「…おぃ」
「ぁ、あははは…」
「…っ、てめェ等…」
「…惨状ですねぃ」
「何々だよ、これ…」



屯所に辿り着き、銀時は食堂に案内される。
そこで見たものは…。
机に屈っしている、隊士達の死屍累々。
その光景に思わず銀時が漏らした言葉。
それに近藤は苦笑するし。
土方は頭を抱え。
沖田は感心していた。



「ほら、旦那、よく言うでしょ?『腹が減っては戦は出来ぬ』それの見本を実施中でさぁ」
「あぁ、ナルホド」
「っ、アホかテメェ、信じてんじゃねェっ!総悟もアホな事言ってんじゃねェ!…そしてテメェ等、もっとしゃきっとしねェか!!!」



沖田の言葉にポンと手を叩いた銀時だったが、それに土方が即反応した。
そんな訳がないだろう、と怒鳴り、続いて覇気のない隊士に喝を飛ばす。
それに大使達は。



「でも副長〜…沖田隊長の言う通りですよ〜…腹が減っては戦は出来ません〜…」
「情けねェ声出すんじゃねェっ!!」
「うぅ〜…腹減った〜…」



そんな土方の喝も耳に入らない程覇気を失っていた。
…まだたった朝飯を抜いただけなのに。
それを見て近藤が。



「よし!皆注目〜!!!」
「え?」
「は?」
「あ!局長!!」
「局長ぉぉぉぉっ!!何処行ってたんスか?!!」
「飯は?!女中はどうしたんスかぁぁぁぁ!!!!」



パンパンと手を叩き、隊士達に声を掛ける。
それに反応して隊士達が近藤に駆け寄る。



「…ねぇ、ここ何処の動物園?何処の動物園なの??」
「…ま、まぁそう言うな」
「欠食児童が大量発生してんです」
「あ、あ〜…女中つうか、飯が作れる知り合いを連れて来た。これから飯を…」



近藤が銀時を紹介すると…。



「…あれ?近藤局長の隣に居るのって、銀髪の侍じゃね?」
「だよな」
「え?じゃぁ飯作れる知り合いって、銀髪の侍?」
「え?そうなのか?」
「だって他に人居ねェじゃねェか」
「あ、そっか」
「ってか、ほら、あれじゃね?」
「あれ?」
「あぁ、沖田隊長が言ってた?」
「そうそう、沖田隊長が言ってた…」



ザワザワと騒ぎ立てる隊士を見て、土方は。



「………総悟」
「何ですか?土方さん」
「……てめェ隊士達に何吹いたんだ?」
「別に吹いてやせんぜ?万事屋の旦那は土方さんの恋び…」


ガキンっっっ!!!!!


「何言っちゃってんの?何言ってくれちゃってんの?」
「嫌だなぁ、土方さん。照れ隠しに抜刀しなくても良いんですぜ。皆ちゃんと解って…」
「何も解ってねェよっ!!!!解ってくれちゃいねェよ!!!」



小競り合いを始めた。
それを見ていた銀時は。



「え〜…君んトコはいつもこんな感じな訳?」
「ん?ん〜…まぁ大体そうかな」
「…あっそ…まぁ、良いや。んじゃ、俺ちょっくら作ってくっから。ココの収拾頼むぜ」
「おぅ」



呆れながら、それを眺め。
日常茶飯事だと聞き、小さく溜め息。
自分の家も騒がしいと思っていたが、ここは人数も自分達の数倍居るので、やかましさも数倍だ。
それが日常茶飯事だと言うのも凄い。



「え〜っとエプロンエプロン…って、げっ」



キッチンに入り、エプロンを探すと、白いものがキッチンの隅に折畳んであった。
それを手に取った銀時は微かに顔をしかめる。



「…マジかよ〜でもこっれっきゃねェもんなぁ〜…あ〜もう良いっか!」



一瞬躊躇いはしたが、服が汚れるのは避けたい。
そう考えた銀時はそれを手早く身に着け。



「さぁ〜て、結構人数居るみたいだから、気合入れて作んねェとな!!」



腕まくりをして、冷蔵庫を漁り始めたのだった。



「ほれほれ、お前等もいい加減にしろよ〜。今銀時が飯作ってくれてるから。すぐ飯になると思うから終わりそうな仕事だけでも片付けろ〜!!」



その頃屯所の食堂でザワザワと騒いでいる隊士。
対決を始めた土方と沖田を近藤が往なす。
パンパンと手を叩くと一斉に近藤に視線が集中し、言葉を聞く。
…何だかんだで、結局は皆の中心に居るのは近藤なのだ。
各々仕事場に戻り、土方も沖田も刀を鞘に納める。



