「土方さんに是非とも教えたい食い物屋があるんでさぁ」



沖田の言葉に土方は多少の驚きを見せた。



「…何だ?俺がそこで飯食ってる間に車でも突っ込ませようって腹か?」
「嫌ですぜ、土方さん。俺はただ純粋に土方さんが喜びそうな店見つけたから紹介しようと思って言ったのに」
「…和食?洋食?中華?」
「それは行ってからのお楽しみでさぁ」



唇に指を当てて鮮やかに微笑む沖田に、土方の疑いはますます深まる。


(…何だ?ゲテモノ屋でも連れてこうってのか?)


カチカチと新しい煙草に火をつけて。
はぁ〜と息を吐いて。



「…まぁ良いだろ。近いんなら今日の昼飯にでも連れてけや」



沖田が言い出したら聞かないのも、長い付き合いで熟知しているから。
こうして土方が折れるしかないのだ。
別段この店でないと駄目と言う事もない。
土方が承諾すると、沖田は嬉しそうに。



「解りやした。じゃぁ今日の巡回場所と近いんで、巡回中の昼休みに」
「あぁ」
「約束しやしたぜ、土方さん」



と微笑むのだった。















































「…何だ、ここは」



昼休み。
約束通り沖田お薦めの店に行き、案内されるまま席に着いてメニューを開いた土方の開口一番の言葉。



「どうしやした、土方さん」
「どうもこうもあるか!飯所か、あんのは甘いもんばっかじゃねェか!!



バン!とテーブルを叩いて土方がいきり立つ。



「ありゃ?お気に召しやせんでしたか?」
「召すか!俺ゃぁ甘いもんが苦手だって、総悟てめェ知ってんだろう?!」
「そうでしたっけ?」
「総悟〜!



ケロリとそう述べる沖田に土方のボルテージも上がる。



「てめェを信じた俺が馬鹿だった!俺ゃぁ帰る!」



そう行って席を立った土方に。



「…嬉しくないんですかぃ?」
「だから嬉しい訳ねェだろうが!俺は甘いもんは食わねェ!」
「土方さんは食べなくとも、土方さんのツレは食べるでしょ?」
「ツレだぁ?!てめェ…てめェが食い終わるまで、俺に待ってろって言うのか?!」
「違いまさぁ、俺じゃねェぜ、土方さん」
「はぁ?じゃぁ誰だってんだ?」



的を獲ない沖田の言葉に土方は首を傾げる。
その様子に沖田は溜め息を一つ吐き。



「…ここ。甘味好きにゃぁ、ちったぁ知られた店なんですよ。…どっかの甘味好きにゃぁ堪らないんじゃないですかねぇ?」
「あ?…ぁ…」
「ようやく理解しやしたか?」
「…てててててめぇ、なななな何言ってやがんだよ。いいいいい意味解るんねェ」
「土方さん、煙草、逆。フィルターに火ぃ付けてどーすんです?…まぁ、しらばっくれなくても良いですぜ、土方さん。ネタはあがってるんでさぁ」
「……チッ……」
「…こんなのの何処が良いんですかねぇ」
「あぁ??」
「で。ここの人気メニューなんですがね…きっと万事屋の旦那も好きだと思うんですがねぇ」
「ちょっと待てぃぃぃ!!誰も連れて来るなんと言ってねェだろうがぁぁぁ!!つうか、思いっきり固有名詞出してんじゃねェかぁぁ!!」



半キレ気味の土方に、沖田はメニューから顔をあげないまま。



「まぁまぁ、良いじゃないですか、土方さん。ってか隊士達の間じゃぁ有名でさぁ。副長がホモんなったって」
「思いっきり心外な言葉サラっと投げてんじゃねェっっ!!!」
「…あ、スイヤセン。注文良いですかぃ?」
「人の話を聞けぃっっっ!!
「これとこれ…後、コーヒー2つ」
「はい。畏まりました」



ウェイトレスが去ると、土方は煙草を揉み消して。



「おい、総悟」
「はぃ?」
「…俺ぁ食わねェぞ」
「え?何で?」
「俺ぁ甘いモンが苦手だつってんだろうが。んなモン食えるか」
「じゃぁ、万事屋の旦那と甘味処来た時ぁ、どうしてるんでさぁ?」
「…コーヒー」
「はぃ?」
「コーヒー飲んでる。…つうか、アイツが俺に甘いモン集ってるだけだからな」



