・3月10日・



「おら」
「?」



万事屋に来た土方が有無もう言わさず差し出した箱。



「…くんくん…」
「…匂いを嗅ぐな。犬か、てめェは」
「犬は多串君でしょ〜」
「あ゛ぁ゛?!そりゃ幕府の狗って言いてェのか、てめェっ?!!」
「…ん?この匂い…」
「…聞いてねェし…」
「もしかして、ケーキ?!!」



ガバっと箱に抱き着こうとした銀時に、土方はサっと箱を隠して。



「あっ?!!何何?!それ銀さんに買って来たんじゃないの?!!」
「…おい。今日、何の日だ?」
「へ?」
「きょ・う・な・ん・の・ひ・だ?」
「今日…?今日は…銀さんの誕生日でもないし、多串君の誕生日…っていつだっけ?」
「…おぃ、恋人の誕生日も覚えてねェのか?つうか、名前も違ってんだけどよぉ?



こめかみをピクピクとさせ、怒り始める土方に…。



「ちょっと待って!ちょっと待ってちょっと待って。出て来そう…。もうちょっとで出て来そう…」
「………………………」
「…ぁ、やっぱダメだ。えっと…今日?今日はぁ〜??」
「…はぁ〜」
「??」



いきなり質問を投げ付けた土方に、銀時は首を傾げる。



「…また…やられた…」
「へ?ヤられた?えぇっと、それは………ご愁傷様??」
「ちょっと待てぃっ!それはどう言う意味だぁ?!!
「えぇ?!だ、だってヤられたんでしょ?男なのに、それは可哀想だなぁ〜と思って。ご愁傷様?」
「違う!断じてお前が思ってる『やられた』とは違うから!!ってか変な変換の仕方すんじゃねェ、コラっ!!
「あ、そうなの?」
「んで、残念そうなんだ、こらぁぁぁっっ?!!!
「いやぁ〜多串君がヤられたんなら、ちっとはこっちの苦労も解るかなぁ、と思ってぇ…」
「思ってぇ…じゃねェつうの?!つうか、苦労って何だ?!」
「え〜…言って良いのぉ?」
「…………否、やっぱ良い。何だか男として立ち直れない気…嫌々、何言ってんの、俺……」
「ん〜…あ、それより」
「あ?」
「ケーキ!ケーキ、俺に買って来てくれたんでしょ?早く頂戴。ってか寄越せ



はい、と手を伸ばす銀時に、土方はまたサっとケーキの箱を遠ざけて。



「俺ぁ、お前に強請られるかと思って買って来たんだがな」
「へ?強請る?そりゃぁいつも強請ってるけど…でもいつも買って来てくれないじゃん。今日に限って何で??」
「はぁ〜…だから。今日は何の日だ?」
「またそれに戻るの?」



今日は何の日?



「今日は3月10日でしょ?」
「あぁ」
「えー…ノーヒント?」
「あぁ」



目の前にケーキの箱。
銀時は腕組みをしながら考えるが。



「…うーん…」



チラチラと。
目の端に移るケーキの箱。
どうにも集中出来ない。


(答えないとくれないのかなー)



「…うん」
「は?」
「…えぃ」
「うわっ!!」


ドサっ


「なっ…いきなり何すんだ、てめェっ!!」



ドンっと土方を両手で押し、倒れた土方の上に銀時が乗っかる。
突然の事で油断していた土方はそのまま押し倒されて。
土方に馬乗りになった銀時はニコーっと微笑んで。



「もーメンドくさいから、貰えないから奪うわ」
「って、おいっ、ちょっ…!



土方の伸びた腕の先のケーキを狙う。



「ぅ、わ…っ、わ、解った!教える!教えるし、ケーキもやるから、タンマ!ちょっとタンマ!!」



のしかかられ、腕を抑える為に銀時の肌蹴た胸元が自身の目の前にあるのもキツい。
しかし玄関先で盛る訳にもいかず。
土方はストップを掛ける。



「…ホント?」
「本当!ってか、重いんだよ、もっとダイエットしろ!!」
「あ〜失礼な。これでも銀さん、スリムさんなんだぞ?」
「俺より1キロ重いクセに…」
「成人の1キロなんてあってないようなもんですー。ってか多串君が痩せ過ぎなの」
「成人の1キロはあってないようなもんなんだろ。どっこいだ」
「じゃぁ重いって言うな!!!」



先程と言っている事の違う土方にそう突っ込みを入れつつ。
銀時は土方の上から退く。



「それで?」
「…あ?」
「あ、じゃないの。ケーキ。それと今日は何の日って話」
「あ、あぁ…それか」
「もー…早く頂戴よ〜」
「…砂糖の日」
「…え?」
「今日。3月10日で、砂(3)糖(10)の日」
「………………」
「って。総悟が言ってた」
「あ、何だ…沖田君がね」
「…俺が知ってる訳あるか」
「いやね、銀さん大好きな多串君がわざわざ調べたのかと思って」
「誰が誰を大好きだ、こらぁぁ?!!
「え〜…多串君がぁ〜」
「たった斬るぞ、てめェっ!!
「あ〜はいはい。解ったから。それで?砂糖の日だから?」
「チっ。…それで。今日お前に『砂糖の日なんだから、ケーキの1つや2つ持って来い〜』とか言われると思って…」
「買って来たのね、ケーキ」
「あぁ」