「近藤さん。もう旦那ぁキッチンに入ったんですかぃ?」
「あぁ。ちゃきちゃき作った方が良さそうだと判断したようだ」
「……………………………」
「そうですか…そりゃ助かりますね」
「あぁ、そうだな。俺達もすぐ済み仕事だけでも片付けちまおうぜ」
「そうですね」
「…………………………」



そう話す近藤に、土方はずっと心ココに在らずと言った感じで返事さえもしない。
仕事に戻ろうと食堂を出ようとするが、土方はチラチラと振り返る。
それを沖田が見つけ、ニヤリと微笑む。



「…気になりやすか?土方さん」
「っ、な、何がだよ?!」
「勿論万事屋の旦那の事でさぁ。屯所に旦那が居るなんて、前の幽霊騒ぎん時くらいでしたからね?」
「べべべべべべべ別にあいつが屯所ここに居ようが居まいが俺はいつもと変わんねェよ」



誤魔化すように煙草を咥え、カチカチとライターを点ける。



「ちゃんと仕事して下せェよ」
「うっせっ!てめェにだけは言われたくねェんだよ!!!」



お互い部屋に行く分かれ道まで、共に廊下を進む。
別れ際、沖田が残した言葉に土方が大声を上げる。


(…チっ)


いつもと変わらないはずなのに何処か落ち着かない。
土方は部屋のドアを乱暴に開き、部屋へと入る。
机には溜まった書類が重ねられていて。
無言のまま机の前に座ると。
土方は積み上げられた書類を数枚手にする。



「……………………………」



日付の古い順から書類の内容を読む。



「…………………………」



左から右へ。
視線は動いているのに。



「……っ、だぁぁぁぁっっっっ!!!!!!」



内容が全く頭に入って来ない。
いつもなら。
こんな机の前に噛り付かねばならない仕事。
とっとと終えてしまえと集中するのに。
今日は何だか集中出来ない。



「午後から巡回行かなきゃいけねェんだ!とっとと終わらせろ、俺っ!!!」



ぐしゃぐしゃと頭を掻き毟り、もう一度書類に目をやる。
左から右。
左から右。



「……………………」



さっきまで吸っていた煙草を消して、また新しいのを咥え、火を点ける。



「………………………」



積んである他の書類に手を伸ばす。



「………………………」



てきぱきと。
いつもは終わる。
すぐに終わる。
のに。



「〜〜〜っっ!ぅがぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!!!!」



いつの間にか空っぽだった灰皿は溢れんばかりの吸殻でいっぱいになって。
それとは裏腹に机に積み重なられた書類は片付かない。
土方は再び頭を掻き毟り、そのまま机にひれ伏す。



「駄目だっ!!ぜんっぜん、集中出来ねェっっ!!!!!!!」



次の瞬間にはそう叫び、土方は勢い良く伏していた顔を上げる。



「………落ち着け。落ち着け、俺。そうだよ…そうそう、水でも飲んで…水でも……」



スクっと立ち上がると、スタスタと部屋を出てキッチンの方へと向かう。
その間も。



「そうだよ…そうそう。俺咽喉渇いてたんだよ、咽喉がね。べ、別にあの野郎が気になるとか、料理が気になるとか、ましてや料理してる姿が見たいとか……」



ブツブツと呟いている。
ふと、廊下に嗅ぎ慣れない香りが広がっているのに気が付く。



「…?」



クンクンとそれを嗅ぐ。
醤油の良い匂い。



「…ぉぃ」



それがキッチンからと言うのは考えなくても解って。
土方はそっとキッチンへ行くと小さく、中で料理をしているだろう銀時に声を掛ける。



「ぁ、土方。仕事終わったのか?」
「ぁ、ぃや、そ……」
「?」



振り返った銀時の姿を見るや否や、土方は言葉を止めた。



「ぉまっ…!な、何て格好してんだよ!!」
「は?何が?」
「そ、それっっ!!!!」
「あ〜これ?」



振り返った銀時は。
新婚ホヤホヤの新妻でも着けないであろう、フリフリのピンクのエプロン。



「ここにあったからさ。使って良いのかと思って着たんだけど…拙かった?」



ちょいっと、胸元にあるフリルを摘みながら銀時が土方に尋ねる。
しかしすでに思考回路がスパークしている土方には、その言葉すら耳に入って居なく。
パクパクと口を開く土方に、銀時は首を傾げる。



