「いらっしゃい!」



引き戸を開けた途端掛けられた声に、土方はキョロリと店内を見渡した。
そして見知った姿を見て、フっと口元を緩めた。



「親父、いつもの」
「へい!土方スペシャル一丁!!」



忙しなく動く、この店の店主にそう声を掛け、土方はカウンターの席にストンと座る。



「……ちょっとちょっと〜。俺の隣で、んなビチョビチョしたモン食う気ですかー?」
「……ふん。久々の言葉がそれかよ。もうちっと色気のある言葉言えねェのか、テメーは」
「久々なのは俺のせいじゃありません〜。どっかの馬鹿たれがタラタラ仕事終わらせねーからだろうが」
「……悪かったって。年始年末の取り締まりやら何やらで、バタバタしててな」
「はいはい。真選組の副長はいっつもお忙しいこって〜」
「………随分トゲがんな…………怒ってるのか?」
「怒ってませんよ〜全然〜」
「……………………………」



テーブルに頬杖をついて。
そっぽを向いたままの銀時に、土方は溜息を吐く。
自分だって好きで忙しい訳ではない。
暇な事に越した事はないのだ。
特に自分なんて警察官は。
それだけ世間が平和だと言う証拠なんだから。



「悪かったって。…あぁ、そうだ。今度デートでもどうだ?」
「で〜とぉ〜?忙しいお前の何処に、んな時間があるってんだよ」
「そ、れは…」



思いつきで吐いた言葉がますます銀時の不機嫌に拍車を掛けたようだ。
まずい、と思っても、すでに吐いた言葉は取り消せない。



「と、とにかく。時間取るから」
「……んなね」



クルリ。
ようやく振り返った銀時は、相も変わらず魚の死んだような目に、覇気の感じない表情。
久々に見た、と土方がホっとするのも束の間。



「無理矢理時間取ってもらったって、俺ぁちっとも嬉しくないね」



銀時から紡がれた言葉に、今度は土方がムっとなった。



「…別に無理矢理じゃねェよ」



一緒に居たいのだ。
それは嘘偽りない言葉。
それなのに、紡がれた言葉は何とも無情なもので。
土方はムっとした気持ちそのままに視線を銀時から外して。
不機嫌な気持ちそのままに言葉を吐いた。



「俺が…一緒に居てーんだよ」



文句あるか、と。
言ってから、照れた。
どれだけ自分が銀時に首っ丈かを白状してるみたいで。
急に気恥ずかしくなったから。
すると。



「だ〜か〜ら」
「…んだよ」
「……意味ないでしょ」
「なっ…?!」



言われた言葉に思わず、頭がカっとなった。
意味がない。
何が意味ないと言うのか。
銀時の言葉に、ガタリと土方が立ち上がろうとした、その時。



「…それで、その…お前がぶっ倒れたら」



ポソリと呟かれた言葉に。
土方は浮かせた腰をそのままに。
ジっと銀時を見た。
銀時は、と言えば。
また頬杖をついたまま。
土方に背を向けている。



「へい、土方スペッシャル、お待ちぃ!…ぁれ?どうしたんです、土方さん?」
「あ…あぁ、んでもねェよ」



ドン、と出された土方スペシャルに。
土方はようやく我に返って椅子に座り直す。
視線は銀時から外さないまま。



「………………………………」
「………………………………」



そのまま無言で。
土方は出された土方スペシャルを。
銀時は土方に背を向けたまま、頬杖をついて。
無言の時間が過ぎる。



「ふぅ…ご馳走さん。生き返ったぜ」
「へい、毎度!」



カタン、と。
土方は丼をテーブルに置く。
それを店主が下げて。
土方は懐から煙草を出す。
シュボっとライターで煙草に火を点ける。



「…なぁ」
「……何だよ」
「やっぱしよーぜ、デート」
「は…?」
「今、『隣のペドロ・リターンズ』やってんだ」
「あのつまんねェ映画か?」
「テメーも前編見てんだろうが。…それにあそこの映画館、冬限定でイチゴキャラメルポップコーンも販売してるらしぜ」
「んでお前が、んな事知ってんだよ」
「山崎が言ってた。…前に巡回中、あそこからすっげー甘ったるい匂いしてな。何だつったら、冬限定のそれだってよ」
「…ふーん。何?奢り?」
「あぁ、一緒に行ってくれんなら、奢ってやるぜ?」
「映画、ね〜…」
「それ終わったらよ、サウナ行ってよぉ」
「何何?また俺と勝負しようっての?前にコテンパンにしてやったの、忘れたの?」
「嘘こけ。負けたのはテメーだろ?」
「嫌々。俺だね」
「サウナでぶっ倒れたの、誰だったっけな?」
「……うっさいよ。あれは、あれだよ。オメーがいつまでも折れねェから、俺が譲ってやったんだよ」
「はっ、…言ってろ」



ガタっと土方は席を立って。



「明日の1時。映画館の前な」
「は?!ちょっ、俺行くって言ってねーし、テメー仕事は?!」
「有給使う。…おい、親父勘定。コイツの分も一緒にな」
「はいよ!」



自分の分と銀時の分の勘定を済ませて、土方は。



「遅刻すんじゃねェぞ」
「…うっさいよ。つうか。何格好つけてんだよ」
「まっ、たまには格好つかせろよ」



じゃぁ明日な、と。
ヒラヒラと手を振って去る土方に、『似合わねェだよ』と負け惜しみを言って。



「…良かったじゃないですか、銀さん」
「……何がだよ」
「待ってたんでしょ?土方さん」
「なっ…!ま、待ってねェし!俺はその、あれだよ!ここの銀時丼大好きだし?!それ食いに来たんだよ!!」
「それにしちゃぁ、食ってからなかなか帰んねェし。戸が開くと、凄い勢いでそっち見てたじゃないですか」
「ばっ…!ちっげェーよ!そりゃ、あれだよ!繁盛して何よりだと、思ってだなぁ!!」



叫ぶ銀時に、店主は素直じゃないなぁ、と思いながらも。
先ほどチラリと見た。
頬杖をついて、土方に背を向けたままだったが。
…頬をうっすらピンクに染めながら。
嬉しそうに微笑む、銀時の顔を思い出していた。





・END・
2007/12/18UP