「…ん…」



サラリと撫でられた髪。
微かに頬をくすぐる自身の髪に、銀時はブルリと身震いをした。
まだ身体に残る快楽が、また火を灯しそうになる。



「…辛いか?」
「…うぅん…大丈夫…」
「水、持って来ようか?」
「…うぅん…ぃらない…」



尋ねて来る土方に、銀時は首を振って答える。
心配そうに顔を覗かれて。
銀時は照れくさそうに顔を背け、モゾモゾと土方に近寄り、その腕へと擦り寄った。



「大丈夫だってば。…ひどくされた訳じゃねェから…。…まだ、その…余韻が残ってるだけ」



ボソボソと小声で、そう告げる。
その言葉に、土方はサラリとまた髪を撫でて。



「…そっか」



ホっとしたような、柔らかな声音を奏でた。



「……………………………………」



それを不思議そうな眼差しで見つめ、銀時は口を開いた。



「…なぁ」
「んぁ?」
「今日、…何か良い事でもあったのか?」
「…何で?」
「ゃ、だって、さ…」
「………………………………」



問い掛けて。
逆に問い返されてしまい、銀時は微かに頬を赤らめる。
…どう、紡いで良いものだろう。
そう考えて、クルリと土方に背を向け、顔を枕に押し付けながら、ボソボソと答えた。



「だって、さ…」
「あぁ」
「今日、その…すっげェ優しかった、し」
「…それじゃぁいつも、俺が優しくねェみてェじゃねェか」
「そ、そんな事ない、けど…いつも以上に優しかったって言ってんの!」



いつも最初の方は性急に快楽を求めて来る。
それなのに今日はしつこいくらいに、銀時の快楽を引き出して。
優しく、慈しむように、身体を弄られて。
キスだって、いつも以上にした。
唇にも、身体にも。
それこそ、今日、土方の唇が銀時の唇・身体に触れていない所はないんじゃないかと言うくらいに。
そして。



「それ、に…」



いつにもないくらいに言葉を紡いでくれた。
いつもは照れて、なかなか言ってはくれない「好き」、「愛してる」
今日は情事を始める前から、最中、そして最後まで、それがいつも以上の快楽を銀時に与えた。
それに土方が気づいているか、どうか。



「それに?何だよ…」
「…別に。……何でもねェよ」



でもそれを言うのはひどく照れくさくて。
自分がいつも以上に乱れた事に気づいてる銀時はそのまま口を噤んだ。
ハァ…と熱い息を吐き出して。
銀時は身体に残る熱を吐き出す。
微かに身体の熱は去った気がした。
シャワーを浴びて、完全に取ろう、と銀時が身を起こそうとした時だった。



「…あぁ、そうだ、銀時」
「…ん?」



思い出したかのように、言葉を発した土方に、銀時は起こした身体、そのままに土方に顔を向ける。



「今日、何の日か。テメー知ってるか?」
「は?」
「それが解れば。…俺の意図が解るかもな」



ニっと笑ってみせた土方に、銀時は考える。
…今日?
そう言われて、頭の中でカレンダーを思い浮かべる。
今日…。


(今日?付き合い始めた記念日?…否、それはもうちょっと後だよなぁ…。コイツの誕生日?あれ?でも今月初めに神楽が……)


「!」



フっと思い浮かんだ日付に、銀時は土方を再び見つめた。
その眼差しは、意味が解らないと語っていて。



「…ぇ、それって…」
「…解ったか?今日は4月1日、エイプリルフールだ」



サラリと何でもない事のように告げられた肯定の言葉に、銀時は表情を変えない。
まだ、意味が解らないと、瞳が語る。



「……………………………………………」
「……………………………………………」



しばらく沈黙が続いた。
土方も銀時もお互いに視線を向けたまま、微動だにしない。
そして、ようやく土方は視線を外して、大きく溜息を吐く。



「…ハァ。…察しの良いテメェらしくねェじゃねェか、銀時」



その言葉に、銀時はビクリと身体を強張らせる。



「俺の言いたい事、解ってんだろ?」



言葉に、銀時は反応しなかった。
ただ、この理不尽とも言える、男の言葉にまだ視線を向け続ける。
意味が解らない、と。



「……………………………………………」
「……………………………………………」



また沈黙が部屋を支配した。
重苦しいその空気に、ただ、時間だけが経過した。
そして、また土方が重い溜息を吐き出す。



「…テメェなぁ」
「…っ」



言われる言葉に、銀時は身を硬くした。
嫌な汗が頬を伝う。
だが銀時は、土方を静止するでもなく、ただ土方を見つめた。



「…んで、こんな時に、怒るでも、泣きでもなく、沈黙なんだよ。何とか言えよ」
「……ぁ……」



伸ばされた土方の長く、細い指先が銀時の頬を優しく撫でた。
けれど、銀時はそれを甘受するでもなく、振り払うでもなく。
ただ、瞳を不安げに見つけた。
揺れる瞳が土方を見つめ続ける。



「…はぁ……解った。解ったよ」
「…ぇ…」



黙ったままの銀時に、土方は諸手を挙げた。
何が、と銀時が言う前に。
土方が言葉を紡ぐ。



「冗談だよ。冗談つうか、…嘘」
「…ぇ?」



言われた言葉が、また銀時を混乱させた。
…嘘?



