「あれ?」
聞こえて来た声に銀時はゆっくり視線をそちらに移す。
「お〜新八か」
そこには玄関から部屋に入った新八が驚いた顔をしてドアの所で立ち尽くしていた。
「あれ?あ、えっと…おはようございます」
「おはよー。どしたぁ?朝っぱらから間抜けな顔して」
「間抜けは余計です。と言うか銀さんに言われたくありません」
「新ちゃんひどい!何?反抗期?!お母さん悲しい!」
「誰がお母さんですか…それはそうと、銀さん…一人ですか?」
「ん〜?見ての通り一人だぜ?神楽は定春の散歩に出てるし。何?新八君には俺の他に誰か見えるの?」
「いえ…あ、じゃぁそれ…銀さんの…」
紡がれた言葉と、ある一点にちらりと注がれた視線。
「銀さん…煙草吸うんですか?」
灰皿で未だ煙をあげる続ける一本の煙草。
「ん〜?そりゃぁ銀さんももぉ良いお年の大人ですからねぇ、煙草の一本や二本吸いますよぉ?」
「初めて見た…」
ぼそりと呟く新八に、銀時は吸い掛けの煙草をゆっくり手に取り、口付ける。
「今まで吸ってなかったじゃないですか。それとも僕が見てなかっただけですか?」
「うんにゃ。ずっと吸ってなかったぜ」
「じゃぁ…何で急に?」
「ん〜…ちと吸いたくなって」
「…へぇ。何かあったんですか?嫌な事とか」
「嫌な事、ねぇ…」
『…しばらく会えない』
『へ?』
『地方に出張が決まった。本当は近藤さんの用事だったんだが、近藤さんの都合がどうしてもつかないんで、副長の俺が代わりに行く事になった』
『…ふ〜ん。真選組副長さんも大変だぁねぇ』
『茶化すな。…悪ぃな、しばらく会えなくなる』
『仕事だろ。それに今までだって、んな頻繁に会ってる訳じゃねェし…まぁ精々頑張って来なさいな』
『…あぁ』
そう言って土方が出掛けたのが一週間前の出来事。
(何だかな…)
眼前で揺れる紫煙を眺めながら、銀時は溜息に近い息煙草の煙と共に吐き出す。
「…まだ一週間しか経ってないつーの」
「え?何か言いました?」
「うんにゃ、なんも」
自嘲にも似た笑みが浮かぶ。
会わなくなって。
会えなくなって。
もう一週間。
まだ一週間。
「僕てっきり」
「あ?」
新八の声に銀時の意識が外に向かった。その時。
「土方さんが入らしてるのかと思いました」
「…何で多串君?」
「だって煙草の匂いするでしょ、土方さん。土方さん=煙草の匂い」
「あ〜そっかもね」
「あ。そう言えば…そっか。だから、か」
「ん〜?何?一人で納得して」
「銀さん、外で時々吸ってるでしょ?時々しますよ、煙草の匂い」
「ぐっ、げほっごほっ…!」
「だ、大丈夫ですか?!」
「…げほっ」
…知らない子供は純粋で。
ただ隠す大人の事情も知らず。
真直ぐに気持ちを口にする。
「…銀さん?」
咳が治まると、銀時が立ち上がる。
「あ〜もう、お前が変な事言うから」
「…銀さん?」
「今度多串君が来たらあげよっと、それ」
「え?でも煙草吸う人って拘るもんじゃないんですか?煙草銘柄とかって…」
「同じ奴だもん、それ」
「え?」
「多串君と同じ銘柄なの。その煙草」
キスはいつも煙草の味。
ほろ苦い、独特の香と苦み。
でも。同じ苦さなら、君からが良い。
恋しくて、ふと口にした煙草。
同じなのに、でもやっぱり全然違う。
『…おい、淋しいからって浮気すんなよ』
『そ〜言う多串君こそ、出張先だからって遊廓とか行くなよ』
「ん〜…良い天気」
この空は君に繋がってる。銀時は外に出ると伸びをして、空を見上げる。
この空の下で、土方はまた、あの仏頂面のまま煙草でも吸ってるのだろうか?
「早く帰って来いってんだ」
呟いて。それでも口元には笑みが浮かぶ。
帰って来たら。
開口一番何て言ってやろう。
特殊な事でも言えば、どんな顔をするだろう。
それを思えば。たまに離れるのも良いかも知れない。
「たまに、だけどな」
たまにだから、相手の価値も存在の大きさも感じられる。
自身を呼ぶ、あの声。
「『銀時』」
・END・
2006/04/04UP