「悪ぃ。仕事が入って、今日……」
久々のオフ。
土方は銀時と次のオフに会う約束をしていた。
だが、今朝方に入って来た事件でオフはめでたく潰れ。
こうして早朝、銀時に約束が反故になった謝りの電話を入れる羽目になったのだった。
受話器越しに気まずそうに話す土方とは裏腹に、銀時の答えは…。
『…あっそ』
あっさりとしたもので。
『ってかよ〜、多串君。反故んなったのは仕方ねェとして、電話して来るの早過ぎません?今何時よ?』
「…………………」
『銀さんまだ活動時間じゃねェっての。と言う訳でお休みなさ〜い。多串君、お仕事頑張ってね〜』
「…………………」
ガチャンと切られた通話。
「ぁれ?副長、お電話ですか?すぐ会議が始ま……」
「多串じゃねェって何度言やぁ解んだ、この糖尿病がぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
「ぅわぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
ブチっと引き千切られた受話器のコード。
そしてその受話器をそのまま、通りすがりの山崎にぶつける。
はぁはぁと肩で息をしながら、土方の怒りは収まらなかった。
山崎の悲鳴を聞きつけて、数名の隊士が廊下に顔を出していたが…。
「おい、副長不機嫌だぞ!」
「やっぱアレか?久々のオフ、今日の事件でなくなったから…」
「馬鹿!休日より仕事重視の副長だぞ?休日がなくなった事であんなカリカリしねェって」
「じゃぁ、アレか?やっぱコレが……」
隊士達が立てた小指。
それはつまり、女を示す。
女っ気のなかった土方にとうとう彼女が?!
色めき立つ隊士達のすぐ後ろで。
「テ〜メ〜ェ〜ラァァァ……」
「…っっっ…」
「ぁ、あははは…」
「ふ、副長…ご機嫌麗しゅぅ…」
「遊んでる暇があんだったら、さっさと軍議始めんぞぉぉぉぉ!!!!!!!」
「はいいぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!!」
土方の一括に、バタバタと隊士達は部屋へと走る。
それにフゥっと溜息を溢し。
チっと小さく舌打ちをして、土方は煙草に火を着ける。
「今に始まった事じゃねェ…か」
廊下から見上げる空は。
…憎たらしい程青かった。
「トシ、軍議始めるぞ」
「…解った、今行く」
掛けられた声に土方は廊下を歩き、軍議に向かう。
ただ…空しい気持ちを抱えて。
昼を迎えて。
軍議を終えた土方は街に出た。
軍議が終われば本来自分はオフだったので、そのままフリーになるのだが。
どうにもこうにも一度通してしまった真選組の制服を脱ぐ気にはなれなかった。
…元より、予定していた銀時との一時がすでにキャンセルとなり、やる事がなかった、と言うのもあるが。
「…はぁ」
溜息を吐いて街を徘徊する。
別段巡回の予定も入っていなかったので、これは巡回にもならない。
きちんと当番の人間が巡回をしているのだから。
それでも屯所でボーっとしているのも切ないので外に出ただけだったのだ。
一瞬、このまま万事屋にでも行こうかと考えたが、今朝方の銀時の対応に、何だか会いたいのは自分だけの気がして空しかった。
行ったとしても何しに来た、と言われるのが関の山である。
これ以上、空しい気持ちにさせられるのは、あまりにも切ない。
だからブラブラと街に出て、行く先もなく歩いた。
「…はぁ…帰るか」
だが、行き先もなく歩くのも限度がある。
このまま歩いて行ったら、江戸を出てしまう。
制服を着て、ブラブラ歩くのも問題だ。
仕事をサボっているようにも見えてしまう。
土方はもう一度溜息を吐いて、踵を返した。
折角の休日。
本来なら銀時と。
イチャイチャ出来る訳でもないが、久々に共に時間を過ごせるはずだったのに。
急なドタキャンにも文句1つ言う訳でもなく。
それはそれで有難いが、何故か胸にはしっくりと来ない。
(よくよく考えてみれば、アイツから会いたいとか、会いに来てとか言われた事ねェじゃねェか)
吸っていた煙草を吐き捨て、屯所に向かって歩く。
その間考える。
今までの銀時と自分の逢瀬。
それはいつも自分からである事に。
(そりゃぁよ、奴も男で俺も男で、『会いたい』とか『会いに来て』なんてあの野郎から聞いたら気持ち悪いつうか…!)
こっちは組織で動いている。
突然電話や押し掛けられても困るが。
(でもよ…!久々の、本当久々のオフだったんだぜ?!それをよぉ、あの野郎…!)