「…土方?」
「っっっっ」



首を傾げて近づいて来る銀時に。
土方のなけなしの理性はブチ切れ寸前で。
腕を伸ばせば捕らえられる距離に来て。



「ぎんとっ…!!」

「何かすっげ、良い匂いしね?」
「するする!飯何だろうな?」
「ちょっと覗いて見ねェ?」
「あ、良いな!」
「ついでにおかず何か聞いて行こうぜ!」
「賛成賛成!!」



近づいて来る声。
隊士達の声だ。



「…っ、にゃろっ…!!」



土方が振り返った瞬間。
ひょいっと隊士の1人がキッチンに顔を出した瞬間だった。



「万事屋のだん……」

「てめェ等何仕事サボってやがるぅぅぅぅっっっっ!!!!!!!!!」

「ぅわ、副長?!」
「んで副長が?!」
「ヤベっ!!!!」



バタバタっと廊下を走る音が響く。
それを確認して土方はフゥっと溜め息を吐く。


(コイツのこんな姿、他の野郎に見せて堪るかよっ…!)


「土方?どったのさ??」



突然怒鳴り出した土方に、まだ銀時は不思議顔。



「あ、もしかして飯遅くて見に来たの?後ちょっと煮込めば終わりだからさ、もうちょっと待ってよ」
「…違う」
「違う?あ、もしかして…つまみ食いですかぁ〜?そう言えば朝から何も食ってないんだっけ?何かあったっけかな〜」
「…違う」
「え?じゃぁ、な……」



思い当たる節を幾つか挙げてみるが、土方は首を縦に振らない。
じゃぁ何だと言おうとした矢先。



「ちょっ、ぉ、おいっ…!」
「馬鹿。本当に大馬鹿野郎だな、テメーは」
「あのね。ちょっとちょっと副長さん?これセクハラだよ、ハラスメントだよ?」



ギュっと銀時の身体を抱き締めた。



「つうか馬鹿の上に大まで付けやがって。何なんだよ、一体」
「馬鹿だろうが。…んな可愛い格好、他の野郎に見せてどうしようってんだよ」
「…可愛いって…もしかしてエプロンの事か?…あのなぁ、馬鹿はお前だろう。野郎のフリフリエプロンなんざ吐き気催す以外どうしろってんだ」
「お前のは野郎でも可愛いんだよ。とにかく脱げ。脱がねェなら脱がすぞ、この野郎」
「脱がすって…あのね、ココ職場でしょ?本当にお前は俺が大好きだな」
「悪ぃかよ」
「…まぁそう言う独占欲は嬉しくない訳じゃねェけど……あ〜…解った。解りました。脱ぎます。脱ぐから離して」
「ヤだ」
「ヤだって…おまっ!お前が脱げつったんでしょうが!もっと自分の発言に責任持てよ?!」
「……びさ…」
「あ…?」
「…こう、すんの…すっげェ久々な気がする…」
「…あ、あ〜…まぁ、その…お前忙しかったみたいだからな…」
「……それは責めてるのか?」
「べっつに〜?つうか、こんなすぐ見つかるようなトコでこんな事してっと、マジで見つかるから。こう言う事がしたいなら、後で好きなだけさせてやるか…」
「…銀時?」



不意に切れた銀時の言葉に。
土方は銀時の顔を見れば。
顔を手に当てて。



「…やっちゃった。やっちゃったよ、おい」
「は?な、何だよ?」
「…出入り口」
「出入り口?」



銀時に促されて振り返れば。



「あ、あ〜…お取り込み中スマンが、隊士達が腹空かせてんだ」
「こ、近藤さん?!!」
「やっちゃったよ〜…」
「そろそろ飯にしてくれないか…?」



コッホンと軽い咳払いをして、赤い顔した近藤が立っていた。
ピシリと土方の身体が固まり。
銀時はやってしまった、とがっくりと項垂れた。



「あ…あ〜…ごめん。もう殆ど出来てるから、他の奴等も呼んで来て良いぜ」
「お、俺も行くよ、近藤さん」
「良いよ。トシはそこに居ろって」
「で、でも…」
「最近忙しかったからな。隊士達が来るから不埒な真似はするなよ」
「…………………………」



