「…久し振り…」

「お、よぉ」



仕事で会えなくなるなんて日常茶飯事。
俺が警察なんて仕事をしてるから。
副長、なんて立場に居るから。
なかなか自由が利かない。
時間が空かない。
だから逢瀬はいつも俺が奴の家に行くばかり。
「久し振り」と声を掛けて入っても。
いつもの魚の死んだような目で。
ジャンプから目も外さずに。
「よぉ」とだけ返す。
…何だよ。
会いたいって思ってたのは俺だけか?
抱き締めたいって思ってたのは俺だけか?
触れたいって……



「銀時…」
「ぁ、ちょっ、俺今ジャンプ読んでるんだけど?!」
「久々に来た恋人蔑ろにして…ジャンプなんていつだって読めんだろ?!」
「あ、ちょっ、馬鹿!今良い所…!!」
「……………………」



抱き締めようと腰に腕を回せば。
邪魔だとばかりに顔に手が伸びて。
…ったく。
これが1ヶ月振りに会う、恋人への仕打ちか?



「……………………」
「…ふ〜、満足満足。…ん?どったの、急に静かんなっちまって」
「…お前」
「ん?」
「俺の事好きか?」
「…………は?」
「好きか?」
「ちょ、ちょっと多串君?どうしたのよ?俺達そんな関係じゃないでしょ〜?」
「…あぁ?」
「好きとか嫌いとか。そんな事言い合う関係じゃないでしょ。どうしたの、今日は?」
「………………………」
「お疲れ?寝る?」
「………帰る」
「…は?」
「帰る!!」
「ちょ、ちょっとちょっと?!!」



ドタドタと。
玄関に向かう。
後ろで銀時が呼ぶ声がしたが、止まってなんかやらなかった。
…あぁ、そうだよな。
俺達は。
そんな事言い合う関係じゃない。
『好き』とか『嫌い』とか。
…んな事。
……お前はどうだって良いんだよな…



「…何なの、いきなり来ていきなり帰っちゃって」


「しかも…」


「『俺の事好きか』って…」


「……若いな〜土方君は」



お前の事。
『好き』だって思ってたのも。
『恋人』だと思ってたのも。
俺だけ…なんだな…。




















































「今日は土方さん、凄い張り切ってやしたねぇ」
「…そうか?」
「そうでさぁ。…何です?昨日旦那と宜しくやってらしたんですかぃ?憎いね、コノコノ」
「ちょっ?!何でそこで抜刀すんだよ?!」
「否…憎いから、このまま亡き者にでも…」
「それ違う恨みも入ってんだろう?!」
「…チっ。バレたか」
「バレたかじゃねェんだよ。バレバレだ、てめェの魂胆なんか」
「…今日はやけに乗りが悪いですねぃ?お疲れですかぃ?旦那とハッスルし過ぎやしたか?」
「…………………………」
「…土方さん?」
「…疲れてなんかねェよ」
「何か…あったんですかぃ?」
「…別に…」



別に…。
そう別に。
ただ確認しただけだ…。
俺の…勘違い。
俺の独り相撲を、な。



「…全く。まぁたしたんですかぃ?犬も食わない何とやら」
「だから…んなんじゃねェって…!!」
「っと。噂をすればですぜ」
「あぁ?」



総悟が正面に顔を向け。
顎で指す方向には…。



「ちょっと、銀さん大丈夫?飲み過ぎだよ!!」
「ん〜…らいしょうふらいしょ〜ふ!もぉ〜いっへん!!」
「ダメだよ、銀さん。もう独りでだって歩けないじゃない」
「ん〜…??」



