「暑ぃ〜…」
「……………………………」
「んだよ、クーラーあると思って、このクソ暑い中わざわざ来てやったのに、クーラーねェのかよ」
「……………………………」
「ねーねー、多串君。クーラー買おうよ、クーラー!」
「………………っ、テんメェ!」
「ぉよ?」
「およじゃねェよ、およじゃ!!」
「どったの、多串君。つかさ、こんな暑いのにそんなカッカすんなよ。余計暑くなんぞ?」
「好きでカッカしてんじゃねェんだよ!!テメェがカッカさせてんだよ!!」
「俺ぇ?何でよ??」
「さも不思議つうツラすんじゃねェんだよ!!ここは屯所、警察所だぞ!休憩所じゃねェんだよ!それに俺は多串じゃねェ、土方だ!どんだけそのネタ引っ張んだよ!!」
「や〜、仕事で忙しそうな土方君に、一時の癒しの風をね?」
「全っ然癒されねェんだよ!!…クソ、それでなくても馬鹿総悟の始末書の作成に追われてんのによぉ」
「あぁ、新聞に載ってたアレ?何?土方君が始末書書いてんの?」
「本当は総悟が書かなきゃいけねェんだけど、今月入って5個目の始末書だからな。…正直手が回ってねェ」
「おいおい、大丈夫かよ…」
「俺もあの現場居たからな」
「サラっと言うな、サラっと。始末書手伝う前に止めろよ」
「…止められると思うか?」
「まぁ、無理だね。土方君じゃぁ」
「…テメェ…」
「事実じゃん。だから。こうやって始末書作成のお手伝いさせられるハメになってんでしょ」
「…クソっ」


銀時の一言に二の次が告げられず。
土方は振り返っていた顔をまた、机へと向けた。


「あ〜…良い風入って来た」


ゴロンっと横になり、銀時が瞳を閉じると。
開けていた障子から、心地良い風が入って来る。


「…おっし」
「出来た?」
「あぁ」


そのまま静かな時間が過ぎ、心地良い風と穏やかな時間に銀時がウトウトし始めた頃、土方から声が上がった。
それに反応して、銀時は閉じていた瞳を開く。


「提出に行く?」
「否、今日松平のおっさんが屯所に来るからな。そん時渡す」
「ふ〜ん。…ねぇ」
「ん?」


銀時は土方の向けられた背を見ながら呼び掛けた。
その声に土方は顔だけ振り返って。
目が合ったまま、銀時は手だけ来い来いと手招きを見せる。


「何だよ?」
「良いから。…土方君、ちょっとこっち来て」
「…ぁんだよ」


仰向けに寝転がったままの銀時は、顔だけ土方に向いたまま。
良いから来いとだけ告げる。
用があるならお前から来い、横着しやがって。
そんな事を思いながら、土方は銀時に近づいた。


「何だよ。言っとくけど、クーラーなら買わねェからな。俺ぁどうもあの人工的な涼しさが嫌…」
「違ェよ。良いから早くこっち来いって」
「んだよ。用があんならテメェから…」
「ひ〜じか〜たく〜ん」
「…わーったよ」


頑として譲らない銀時に。
これでは堂々巡りだと。
土方は溜め息を一つ吐いて、銀時へと近づく。


「何……んっ」
「ん〜…」


するとグイっと胸倉を掴まれて、そのまま口付けられる。
最初は驚いていた土方だったが、侵入して来た銀時の舌に、微かに口元を緩めると、自身の舌もそれに絡めるのだった。


「…ぷは!ちょっ、真昼間から激し過ぎるんですけど」
「テメェから仕掛けて来といて、文句言うな」
「…くそ〜、何か悔しい…これじゃぁ俺がお前に翻弄されてるみてェじゃねェか…」
「みたいじゃなくて、翻弄されてんだろ」
「いーや!翻弄されてないね!!」
「はっ、ほざいとけほざいとけ」
「むっか〜。あぁ、そう言う態度取っちゃう訳?じゃぁ、銀さん、本気だしちゃうよ?!」
「はっ、テメーの本気なんて、これっぽっちも怖くないね」
「へ〜ほ〜ふ〜ん」


