「…ゲホ…」
今朝ほどから咽喉の調子がイマイチだった。
けれど熱がある訳でもなかったので、かまわず登校した。
しかし放課後になった、今。
「…チっ」
…失敗した。
ここには生徒達も居るんだ。
無理を押して来るんじゃなかった。
どうにもダルさはますます増し、今は多分熱もあるだろう。
俺は自分の迂闊さに舌打しながら、明日は病院に寄ってから、調子をみて登校しようと考えていた。
そんな時。
「せんせ〜!」
バターン!と大きな音を立てて、開いたドア。
それに頭痛を覚えながら、顔を上げる。
あぁ…この間風邪治ったばっかなんだから、俺に近づくんじゃねェよ。
「…坂田。もっと静かに入って来い」
「あ…ご、ごめんなさい」
「…………………………………」
しまった。
いつもと変わらず言い方をするつもりだったのに、頭痛がひどくて、ひどく冷たい言い方になってしまった。
俺は気を取り直して、坂田に向き直すが。
「…せんせ、もしかして具合悪いの?」
「…ちょっとな。…風邪流行ってるから、もらったのかも知れねェ」
「熱は?」
「あぁ、もう帰るから大丈夫……って、おい。近づくな。移るぞ」
「良いよ、先生からなら
」
「…………………………………………」
あぁ、もう。
誰かこのアホ何とかしてくれ。
また、自分から辛い思いしようとすんな、馬鹿。
「それに風邪引けば、先生お見舞いに来てくれるし、「あ〜ん」もしてくれるし」
「あ、あれは!!近藤さんがそう言うから、そうかのかと!!」
言われた言葉に思わず赤面してしまう。
そう。この間コイツが風邪で休んだ時だった。
どうにも授業に集中出来なくて。
ようやく訪れた昼休み。
「土方先生、どうぞ、お茶です」
「あ〜…どうも…」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
「…トシ」
「あ?…何だ、近藤さん」
「それ、お茶だぞ?」
「あ、あぁ?解ってるけど?」
「じゃぁ、何で砂糖入れてんだよ」
「!?」
言われて気づいた。
お、俺何してんだ?!!
「はっはっは。今日はどうも、心ここにあらずだなぁ?」
「べ、別に、んなんじゃねェよ」
「はっはっは!隠すな隠すな。…そう言えば」
「あ?」
「今日銀時は風邪で休みだそうだな」
「ブフっ!!な、な、な…!!」
「…気になってんじゃねェのか〜?」
「べ、別に!んで、俺が一生徒のアイツを気にしなきゃなんねェんだ!!」
言われた言葉に反論すれば。
ニ〜っと笑う近藤さん。
…んだよ。本当だっつうの。
「まぁまぁ。そうムキになるな。…でも、そうだな〜」
「……何だよ」
「アイツ、独りだろ?今じゃ、家で独り、唸ってるのかな〜って」
「………………………………………………」
「飯は食ったのかな?…あ〜、後、薬。薬飲まねェとなかなか治らねェんだよなぁ…」
「…………何が言いてェんだよ」
これ見よがしに言われる独り言に、俺が睨みつければ。
「まぁ、そう睨むな」
ポンっと肩を叩かれ。
「トシ、お前様子見て来い」
「はぁ?!」
「うんうん。それが良い。半休届けは俺が出してやるから。今から行って来い。な?」
「な?じゃねェよ!んで、俺が!!」
「だぁ〜って、トシずっと気にしてるじゃん!!」
「気にしてねェっ!!」
「気にしてんだよ。いつもはしない、お茶に砂糖入れるくらいな」
「そ、れは…ボーっとしてた、から、で…!」
言う言葉が白々しい。
自分で言っててそう思うんだから、きっと近藤さんにはもっとそう感じるだろう。
「教師皆気にしてんだぞ?銀時は独り暮らしだからな」
「………………………………………」
「誰か様子見に行った方が良いだろ?じゃぁ。やっぱり担任の先生が行くべきだよなぁ」
「………………………………………」
この人のこう言う所が嫌いだ。
こっちの手を知り尽くしていて、全部先手を打って来る。
…それじゃぁ、俺が行くしかねェだろうが…。
「…でも」
「ん?」
「でも。…俺、看病なんてした事ねェし」
行ったとしても、俺が奴にしてやれる事なんかねェし。
それなら静かに寝れる環境を壊す事ねェんじゃねェのかと俺が言えば。
「大丈夫だ!トシ」
「…あ?」
妙な自信でそう言われて。
ポカンと近藤さんを見つめれば。
「お粥でも買ってて、それ食わして、薬飲ませれば、後は寝かすだけだから」
「は?」
「だから。食べ物食べさせて、薬飲ませて、あ、後汗掻いてたら着替えさせて、寝かせれば良いつったんだ」
「そ、それだけ、か?」
「あぁ」
…そうか。
それなら俺にも出来そうだな。
つか、出来るだろう。
「ちゃんと「フーフー」して、食べさせてやるんだぞ」
「………はぃ?」
「だから。ちゃんと冷まして、「あ〜ん」して食べさせてやるんだぞって言ってるんだ」
「そ、そんな事までやるのかよ?!!」
「勿論だ。相手は病人だぞ?面倒見てやらなきゃな!」
豪快に笑う近藤さんに頭を抱える。
「フーフー」して?
