「…んぁ?」
「あぁ?」
ふと上がった声に、土方は寝転んだ状態のまま振り返った。
そこには銀時がいつもの着流しの着物を、今は着流さず腕を通し、箪笥を漁っている背中があった。
「…どうした、銀時?」
「んなトコにあったんだ」
「?何が」
主語を伴わない銀時の言葉に、土方は首を傾げる。
何の事だと、起き上がって聞こうとすれば。
「これだよ、これ」
スっと差し出された物を受け取って。
土方は目を瞬かせる。
「これって…写真?」
「そうそう。前にちょっとさ、見つけて、新八達に見つかんねェようにしまったんだよな〜」
「見られて困るようには見えねェけど?」
そこに写っているのは何と言う事ない、本当にただの写真。
写真の真ん中には銀時が居て。
変わらず魚の死んだような目をこちらに向けている。
「ん〜…ほら、ココ、ココ」
「んん??」
指差されたそこを凝視すれば。
「ん…?これ、もしかして…」
背景と混じっている、通りすがりの人々。
その中に。
「…俺?」
「そっ、多分お前」
黒い制服の土方が、こちらに目を向けてはいないが写っていた。
「これ…いつのだ?」
「ん〜?2〜3年前じゃねェかな」
「…2〜3年前つう事は…」
「会ってないね。確実に」
「…………………………………………」
きっぱりと言い放つ銀時に、土方は手にしていた写真をマジマジをと見つめる。
そこに写っている、写真端の自分と銀時。
それは目すら合わさず、存在すら気がついていない。
それでも。
確かに空間を一緒にした、瞬間。
「見つけた時にさ、不思議だな〜と思って」
「不思議?」
「だってさ、この歌舞伎町は人の行き交いが物凄く多くて。時々観光とかでも使われてるみたいだから、道端で写真撮ってる人も、勿論居る訳で」
「あぁ…」
「そんな中。一瞬だけ撮ったこの写真に、俺とお前が写ってて」
「…あぁ」
「そんで、後にこうして一緒に居る」
「……………………………………」
「何つうか」
ピっと。
人差し指と中指で写真を挟み、銀時が土方の手から写真を奪い取って。
「すっげェ不思議」
そう言って、また写真を眺めた。
それは何処か懐かしんでいるような、愛しむような表情。
「…別に」
「ん?」
そんな銀時に。
土方はポツリと呟いて。
「…んな事ねェんじゃねェか?」
「あっ…何だよ」
今度は土方が、ピっと写真を掴んで銀時から奪う。
それをマジマジと見ながら。
「んな事ねーって、どう言う意味だよ」
「だから。…不思議でも何でもねーって意味」
「ムっ…そりゃぁ俺は歌舞伎町に住んでるし、オメーは歌舞伎町を巡回してる警察だけどよー。でももしかしたら出会わなかったかも知れないし、こうして一緒に居ないかも知れねーだろ」
「居るさ」
「居るさって…」
あまりにもきっぱりとした口調に土方に、銀時が呆れていたら。
「テメーが静かに生きてるとは考え難ぃし」
「…悪かったな。いつも騒がしくて。俺だって出来れば静かに暮らしてェっての」
「それに」
「おっ…」
ピっと。
今度は指で挟んだ写真を、土方は銀時に投げ返した。
それを慌てて、受け取って。
人の物を投げて返すな、と文句を言おうとした、その瞬間。
「運命の相手ってのは、必ず出会うモンだろーが」
「…………………………………………………」
言われた言葉にポカンと口を開いてしまった。
しばらく。
何を言われたのか解らなくて。
そして徐々にそれが脳内を巡って。
意味を理解したら。
「おま…恥ずかしいつうの…」
馬鹿にするでもなく。
茶化すでもなく。
ただ頬に朱が走った。
熱くなった頬を隠すように。
ドキドキと高鳴りする心臓を誤魔化すように。
銀時は小さく呟いた。
「うっせー!俺だって恥ずかしいつうの!!」
再び寝転んでしまった土方が、銀時に背を向けたまま叫んだ。
見える耳は真っ赤で。
恐らく顔も真っ赤なんだろうな、と思うと何だか可笑しくて。
それでも。
「じゃぁさ」
「…?」
嬉しくて。
楽しくて。
愛おしくて。
銀時は土方の背に近づいて、そっと手を取り。
「俺の運命の赤い糸はテメーで、お前の運命の赤い糸は俺な訳だ?」
取った手の、小指と自身の小指を絡ませる。
「…おぉ」
「くすくす。俺達男同士なのに?神様間違えちまったか?」
「んな間違いなら。…大歓迎、だろ?」
「それは今後次第、かな」
クスクスと笑い続ける銀時に。
上等、と小さく呟いて。
小指を絡ませて。その指に微かに力を入れて。
2人は、そっと唇を寄せた。
・END・
2008/02/25UP