ふ〜ん、と銀時は納得する。
3月10日で砂糖の日。
だから糖分持参。



「じゃぁ、ちょーだい



ん、と手を伸ばすが…。



「ヤだ」



サっとまたケーキの箱が銀時から遠ざかる。



「ええええぇぇぇぇ?!ちょ、お前さっきと言ってる事違くない?!」
「だってお前、知らなかったんだろう?」
「何を」
「だから。砂糖の日」
「…う…



特に糖分好きと言う訳でもない沖田が知っていて。
糖分大好きの銀時が知らなかった。
それを言われると。
何だか糖分を甘くみるな、と言われているようで。
甘いけど、甘くない。
3月10日。
糖分の日。



「それによく考えたら、お前糖尿病寸前だったよなぁ?」
「…う…
「それなのに過剰に糖分与えちゃいけねェよなぁ?」
「…う…
「さぁて、じゃぁこれは眼鏡とチャイナにやるかなぁ?」
「…うぅ…



土方の言葉に。
どんどん俯いてしまう銀時。
それを眺めながら土方は。
ニヤリと微笑んで。



「…なぁ」
「…何だよ」
「…欲しいか?」
「!!…くれんのか?!」



土方の言葉に、銀時がパっと顔を上げる。
その顔は歓喜に満ちていて。


(ヤッベェ…)


滅多に見れない銀時の歓喜の表情に。
顔がニヤけてしまう。
が、土方は必死にそれを堪えて。



「そうだなぁ…まぁ、元々はてめェに買って来たモンだし…」
「うん、うん!!」



一度、チラっとケーキの箱に視線を送ってから。



「…強請れ」
「へ?」
「『可愛らしく』俺にケーキ強請れば、やらねェ事もねェなぁ…」
「…………………」



ふぅ〜と紫煙を吐き出す土方に。



「ば、馬鹿ですかぁぁ?!おまっ、20後半のオッサンに『可愛く』強請れって、どんな了見ですかぁぁ?!!」
「何だよ?糖分欲しくねェのか?」



ほらほら、と目の前にチラつかされるケーキの箱。
あぁ…このケーキの箱にはどんな素敵な甘味さまが入っているのか…。



「卑怯だぞ、てめェっ…!」
「どっちがだよ。こんな時くらい可愛らしくしてみやがれ」
「…うぅぅぅ…」
「要らねェんだな?…じゃぁ、コレは眼鏡とチャイナに…」
「ちょぉぉぉっと待てぇぇっ!!!」
「あぁ?『可愛く』強請れねェんだろ?」
「う、うぅぅ…」



ギュっと銀時は土方に近づくと、土方の制服の裾を握る。


(お…?)


その特殊な仕草に土方はドキリとする。



「…うぅ、糖分の為だ。糖分…」



まるで自分に言い聞かせるように。
下に向けていた銀時の視線が正面を見る。
銀時と土方の身長は同じだから。
自然、視線がぶつかる。



「……………………」
「……………………」



無言で見つめ合って。
それから…。



「…ト…」
「ト?」
「…うぅ、…ト、シ…」
「……………………」


「…糖分、ちょーだぃ…」


チュっと頬に触れた唇。
そのままポスっと土方の胸に顔を埋めて。
うぅ…と唸る声が微かに聞こえる。
見れば耳は真っ赤で。
多分隠れている銀時の顔もきっと真っ赤だろう。
多分銀時の精一杯の甘え。
普段甘えた振りをしているけど。
意識的に甘えるなんてしないから。
本人的の。
精一杯の。
甘え。



「……まぁ、良いか」
「…まぁ、って何だ。まぁって…」
「ふん。…ほらよ」
「あぁ!糖分!!!」



スっと土方が箱を差し出せば。
ガバっとそれを奪って。



「うわぁぁ、美味そう!!!苺にフルーツに、ぅわぁ!チョコまで



箱を開けるや否や。
手掴みでそれを食べ始める。
さっきまでの可愛らしさは何処吹く風。



「…ちったぁ普段もさっきくらいの可愛さ見せろや」
「うめェェェっ!!!」
「…聞いてねェし」
「うんめェっっ〜
「苦労した分、美味いだろ?」
「っ!わ、忘れて良いから!つうかさっきからしつこいから、多串君!!…あぁ、それにしても美味い!!」
「…ふん。誰が忘れるか」
「あ、チーズケーキもある、チーズケーキ!!」
「…俺も恥ずかしい思いして買ったんだ。てめェも少しは恥ずかしがれ」



…大の男が。
しかも制服で。
ケーキショップに入るのはなかなか恥ずかしい。
しかも買ったのは。
女子が好みそうな。
ショートケーキやフルーツが盛りだくさんのフルーツケーキ。
店の中には甘味好きの女子ばかり。
そんな中で土方は目立つばかり。



「…まぁ、たまには良いかもな」
「え?何か言った??」
「別に…」



3月10日。
糖の日。




・END・
2006/5/14UP