ドタキャンを告げる電話に、文句こそ言わないにしろ、言われた言葉は。
『…あっそ』
『お仕事頑張ってね〜』
寧ろ仕事が入った事を喜ぶような言葉。
ギリっと土方は歯軋りをする。
ザッザと歩く足も心なしか速くなる。
「お仕事頑張ってだぁ?!テメェが仕事しろ、仕事!つうか、無職だろ?!どう考えてもありゃ、無職…!!」
段々憎たらしくなって来た。
まるで自分だけが恋しいみたいで。
自分だけが会いたいみたいで。
自分だけが……。
「…あ?」
屯所が見えて来た。
土方はこのイライラは剣でも振るって落ち着かせよう、などと考えた矢先だった。
「…何やってんだ、あの野郎」
屯所の近くの電柱に。
見知った銀髪・天然パーマ。
言わずもがな、銀時である。
チラチラと屯所を見ては、電柱に隠れるような仕草を見せる。
何をやってるんだ、と暫くその動向を眺める。
「………………………」
屯所に人が出入りする度に、ビクリと身体が揺れる。
サっと隠れて、また顔だけを覗かせる。
覗いては、またサっと身体を電柱に隠して。
それの繰り返し。
怪しい事、この上ない。
「…何がしてェんだ?」
銀時の動向を見ながら、土方は首を傾げる。
屯所に用か?
それならさっさと入れば良いのに。
それとも誰か待ち伏せているのか。
…誰を?
「…もしかして…」
その時フと気が付いた。
もしかして…。
「……ぅ〜」
「……何してんだよ、銀時」
「ぎゃ、ギャァァァァっっ!!!」
「お、おまっ…何つうデカい声…!!」
「ぅわぁ〜ビックリしたビックリしたぁ!ひ、土方君かぁ…!」
背後から土方が声を掛ければ。
心底驚いたのだろう。
銀時は未だ嘗てない大声を出し、胸を押さえる。
「何やってんだよ、こんなトコで」
「ぁ、や、た、たまたま近くを通ったんでね。ひ、土方君、サボってないでちゃんと仕事してるかな〜と銀さん、気になってね」
「ふ〜ん。たまたま、ねぇ…」
「な、何よ…?」
しどろもどろになりながら言葉を返す銀時に、土方はニヤリと微笑んで。
「お前のたまたまってのは5分以上も前に、チラチラ電柱に隠れながら屯所眺めてる事言うのか?」
「っ?!ひじ、土方君見てたの?!!」
土方がそう言うと、銀時はカっと頬を赤くして。
「ち、違うからね!べ、別に久々に会う約束反故されて…そ、その…一目会おうと来た訳じゃないからね?!」
「ほっほ〜ぉ?一目会おうとわざわざ屯所まで来たのか」
「ち、違うつってんだろ?!た、たまたま偶然!ココに来て、土方君どうしてるかな〜と」
「ほっほ〜ぉ?用事もないのにわざわざ万事屋から離れたココに来たと」
「だから違うつってんでしょ?!!」
必死になって言い訳がましい事を言う銀時に。
土方は何だか可笑しくなってしまって。
「わ〜ったわ〜った。たまたまでも偶然でもどっちでも良いよ、この際」
「良くねェよ!つうか、そのニヤけ面止めろ!何かものっそいムカつく!!!」
嬉しくて。
ポンっと銀時の頭を軽く叩くと。
「丁度軍議終わって暇してたんだ。…甘味でも食いに行くか?」
「!行く」
土方の言葉に銀時もパっと顔を明るくさせて。
先歩く土方に肩を並べる。
「何処行く?前にさ、良い甘味処見つけたんだ。そこ行こうか?」
心なしか声がいつもより明るい気がする。
土方は小さく微笑んで。
「俺ぁどうせ食わねェから何処でも良いよ。テメェの行きてェトコに付き合う」
「マジで?!んじゃ、そこに決まり〜!」
レッツゴーっと息巻いて。
銀時が土方の腕を引く。
「おい!んな急がなくても甘味処はなくなったりしねェっての」
「時間が勿体ないでしょ!ほら、急いで急いで、多串君!」
会いたいのは自分だけじゃなかった。
きっと。
そう、きっと。
あぁやって屯所の前でウロついてたのは、仕事中の自身を邪魔しないように。
でも、一目でも会えればめっけもんだと。
コソコソと屯所の前をウロついていたのだろう。
「時間が勿体ねェ…ねぇ」
「ん?何?」
「いんや、何でもね」
「?」
素直じゃない恋人は。
行動だけが素直だと。
土方は、引っ張られている腕をそっと外して。
「っ?!!」
「こっちの方が良い、だろ?」
「ちょっ、それは…ちょっと……」
「あぁ?」
「…まぁ良っか」
外した手を、そっと自身の手に重ねて。
大の男が2人で手を握って歩いてる姿は滑稽以外の何者でもないけど。
…会いたかった気持ちを込めて。
暫くこのままで居よう。
・END・
2006/08/27UP