「よっ、金時。元気にしちょるか?」
「……銀時だっつうの」
チャイムの音に玄関に出れば。
見知った笑顔と声。
居るはずのない人物の姿に呆けたのも一瞬で。
銀時は脳裏に浮かんだ数々の言いたい事言葉を飲み込んで。
取り敢えず突っ込んだ。
「何だよ、辰馬。来るなら来るって連絡の1つくれー寄越せ」
「あっはっは。悪い悪い。ちくっと地球に用事があってのぉ」
「用事だぁ?んじゃぁ、んなトコで油売ってねェで仕事しろ、仕事」
「終わっちょるきに。迎えが来るまで時間があるき、おんしの顔見に来たんじゃよ」
「…野郎の面見たって嬉しかぁねェつうの」
「あっはっは、まぁそが言わんと」
野郎に顔を見に来たと言われても嬉しくない、と。
銀時は微妙な顔をする。
それに苦笑しながら辰馬はふと。
「まぁワシに言われても嬉ししゅうはないか。…おんしの彼氏とは上手くやっちょるのか?」
「かっ…!」
ニッコリと笑われて紡がれた言葉に銀時はカっと頬を真っ赤にさせる。
そしてガタっと立ち上がり。
「か、彼氏なんかじゃねェよ!あんな瞳孔全開のチンピラ警察!!」
「瞳孔全開…?」
「そ…そうだよ!いっつも瞳孔開いて睨むんだぜ。怖ェったらありゃしねェよ」
「…ふ〜ん」
「…何だよ」
ようやく落ち着きを取り戻し始めて、銀時はまたソファーに腰を下ろす。
そしてニヤニヤと笑う辰馬に何だよと口を尖らせば。
「何じゃぁ、早速ノロケきに、金時」
「は…はぁ?!何処がノロケ…つうか、いい加減覚えろ!俺は銀時だ!!」
「あっはっは〜済まん済まん。しっかしノロケはノロケじゃ。ソイツはおんし見て、瞳孔開くんじゃろ?」
「そ…そーだよ!瞳孔全開で睨まれんだぞ?これの何処がノロケてるつうんだよ!」
「愛されちょるの〜げにまっこと」
「だ、だから!お前本当に俺の話聞いてた?!」
「勿論じゃ。じゃから言うちょるんじゃろ。おんしは愛されちょるって」
「何処をどう取ったらそれで、ぁ…愛されてるって何だよ!脳みそまで腐ったか、この黒もじゃ!」
「もじゃはお互い様ぜよ。おんし瞳の作りについて知らんきに?」
「瞳の…作り?」
「そうじゃ。瞳は光を当てる他に好きな人を見ると開くぜよ」
「好…きぃ?!」
「そうぜよ。まぁ、簡単に言うと興奮状態になるきに。おんし、知らんかったか?」
辰馬の言葉に銀時はとうとう真っ赤になって。
口をパクパクとさせる。
「あっはっは〜何じゃおんし、顔真っ赤ぜよ」
「ぅ…うっさいうっさい!も〜良いからお前帰れ帰れ!」
「あたたた…!何ぜよ〜相変わらず照れ屋じゃな〜金時は〜」
「ぎ・ん・時、だから!阿保な事言ってる暇があんなら、仕事しろ、仕事!お前の補佐の怖い姉ちゃんにまた捜索願い出されても知らねェからな!!」
相も変わらず笑いながらトンでもない事を告げる辰馬に、銀時はとうとう立ち上がって。
わし、っと辰馬の髪の毛を掴むと、そのまま玄関まで直行。
玄関を開けると、ペっと辰馬を放り投げて。
叫ぶだけ叫ぶと、ピシャリと玄関を閉めてしまう。
「あっはっは〜、今回はちゃんと陸奥の許可取ってあるきに。…まぁ、さっきも言うたけど、ちょっと顔見に来ただけじゃき」
玄関から見える摺りガラスに、微かに見える銀時の姿に。
辰馬はポツリと声を掛ける。
「…だから、野郎のツラ見て何が楽しい」
「あっはっは〜元気そうで何よりじゃ」
「………………………………………………」
言われた言葉に銀時は口を噤む。
…本当は知っている。
攘夷時代。
辰馬がいつも銀時に気を掛けてくれていた事を。
白夜叉と呼ばれ、仲間からも敬遠され始めた頃。
辰馬だけが。
銀時を他の誰とも変わらぬ態度で居続けてくれていた事を。
戦争中に、宇宙へと旅立ってしまった後も。
こうやって。
辰馬は銀時を気に掛けてくれている事を。
