いつからそうなったのかなんて思い出せない。
まるで昔からそうみたいに。
でも知り合ったのはごく最近で。
特別な感情なんてない。
言うなれば情人イロだったなのに。



「…傍に居ろ」
「…は?」



情事後に突然告げられた言葉。



「どうにもてめェが気になる。…傍に居ろ。俺だけを考えろ」
「…………………」



それは「告白」にしてはあまりにもあっさりと。
「告白」にしては少々色気も何もなくて。



「…俺だけのてめェで居ろ」
「…はぁ」



命令にも聞こえるそれに。
特に反論する訳でもなく。
銀時は土方の言葉に頷いた。



それから2週間後。


(…なぁ〜にが傍に居ろ、なぁ〜にが俺だけのてめェで居ろ、だ)


万事屋の、いつもの椅子に座って銀時はイライラとした気持ちを持て余していた。


(あれから2週間、2週間だぞ?!…傍に居ろって言った奴が放置ですか?放置プレイですか?!)


イライラとした気持ちがどうにも治まらなくて。
銀時はトントントントン指で机を叩く。



「何そんなにイライラしてんですか?銀さん…」
「あぁ?!俺の何処がイライラしてるよ?銀さんはいつでも上機嫌だつうの!」
「…何処がですか…」



新八の言葉にも、どうにも抑えきれず答えてしまう。


(…ダメだ…こんなんじゃダメだ…)


「新八、ちょっと俺、外歩いて来るわ…」
「え?…え、えぇ…解りました…」
「すぐ戻るから…」
「はい。行ってらっしゃい」



どうにもジっとしているのがダメなんだと、銀時は万事屋を後にする。


(まだ情人イロ時代の方が一緒に居たんじゃねェか?…俺から会いに行くか?……嫌々、それじゃぁまるで俺が会いたいみてェじゃねェか…)


全くを持ってそうなのだが、銀時はそれを認めないよう、行く充てもなく歩く。
その時だった。



「…あ?」



どうにもザワザワすると、顔を上げれば。



「あ…?」



視線の先に見えるのは、さっきから考えていた人物。



「…何だよ、ようやく会いに……って、はぁ?」



声を掛けようと手を上げようとした瞬間。
何処からともなく現れた婦人達。
きゃぁきゃぁと聞こえる黄色い声。



「トシさん、お誕生日おめでとうございます」
「これ、トシさんに似合うと思って…どうぞ」
「私も。…甘いものがあまりお好きではないと聞いたんで…手作りのケーキです」



これこれと差し出す綺麗にラッピングされたプレゼント。



「なっ…!」


(誕生日?!いつ?ってか今日?!!!)



それを目の当たりにして。
銀時はブルブルと拳を震わせる。
後数歩。
数歩歩けば、彼の目の前に立てるのに。
それは果てしなく遠い距離に思える。



「…………………」



銀時は俯くと、そのまま踵を返して万事屋に戻ろうとする。
が。



「おい!……丁度良かった。今万事屋……」



ガシっと捕まれた肩。
聞こえた声。
それは紛れも無く、先程から考えいた人物・土方のモノで。
後ろではどうやら、土方が振り切ったらしい女性の声もして。
ギリっと銀時は歯を食い縛る。



「………………ぇ」
「…え?」



ボソボソと呟いた銀時の声に。
土方が聞き返すと。



ガスっ!!!!



「…っ、てっ…!!」
「くたばっちまえ!!!!!



振り向き様に、渾身のパンチが土方の頬を直撃して。
銀時はありったけの声を出して、そう叫ぶとそのままスタスタを歩き出してしまう。



「な、なん……」



そこにはポツリと残された土方が呆然として居た。



(何が誕生日だ、何がおめでとうだ!!!)



ザッザと早足に歩いて。
銀時はイライラとした気持ちを抑えきれずにいた。


(俺は知らねェのに、何で他の女共が知ってる訳?!ってか俺には祝われたくねェってか?!あぁ、そうかい。誰が祝って…)



「…あ?」



そして歩を止めて気づく。



「…俺…」



言われた言葉。
それから数週間の放置。
そして今日と言う日。



「…『好き』とか言われてねェじゃん…」



恋人になった訳でもなく。
情人イロの時と、代わりは無いのだ。



「…やっべー」



そう解ったら。
何だか酷く自分が滑稽で。
悲しくて。



「…あぁ、マジでヤバい…」



銀時は思わず物陰に座り込んで、顔を隠してしまう。



「…俺、だけ、じゃん…」



『付き合ってる』と思っていたのも。
…『好き』なのも…。



「…もぉ〜…銀さんいいお年なのに…」



気づいてしまった真実。
そう言えば情人イロ時代だって。
『好き』じゃなきゃ、自分も男なのに、幾ら性欲処理の為とは言え、男と寝れない。
…女役なんて出来ない。



「…気づくの遅過ぎだよ〜」



会えない事にイライラした。
婦女を話しているのにイライラした。
他の誰かが、自身より早く誕生日をお祝いしてるのにイライラした。
自分が誕生日を知らないのにイライラした。
そこかしこに落ちている恋の欠片に。
銀時はただ呆然と、そして落ち込むしかなかった。



「…どうしよ…」
「どうしようって…取り合えず公務執行妨害でしょっぴくはなぁ?」



突然降って沸いた言葉に銀時は固まる。
恐る恐る振り向けば。



「…さっきは渾身のパンチ、有難うよ



そこには瞳孔を全開、こめかみに青筋を立てた土方が立っていて。



「よ、よぉ…ご機嫌如何?」
「さっきまでは上々だったがな?どっかの誰かさんが思いっクソパンチしてくれて、気分最悪だ」
「ぁ、あはははは…
「どう言うつもりか…じっくり聞こうか?」
「……………………」



ジリっと近寄る土方に、銀時は黙り込むしかなかった。


(今更…何て言う?)


