ふと、気づいてしまった。
(…あ)
例えば巡回中だろう、姿を見つけた時。
例えば多分コイツの休みの日の午後。
例えばふと出会ってしまった時。
「…ぉい、何フラフラしてやがる」
「…ん?あぁ………」
「ふん。流石に忘れて…」
「…………………」
「…………………」
「……ぉい」
「……ぇっと……」
「…おい…よもや忘れたんじゃねェだろうな…」
「覚えてる!覚えてるぜ!…そうそう。多串君だ!!」
「土方だぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!」
声を掛けて来て、何かと絡んで来る。
「本っっ当ムカつく奴だな、てめェは!!」
「ぃや〜野郎の顔はどうも覚え悪くていけねェな」
「ぁ?何だ?それは俺のせいだとでも言いてェのか?あ?」
「やだなぁ〜別にオタクの顔が十人前だなんて言ってねェよ」
「上等だ、コラぁぁぁぁっっ!!!!!!!」
あんまりにもからかい甲斐があるから、ついつい相手にしちまうけど。
「何か企んでんじゃねェだろうな」
「だぁから〜…お前も解んねェ奴だなぁ…ヅラと俺は何の関係もねェつってんだろ?!」
「…どうだかな。怪しいんだよ、てめェは」
「あ〜もう付き合ってられません。…あばよ」
「ぁっ、ちょっ…!話は終わってねェぞ、逃げんのか、コラぁっ!!」
「俺は多串君と違って暇じゃねェの」
「俺だって暇じゃねェよ!つうか多串でもねェし、てめェ年中プラプラ暇そうにしてんじゃねェか!!」
「あぁ?!何だと、この野郎!!!」
そんなこんなで会うといっつもこんな調子だし。
会うと喧嘩。
顔合わすと喧嘩。
気に入らない訳じゃないけど。
でも繕ったりしない、自然な関係だと思ってた。
…あの時までは。
(…ぁり?)
家の前に土方が佇んでいた。
何するでもなく、ボーっと突っ立ってる。
(まぁ〜だ俺疑ってるのかよ)
爆弾事件から暫く。
俺が桂の仲間なんじゃないかって疑って。
今日も今日とて監視ですかってんだ、この野郎。
「ぉい、てめ、な…」
人ん家の前で何ボーっと突っ立ってやがんだ。
そう声を掛けようとした。
掛けようとしたんだ。
…なのに。
「…………………………」
こいつの横顔見たら。
…声なんか掛けられなかった。
掛けられるはずがなかった。
その時気づいた。
…あぁ、こいつ…
「…弱ったなぁ…」
…俺に惚れてやがるな…
「またあの人が来てね…」
「近藤さんも困ったものですね、姉上」
「そうなのよ。私達の血税を飲みになんか使って欲しくないわ」
「いっそうの事、動物園入れる良ろしヨ」
それから。
アイツとは会っていない。
アイツが巡回しそうな場所に俺が行ってないってのもあるけど。
…会って。
前みたく喧嘩をする気分になれない。
(…ったく。小学生かよ…)
今時の小学生だって使わねェぞ。
んな古典的な手。
…相手の気ぃ引く為に憎まれ口叩くなんて。
「でも今回は一緒に土方さんもいらしてね」
「………………………」
「…銀さん?」
「…ぁ?何だよ、新八」
「どうしたネ、銀ちゃん」
「あ?だから何がよ?」
「いや…今何か反応したような…」
「…何によ?」
「…ゃ、それは…」
「解らないネ。でもピクンって肩、動いたヨ?」
「はぁ?動いてねェよ」
「そうかしら…?」
「そうかなぁ?」
「う〜ん?」
「…?…変な奴等」
新八達の反応を他所に。
妙がまた話し始める。
「土方さん来たら凄かったのよ、お店。皆「土方はん、土方はん」て色めき立っちゃって」
「へぇ〜確かに土方さん格好良いですもんね」
「ただのニコチンネ」
「…ケっ。あんな奴の何処が良いんだか、俺には解んねェな」
不意に出た土方の話題。
どうやら妙が働いてる店に、近藤と土方が来たらしい。
…つうか。
土方が来て、店の女が色めきたっただぁ?
あんな瞳孔全開のおっかねェ奴が?
ただのマヨラーじゃねェか。
「…銀さん、ヤキモチですか?」
「は、はぁ??!な、何で俺がアイツに…!!」
俺に惚れてるのはアイツじゃねェか!
何で俺がアイツにヤキモチ妬かなきゃいけねェんだよ!!
