「あ〜…急に冷え込みやがって。こっちにも準備つうかね、心の装備的なモンの用意が必要なんだよ…」
ハァと息を吐けば。
微かに白くなる息に、銀時はゲンナリとした気持ちでそれを眺める。
「こう言う日はアレだよ。家に帰って暖かくして、汁粉でもすすっててェよ…」
こんな寒空に銀時が外に居る理由は、ただ1つ。
家賃の催促から逃げる為だ。
ドアを壊さんばかりに叩きまくるキャサリンから、窓から逃げ、何処に向かうでもなく、歌舞伎町をウロウロしている。
「あ〜、アイツもう帰ったかな?…否、結構しつけェからな。まだ駄目か…」
冷たい風が、身にしみる。
何処でも良いから、風が避けられる場所に移動しようかと考えたが。
突然の襲撃で、慌てて出て来たものだから、財布も持って来ていない。
その為、何処か店に入ると言う事も叶わない。
「…まぁ、財布持ってても変わんねーけど」
確か記憶していた財布の中身は、心元ないものだったはずだ。
「あ〜、もう身も心も寒ぃ!!」
「…何独りでブツブツ言ってんだよ」
「へは?…土方君」
「傍から見て、怖ェよ。今日はお供はどうした?」
「お供?」
「ほら、あの眼鏡とチャイナ」
「あぁ。新八は今日こっちには来てねーよ。神楽は定春の散歩中」
「ふぅん。…で?」
「ん?」
「お前はどうしたんだよ?」
「あぁ、うん。ちょっと、ブラブ………へっぶし!!」
流石に家賃の催促から逃げて来たとは言えず。
取り敢えずブラブラしてるだけだと告げようとしたら。
ムズっとした鼻と、出たくしゃみ。
「おいおい。風邪移すなよ」
「ずず…ぁ〜…寒ぃ」
「んな薄着してっからだよ」
「あ〜も〜ね。急に寒くなるから」
「あぁ、そう言えば急に冷え込んで来たもんな」
「そうだよ。…あ〜、寒ぃ」
ブルブルと震えながら、身体を固くする銀時に。
「はぁ…しょうがねェな。…おい、銀時。ブラブラしてるってんなら、時間あんだろ?」
「え?うん、時間なら、腐るほどあるけど」
「んじゃ、ちょっと付き合え」
「?」
「寒ぃから、ちょっとそこの茶店で休憩取る。お前も付き合え」
「え…?」
「時間あんなら良いだろ。ほら、行くぞ」
「え、あ、ちょっ…」
グイっと腕を引っ張られて。
銀時は戸惑い気味に、それについて行く。
「え、おい、大丈夫だよ。もうちっとブラブラしたら帰るから」
「勘違いすんな。テメーが寒そうにしてるからじゃねー。俺が寒いから喫茶店に入んだよ。独りじゃつまんねーから、暇なお前が付き合え」
「…………おま、よく言うよな」
「あぁ?!」
照れ隠しか、凄く土方に。
「何でもねーよ。つか、パフェ食べても良い?」
「パフェじゃなくて、あったまるモン食え」
「えー…あ!じゃぁ、汁粉が良い、汁粉」
「クソ甘そうだな…」
ゲンナリとした様子の土方に微笑んで。
「ばっか。寒い時は汁粉だろ。汁粉はあったまるぞー。お前もどう?」
「おりゃぁ、コーヒーで充分だ」
水を持って来たウェイトレスに、コーヒーとお汁粉を注文する。
土方は懐から、煙草を取り出し、カチリと火を点ける。
フゥ〜と紫煙を吐き出す土方に、銀時はパラパラと、まだメニュー表を見ながら。
「…そう言えばさ、土方君、仕事は?」
「見回り中」
「…ふぅん。ココでサボってて良いのかよ」
何処か興味のなさそうな返事に。
「何だよ」
「いやぁ、ここで『休み』とかの言葉が出て来たら最高なんだけどなぁ、と思って」
「は?」
「ん〜、もうちょっとなんだけどなぁ…」
「何だよ、そ…」
「お待たせ致しました」
「あ、待ってました!」
言葉を続けようとした土方に。