「あ〜ん」させて?
えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ?!!
世のお母さん方は、皆、んな事してんのかよ?!
恥ずかしくないのか?!恥ずかしくないのかぁぁぁぁ!!!!
「…………ちょっと待て」
んなきっぱり言われたって事はあれだよな?
皆、病人には必ずやってる事なんだよなぁ?
それを恥ずかしがる方がおかしいんじゃねェのか?
…そうだよ。
皆やってる事なら、坂田もそれを期待…嫌々、当然と思ってる訳だよな。
俺に、その…疚しい事がなければ。
「…っ、んなのある訳ねェだろうが!!!」
ガバっと立ち上がり、俺は自分を奮い立たせる。
そうだよ!皆やってる事なんだ!!
「と、トシ…?」
「解ったぜ、近藤さん!俺ぁ、やってやるぜ!!」
「お、おぉ…?そうか。任せたぞ」
「おう!!」
…と言ったものの。
後日聞いてみれば、ありゃ誰でもやってる事じゃねェんじゃねェか!
つうか、気づけよ、俺ぇぇぇぇぇ!!
俺の感覚信じようぜ!!!
あぁ、本当、穴があったら、マジ入りてェよ!!!
「…せんせ?」
「…っ…」
思わず自分の思考に入り込んでしまい、坂田の呼び掛けに我に返る。
「あ、あぁ…悪い」
「本当に具合悪そうだね。…大丈夫?」
「あぁ…」
と、とにかく家に帰ろう。
家に帰って寝て…。
そう考えていたら。
「先生!」
「ん?」
ガシっと掴まれた袖。
それに顔を上げれば、間近に坂田の顔。
「な、何だよ」
「俺に移せよ!!」
「は?」
「俺に移せって!風邪!!俺の方が若いし、免疫あるし、新陳代謝良いって」
「ちょっ…おま、何しようとしてんだよ?!」
そう言いながら、にじり寄って来る坂田を俺は懸命に遠ざけようとする。
そんな俺に、坂田は。
「何って……キス」
「…は?」
「キスして、病原菌俺に移せば良いんだよ」
「ちょっ、ちょっと待てーい!!」
「さっさ、先生、遠慮しないで
」
後日。
俺はしっかり熱を出し、寝込んでいた。
そんな俺に…。
バターンっっ!!!
「せんせー!お見舞いに来たよー!!」
「なっ…おま、何でここに?!」
「せんせーが風邪ひいたって聞いたから、お見舞いに来た〜
」
「そう言う事を言ってるんじゃねェっ!大体授業は…!!ゲホゲホっ!」
「あぁ、せんせ、無理しちゃダメだって。俺、お粥買って来たら、「あ〜ん」して食べさせてあげる〜
」
「っ!…頼みから、俺を独りにしてくれー!!!」
坂田が自宅に来て。
風邪が治るまで看病するだの、それまで授業は自主休校するだの…。
「またまたぁ。病気の時、独りは淋しいだろ?俺も経験したから解る解る」
「あのな、
「うんうん。せんせは寝てて良いよ。身の回りの事は俺がやってあげるから」
っ…誰だ!?坂田に俺の自宅教えた奴は?!
「…へ、ぐしょん!!」
「近藤さん、風邪ですかぃ?」
「う〜ん…今流行ってるからなぁ…」
・END・
2007/07/04UP