「は〜い、もしもし、万事屋銀ちゃんで〜す」



…正直、戸惑っていた。



「…ぁ?んだ、テメーか。何だよ。…あぁ?映画??」



『好きだ』と言われて。



「ゃ、特に用事はねェけどよぉ…」



はっきり、断る事が出来なかった。



「ん…べ、別に、ぃ、良いけどよぉ…テメーオフ何だろ?…ん、ぅん…」



それと言うのも。



「…解った。んじゃ、9時に映画館前な。…あぁ?…うっせーな、しねェよ、遅刻なんて」



嫌ってはいなかった。
かと言って好きなのかと言われたら、それも違う気がして。



「あぁ。あぁ、わーたっての。…じゃぁな。おう。…そん時な」



もし断ってしまったら。



「…ふぅ」



律儀つうか、変なトコに神経質なコイツは。
きっときっぱりと俺の前から姿を消すだろうから。



「…さ〜て、どうしたもんかなぁ」



それだけは避けたかったから。
それがどうしてなのかは解らないけど。
どうしてもそれだけは避けたかったから。
…俺は土方と付き合う事になった。



「…これってデート、って奴なのかなぁ」



…正直、戸惑っていた。
俺は土方の事をどう思っているんだろう。
答えは出ないまま、俺はアイツと付き合っている。



「…参ったね、こりゃ」



俺はアイツと、どうなりたいんだろう…。










「…遅ェよ」
「まだ時間なってねェだろうが。つうか、お前いつから来てたんだよ。んなに俺とので〜と、楽しみだったんですかぁ?」
「ば、馬鹿言ってんじゃねェ!…行くぞ」
「はぃはぃ」



何も消化出来ないまま、奴に誘われるまま、俺は映画館の前に居る。
相変わらず仏頂面したアイツは、映画館の前に、これまた仏頂面のまま突っ立ってて。
俺が片手を挙げて、現れると。
嬉しいとも、何とも言えない顔をして、遅いと告げる。
…これで本当に俺の事好きなのかね?



「おい」
「んぁ?」
「何か飲むだろ?買ってやるから好きなの選べ」
「マジで?!…んじゃね、オレンジジュース。それとポップコーンね、キャラメル味」



苦い顔して、売店へ。
本当、コイツの表情って読み難い。



「…ほらよ」
「さ〜んきゅ。…で」
「あ?」
「映画何よ?」
「あぁ?テメー知ってたんじゃねェのかよ」
「知らねェよ。お前言わないしさ」
「…これだよ」
「……げ」



差し出されたチラシ。
それに目をやって、思わず言ってしまった。



「…んだよ、げって。これすっげー良いんだぞ。お前よもや、1見た事ねェとか抜かすんじゃねェだろうな」
「い、嫌々、知ってるよ。知ってるけどよぉ…」



仮にも『初』が着く、デートで、チョイスした映画が『ヤクザvsエイリアン2』ってどーよ、これ。



「…宣伝してたしね」
「あ?んだよ」
「嫌々。何でもねー。んじゃ、早いトコ席に着こうぜ。良い席なくなっちまうぜ」
「あぁ」



…まぁ、こいつらしいちゃぁ、こいつらしいよな。



「………………………………………」
「………………………………………」
「………………………………………」
「………………………………………」



映画が始まって。
シン、と静まり返った場内。
俺はポリポリとポップコーンを食べながら。
チラリと。
隣に座っている土方を盗み見る。
…万事屋、なんて仕事してるから、歌舞伎町に流れる様々な噂を俺は耳にする。
その根も葉もない噂の中に。
コイツの噂ってのも結構ある。
噂つっても、誰かとデキた、とかそう言うんじゃなくて。
花町に居る女達の憧れの的、的な奴…。
最初は、あんなマヨラーの、瞳孔全開の男の何処が良いんだって思ってたけど。
…真剣に上映される画面に食い入る姿は、その…か、格好良い、と言えなくはねェんじゃねェか…?
嫌々!本性を知らない女は騙されるんじゃねェかって程度であって…!