「それじゃそろそろ行こうかぇ」
「…ぁ…」
スっと。
気配が動いた事に、銀時は戸惑った。
この場合。
「有難う」と言えば良いのか。
それとも「もう大丈夫だから心配するな」と言えば良いのか。
どっちにしろ、もう大丈夫だと。
伝えようと、振り返り玄関を開けようとした、その時。
「それじゃおんしに骨抜きの男に挨拶して帰ろうかぇ」
「………は?」
言われた言葉に、一瞬頭が真っ白になった。
何を言っているのだ。
それから、頭の中で辰馬が呟いた言葉を反復した。
『それじゃおんしに骨抜きの男に挨拶して帰ろうかぇ』
それは、つまり…。
「なっ……何馬鹿言ってんだ、辰馬!!!」
サァっと血の気が引くのを感じながら。
それだけは勘弁してくれと。
銀時は勢い良く玄関を開けた。
しかし。
「って、居ねェし!!!!」
そこに居たはずの辰馬の姿はなく。
銀時は慌てて、階下を覗き込むが、もじゃもじゃの黒髪は見えず。
「まさか…マジで会いに行ったの、か?」
想像しただけで血の気がますます引く。
とにかく阻止しよう。
銀時は急いで階段を駆け降り、左右を見てから、ダっと走り出した。
・
・
・
・
・
「っ、何なんだよ、テメーはっ!!!!」
聞こえて来た声に、銀時はそちらに向けて全力疾走する。
やばい。
やばいやばいやばい。
頭の中で赤いランプがチカチカと点滅する。
最悪の事態を想定した。
が。
「っ、土方っ…!!」
ザっと、土方の前に現れると。
「…あ?銀時?何だよ、んな急いで??」
そこには山崎に掴み掛かってる、土方の姿。
急に、しかも肩で息をしながら現れた銀時に驚いた表情を浮かべている。
「はぁはぁ…!…ぁ、れ…ひ、とり……?」
「あ、あぁ…?何だよ、何かあったのか?」
「ゃ、…その、く、黒いモジャモジャしたの、見なかったか……?」
「は…?」
「だ、だから!黒くて、モジャモジャしたのが、お前に会いに来なかったかって聞いてんの!」
「何を言ってんのか解んねーけど、誰も会いに来てねェよ」
「そ、そっか…」
言われた言葉に、ハーっと息を吐き出す。
ただの戯言か。
それにしては心臓に悪い。
銀時は一気に安堵して。
その場に腰を下ろしてしまう。
「何だよ。何かあったのか?」
「いーや。んでもねェよ」
「大丈夫か?…何か飲みモン買って来てやるよ。何が良い?」
「ん…サンキュ。んーとね、イチゴぎゅうにゅ……」
「…?銀時?」
近寄って来た土方が。
スっと手を差し伸べて。
銀時もそれを手に取って。
引っ張られるまま、立ち上がる。
そして言われた言葉に、顔を上げ、飲みたい物のリクエストを口にしようとして。
急に黙ってしまった銀時に土方が、銀時の顔を覗き込むと。
ガツン!!!
「あだっ!!な、何しやが……!!!」
急に飛んで来た、銀時の木刀。
特に警戒もしていなかった土方の顔面にクリーンヒット。
何をする、と土方が銀時を見た、その時。
「…っっっ…」
「おま…何でいきなり真っ赤んなってんだ…??」
真っ赤な顔をして。
土方を睨みつける銀時。
突然の豹変に、思わず土方がそう問えば。
羞恥からなのか何かなのか。
プルプルと銀時は震えながら。
「んなに俺の事が好きですか、この野郎!!!」
「は、はぁぁ???!!」
「っっ、恥ずかしいんだよ、馬鹿!!!!」
叫ぶだけ叫んで。
銀時はクルリと踵を返して、そのまま全力疾走。
それをポカンと。
土方は投げつけられた銀時の愛刀を片手に。
「…………おい、山崎」
「…………はいよ」
「……俺、何かしたか?」
「…………否、俺にもさっぱり」
途方に暮れる、土方の姿があった。
『瞳は光を当てる他に好きな人を見ると開くぜよ』
『簡単に言うと興奮状態になるきに』
・END・
2007/12/16UP