「だって土方さんがモテるって話したら急に不機嫌になったじゃないですか」
「ん、んな事ぁねェよ!!」
「まぁ、土方さんと銀さんはライバルみたいな感じですもんね。土方さんがモテるのは面白くないですよね」
「…………………………」
「…銀さん?」
新八の言葉に思わずポカン。
…そうだよ。
あんなのライバルなんかじゃねェけど。
ヤキモチ。
そう。ヤキモチ。
それはアイツに対してじゃなくて。
『モテる』アイツに。
俺だって天パじゃなければ!!
…って思うトコ。
なのに。
「…あれ?」
「銀さん?」
「銀さん、どうしたんですか?」
「どうしたネ、銀ちゃん」
「あれ?あれれ??」
『俺』に。
『惚れてる』のは『アイツ』
『俺』は。
それを『弱った』って思った。
「…おかしくね?」
「え?」
「何が?」
「何言ってるネ、銀ちゃん」
…おかしいよな。
『気持ち悪い』じゃなく?
『困った』じゃなく?
思ったのは。
ただ一言。
『弱った』
「銀さん?」
「銀さん?」
「銀ちゃん?」
(…さっき)
さっき思った。
『アイツとは会っていない』
そうだ。
ここ数日間アイツとは会っていない。
声を聞いていない。
姿を見ていない。
何で?
今まであんな頻繁…でもねェけど、3日に1回は会ってたのに。
(…あぁ、そうだ)
『アイツが巡回しそうな場所に俺が行ってないってのもあるけど』
俺は今。
アイツが巡回しそうな場所に行っていない。
(…ちょっと待て)
ちょっと待てちょっと待て。
じゃぁ何だ?
俺は今までアイツが巡回しそうな場所に行ってたって事か?
…あれ?
ちょっと待って。
「それって…」
「?」
「?」
「とうとう頭イカれたネ?」
『惚れてる』のは『アイツ』で。
『俺』は。
『俺』は…。
「『弱った』…」
「弱った?」
「何が?」
「誰がヨ?」
アイツの気持ちに気づいて。
弱ったと感じた。
だって。
『それ』に気づいてしまったら。
『それ』を自覚してしまったら。
『いつも』みたいになれない。
『いつも』がなくなってしまう。
『それ』が解ってしまったら。
『いつも』みたいに普通な顔で会えない。
「…『弱った』…」
「だから何が?」
「何がです?銀さん」
「はっきり言うネ」
…気づいてしまった。
気づかされてしまった。
…あぁ、もう。
「…何か、思いっきり叫びたい気分だ」
それから俺は。
志村家を後にして。
アイツが…土方が巡回しそうな場所に行った。
「…暫くじゃねェか」
「…あぁ」
そしたら一人、のんびり煙草を吸ってる土方を見つける。
…あぁ。
会おうと思ったらこんな簡単に会える。
…何だ。
俺、今まで無意識に土方に会いに来てたんじゃねェか。
「土方」
「…あ?…………っっ…!!」
そっと近づいて。
「てめェ…っ!!」
「…言っとくけど、先に自覚したのはお前だからな」
煙草臭い唇にキスを送れば。
真っ赤になって。
まだ吸い始めたばかりだったらしい煙草の吸殻が地面にポトリ。
「な、に…言って、やが…」
「『自覚』したのはオタク。『行動』したのは俺」
先に惚れたなんて言わせねェぞ。
俺だって。
無自覚だけどお前に会いに、巡回場所回ったんだから。
「好きだぜ」
「…ぇ…」
「…お前も俺の事好きだろ?」
好きじゃないなんて抜かしたら。
取り合えずもう1回キスしてやる。
「俺の事。…好きだろ?」
「………………………」
「………………………」
「………………………」
「…ぉい。何か言ったらどうだ。つうか、好きじゃないなんて言ったら、てめ、もう1回キスするぞ」
「…………………じゃぁ、好きじゃない」
「…お前な…。じゃぁ、訂正。『好き』つったら、もう1回キスしてやる」
「…………………いつ、気づいた?」
「この間。俺ん家の前でボーっと突っ立ってたろ?そん時お前のツラ見て気づいた」
「…マジでか」
「マジでだ」
「………………………」
「……で?俺の事好きなの?好きじゃないの?」
「…好き、だ…」
「…よっしゃ!」
ようやく聞けた言葉と。
回って来た腕に抱き締め返して。
俺達は。
ようやく…本当のキスをした。
・END・
2006/07/11UP