そう言って、土方はカチリとまた煙草に火を点ける。
フゥ〜と紫煙を吐き出す。
沖田はそれを見ながら、苦笑する。



(結局、甘味処に来てんじゃねェか)



結局は銀時と出掛けてる事を吐き出して。
でもそれに気づいていない。
聡いのか鈍いのか。
そして。
銀時が食べ終わるまで、コーヒーで凌いでいるなんて。
短気な土方からは想像し難い。
誰よりも。
他人に時間を費やされるのが嫌いなのに。



「…あ〜ぁ」
「何だよ?」
「何でもねェですよ」
「…変な奴」



沖田の溜め息に、何だと傾げる土方。
溜め息だって出る。
無意識に惚気られた気分だ。



「コーヒー、お待たせしました」



かちゃりと置かれたコーヒー。



「……それ、万事屋の旦那の前でもしてるんですかぃ?」
「あぁ?どれ?」
「それ」



目前に置かれたコーヒーに、懐から取り出したマヨネーズ。
それをぶちゅりと吐き出して。
…まるでウィンナーコーヒー。
それを指差して言えば。
「当たり前だ」と返された言葉。



「…うげぇ。旦那もよく、こんなマヨラー相手にしてまさぁ」
「あぁん?!マヨネーズ馬鹿にすんな!!」
「マヨネーズを馬鹿にしてんじゃなくて、アンタを馬鹿にしてんでさぁ、土方さん」
「テメっ…、刀抜けぇぇっっ!!!!



ガタリと席を立つ土方を無視して。
沖田は自分の普通のコーヒーを口にする。



「あ。来た」
「は?」
「お待たせしました、ショコラです」
「どーも」



運ばれて来たチョコレートケーキ。
ケーキの上に乗せられたチョコで出来た華も綺麗である。



「…ほれ、土方さん」
「…あ?」



それを1口大に切って。
沖田はフォークにそれを刺すと土方に差し出す。
一方土方は何をしてるのだと目を開く。



「1口くらい食っておいた方が旦那に勧めやすいでしょ?嫌いって訳でもねェんですから、1口くれェ食えるでしょ」
「…って、おい」
「はぃ?」
「てめェに食わせてもらえなくても自分で食えらぁ」
「でも他にフォークねェですし」
「…店員に頼みゃぁ良いだろうが」
「昼時の忙しいのに?たった1口のチョコレートケーキの為に?」
「う…



そう言われてしまえば。
忙しそうに働いている店員に声を掛けるのも憚られて。



「ほれ、早く食って下さいよ、土方さん」
「………………」
「それとも…」
「あ…?」
「照れてんですかぃ?」
「っ!て、てめェ相手に何で照れなきゃならないんだよ!良いよ、食えば良いんだろうが!!!」



そう叫ぶや否や。



バクっ!!!



ほれへいいはろうこれで良いだろう
「へぇ。…美味いですかぃ?」
「…クソ甘ェつうの」



豪快にフォークに刺されたチョコレートケーキを口にして、そっぽを向いてしまった土方。
だから…。
だから彼には見えなかった。
ニヤリと微笑む、沖田の笑みに…。



「絶対旦那連れて来て下だせぇよ。土方さん?」
「…気が向いたらな」



後日。




「邪魔するぜ」



万事屋銀ちゃんに訪れた土方。
玄関をガラリと開けて中に声を掛けるが、返って来るのは静寂ばかり。
留守か?鍵も掛けないで物騒な。
そう思って靴を脱いで上がり込み、ガラリと戸を開けると。



「…居るじゃねェか」



いつもの椅子に座って居る、銀時。
居るなら居るで返事をしろと近づくと。



「…来たよ」
「は?」
「来たよ。…浮気モンが」
「…はぁぁぁ??」



開口一番、そんな台詞。
浮気モン?誰が?