素直に気持ちを伝えるか。
曖昧な関係を続けるか。



「ひ、土方君が悪いんだからな!!」
「あぁ?!俺の何処が悪いってんだよ!!」
「ん、んなの自分の胸に聞いてみやがれっっ!!!」
「はぁ?!何だってんだよ!!」
「……………………」



…八つ当たりだ。
八つ当たりだと解っているけど。
どうしても止められない。
今更…今更正直な気持ちなんか言えないし。
銀時は視線を落としたまま、黙り込むしかなかった。



「…怒ってるのか?」
「あ?あ、あぁ…ん、まぁ…」
「……………」
「…ごめん。気にしなくて良いぜ。実は…どっちかって言うと八つ当り的なアレ、だから…」



泣きたい気持ちを何とか誤魔化して。
銀時はそう言うと笑った。
曖昧に。
微笑した。


(いー年したおっさんが自分の勘違いに悲観して泣くなんて目も充てらんねェよ)



「…で笑うんだよ」
「え?」
「何で笑うんだよ!怒りゃぁ良いじゃねェかよ!何でこんな時まで本心隠すんだよ!!」
「だ、って…」



叫ばれて。怒鳴られて。
怒ってるのは自分で。
でも土方を怒らす事もして。
彼がどうしたくて。
そして自分はどうしたいのだろう。
…解らない。解らないからただ、誤魔化して笑って。


(怒る?)


何に?
勘違いした自分に?
勘違いさせた土方に?



「…アレだぞ」
「え?」
「その…ほら、べ、別に囲まれて喜んでた訳じゃねェからな。…お前には…そぅ、取れたかも知んねェけどよ…」
「…え?」
「え?そ、それじゃねェのか?殴った理由」
「……………」
「それじゃぁアレか?『付き合おう』とか言い出したのにいきなり会いに行けなくなった事か?そりゃぁ悪かったけど、仕事が…」
「…え?」
「こ、これでもねェのか?だったら何…」
「ちょっ、ちょっと待って土方君。おま…お前今何つった?」
「あ?だから仕事が…」
「その前!」
「会いに行けなくて?」
「その前!!」
「あぁ?何だよ、一体…」
「良いから!!」
「その前って…『付き合おう』?」
「それだぁぁっ!」
「は、はぁぁ?何だよ、急に」
「俺達『付き合ってる』の?」
「は、はぁぁ?こ、この間言ったろうが…」
「…………」
「…『傍に居ろ』って」
「…うん…」



土方の言葉に銀時は何処か安心した。
勘違いじゃなかった…。



「お前…返事したじゃねェかよ…」
「…うん」
「……両想いになれた、って思ってたのは俺だけか?」
「……がう」
「え?」
「ち、がう…」



見れば銀時の顔は真っ赤になっていて。



「…お、おい?」
「…土方君の馬鹿…」



近づいてきた土方の胸元にポスンと収まって。



「馬鹿って何だよ、馬鹿って」
「だって馬鹿だもん。馬鹿。すっげェ馬鹿。…紛らわしい言い方すんな」
「紛らわしいって…」
「『付き合ってる』と思ってたのに待ってても来ないし」
「だからそれは仕事が…」
「久々に会ったと思ったら女に囲まれてるし」
「う…だ、だから本心じゃねェって…」
「…俺、何も用意してねェからな」
「は?」
「誕生日、なんだろ?…プレゼントとか。何も用意してねェから」
「…………………」
「教えてくんねー多串君が悪いんだかんな」
「…土方だつうの」
「うっさい。…お前なんか多串で充分だ」
「まぁ…良いよ」
「多串で?」
「違ェよ。プレゼント。…これで」



そう言うと、土方は胸元のスカーフを取るとそれを銀時の首に巻く。
そしてそれを器用にリボン結びにして。



「ちょ、ちょっと…?!」
「どっちにしろ俺の欲しいモンなんて1つしかねェんだ。俺はコレがあれば充分だ」
「なっ…!」
「坂田銀時。…お前が欲しい」
「っっ!?!」



その言葉に銀時はますます顔を赤らめて。



「ばばばばば馬鹿ですか?馬鹿ですか?!な、何恥い事言ってんの?!」
「嬉しいだろ?安上がりだしな」
「高いですから!何よりも高い代物ですから、銀さんは!!」
「後…」
「あぁ?!まだ何か欲しがる気ですか?!」
「パンチも一緒に貰っといてやるよ。…嫉妬ヤキモチ屋のな」
「…馬ー鹿。色々な感情の複合パンチだ」



1つは放って置いた事への。
1つは嫉妬心への。
1つは誕生日を教えなかった事への。
1つは紛らわしい『告白』への。
…でも。
どれも想っての。
最上級の想いだから。



「ぉら、行くぞ。いつまで、んな物陰に座り込んでんだ」
「え?何処何処??バースディケーキ食べに甘味処?」
「俺の誕生日だつうの。甘いモンなんか食うか」
「え〜…あ、ホテルでも良いよ。今日は銀さんサービスしたげる」
「…マジでか」



真剣に返す土方に銀時は笑って。
来年の今も。
こうして笑って居たい。
なんて2人で思ったのは。
…今は内緒。





・END・
2006/05/05UP