「先生!次、あれ!あれ乗りたい!!」
「……ちょっ、ちょっと待て」
「早く!先生ってば〜!!」
「…待てと言ってるだろうが」
な、何でコイツはこんなに元気なんだ…。
「何だよ〜。先生、煙草の吸い過ぎじゃねェの?体力ねェな〜」
「だ、誰のせいで、んな消耗してると思ってんだよ!テメェがさっきコーヒーカップ死ぬほど回して、んですぐにジェットコースター3連続で乗ったからだろうが!!」
「え〜?あれぐらい、全然大した事ねェよ」
「こ、この体力馬鹿が……」
「ん〜…まぁ、ちょっとくらい休憩するか!じゃ、先生あそこに座ってて。俺、ジュース買って来るから」
「…あぁ…頼む…」
「オッケ〜!」
タッタッタと走り去る坂田の背を見送って。
「…ハァ〜」
俺は深い溜息を吐いて、ベンチへと座る。
…俺は今、遊園地に来ている。
それも俺のクラスの生徒、坂田銀時と。
何でこんな事なったかと言うと、…話すと長いんだが。
それは数日前に遡る。
「ね〜ね〜、先生〜。デートしようよ、デート!!」
しつこく言いまとう坂田に俺は頭を抱えていた。
毎日毎日、何考えてんだ、コイツは…。
「んな事言ってる暇があんなら勉強しろ、勉強!」
「だ〜って先生を想って勉強も手に着かないんだもん。ね、だからデートしよう、デート!!」
「嘘を吐け、嘘を!大体テメー、中間テストの順位、何だありゃぁ!ケツから数えた方が早ェじゃねェか!!」
「だ〜か〜ら。先生がデートしてくれたら順位上がるってば」
「だから嘘吐くな、嘘を!お〜、解った。上等じゃねェか。だったらテメー、今度の期末で1位んなったら、デートしてやるよ」
「本当?!絶対だかんね、先生!!」
「お〜。言っとくけど、1位だからな、1位」
「解ってるってば。約束だかんね!!」
「あぁ。男に二言はねェ」
そう約束したのが先日の事。
そして、期末試験が終わって、上位30名の発表が掲示板に張り出された日。
俺は、その掲示板に張り出された表を見て、呆然…否、愕然とした。
「ぅ、そだろ…」
目の錯覚じゃないかとゴシゴシと目を擦ったが、順位は変わらない。
嘘だろ、おい…。
「へっへ〜。せ〜んせ?」
唖然とする俺に、後ろから嬉しそうな声が掛かる。
俺はゆっくりと、険しい眼差しで振り返る。
「…テん、メ…」
「約束、忘れてないよねぇ?」
「ぐっ…!」
順位表、1位 坂田銀時。
夢だ。悪夢だ。何で中間までドンケツに近かった奴が、いきなり1位なんだよ!!
「ご褒美、楽しみにしてるからね。…先生?」
そう言って鮮やかに微笑んだ坂田。
後になって聞いた話だが、コイツはどうやらIQが高いらしく。
学長に。
「馬鹿だねぇ…」
「…は?」
「アイツ、馬鹿な振りして、IQ高いんだよ。知らなかったのかぃ?」
「へ…?」
「確か…180だっけねぇ…」
「金田一君かよ?!!」
腑に落ちない。
全くを持って腑に落ちねェっ!!
でも。俺が言い出した事だし、何より
「…わーった。解ったよ。……何処行きたいんだよ?」
観念して、そう言えば。
「やった!んじゃね、んじゃね、ココ!!」
「遊園、地?」
「うん!!」
満面の笑みで広げられた雑誌。
その中に…大きな赤丸がついたページ。
そして俺は、ここ、遊園地に居るって訳だ。
「…しっかし、まぁ…」
こんなにはしゃぐなんて思ってもみなかった。
つうかこう言うのではしゃぐタイプか?
