで生きて行こう?」
「そうじゃなくて、俺は…!」
「あーあー!聞きたくねェ!!」
もうどんな言葉でも聞きたくない。
忘れるって決めた。
あの、俺の知ってる土方にはもう会えないんだって。
叫び出しそうな気持ちに蓋をして、忘れて、この世界で生きて行こうって決めたんだ。
だからもう。…揺るがされたくないんだ。
…ミシ…
「お、おい!」
「ミシって……またぁ?!」
手摺りに預けていた身体がまた、浮遊する。
また壊れたらしい手摺りに、またかよ!と突っ込みしつつ、俺は落ちて行くのだった。
・
・
・
・
・
「…ん…」
「…気づいたか?!」
パチっと眼が開くと、土方のドアップ。
「…最悪」
「最悪って…、おい、どっか怪我してんのか?」
「…してねーよ。してないから、もうお前、どっか行って。さっさと居なくなってよ」
気がつくと、やっぱりベランダから落っこちたらしい俺が地面に横たわってる。
眼前にはドアップの土方と、その後ろに青い空。
それすらももう見ていたくなくて、俺は腕で目を覆う。
「まだ、んな事言ってるのかよ。聞け、銀時。俺はな…」
「ん?…ちょっと待て。お前、今何つった?」
「あ?聞けって…」
「違う!俺の事、何て言った?」
「銀時、って…」
銀時って…ぁれ、なんか可笑しくねーか。
確かアイツは俺の事「万事屋」って呼んでて、「銀時」なんて…。
「どうした?やっぱどっか痛ェのか?」
「土方、君」
「?おぉ」
「土方君…」
そっと手を伸ばしても振り払われない。
目も、憎しみが籠ってない。
憎しみどころか…嫌悪も、何も。
つか、俺の知ってる土方の眼差し。
「…?おい、どした?」
「〜〜〜っっ」
キュっと抱き締める。
もう、もう二度と会えないと思ってた土方がココに居る。
「銀時?」
「……………ってして」
「は?」
「…ギュってして。ギュ〜って」
「?どうかしたのか。あ、やっぱ頭打って」
「打ってねーってば!良いからさっさと抱き締めろよ、このヤロー!!」
「??」
俺がそう怒鳴ると。
土方は訳も解らず、俺を抱き締める。
煙草の匂いと土方の匂い。
それで肺を満たしながら。
俺は幸せな気分に浸っていた。
「パラレルワールドに行ってた?」
それから。
取り敢えず万事屋に戻って来た俺は。
土方に、あの変な世界の事を話した。
「うん。最初は意味解んなかったけど、あれは多分パラリルワールドだったね」
「パラレルワールドな。…あぁ、だけど、…なるほどな」
「?何」
「否な、ここ一週間くれェ、お前の様子が可笑しかったから」
「…俺の?」
「あぁ。あの夜、急に屯所に戻った事怒ってるのかと思ったけど、…何か目つきに殺気が篭ってて、な」
「あ〜…うん、なるほどねぇ」
あっちの世界では、俺とお前は本当に嫌いとかじゃなくて、憎しみ合ってたみたいだからな…。
「んで今朝、問い詰めに来たら、『俺の知ってる土方じゃねェ!』とか何とか抜かして、ベランダに逃げるからよぉ」
「追い掛けて行って、俺が自滅した、と」
「自滅つうか…まぁ、ベランダの手摺りが壊れて、下に落ちたんだ」
どうやらベランダから落ちるのは正解だったみてーだけど。
2人同時ってのが味噌だったみてーだな。
「あー、もう。懲り懲りだぜ、パラリルワールドは」
「パラレルワールドだっつってんだろーが。…何だ、楽しくなかったのか?」
「ぜんぜーん、楽しくなかった!あっちの世界の俺とお前は全然仲良くなかったぜ。俺、会っていきなり斬り掛かられた」
「あー、俺も木刀構えられた。何もしてねーのに」
お互い思い出して、げんなりとする。
「何で仲悪かったんだ?」
「知らねー。もう良いんじゃね、戻ったんだから」
「まぁ、それもそうなんだけどよぉ。何となく、気になる」
「んー、まぁ、な。……って、あ」
「ん?何だ、どうした?」
「俺達は丸く治まってるけどよ?アイツ等どーなんだろーな。俺と場所が変わっただけ、ってんなら、俺も最後土方と一緒だったぞ」
「え、そうなのか」
「うん。…斬り合いになってなきゃ良いけどなー」
「それは…微妙なトコだな」
「だよねー。うーん…別に俺達とは関係ないけど」
「気にはなるな」
「そうなんだよ。…後」
「ん?」
俺は向かい合って座っていた位置から、土方の隣へと移動する。
そしてキュっと土方の手に、自身の手を絡ますと。
「勿体ないなーと思って」
「勿体ない?」
「だってこの温もり知らねーの、勿体ないと思わない?」
「…あぁ、確かに」
繋いだ手を顔の高さまで持って行き、微笑みながらそう言う。
その言葉に、土方もニっと笑い、キュっと手に力を込める。
そしてどちらともなく顔を近づけ、ゆっくりとキスをする。
触れ合うだけの最初と、角度を変えて、微かに深くするのと。
それからそのままコツンっとおでこをぶつけ合って、微笑み合った。
「へへ」
「…あぁ、でも心配要らねーかも」
「?何が」
「あっち、…パラレルワールドの俺達の心配。要らねーかも」
「へ?何で?」
「否、ベランダに出て逃げるお前…パラレルワールドのお前な、…何つうか」
「?何」
「可愛いかったから」
「…は?」
「そんな目で俺を見るなーとか、顔真っ赤にして叫んでんの。すっげー可愛かった。あの顔のまんま戻ったつうんなら、オチるな」
「…………ちょっと。浮気?浮気ですか、この野郎」
「あででで。んな強く握んな…ちょっ、ミシミシ言ってる、ミシミシ言ってる!!」
今の言葉の怒りと。
パラレルワールドに居た時に感じたイライラを込めて。
俺は強く強く土方の手を握る。
ギャァギャァとうるさい土方に、俺はやっぱり可笑しくて。
「まっ、オメーの言う通り」
「あ?」
「何処に居ても。オメーと繋がってるってのも悪くねーかもな」
あっちの世界の自分達に、エールを送るのだった。
・END・
2010/12/08UP