ヨロヨロ千鳥足で。
隣には夜だってのにサングラスを掛けたおっさん。
…チっ。
会いたくないと思ってる時程会っちまう。
…会いたい時は一遍だって会えないクセに。



「ほら。…愛しい恋人が介抱待ってやすぜ」
「…じゃねェよ」
「え…?」
「恋人じゃねェよ」



人がこれ程苦しんで。
辛い気持ちで居るのに。
てめェは好い気におっさんと酒飲みかい。
…好い気なもんじゃねェか。



「おぃ」
「ぅ〜ん…あ〜、多串君だぁ」
「飲み過ぎだ。ここらで吐くんじゃねェぞ。始末が大変だ」
「多串君たぁ〜」
「…だから、俺は多串…っ?!」



嫌味の1つでも言ってやろうと近寄ったら。
訳の解らん名前をまた呼んで。
そのままギュぅっと抱き締められた。



「お、おぃ?!マジで飲み過ぎだ、てめっ…酒臭ェ…っ!!」



こっちはいつだって触れたいのを我慢してるのに。
…好きじゃねェんだろ?
俺の事なんか。
…恋人じゃねェんだろ?
俺は。
だったら簡単に触れるな。触るな。近づくな。
…こっちは。
いつだってなけなしの理性保つのに精一杯なんだ…!



「離せっ!!」
「やぁ〜だぁ〜離さないぃ〜」
「てめっ、酔っ払ってんな?!」
「そ〜だよぉ〜?だってお酒飲んでるもぉ〜ん」
「えっと…」
「あぁ、旦那。これ、知り合いなんで、任せてくれて良いですぜ」
「あ、本当に?真選組だもんな。じゃぁ信用して任せちゃおうかな」
「はぃはぃ、大丈夫ですぜ〜?」
「ちょ、おぃ!!」
「じゃぁな、銀さん。今度は飲み過ぎんなよ〜」
「ん〜…じゃ〜ね〜長谷川さ〜ん」



総悟がそう言うと、一緒に居た『長谷川』と呼ばれた男はそそくさとその場を去ってしまった。



「…おぃ、総悟。コレてめェが責任持って送れよ」
「あ〜銀さんコレ呼ばわりですかぁ〜?この野郎」
「何で俺が?土方さんが責任持って送って下せぇよ」
「あれあれ?俺無視?無視ですか〜?」
「うるせェ、てめェはしゃべんな!!…総悟!!てめェが請け負ったんだろうが!!」
「う〜…多串君に怒られたぁ〜」
「大丈夫ですぜ、旦那。いつもこんなテンションでさぁ」
「あ、そぅ〜?」
「いつもこんなテンションな訳ねェだろうが!いつもこんなんだったら血管ブチ切れるわ!!」
「それはそうと。万事屋の旦那はアンタの恋人でしょ?」
「っ、だから!恋人じゃねェつってんだろ!!」
「…でも。旦那引っ付いてますぜ?」
「こ、これは…!酔っ払ってて誰とかの分別ついてねェだけだろ?!」
「『多串君』って呼んでたじゃないですかぃ?」
「俺は多串じゃねェっっ!!!」
「まぁ。俺は巡回があるんで。…土方さん、頑張って下せぇ〜」
「ちょ、総悟?!!」



ヒラヒラと手を振って。
いつも巡回なんて。
散歩ぐれェにしか思ってねェ奴のくせに。
こう言う時だけ真面目な振りしやがって…!!



「……………どうすんだよ、コレ」
「…すぅ〜すぅ〜」
「…おい。……寝んな」
「…ん〜?銀さんおネムぅぅ〜…」
「寝んな!チっ、仕方ねェ。…送ってってやる」
「ん〜…?」
「おぃ!…ちゃんと歩け」
「ん〜?ん…」
「…くしょぅ」



寝惚けてる。
酔っ払ってるって。
解ってる。
解っているのに。
素直に頷くこいつが可愛く思えて仕方ない。
素直に俺に身体を預けてるこいつが好きで堪らない。
抱き締めたい。
この回った腕に。
応えたい。
…けど。



「おい!いい加減離せっ…!」
「ん〜?」
「首だよ、首!ちょっ、絞まってる!!絞まってるから!!」
「やぁ〜だぁ〜」
「ちょっ、…銀時!!」



いつもは感じない。
感じられない。
髪の匂い。
体臭。
温度。
触れ合った体温。
息遣い。
全てが近くて。
理性が持たなくて。
…でもこいつは俺を好きじゃない。
独り相撲はもうたくさんだ。
ずっと…ずっと『恋人』だと思ってた。
確かに。
気持ちは確かめ合ってない。
でも。
俺はこいつを。
お前は俺を。
…同じ気持ちだって思ってた。
だから…。



