「せんせ」
「…?何だよ」
夕飯を食べに来た土方に、銀時は満面の笑みを浮かべて呼ぶ。
それに振り返りながら答えた土方は、つぅ…と頬に嫌な汗が流れるのを感じた。
「せんせ、せんせ、…はい!!」
「だから…何だよ」
正座して、ポンポンっと自分の膝を叩いて。
銀時ももう一度土方を呼ぶ。
…満面の笑みで。
「俺、一回やってみたかったんだよね!」
「…だから、何が」
何となく解ってはいるが、気のせいだと土方は気づかぬ振りをする。
上機嫌な銀時はそれも気づかず、浮かべたままの満面の笑みそのままに。
「膝枕しながら、好きな人に耳掻きしてあげるの!!」
「………………………………」
あぁ、言ってしまった。
土方は頭を抱えながら、どうこの場を切り抜けようか考えを巡らす。
「ほら、せんせ!準備万端だから!!」
「…何の準備だよ」
「耳掻きの!ほら、早く!!ここ、ここ!!」
ポンポン、と何度も自分の膝を叩き、土方を呼び続ける。
「…いい」
「え〜!何でぇ?!」
「…昨日やった、自分で」
「えー!!」
土方の言葉に非難の言葉を続ける銀時。
あぁ、もうどうしてこう、突拍子もないんだろう。
「ん〜…じゃぁ、いいや。…はい」
「…はぃ?」
これで諦めてくれるだろう、と言う土方の思惑を裏切り、銀時は微かに逡巡した後、手にしていた耳掻きを土方に渡した。
差し出されたそれを思わず受け取ってしまい、土方はぽかんとする。
「は?え?な?」
「ほら、せんせ、正座!」
「え?あ?な、何でだよ?!」
「せんせーが自分でやったんなら、俺やってないから、せんせーが俺の、シて」
「…片仮名にするな、片仮名に」
「細かい事は良いじゃん良いじゃん。ほら、正座して。俺、頭乗せられねーよ」
「乗せなくて良いんだよ!子供じゃねェんだから、耳掻きくれェ、自分でやれ」
「え〜…良いじゃん、減るもんじゃないし」
「減る」
「何が?」
「俺の時間」
「えー!!せんせのケチ!鬼!!」
「鬼ってなぁ…」
「良いじゃ〜ん!俺、今まで誰かに耳掻きってやってもらって事ねェんだよ!ね、やって!!」
はい、っと再び握らされた耳掻き棒に、土方は困り果てる。
「だっ…、誰にもやってもらった事ねェなら、もっと慣れた奴に頼めよ!…そうだ、学長とかよぉ!」
あの人は銀時の保護者なのだ。
頼めばきっとやってくれるだろう。…多分。
「…嫌だ」
「んでだよ?」
「……俺、まだ命を落としたくない」
「………………………………」
ガタガタと震える銀時に、思わず土方も学長の顔を思い出し。
(…確かに)
などと思ってしまう。
言ったが最後、鼓膜を突き破られそうだ。
「良いじゃん〜!せんせにやってもらいたい!やってやって〜…」
駄々を捏ね始める銀時、土方は本当に困り果ててしまう。
「ぁ、のな、坂田」
「何?」
「…その、俺、は」
「ん?」
「……やった事、ねェんだぞ」
「?何を」
「だからその、人の…耳掃除」
「…マジで?」
「ったりめェだろうが。誰のするってんだよ」
それもそうだと銀時も思い、そしてニッコリと笑う。
「じゃぁ、せんせの初めての耳掻き、俺も〜らい!」
ゴロンっと横になって土方を見上げる。
「宜しく〜せんせ」
嬉しそうに土方を見上げる銀時に、土方ははぁ、と溜息を吐き出す。
「…てめェ、本当に刺しても知らねェからな」
「大丈夫大丈夫。…でも」
「?」
「優しくしてねY」
「っっ…本当に鼓膜に突き立ててやろうか」
「あははははは、お手柔らかに〜」
天使のような悪魔のような表情で呟く銀時に、土方は耳掻きを握り締める。
土方は諦めて溜息を吐き、静かにその場に正座した。
その正座した土方の太ももにゴロンと銀時が頭を乗せ、横を向く。
「……痛かったらすぐ言えよ」
「イエッサー」
見える耳の穴に慎重に耳掻き棒を入れる。
「…ぁ…」
「!?痛かったか?」
「ぁはは〜違うよ〜!…くすぐったい」
笑い出す銀時に、土方はホっとする。
「んな、いきなり奥に入れられっかよ!!」
「そうだけど、そこら辺くすぐったい」
「チっ、解ったよ!…動くなよ」
「アイアイサ〜」
顔を近づけて、慎重に奥へと棒を伸ばす。
時折ピクンっと銀時が動く。
やはりくすぐったいのだろうか。
「…っ、…ぁ、ん、…ちょっ…」
「へ?ぁ、い、痛いか?」
「ん、へ…き…な、か…ごそって言った」
「あ、あぁ…でかいの触ったの…かも知れ、ねェ…」
「ん、…そ、れ…と、って…ん、ぁ…へ、な…感じ…!」
「あ、あぁ…わ、わか…」
「…ゃん!」
「へ?!」
「そこ!多分そこにある!でっかいの!!」
「あ、あぁ…」
「ぁ、ぁ、ぁ…」
「……………………………だぁぁぁぁぁっっ!!!!!!!!!!」
「…せんせ?」
「止めだ、止めだ!!やっぱ人のはやりにきぃ!!子供じゃねェんだから、テメでやれ、テメェで!!」
土方はそう叫ぶと、ぽいっと耳掻きを投げ、立ち上がる。
その時膝に乗っけていた銀時が落っこちて、ガンっと音がしたが、それすら気づかずに。
「帰る!!」
「ぁててて……え?え、え、何で?どったの、せんせ??」
「うっせー!帰るつったら帰るんだ!…じゃぁな!!」
「え、あ、うん…?また、明日??」
何だか解らない内に土方はバタンと出て行ってしまい、銀時はポカンとそれを見送る。
「…やっぱ膝枕がいけなかったのかな?せんせ、意外にくすぐったがりだったり??」
片手で耳掻きをしながら、銀時は首を捻る。
その一方、土方と言えば。
「………ヤラしいんだよ、声が」
玄関に寄り掛かりながら、顔を真っ赤にさせていた。
・END・
2011/08/19UP