注文していたコーヒーとお汁粉が来て、会話は区切られてしまった。
そのタイミングの悪さに、土方は思わず「チっ」と舌打ちをして。
「おい、銀時。どう言う意味だよ、それ」
「え、何が?」
「だから。俺が『休み』つったら、どうだって言うんだよ。つか、もうちょっとって何だよ」
「あぁ。別に気にしなくて良いよ。独り言だから」
「んなデケェ独り言があるかよ!」
ズズっとお汁粉をすする銀時に、土方は厳しい顔をして銀時を睨む。
「やだな〜、土方君。そんな怖い顔で睨まないでよ」
「好きで睨んでんじゃねェよ。お前が訳解んねェ事言うからだろ」
「意味解んなくねーだろ。…惜しいなぁ、と思って」
「?何が」
「や、ね。さっきの土方君の行動に、銀さん不覚にも、ちょっとキュンっと来ちゃったからね。ここで『お休み』って言われたら、ちょーっとシッポリしても良いかなぁと」
「は?」
「ホテルでも良いだろ?屯所でも良いぜ。…ぁ、でも万事屋は駄目だけど」
「何で万事屋が駄目なんだよ?」
「襲撃がね、いつ来るか解んない……って嫌々、神楽がね?いつ帰って来るか解んねーから。シッポリしてる時にバッタリとか。本当怖いから」
「待て待て待て。お前、今何つった?襲撃とか言わなかったか?また厄介事に巻き込まれてんじゃ…」
「嫌々、何でもねーから。気のせいだから。空耳アワーだから。つか、お前が考えてるような事とかじゃねーから」
不穏な言葉に、ピクリと土方の眉が動く。
しかし銀時は、きっぱりと否定の言葉を口にして。
「ごちそーさん。仕事中なら仕事戻れ。土方君の汁粉のお陰で身体もあったまったし。俺もそろそろ戻るわ」
「え、あ、おい」
「お仕事頑張ってな〜」
ヒラヒラと手を振って、喫茶店を後にする。
喫茶店を出て。
ハァと吐き出した息は、先ほどより白い気がする。
暖かいものを飲んで。温度が上がったせいだろう。
「寒いから人肌恋しくて、しょうがねーよなー」
不意に上がった熱に。
銀時はポリポリと頭を掻いて。
そろそろキャサリンも諦めただろうと、万事屋へと足を向ける。
「…銀時!」
しばらく歩いていたら。
不意に後ろから、名を呼ばれた。
何だと振り向けば、走り寄って来る土方の姿。
「土方君。…どったの?」
「お前、歩くの早ェよ」
「何、どうしたの?俺、何か忘れモンでもした?」
珍しく走って追い掛けて来たのだろう、土方を見れば。
「これ、巻いとけ」
ふわりと首に巻かれたマフラー。
「え…ちょっ、何これ?」
「それから。俺、明後日休みだから、行くからな。万事屋」
「へ?」
「チャイナ、眼鏡んトコに預けとけよ。風邪引いて、ドタキャンとかすんなよ。外出てく時は、それ巻いとけよ。…じゃぁな」
言うだけ言って走り去る、土方に。
銀時はポカンと、それを見送る。
そしてゆっくりと、首に巻かれたマフラーを見る。
「…おいおい、値札付いたまんまじゃねーか」
買ったばかりなのだろう、値札が付いたままのそれに、思わず苦笑する。
格好つけるくせに、何処か必ずと言って良いほど、抜けている。
それが可愛いと思う自分も大概だが。
「…巻いとけ、か」
ぬくぬくと暖かいそれに。
顔を埋めながら。
思い出すのは、何処か必死に駆け寄って来た土方の表情。
「あれから急いで買って来たのかな…」
喫茶店を出て。
雑貨屋に寄って、これを買って来て。
自分を追い掛けて来てくれたのだろうか。
「…あったかい…」
首も、心も。
「今年はあったかく過ごせそーだなー」
緩む口元をマフラーで隠して。
銀時は万事屋へとまた、足を進めるのだった。
・END・
2010/11/30UP