「坂田銀時。保護者『寺田綾乃』…って、誰だよそれ」



生徒の個人情報の載った書類を眺めながら、俺は呟いた。
次の日。学校に出勤した俺は、別に坂田の言葉を疑った訳じゃないが、学校に提出されている書類を探して、眺めていた。
そこには苗字の違う女性の名前が記載されていて。
昨日、アイツは確か理事長が保護者つってたよなぁ。
誰だよ、寺田綾乃って…。
首を傾げる俺の耳に放送が流れた。



『土方先生、至急理事長室に起こし下さい。繰り返します。土方先生…』

「あぁ?…何だよ?」



理事長室?
朝っぱらから何の用だよ。
流れた放送は俺を呼び出していて。
面倒臭ェなぁ、なんて思いながらも、重い腰を上げた。
まさか呼び出しを無視する訳にもいかねェからな…。


コンコン。


理事長室の前まで来ると、俺は一息吐きながら、小さくノックをして。



「…土方です」
「開いてるよ。入んな」
「失礼します」



中から聞こえて来た声。
入れ、とのお達しにドアを開けると…。



「おはようございます、理事長」
「朝から悪いねぇ」
「…いえ」



部屋の真ん中に立って居る女…お登勢。
この学校の理事長だ。
艶やかな黒の着物に厚めの化粧。片手に煙草。
下手したらアレだよな。
…ヤクザの女房…。



誰がヤクザの女房だぁぁぁぁぁ?!!!!
「ぐふっ!」



んな事考えてたらジャンピングキック。
あれ?俺今口にした?口にしたかぁぁ?!



「アンタの考えてる事なんて顔見れば解るよ」
「って今も思考読んでんじゃねェか?!この妖怪ババァっっ!!!」
どわぁれが妖怪ババァだぁぁぁぁぁ!!!!



しゅぅぅぅぅぅぅ



「ぐ、ぉ…ぁ…」
「…ふぅ〜。アンタを呼び出したのは他でもないよ。アンタのクラスの銀時の事さ」



紫煙を吐き出しながら呟かれた言葉に、俺は身体を起こす。



「…坂田?坂田がどうかしたんですか?」
「ずっと登校してなかったみたいだったからアンタに伝えてなかったと思ってね」
「…はぁ?」
「…今日は登校してるみたいだからねぇ」
「…はぁ??」



何を伝えてなかったのか。
そして、何で坂田がすでに登校しているのを知ってるのだろう、とそんな疑問を抱いていると。



「アンタのクラス、坂田銀時は幼少の頃に両親を事故で亡くしててねぇ」
「…あ、あぁ…まぁ…」
「だからって訳でもないんだろうけどねぇ、その…まぁ何て言うんだい。…ちょっと擦れた所があってねぇ」
「あぁ…まぁ、擦れたつうか、まぁ、はぃ。解ります」
「…何だい。随分解った風だね」
「昨日逢いましたから」
「逢ったのかぃ?」
「えぇ。…まぁ」



ついでに昨日、とんでもねェ約束もした…とは言えない。
別にヤマしい事は何1つしていないが、他の先生にも問題児だと言われてるみてェだし。
…何と言っても昨日、告白されたなんて。



「…言えねェ。絶対言えねェ」
「何をだぃ?」
「い、いやいやいや!!何でもねェっ!!」



思わず口にしてしまった言葉に反応する理事長にブンブンと首を振る。



「そうかぃ?…まぁ、良いさ。それで?」
「はぃ?」
「逢ってどうだったんだぃ?」
「どうって…」



マセたガキ…とか言ったら、何かヤブ蛇っぽいし…。
かと言って、寂しい子ですね、ってのも…別に、んな事思ってねェし。
難しいガキ?…ん〜何か違う……。



「…馬鹿な奴、ですね」
「………………………………」



苦笑混じりに俺がそう言うと、理事長は呆然とした顔をした。
ん?…ちょっと待て。



「あ、あの…!別に、その、馬鹿つってもですね?!そう言う馬鹿じゃなくて…!いや、そうなのか?いやいや、じゃなくて…!!」



俺が慌てて弁解をすると、理事長はフっと笑って。



「ぃや…そうさね」
「??」
「銀時が…今日から学校来る理由が何となく解ったよ」
「は、はぁ??」
「突然悪かったね。後、伝えるのも遅くなって、済まなかったよ」
「あ、いえ…それに、その話は坂田から、昨日聞いてましたたから」
「銀時から…?」
「えぇ。昨日ちょっと話してて」