そう言い残すと、近藤はキッチンを後にする。
そんな言葉を残された土方は、何処まで聞いていたんだと頭を抱えたくなる。



「土方君が悪いんだからな〜」
「…悪かったよ」
「まっ、俺は別に良いけどな。…あ、そうだ」
「?」



銀時はバサリとエプロンを脱いで。



「調理も終わったしな。…これでOK?」
「…OK」



ニッコリと笑って土方と向き合う。



「じゃぁ、うどん注ぐから。土方君、器持って来てよ。俺何処にあるか解んないからさ」
「あ、あぁ…つうか…量、多くねェか…?」



巨大な鍋の中身がうどんだと解って。
土方はあまりの量にヒクリと口元を歪めた。



「だぁ〜ってどの位人数居るか解んねェし、さっき『腹が減っては戦は出来ぬ』って話したばっかだし。足りないより余る方が良いでしょ?」
「まぁ、そうだけどよぉ…」
「あ、そだ。土方君、味見してよ?」
「味見…?」
「そっ。…ほら、やっぱ、さ…その…初めての手料理は…土方、君に食べて欲しい…かな、なんて…」



照れ気味に言う銀時。
そして言われた言葉にクラリ。



「…おぉ」



それがどれくらい嬉しい言葉だと。
銀時は気づいているのだろうか?
土方が頷くと、銀時は嬉しそうに鍋に近づいて。
近くにあった小皿に汁を少量盛ると。



「はい」
「…おぅ」
「……………………」
「……………………」



コクリとそれを飲み込む土方を銀時は固唾を飲んで見守る。



「ど、どう…?」
「ん。…美味ェよ」



土方がそう言うと、銀時の顔もパっと明るくなって。



「そっかそっか!」



大きく頷くと同時に。
食堂がガヤガヤと騒がしくなる。



「…来たみたいだな」
「じゃぁ器持って並んでもらおっか。その方が早そう」
「だな。…おい、てめェら!器持って一列に並べ!!!!」



すぐに副長の顔に戻って。
土方はキッチンを出ると、食堂に集まり始めた隊士達に大声で叫ぶ。



「うどんですかぃ?」



いつの間にキッチンに入ったのだろう。
先程まで居なかった沖田がひょいと顔を覗かせる。



「ん?おぉ、沖田君。…そっ、おうどん。短時間でいっぱい作れるからね。いっぱ食べて」
「えぇ。さっきから良い匂い嗅いで食欲刺激されて、腹ぺこなんでさぁ」



沖田の言葉に銀時も微笑む。
そう言われると作り甲斐もあると言うものだ。



「さ。お鍋運ぼうかな」
「あれ?旦那」
「ん?」
「これ…さっきまで着けてたんですかぃ?」
「ん?あ…あぁ、それ」



沖田が目聡く見つけたのは、キッチンの片隅に置かれた先程のフリフリのエプロン。



「うん。それがどうかした?」
「否…着けてたんなら一目見たかったなぁ、と」
「ぁはは、男のフリフリエプロンだよ?キモいだけだって」
「旦那が着けたら可愛い気がしますけどね?」
「…沖田君、頭大丈夫?」
「大丈夫でさぁ。ばっちし、稼働してやすぜ。それはそうと…コレ、着けてるトコ土方さんは見たんですかぃ?」



ニヤリと微笑んで言った沖田に。
最初は驚いた銀時だったが。
そっと人差し指を唇に当てて。



「内緒」



微笑んで言って。
キッチンを後にした。



「…あ〜ぁ、旦那には敵わねェなぁ…」



隊士分食べ物を配って。
美味い美味いと食べてくれる。
これだけ美味しく食べてくれるなら任期の間は少しは楽しく料理が作れそうだ。
銀時はそんな風に思っていた。
しかしふと目の端に移ったのは…。