「…ぉい」
「へ?!」
「何余所見してんだよ。ちゃんと見やがれ」
「ぇ…ぁ、あぁ、…ぅん、そう、ね…」



不意に声を掛けられて、ビクリとする。
ポソリとそう呟いたかと思ったら、コイツはやっぱ画面に釘付け。
…チっ。
ビックリさせんじゃねェよ。



「………………………………………」
「………………………………………」
「………………………………………」
「………………………………………」




…『好き』か…
コイツ…マジで俺ん事好きなのかな?
でもこないだそう言った、よな…。
『好きだ』って。
『俺と付き合ってくれ』って。
…ホモ、って訳じゃなさそうだよなぁ。
それならいつも一緒に居るサド坊やとか、さ…。
べ、別に疑う訳じゃねェけどさ…。
つか、コイツいっつも俺と言い合ってたじゃん。
それともアレか?
好きな奴程苛めたい、とか?
…小学生じゃねェんだから。
………………………………………………。
花町の奴等が騒ぐのも解る、かな。
黙ってれば、結構…良い男、かな?
や!でもマヨラーだしね!!
何より、瞳孔全開ですから!!
……………………………………………。
ぅ、う〜ん…。



「…おぃ」
「へ?…っっ」



ポリポリとポップコーンを頬張りながら考え事してたら。
声を掛けられて。
ビックリして前を向いたら、ドアップのコイツ。
って、近っ…!!



「な、何…?!てか、近……」
「…どーも映画に集中してねェんじゃねェか?」
「ん、んな事ねェよ…!!」



んな事良いから、は、離れろっ…!
幾ら上映中は真っ暗だって、他の奴に気づかれんだろうが…!!



「…………………………………」
「…………………………………」
「…銀時」
「…っ」



ぅわ!
ここで名前呼んじゃう?!
てか、は、初めてじゃね?俺の名前呼んだの…!
コイツ知ってたんだ…!!



「…目、瞑れよ。ムードねェな」
「…っっ…」



は?!目、目ぇ?!!
む、無理!
てか、瞑ったら、何する気だよ…!!
俺達にムードもへったくれもねェだろうが!!!
向き合う顔と、かち合う視線。
それに観念して、俺がギュっと目を瞑ってしまいそうになった瞬間。



『本日はご来場有難うございました。清掃に入りますので…』



場内に流れたアナウンスに俺はホ〜っと息を吐く。
ぁ、危ねェ〜…。



「…チっ」



…チっじゃねェよ。



「…行くぞ」
「お、おぉ…」



ダラダラと冷や汗モノの俺に、土方は何事もなかったかのように声を掛けて来る。
…ふ〜ん、モテモテ副長さんはこんなの日常茶飯事って奴ですかぁ?



「何か食うか?」
「んぁ?…んじゃ甘味的な奴が良い」
「あぁ?んなモン飯になんねェだろうが。…いつもんトコで良いな」
「ゲ〜、もしかしてお前、俺の隣であの、びちゃびちゃしたモン食う気じゃねェだろうなぁ…」
「テメェだって、ぐちゃぐちゃのモン食ってんだろうが」
「宇治銀時丼を馬鹿にすんな!ありゃ、ものっそい美味いんだぞ?!」
「マヨ丼だって美味いつうの」
「味覚音痴」
「糖尿病予備軍」



睨み合って。
笑って。
肩を並べて映画館を出た。
…コイツとの、こう言う空気が好きだ。
下らねェ事で言い合うんだけど、何だかんだでいっつも行動が似てる。
最初はこんな奴と似てるか!って思ったけど。
今はそうは思わない。
似てる。似てるよ、俺達。
んで。



「…結構面白かったな。『ヤクザvsエイリアン2』」
「…テメー見てたのかよ」
「どっかの誰かさんが邪魔しなければ、最後までね」
「……チっ」



コイツのこう言う可愛いトコも俺は結構気に入ってる。
それがコイツと付き合おうと思った理由。
つったら、コイツ、怒るかな?










女じゃねェんだから、見送りは要らねェつったのに。
コイツは通り道だ何だと理由をつけて、結局ココは万事屋前。
…ったく、んなに俺と一緒に居たかったんですか、この野郎。



「ったく、良いつったのに…」
「だから通り道だっつってんだろうが」
「はぃはぃ。そう言う事にしといてやるよ」



愚痴る俺に舌打ちをして。
コイツは渋い顔して居る。



「んじゃ、わざわざ見送りサンキュー。またな」
「…ぉう」



手を振って。
ここでお別れ。
…のはずなのに。



「…………………………………」
「…………………………………」



コイツが歩き出さねェもんだから。
俺もココを動けない。



「…早く行けって」
「…良い。テメーが家に入るまでココに居る」
「いや、俺が見送るって。早く行け」
「良いって」
「良いっての」
「………………………………………」
「………………………………………」
「………………………………………」
「………………………………………」



2人して譲らず。
…はぁ〜何なんだよ。



「…解った。解りました。んじゃ、大人な銀さんがゆず…」



クルリと踵を返した瞬間。



「ぅわ!?」
「…銀時」



グイっと腕を引かれて。
わ、と思った瞬間には、コイツの顔のドアップ。
え、ええええええええ??!!
こ、これってアレだよな?!
ちゅ、チューか?!!



「…っ、ちょっ、…待った!!」
「…んだよ」
「え、あ〜…と、その……」



迫って来るコイツの顔に、一旦は覚悟を決めたけど。
けど!