鼻で笑う土方に。
銀時はムックリと起き上がり。


「土方君」
「あ?」


ニッコリと微笑むと。


「そう言えばさ。今日、真夏日くらいの気温なのに長袖だよね?」
「あ?あ、あぁ、真選組の制服は基本、これだしな…」
「暑くないの?」
「そりゃ、暑ぃよ。でもしょうがねェだろ。職務に就くには制服着なきゃなんねェから…」
「暑いんだ?そりゃそうだよね、この気温の中長袖だもんね。しかも黒だし」
「あ、あぁ…」


ジリジリと土方に迫りながら。
矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
その早さに対応しながら、土方もジリジリと後退する。
こう言う表情の銀時は何をするのか解らない。
幾らここが土方の私室であっても、ここは屯所。
しかも今は真昼間で障子は全開。
真選組副長の面子の為にも間抜けな姿を隊士の前で晒す訳にはいかない。
ましてや男の恋人が居る、なんて事が公になるのだけは避けたかった。


「ぎ、銀時、お、落ちつけ。な?話せば解る…」
「暑いよね〜。いっくら涼しい風が吹いても、うん。暑いよね」
「お、おい」


ガシっと真選組の制服上着を掴むと。


「脱いだ方が涼しいよ、きっと」
「は?」
「そうだね、うん。脱ごうか」
「は?!んでそうなんだよ!!つうか、今職務中だから良いんだよ!!」
「嫌々、見た目的にも暑っ苦しいんだよ、これ」
「しょうがねェだろ!これが制服なんだから!!」
「見た目的にも優しい真選組作ろうって。大丈夫、優しくしてやっから」
「意味解んねェよ!!!!ちょっ、マジで止めろって………!!」

「副長、失礼します。あの、この間の潜入捜査の報告書をお持ちしま…」

「山崎……」
「ぁら、ジミー。やっほ〜、元気」
「………………………………………………………………」


バサっと山崎の手から零れ落ちた報告書の音が空しく響き渡り。
後に広がるのは沈黙と、絡み合った視線だけ。


「ぁ、っと…」
「っ、お、おい、山崎!これは誤解だ!!」
「誤解なんだ?」
「ぇ、ぁ、ご、誤解じゃないつうか…否!!誤解だ!!どう考えても誤解だ!!おい、山崎、これは…」
「し、失礼しました!!お、俺、な、何も見てねェつうか、解んないって言うか!!」
「あははは〜、バレちゃったねぇ、土方君」
「お前はちょっと黙ってろ、銀時!!」
「あ、あ、お、俺……失礼します!!!!」
「あ、コラ、山崎!待ちやがれ、ゴラぁ!!!」


ダダダダっと廊下に走って行った山崎。
それを追おうと立ち上がった土方に。


「ひ〜じか〜たく〜ん」
「あぁ?!」
「どうよ、俺の本気?」
「っ、悪ふざけが過ぎんだよ、テメェ!どうすんだよ!!」
「だって本当の事じゃん。まぁ、『逆』には伝わっちゃうかも知れないけど」


何でもないような事のように言葉を紡ぐ銀時に、土方の眉間の皺はますます深くなる。


「ったく、何がしたいだよ、お前は!!」
「何って、振り回したいの」
「はぁ?」
「土方君の事、振り回したいの」
「…意味解んねェ」
「え〜、意味解るよ。だって俺、振り回したいくらい、土方君の事、好きなんだもん」
「…っ、性質悪いんだよ、テメェは!!」


そう言われてしまえば、もう土方は二の次が告げなくて。
ガシガシと頭を掻いて。


「最初っからテメーには振り回されっ放しだっつうの」
「それは何よりY


嬉しそうに微笑む銀時の。
本当に性質が悪いと。
口には出せず土方は。
煙草の箱を取り出し、1本取り出して口に咥え、紫煙を吐き出す。
明日には広まってるだろう自分達の関係に。
しばらくはまた。
銀時に振り回される日々が続くんだろうなぁ、と思うのだった。



・END・
2010/8/1UP