何かこう、イメージつうか…。
「お待たせっ!」
「ぅはっ!?」
ヒヤリとした感触が突然当たり、思わず叫び声のも近い声を発してしまった。
「〜っ、坂田〜!!」
「ぁはははは!変な声〜!!」
振り向くと缶を持った坂田が立っていて。
俺が上げた声にケラケラと笑い声を立ててる。
「子供みてェな真似すんな!!」
「だって俺子供だも〜ん」
「…いつもは子供扱いすると怒るクセによぉ」
「え?何か言った?」
「何にも」
「そ?はい、飲みモン」
いつも悪戯は良くする。
でもこんな可愛気のあるモンじゃなくて…。
「お茶で良かったよね?コーヒーの方が良かった?」
「否…お茶の方が助かる。有難うな」
「いーえ」
プシュっとそれを開けて、飲む。
冷たい液体が身体に染み渡るのが解る…。
「はぁ〜…美味……」
「クスクス。先生、親父臭い」
「うっせ。どーせおっさんだよ」
「クスクス、拗ねない拗ねない」
クスクスと笑う、坂田に。
何つうか、…やっぱまだまだ幼いよな…。
「あ〜でも本当、楽しい」
「…んなに楽しいか?」
俺にしてみりゃ、たかが遊園地だけどなぁ、なんて思ってたら。
「うん!楽しい!!だって、先生とデートだし、それに…」
「…それに?」
少し言い淀んでから。
坂田は、ニコっと笑って。
「俺、遊園地初めてだし」
「!」
…え?
俺が微かに驚いた表情を見せると、坂田は。
「…ほら、俺連れてってくれる親も居ないし。元々人ごみもあんま好きじゃなかったしさ!」
「……………………………………」
「でも先生とデートで来れて良かった!超楽しいね、遊園地!!」
う〜ん、と伸びをして見せた坂田。
…そうか、そうだったのか。
妙な納得。
コイツが必要以上にはしゃいでたのも。テンションが高かったのも。
「…ふん。別に今日限りって訳でもねェだろうが」
「はへ?」
「また来てェんなら連れてってやるし」
「……………………………………」
「大体楽しみ方間違ってんだよ。ハードなモン連続で乗ったって楽しい訳ねェだろうが。ローテンションなモン乗った後にハードなの乗るのが楽しいんだよ」
「……………………………………」
「そうすれば、ここの乗りモンはほぼ看破出来るじゃねェか」
ポイっと近くのゴミ箱に空き缶を捨てて。
バサリとパンフレットと地図を広げる。
「まず、これとこれ乗るぞ。んで、ジェットコースター、また乗って。それから……」
「…………………………………」
「…おい。何ボーっとしてんだよ。飲むモン終わったんなら行くぞ」
「…ぇ…ぁ、う、うん!…待ってよ、先生」
すでに歩き始めている俺に、坂田は慌てたように、手にしていた空き缶をゴミ箱に捨て、俺に駆け寄って来る。
「ねぇ!」
「ぅわ!ばっ、急に腕を掴むな!!」
「ぇへへ。…ねぇねぇ、さっきの事なんだけどさ」
「ぁん?」
「『また来てェんなら連れて』って奴。…ね、それって本当?」
「…ぅ…」
腕を掴まれたまま、至近距離で上目遣いをされる。
だ、だから…!!
「お、お前が望むんならな!!」
「それってさ、またデート、してくるって事だよね?」
「ばっ…違ェよ!!これは……そ、そう!社会見学だ!!」
「え〜…じゃぁ、コレは?」
「社会見学だ!!」
「さっきデートつっても否定しなかったクセに」
「社会見学だ!!!」
叫ぶ俺に、坂田は。
「チェ〜っ。…でも、まっ、それで先生と出掛けられるなら、まっ良いか」
「てか、お前!いつまで腕掴んでるんだよ!!」
「え〜。それは、まっ、迷子にならないように?」
「んなに混んでねェだろうが!離せ!!暑い!!」
「またまた照れちゃって〜。先生、可愛い
」
そんな押し問答を繰り返し。
俺達は、また遊園地へとくり出すのだった。
・END・
2007/5/17UP