「ぇ、な、に…?」
「だから、嘘だっつってんだよ。もう4月1日は終わってんだよ。ほら」



手渡された時計に、銀時は目を向ける。
それはすでに12時をとうに過ぎ、『今日』が『昨日』に過ぎ去った事を告げている。
それでも意味が解らないと、銀時は時計に向けていた視線を土方に向けた。



「い〜っつも嘘ばっか吐いてるテメーに、ちょっとした意趣返しと思ったんだけどな」
「………………………………………」
「本当はヤってる最中に言ってやろうと思ったんだけど…思う他、熱中しちまって」



だから今日が過ぎた事を知っていたが、悪戯とその言葉を告げたのだ。
…『今日』は何の日、と。



「…まっ、テメーにとっては、そう言うのどーでも……」
「………………な………………」
「…は?」



反応を見せなかった銀時に、つまんねェ、と土方が煙草を取り出す。
その煙草に火を着けようとした所で、ポツリと呟かれた言葉に、土方が顔を上げると。



「…ブっ!!!」
「っっっっ、っざけんな、この馬鹿野郎!!!!」



ガツン!と、銀時は手にしていた時計を土方に向かって投げ飛ばす。
すっかり油断していた土方は、見事その時計を顔面で受け取って。



「何…っ?!」



何をするんだと、銀時に振り向けば。



「…おまっ…」



そこには怒り心頭の銀時が、全裸なのも忘れて仁王立ちして。



「この…馬鹿!アホ!マヨネーズ!!」
「おまっ…マヨネーズは悪口にはならねェだろうが!!」
「うっさい!死ね!!税金泥棒!!…お前なんか…お前なんか……大っっっっ嫌いだ!!!」



そう叫ぶと、ダダダダっと駆け出して、風呂場へと行ってしまった。
それを呆然と見送って。
土方はシュボっと煙草にライターで火を着ける。



「…ぃったなぁ…」



ポリポリと頭を掻く。
まさかあんなに怒るとは思わなかった。
反応を見ていても、そう思ったのだ。
自分の目論見は失敗に終わったのだ、と。
それなのに。



「…あぁ、マジ、やるんじゃなかった…」



ほんの少し、思っただけ。
いつもは照れくさくてなかなか言えない、「好き」も「愛してる」も。
いっぱい紡いだ後に、今日はエイプリルフール、嘘を言っても良い日だから、と。
そう言ったら。
銀時はどんな反応をするだろう。
だから今日は、いつもより丁寧に、意識してSexをした。
そうしたら、思いの外銀時が好い反応をするものだから。
目的も忘れ、没頭してしまった。
それでもせっかく思い浮かんだ悪戯だから、と。
冗談半分、好奇心半分でやってしまったら、結果がこれだ。
…ひどく傷つけてしまった。
土方は自分の浅はかさに後悔しながら、風呂場に篭ってしまった最愛の恋人をどう謝ろうか、思案した。
あれだけ怒り心頭な銀時は初めて見た。



「…あぁ、でも、ちょっと、嬉しい…かも…」



銀時を傷つけてしまった後悔はある。
だが、こうやって。
なかなか知れない、銀時の自分への愛情を確認出来た事には自分は喜びに打ち震えている。
土方は微かに緩む自分の頬を抓りながら。
ズボンを穿いて、風呂場へと向かおうとする。
その時…。



「…っと。時計、壊れてねェよな」



自分に投げられた時計を拾い上げる。
思い切り投げ飛ばされ、自分の顔にヒットした時計が壊れていないか、確認しようとして。



「…っっ、参った…」



土方はその場にしゃがみ込んだ。
その時計は。



「…馬鹿野郎…ぁんま嬉しい事、してくれんじゃねェよ…」



さっきまでは正確な時を刻んでいたと言うのに。
『今』はまだ、12時59分で止まっていて。
『今日』が『明日』になる。
『昨日』が、『今日』になる。



「…やっべー、今日、帰せそうにねェ…」



…時計まだ、『今日』と言う日付を差している。
つまりは、4月1日。
まだ、エイプリルフールは続いているのだ、と。
きっと銀時がさきほど弄ったのだろう。
と言う事は、さっきの言葉も、きっと…。
土方は赤くになっているだろう自分の頬を手で隠しながら、時計を持って風呂場へと向かう。



「…さて。どーしたもんか」



すっかりへそを曲げてしまった恋人。
それをどう説得、懐柔させようか。
『今日』はまだ、4月1日のエイプリルフールなのだから。
土方はそれすら楽しいと、口元を緩めながら、風呂場へと続くドアをノックした。





・END・
2007/07/08UP