銀時が一人、屋台のおでん屋で飲んでいる時だった。
そこにフラリと現れた人物、それが…。
「…げ」
「……人の顔見て、「げ」とは何だ、「げ」とは」
「だって「げ」以外の何者でのねーだろうがよ」
「ケっ。…「げ」つうんなら、俺の方が言いたいわ」
「あ〜?俺の方だろうが」
「俺だ!」
「いーや、俺だね!」
「大体テメーは昼行灯で、昼間フラフラしてるから良いだろうが、俺ぁ日々の仕事で疲れて、飲みに来てんだ!疲れ癒しに来て、そこにテメーが居たら、「げ」だろうが!」
「あぁ?!不良ポリスが何言ってんだよ?!俺だってなぁ、日々底なし胃袋娘の食費稼ぐために、働いてんだ!街フラフラしてるだけのテメー等と、仕事の量が違うんだよ!!」
「んだと?!」
「やんのか?!!」
ガタリと立ち上がった2人に、ジロリと周りの厳しい視線。
それに気づいた2人は、「う…」と小さな声を上げて。
「…テメーのせいで睨まれたじゃねェか」
「テメーがデカい声上げるからだろうが」
「俺のせいかよ?!大体俺が気持ち良く飲んでるのに、お前が来たから……」
「まぁまぁ、銀さん。ここは大人の社交場だよ?カリカリしないで。…副長さん、今日は何にしやすか?」
店主に窘められ、立ち上がろうとしていた銀時と土方は、小さく舌打をして、正面を向く。
「…何で隣に座ってんだよ」
「満席だ」
「……あ〜ぁ、何かシラケちまったな。親父、お勘定」
周りを見れば、確かに満席で。
それでも何だか知り合い、しかも犬猿の仲の土方と肩を並べて飲むのに違和感を覚えて。
銀時は伸びを1回し、ガタリと席を立つ。
すると…。
「…何だ。もう帰んのか?」
「嫌いなモン同士が肩並べて飲んだって、お酒美味しくないでしょ。俺はのんびりしたし、けーるよ」
「あぁ?…んだよ、見た所、来たばっかじゃねェか。良いから、座れ。奢ってやっから、飲め」
「はぁぁ??!何?一体、どう言う風の吹き回しだよ」
「うっせ。…気が変わる前に、座れ」
「あ、あぁ…ぅん、まぁ、そう言うなら…」
居心地の悪さも感じたが、出費が減るのは嬉しい。
銀時は立ち上がった腰を、また席に戻し、チラリと土方を見る。
「…ん?何だよ」
「…何でもねェよ!……親父、何でも良いから、持って来て!!」
「…テメェ、奢りだと思って、滅茶苦茶頼むんじゃねェぞ。食えるだけにしろ、食えるだけに」
「オーケーオーケー!」
奢りならば、と銀時は遠慮も知らずに、ここぞとばかりにお酒とつまみを注文する。
そんな銀時に、土方は止めもせず、ただ黙って酒を口にするのだった。
「………ん」
次に銀時が気がついたのは、冷たい夜風に身体が寒さを訴え、震えたからだ。
(流石に飲み過ぎたか?)
自分の懐が痛まないと解って。
普段以上にお酒を摂取した事に思い当たり、銀時はブルリと頭を一振りした。
(ここ、何処だ…?)
取り合えず現状把握をしようとした瞬間、銀時は気づいた。
「…げ」
自分が今、土方に支えられ、歩いている現状に。
「…気がついたか?」
「あ、あぁ…」
意識の戻った銀時に、土方はそう声を掛けた。
それに頷きながら、銀時は何とも言えない、居心地の悪さを感じた。
何と言っても、土方に支えられているのだ。
「わ、悪いな…」
「否。…結構飲んだからな」
「あ、あぁ…何か……悪酔いしたみてェ…」
「そうか」
「あ、あぁ…」
「まぁ…俺はお前に酔ってるけどな」
「………………………………はぃ?」
言われた言葉に、銀時は一瞬思考が飛んだ。
そして次の瞬間、嫌な汗がダラダラと流れた。
(な、何だ、何つった、今、コイツ…)
酔いで微かに鈍い思考をフル回転させる。
しかし、理解出来ない、そしてしたくない思考は一向に良い働きを見せない。
「……あ、あぁ〜…の、飲み過ぎたかな。部屋で眠りてェ」
「…誘ってんのか?」
「(ブルブルブルブルブルブルブル…!!!)」
銀時は精一杯の否定の意味を込めて、首を激しく左右に振った。
危険だ。
とにかく、頭の中で赤いランプが点滅する。
逃げよう、ココから。
「と、とりあえず、肩…、肩抱くの止めて?」
「照れてんのか?…可愛いな」
「…鳥肌が立ってる」
「嬉しいのか?」
(嫌々!会話しよう、会話!!)
叫びにならない声で、銀時は叫ぶ。…心の中で。
不意に、冷たい風が吹き荒ぶ。
幾ら酔っているとは言え、…否、もう完璧に素面な銀時はその寒さに震える。
「…風が冷てェ夜だな…」
昼間の暑さとうって変わって冷たい夜風。
ポツリと銀時が呟けば。
「あぁ…愛に震えてるな」
「…………………悪寒が走るな」
「愛の病さ」
フっと笑ってみせた土方に、銀時は心の中で。
(上手くねェから!つうか、古ぃんだよ!!)
精一杯の突込みを心の中で入れる。
…本人には、怖くて言えないから。
「…このまま」
「あ?」
不意にポツリと呟いた土方に、銀時が怪訝そうに顔を向ければ。
土方は顔を前に向けたまま…。
「時が止まれば良いのに」
「…否、俺、明日早ェから」
この状態が続いて堪るか、と銀時は一刀両断する。
とにもかくにも、この現状は危険だ、と思った銀時は。
「…そう言えば」
「…ん?」
「…俺、好きな奴が居んだよ」
「…フ、言わなくても解るさ」
「…ここには居ねェけどな」
「何だ。…愛の駆け引きか?」
「…違うから」
苦肉の策で、言葉を紡げば。
背筋を寒くする言葉が返って来た。
段々と憔悴しきって来た銀時に、ピタリと土方の足が止まる。
土方の足が止まれば、肩を抱かれている銀時の足も止まる。
何だ、と思えば。
肩に回されていた腕が、グっと腰に回る。
「?!」
しまった、と思った時には時すでに遅く。
眼前に迫った土方の顔に、銀時は必死で顔を逸らす。
「息を止めて」
「…死んじまうよ」
「目を閉じて」
「眠くねェ」
「愛のキスを」
「舌噛むわ!」
何ともロマンチックと言うには縁遠い雰囲気。
それでも、挫けない土方に。
銀時は何とかその腕から逃げ出す。
「も、もう1人で帰れるよ!お前もテメェの家に帰れ、帰れ」
「寂しくて泣くくせに」
「泣くか!あぁ、もう!!解った!解ったよ!!100歩譲って送るとして!…部屋までは来んなよな!」
「強がりは似合わねェよ」
「強がりじゃねェから!!」
怒鳴る銀時、それも解さず微笑む土方。
帰りたい。
帰さない。
…あぁ、帰れない。
「…あぁ、夜が明ける…」
「2人の夜明けだな」
「もう黙ってくれないかなぁ、黙ってくれないかなぁ?!!」
・END・
2007/09/24UP