「ちょっと!ちょっとちょっと!!ちょっと待て、てめェっ!!!!」



盛られたうどんにマヨネーズ掛けようとしている土方だった。
銀時は大声を出してその行為を止めに入った。
隊士達は何事かと、そちらに目をやる。



「あ?何だよ」
「何だよじゃねェよ!こっちが何だよだよ!てめェ、人が作ったモンになんてモン掛けようとしてんだよ!!!」
「あ?マヨネーズだけど」
「見りゃ解るよ、それぐらい!つうか、俺が言いたいのは!何で!何でうどんにマヨネーズ掛けようとしてんのかって事だよ!!」
「は?」
「さっき美味いって言ってくれたじゃん?!あれ嘘?!嘘ですか?!!」
「嘘じゃねェよ!」
「じゃぁ何でマヨネーズ掛けようとしてんのよ!!!」
「や、美味いから、もっと美味く…」
「いやいやいやいやいやいや、それで充分美味しいですから!掛けないで!掛けないで食べてよ!!!」
「何でだよ?ますます美味く食おうと…」
「しなくて良いか!そのまま!そのまま銀さんの味味わってよ?!!」
「良いじゃねェか、俺がどう食おうと」
「何かマヨネーズに負けたみたいで悔しいから!止めよ?な?!」
「ヤだよ。俺ぁいつもうどんでも何でもこうやって食っ…」



そう言ってうどんにマヨネーズを掛けようとする土方に…。



「解った!解ったから、土方!!!」
「あ?」
「…ちょっと耳貸せ」
「は?」
「良いから、耳貸せ!!!」
「…何だよ」



ストップを掛けて。
銀時は土方に顔を近づけろと言う。
何だと言っても、耳を貸せとしか言わない銀時に、土方はハァと溜め息を吐いて銀時に顔を近づける。



「……………………」
「……………………」
「…………な?」
「…………マジでか」
「マジでだ。男に二言はねェ」



何やら密談。
真剣な顔をして話をする2人に、他のメンバーは固唾を飲んで見守り。



「…その言葉、忘れんなよ」



スっと土方が懐にマヨネーズを入れた事に驚愕する。



「副長がマヨネーズしまったぞ!」
「食事中にしまった事ねェのに!」
「さっすが銀髪の侍!」
「どんな手使ったんだ?!」
「つうか、何話してたんだ?」



ヒソヒソと話される隊士達の声に、土方の眉がピクリと動く。



「てめェら無駄口叩いてねェで、食い終わったんなら、さっさと自分の担当に戻らねェかぁぁぁぁ!!!!!!!」



そう叫ぶや否や抜刀した土方に。
隊士達は口々に「ご馳走様でした!」と叫んで食堂を後にした。
それを見ながら、土方は「フン」とうどんをすする。
…勿論マヨネーズなど掛けてはいない。
それを見ながら、銀時は嬉しそうに微笑むのだった。



「さぁ〜て。ボチボチ片付け始めますか」



そう言って、いそいそキッチンに入る銀時を追い掛けたのは近藤。



「銀時。…銀時って!」
「あぁ?…何だよ、ゴリラ」
「…何て言ったんだ?」
「はぁ?何が?」
「トシに!!俺がどんなに言っても聞かないんだぞ、何にでもマヨネーズ掛けるな!って。どうやって止めさせたんだ?」



近藤の言葉に最初は「へぇ、ゴリさんが言っても?」と言っていた銀時だったが。



「俺がさ、止めた方法教えてやっても良いけど、多分効果ないぜ?」



ニッコリと微笑んで、そう近藤に告げた。



「何でぇ?!」



それに不服そうに声を上げたの近藤。



「さぁ〜て。何ででしょうね?」
「…何やってんだよ、近藤さん。……ご馳走さん、美味かった」



そんな時に食べ終わった食器を持って来た土方。
大声を上げる近藤を不思議顔で見つめるが、食器を渡す際に。



「…じゃ、部屋で待ってる…」
「あ、うん。これ終わったら行く」



食器を洗う銀時にそう言うと、食堂を後にする。
近藤はそれを見送ってから。



「部屋…?」
「そっ。さっきさ、マヨネーズ我慢したら良いモノあげるって言ったから」
「………………良いモノ?」
「うん。…あ。他の隊士さん達には内緒だよ〜バレると色々マズぃ……って、ゴリさん?」



銀時が言い終わる前に。
顔を上げた銀時の眼前に広がったのは、涙目の近藤で。
どうしたんだ、と問う前に。



「羨ましい事山の如くぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!!!!」



バタバタと食堂を出て行った近藤に、銀時はポカンとするばかり。



「な、何なんだよ…」










うどんなんて1つの鍋で調理出来るもののお陰で。
隊士達の大量の器も比較的に短時間で片づけを終わらせる事が出来た。
銀時はキッチンの片づけを済ませると、真っ直ぐ土方の自室へと向かった。