「何言ってやがんだよ、おい?」
「すっとぼけちゃってるし。俺がなぁ〜んにも知らないとでも思ってんの?帰れ帰れ!浮気モンとお話する事なんてありませんから!!」
「だから何言ってんだって?!浮気?…してねェつうの!!」
「…多串君」
「土方だつうの。いい加減覚えろやっ!!
「んな事ぁどうでも良いんだよっ!!…昨日のお昼時。君は何処で何をしてました?」
「どうでも良いたぁどう言う了見だぁ?!!」
「良いから質問に答えろぉっ!…君は。昨日の昼時、何処で、誰と、何をしてましたかぁ?」
「昨日?昼時?」



言われた言葉に昨日の記憶を蘇らす。
昨日。昼時。



「…あ
「ほらみろ」



昨日の昼時と言えば。
丁度沖田に連れられて、彼お勧めの食べ物屋…基、甘味処に居た。



「ちょっと待てぃっ!確かに昨日甘味処に居たけどよぉ、一緒に居たの総悟だぞ?!何でそれが浮気になんだよ!!」
「………あぁ〜ん」
「あぁ〜ん?」
「沖田君からあぁ〜んしてもらったケーキは美味しかったですかぁ?」
「げっ!!」



目撃されていた現場。
でも決して浮気なんてものじゃなくて。



「仲良いのね〜いっつも言い合いしてるのはカモフラージュ?もしかして2股?って言うか、俺愛人ラマン?」
「ち、違ェよっ!あれは、その…



浮気現場では決してない。
が、じゃぁ何故沖田と甘味処なんて行ったのか聞かれるだろう。


(言えるか…っ!)


幾ら沖田が勧めた甘味処でも。
…言うなれば。
次のデートの下見をしていたようなものなのだから。



「…あれは?」
「そ、の…」



言ってしまえば良いのに。
土方の変なプライドが邪魔をして。
言うに言えない。



「…そ」
「そ?」
「総悟、が…」
「沖田君が?」
「…甘いモン好きで、付き合ってやっただけ…」



「へ〜ぇ」



その時。
玄関に続く戸から聞こえて来た声。
それに銀時と土方が振り向く。



「総悟?!」
「沖田君」



そこに居たのは先ほどから話題に上がっていた沖田だった。



「俺が甘いモン好き、ねぇ…」



呟いた言葉に土方の背に否な汗が伝う。


(言うなよ…言うなよ言うなよ?!)



ついさっき吐いた嘘に、沖田が「そんな事ないんでさぁ」と言ってしまえば、嘘はすぐに露見する。
土方は沖田を睨みつけるように見る
(本人は訴えるような目で見ているつもり)
しかしそんな土方の視線を無視して、沖田はフっと微笑む。



「…実はそうなんでさぁ」
「…へ?」



沖田の言葉に驚いたのは土方。
そんな土方をまたまた沖田は無視してスタスタと銀時に近づく。



「俺ぁ甘味に目がなくてねぇ…旦那も好きでしょ?甘いモン」
「う、うん…」
「すっげェ美味いパフェを見つけたんで、今日は旦那を誘うと思いやしてね。どうです?これから」
「!!」
「へぇ…うん、そうね。多串君は甘いモン食わないから。銀さんお供しちゃおうかな
「てめっ…総悟!!」
「と言う訳で土方さん。俺はこれから万事屋の旦那と甘味巡りでさぁ。巡回宜しく」
「…てめェっ、仕向けたな…」
「さぁ?何の事でさぁ?」
「沖田く〜ん、早く行こうよぉ?」
「はぃはぃ、今行きまさぁ」



すでに玄関でスタンバイしている銀時の声に、沖田は踵を返して。



「じゃぁ、失礼しやすぜ。副・隊・長?」
「〜〜っっっ、総悟ぉぉぉっっ!!!!!!!!


チャっと刀を手に、土方が叫ぶ。


(もしかして、総悟の奴、銀時の事好きなんじゃねェだろうなぁ?!!)



「お待たせしやした、旦那」
「んな待ってねェさ」
「そりゃ良かった」
「…所でさ。沖田君?」
「はぃ?何です」
「…何で土方君誘って甘味処になんて行ったの?土方君、食べないでしょ?甘いモノ」
「あぁ…これは旦那なら解ってくれると思うんですけどね」
「?」
「土方さんの顔見ながら、甘いモンって、なかなか乙じゃないですかねぃ?」
「…………………うん、そう、ね」
「でしょう?」



ニッコリと笑った沖田に、銀時はタラリと汗を流す。


(まさか…この子…)



「旦那?どうしたんでぃ?」
「ん?…何でもないよ」
「そうですかぃ?」



(土方の事、好き、とか…??)



「今苺フェアやってんですぜ?そこは苺がてんこ盛りで美味いんでさぁ」
「マジでか!?」





・END?・
2006/04/27UP