「ぇ、え〜っと、その…」
「…………………………………」



途中で止められたのが不服なのか、眉間に深い皺を刻んだコイツが俺を睨みつける。
こ、この場合…。



「…っ、ごめん!」
「…………………………………」



俺はパンっと両手を合わせて謝った。
こうなったら。
こうなったら洗いざらい全部、ぶち撒けちまった方が…!!



「ごめん!…ごめん、土方…俺……」
「…何だよ」
「俺…その、解ってなかった…」
「…あ?」
「お前に好きだって言われて、付き合おうって言われて…俺、自分の気持ち解ってないまま、それ、受け入れた…」
「……………………………………」
「俺…お前の事、好きかって聞かれたら…き、嫌ってはいねーけど、好きかは…その、はっきり言えねェ…」
「…じゃぁ、何で承諾した?」
「だ、だって…断ったりしたら、お前…俺の事避けそうだし、会っても…口、聞いてくれなさそうだし…」
「…………………………………」
「で、でも…!俺、これから、ちゃんと…ちゃんと向き合おうと思ってるから…!お前の事…ちゃんと、考える、から…」



返事、しといてそりゃねーはな。
我ながらそう思うけど。
でも、うやむやんまんまコイツを受け入れる事は出来ない。
つうか、したくねェ。
…何か、俺が『受ける』みてェだし。



「…銀時」
「…な、何?」
「…ごめん」
「へ?な、何で土方君が謝るの?!」
「実は俺…解ってた」
「は?」
「お前が…その、迷ってる事」
「はぃ…?」
「いきなり告白したし、んで返事させちまったし。だからテメーが、本当に俺の事好きか、迷ってるの、…知ってた」
「…………………………………」
「だから…そう言う風に言ってもらえるとは思ってなかったし。あわよくば、そのまま流れで、俺のモンにしようとしてた」
「……………………………………」
「…ごめん。すっげー卑怯な事しようとしてたな。…お前がそう言ってくれるなら」
「……………………………………」
「待ってるよ。…お前の答えってのが出るまで」
「ぁ、ひじ…」
「…じゃぁな。今日んトコは帰るわ。…卑怯な真似して、悪かったな」



そう言って。
俺に背を向けて、歩き始めた土方。
…あれ?
何だ、これ…。



「ひ、土方…!!」
「…どわっ!テメっ、急に裾引っ張るんじゃねェよ!ビックリするだろうが!!」
「…ゃ、その…」
「?んだよ…」



引き止めたは良いけど…。
…あれ?これって…。



「………………………………」
「おい。何だよ。用事がねェなら離せよ。俺はもう帰るぞ」
「ちょっ、ちょっと待てって」
「あぁ?」



ちょっと待て。
これって…これって……。



「ぁ、のさ…土方」
「だから何だよ」
「…非常に…非常にビックリな事なんですが」
「だから何なんだよ?!」
「………………みたいです」
「…は?」
「…別れ難い、みたいです」
「………………………………………………」



自分でもビックリだ。
何つうか、コイツの去る背中とか見てたら。
胸が、その…キュン、つうか、キュゥゥゥゥン、つうか。
これで笑って「サヨナラ」とか出来そうもねェつうか。



「…おま…それ、どう言う意味か解ってんのか?」
「わか、解ってるよ!そこまで銀さんもイケズじゃないよ!てか、自分でもビックリだよ、おい!!」



突然の展開でお互いついて行けてない。
だって…だってしょうがねェだろうが!
急だったんだから!
急にそう思っちまったんだから!!



「…マジで言ってる、のか?」
「…冗談で言う程、性質悪くねェ」



どうすれば良いか解らない。
解らないから。
…ただ。
ただ、コイツの裾を握って、フリーズ。
言われた言葉にポツポツと返事を返す。
うぅ…顔上げらんねェよ。



「…ちっくしょ」
「ぅへ?!」
「…もうちっと色気のある、叫び声出せよな」
「なっ…お前が急に抱き着くからだろうが!!」
「うっせ…」
「ったく…」



小さく呟いたかと思ったら。
…ギュっと振り向き様に抱き締められた。
ビックリはしたけど、跳ね除けはしなかった。
包まれた温もりは温かくて。
俺もそっと土方の背に腕を回して。



「…マジ…に、取って良いんだよな」
「…ぅん」
「待った、とかやっぱ止めた、は利かねェぞ」
「大丈夫大丈夫」
「…本当、だな」
「うん」



念を押す土方に頷いて。
そっと引き離されて、見詰め合って。



「…好きだ。銀時」
「…うん。俺も」



囁かれた言葉を、囁き返して。
…唇を合わせた。





・END・
2006/03/18UP