「ひ〜じ〜か〜たく〜ん」
「…おう。入れ」



襖の前で中に居るだろう土方に呼び掛ければ。
抑制の利いた声が中に入れと呟く。
「お邪魔」と襖を開け。



「ほい」



土方が振り向く瞬間に、銀時は土方の眼前に手にしていた皿を差し出す。



「…あ?」
「へっへ〜銀さん特性『エノキタケと明太子のマヨネーズ和え』!」
「……あ?」
「ほら、さっきさ、"良いモノ”あげるって言ったでしょ?うどんにマヨ掛けるの我慢した土方君にだけ特別、銀さんが作ってあげました!」



得意げに言う銀時に、土方はクラリと眩暈を感じた。



「も、もしかしてさっきの"良いモノ”ってコレか?」
「?そうだよ?何にでもマヨネーズ掛けないで、マヨネーズ料理作ってあげたんだから。"良いモノ”でしょ?」
「…………………………」
「それにね、これ!マヨネーズ!これも銀さんのお手製なの。すっげェだろ」
「…………………………」
「あれ?食わねェの?さっきのうどんで腹いっぱいか?」
「……ってやる」
「ぅん?」
「…食ってやる食ってやる!!もう何でも食ってやる!!!!」
「ぉわっ?!ひ、土方?!そんながっつかなくても誰も取らねェぞ?!」



自分の微かな…淡い期待を口にする事も出来ず。
土方は銀時から小皿を奪い取ると、中身をガツガツと食し始める。



「な、な?どう?どうよ?」
「………………………………」



それを嬉しそうに銀時が見て。
嬉しそうに問うた。



「どうよ?銀さんの特製マヨのお味は?」
「…………………………」
「美味しいだろ?既製品なんかよりずっと?」
「…………………………」



いつもだったら、そんな嬉しそうに問う銀時を可愛いと感じてしまう所だが。
今は何だか憎たらしく感じてしまう。
可愛さ余って憎さ100倍と言った感じだ。



「……ィマイチだな」
「…あ?」
「俺ぁもっと酸味利かせた方が好みだし。…まぁ確かに既製品よりは美味いけど」
「な、何だと?!おまっ、これわざわざ銀さんが作っ……あ、あ〜!解った!解りました!!!」
「…あ?」
「これから毎日!任期終わるまで毎日マヨネーズ料理作るから!!」
「…………ぇ?」
「作りますから!絶対美味いって言わせるからな!!!」



意地悪で何となく呟いた言葉。
それなのに、売り言葉に買い言葉と言うか。
銀時はいきり立って怒鳴ると。
程なく空になった器を持って土方の部屋を後にした。



「覚悟しろよ!!!」



そう捨て台詞を残して。
土方はしばらくそれをポカンと見つめながら。


『毎日マヨネーズ料理作るから!!』


それをリピートして。
カァっと頬が赤くなるのを感じた。
任期の間。
ずっと『隊士達』の為にご飯を作るのとは別に。
『土方の為に』も料理を作ってくれるらしい。



「…ぁ、ヤベ。……相当嬉しいかも……」



そう呟いて土方は。
赤くなった顔を誰に隠す訳でもなく。
手で覆うのだった。


それから屯所では。


「…勝負!!!」
「……おぅ」
「………………どうよ?」
「ん…まぁまぁじゃね?」
「まぁまぁ?!え、これ渾身の出来なんですけど?!」
「あぁ、じゃぁ『美味い』」
「じゃぁって何?じゃぁって!…くっそ〜ぜってェ任期終わるまでに『美味い』って言わせてやっからな!!」
「…あぁ。楽しみにしてるよ」
「これもダメかぁ…酸味つってたよなぁ?……え、じゃぁ酢?でもこれ以上酢入れると味がなぁ……」



ブツブツとキッチンの奥へと入って行く銀時の背中を見ながら。
土方はクスっと小さく笑うのだった。



「ねぇ、近藤さん」
「ん?何だ、総悟」
「…俺だけですかねぃ?無性にムカつくの」
「…奇遇だな、総悟。俺もムカムカ来てるぞ」
「局長〜…トメさん帰って来るのいつでしたっけ…?」
「再来週…じゃなかったっけ?」
「それまでこの調子なんですかね…?」
「安心しろぃ、山崎」
「え?」
「そ、総悟君…?」
「…それまでに俺が土方さん、亡き者にしてやるから…」
「お、おぃ!誰か総悟止めろ!!」
「くっくっく…」
「誰が止めるんですか?!ってか、局長止めて下さいよ!!」
「無理!!!」



ハートの飛ぶ食堂の出入り口で、黒いオーラが放たれていた。





・END・
2006/07/20UP