そう言ったら、理事長はますます驚いた顔をした。
ん?
俺が口を開こうとした、その時だった。



「せ〜んせっ!!!!」
「ぐふっ!!!」



理事長室のドアがバン!と開いて、俺の背中にぶつかって来た、固い『何か』



「ぁててて…さ、坂田ぁ?!!」
「ぁはは〜。先生、お早う〜」



その固い『何か』…基、坂田銀時。
さっきまで話題になってた人物だった。
俺が坂田の体当たり(?)に思わず前のめりになって、床に転がる。
それすらも、コイツは気にせず俺に抱き着いて。
ちょっ…!おまっ、理事長の前っっ!!



「お早うじゃねェよ!おまっ、ココ何処だと、思ってんだよ!理事長し…っ!!」



そろ〜っと視線を向けば、それを眺める理事長。
っ、終わった!俺の教師人生終わったっ…!
手を出したのは…否、もとから手なんか出してねェけど…!!
状況的に説明も弁解も出来ねェェェェっぅ…!!!



「…朝早く登校したと思えば、何やってんだい、銀時」
「あ〜ババァ、テメェ、朝っぱらから先生呼び出してんじゃねェよ。探すのに一苦労したじゃねェか」
「…は?」



ババァって…嫌、それより、…あれ?は??



「え?あ?お?」
「ぁれ?先生、言ったじゃん。俺の仮保護者」
「え?あ、あぁ…理事長の事、か?ってか、書類には『寺田綾乃』って…」
「アタシだよ。寺田綾乃」
「………………………………」
「………………………………」
「………………………………」



「寺田綾乃ぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!????????」



コレが?
どう考えても綾乃なんて可愛い名前…否、それは10000000000000000000歩譲っても良いとして。
あれ?あれは?
お登瀬って?!



「お登瀬ってのは源氏名だよ」
「何処の世界に理事長が源氏名名乗ってる学校があんだよっ?!!!」
「うるさい」


しゅぅぅぅぅぅぅ


「…は、はぃ…」



どうやらココは突っ込んではいけないらしい…。



「先生に乱暴すんなよな〜腐れババァ」
「アンタもアンタだよ。いつまで懐いてんだい」
「い〜じゃんか。俺はね、先生にぞっこんLOVEなの」
「…あぁ、あぁ、そうかい」



否、そこは突っ込みドコだろう…。
サラリと流れた言葉に、俺は軽い頭痛を覚える。
あ〜…もう何だか色々、引っくり返したくなったぞ。



「ぁ、あのですね、理事長!これは…」
「まぁ、銀時がそれで良いなら良いけど。…問題起こすんじゃないよ」
「これ問題じゃねェのか?!」



すでにコレが問題だろうが!!
同性だぜ?不純同性交遊だぜ?!



「…遊びじゃないんだろう?」
「もっちろん!!」
「だ〜!!坂田!!お前が答えるな!!」
「…遊びなの?」
「そうじゃなくて!そうじゃなくて!!何か違うだろう?!遊びとか、違うとかじゃなくて!!!」
「漫才やるのも良いけど、他でやっとくれよ」
「漫才じゃねェし!!!」



だ、駄目だ…。
このままじゃ流される。
絶対流される。
…何に流されるのか解んねェけど。



「とにかく。ゴタゴタは他でやっといで」
「…〜っ!!」



どうにも坂田を止める気はねェみてェだ。
このままココに居ても埒が明くとも思えねェ。
俺は立ち上がって、ペコリと頭を下げて、その場を後にした。
…何なんだ、何なんだ!この学校!!





「あ〜先生、待ってよぉ」
「…銀時」
「んぁ?」
「…本気なのかい?」
「……ぅん。めっちゃ本気」
「堅物そうだけどねぇ」
「ぁははは、その方がちっとは楽しめるじゃん」
「どうだかねぇ…」
「ぜってェオトしてみせっからな!」
「まぁ、せいぜい頑張りな」





「先生、待ってよ〜」
「だぁぁ!もうお前付いてくんな!!」
「何だよ〜可愛い生徒が懐いてんだから、良いだろ〜」
「うっせェっ!!」

「まぁ…アンタが誰かに執着するなんて珍しいからねぇ……」



…そんな会話が繰り広げられていたなんて。
その時の俺は気づきもしなかったのだった。





・END・
2006/12/04UP