「…やぁだ」


ギュっ


「…銀、時…?」



辛いんだ。
俺だけ、なんて。
俺だけが。
こいつに囚われてるなんて。
会いたいんだなんて。
触れたいだなんて。
好きだ…なんて。



「…やぁだ…」
「銀時…?」
「離さない…」



キュっと強められた腕にドキリとする。
フワリと揺れる、天パ。
鼻腔をくすぐる、甘い香り…。



「ぜっらぃ、離さない…」
「………………」
「…夢…」
「…夢?」
「現実で我慢してやってんだから…」
「…………………」
「会うの…我慢、して…だから……」
「…………………」
「…夢、中くらい…俺の傍に居ろ…」
「…………………」
「夢ん中くらい……」
「…………………」
「…俺の傍に居ろよ…馬鹿、方……」
「………多串の次は馬鹿方かよ。いい加減俺の名前をちゃんと覚えろ」
「…すぅすぅ…」
「…って寝てやがるし」
「…ん…ひ、じ…かた…」
「…何だよ。ちゃんと覚えてんじゃねェか」



そっか。
そう…か。



「くっくっく…」
「ん…むにゃむにゃ…」
「ぁ、あははは…!」
「んっ…ぅ、るさ……」



そうだった。



「くっくっく…素直じゃねェなぁ」



忘れてた。



「…俺もお前も…やっぱ同じだったんじゃねェか」



すっかり失念してたぜ。
そうだそうだ、そうだったんだ。
素直じゃなかったんだ。
俺も。
お前も。



「…一緒だったんだ」



俺だけじゃなかったんだ。
そして。
俺が言わなきゃいけないのは。



「…好きだぜ。銀時」



ただ1つの。
この言葉。



「…会いたい。触れたい。抱き締めたい。…なぁ、銀時?」
「んっ…」
「本当は。…お前も、だろ」



返事は返って来ないけど。





















































〜後日談〜


「う、ぅわああああああああぁぁぁっっ!!!!!」

「…っ、あぁ?んだよ、朝っぱらからデカい声だしやがって…」
「な、何で?!何で多串君がウチに居んの?!ってか、俺…俺の隣に寝、寝、寝て……!!」
「あぁ?忘れたのかよ。…昨日てめェに会ったら酔っ払ってて、いきなり俺に抱き着いて来たんじゃねェか」
「お、俺が?!だ、抱き着いたぁ?!!」
「そうだよ。離さなくてな〜大変だったんだぜ?」
「ぎぎぎぎぎ銀さんが覚えてないからって、んなフカしこくなよな!?」
「本当だつうの。え〜っと…あぁそうだ『長谷川』ってのに聞けよ。本当だから」
「………………ちょっと待て。え、それじゃぁアレ夢?夢だよね……夢……ヤ、でも…え?…まままままさか…」

「銀時」

「な、何?!!」
「…好きだぜ?」
「?!!ななななな何急に言い出すかな、多串君は?!」
「…別に。聞く前に言った事なかったな、と思ってな」
「………………………」
「…っと。こんな時間か…悪ぃがもう俺ぁ行くぜ」
「え?あ、も、もぅ?!」
「…何だよ?名残惜しいのかぁ?」
「っ!ん、んな訳ないでしょ?!何で俺が!!」
「へぃへぃ。…じゃぁな。次は飲み過ぎるなよ」
「う、うぅ〜…」
「………………………」
「…土方君!」
「…あぁ?」
「………………………俺も、アレだ」
「…はぁ?何だよ、アレって?」
「ほれ、その…アレだよ、アレ」
「だから。アレって何だよ?」
「だぁぁぁ、もう鈍いなぁ、多串君はっ!!!」
「はぁ?!言うに事欠いて鈍いだぁ?!きちんとした日本語話してから言いやがれっ!!」
「だからぁ!!」
「だから?」

「……ぉ、れも…その、……アレ……す、好き、だ、ぞ?」

「…………………」
「な、何だよ?!!」

「…知ってる」

「は、はぁ??」

「だから。…今度は我慢せずに会いに来いよ」

「!?!?!」

「…俺もマメに会いに来るからな」





・END・
2006/05/21UP