「……とき」
「……ん……」
「……んとき」
「………に……?」
「…銀時」
「…っ、せ、せんせ…?!」
ペチペチと頬を数度、軽く叩かれ、銀時は意識を浮上させる。
誰だ、と薄目を開けば。
今、ココに、居るはずのない人物が視界に飛び込んで来て。
銀時は一気に意識を浮上させ、飛び起きる。
「ぇ?な、何…?」
「こんな時間に悪ぃな」
「え?ぁ…」
言われた言葉に、枕元に置いてあった目覚まし時計に目を走らせる。
「…ゲ。よ、4時前?」
時計はまだ夜明け前を示していて。
カーテンの外もまだ明るくなってはいなかった。
「な、何で、こ、な時間……」
「ゃ、その…」
「もしかして…夜這い?」
「違ェよ!!」
「んな力いっぱい否定しなくたって良いじゃん」
銀時が放った言葉に力いっぱい否定され、銀時はプクっと口を尖らせる。
「じゃぁ何?こんな時間に来るなんて初めてじゃん」
「あ、あ〜…すっげェ迷ったんだけどな…でも、やっぱさ」
「……先生、会話しようよ」
「まぁ良いから。着替えて下に来い。車止めてあっから」
「へ?あ、ちょっ…!!」
土方は言いたい事だけ告げ、すぐに部屋を出てしまった。
銀時は独り取り残された形で、暫しポカンしていたが…。
「車って…どっか行くのか?これから?」
モソモソとベットから出て着替え始める。
着替えが終わり、部屋を出て、階段を下りる。
リビングを覗いたが土方の姿はなかった。
車、と言う単語を先程言っていたので、家を出ると、いつもの白い乗用車が家の前に止めてあり。
「銀時、こっち。乗れ」
運転席から土方が顔を出し、乗れと促す。
コクリと頷き、銀時は助手席に身を滑らす。
「なぁ、どっか…」
「行くぞ」
銀時が声を掛けるが、土方はそれだけ告げると車を出発させる。
「眠かったら寝てて良いぞ。着いたら起こすから」
「……何処に連れて行かれるか解んないのに寝れねェよ」
「何だよ。俺が信用出来ねェってか?」
「そう…じゃねェけど」
「どうしてもお前を連れて行きたくてな」
「…こんな時間に?」
「こんな時間じゃねェと見れねェんだよ」
「…ふ〜ん」
夜明け前、と言う事もあり、道は空いていて、スイスイと車は進む。
黙ってしまった土方に、銀時も口を開かず。
ただ流れていく景色を眺める。
真っ暗な街が右から左。
「…寝たか?」
「…起きてる」
「何か、お前が静かなのって不思議だな」
「……んな事ねェよ」
「そっかぁ?何か、お前の声っていっつも聞いてる気がする」
「それは…俺が先生の傍に居るからだろ。いっつも」
「はは、違いねェ」
何処か上機嫌に見える土方。
最初は不思議に思っていた銀時だったが。
(まぁ…先生が笑ってるのは俺も嬉しい)
「…何ニヤニヤしてんだ?」
「ん〜?朝から先生と一緒に居れて嬉しいなぁって」
「……また、んな事言いやがって」
「だって本当だも〜ん」
「抜かせ」
信号待ちに、クシャリと頭を撫でられて。
他の人にやられたら、きっと。
子供扱いするな、と払い除けるはずなのに。
土方だと、甘受出来る。
…好きな人に触れられるのだから。
「着くまでまだ掛かるから。寝とけ」
「ぅん…ってかさ、何処行くの?」
「…さぁ?」
「さぁって…目的なしでどっか行くの?」
「まさか」
「じゃぁ何処か教えてくれたって良いじゃんか!」
「内緒だ。…良いから寝とけ」
ブツブツと文句を暫く口にしていた銀時だったが。
「スースー…」
やはり眠かったのか。
程なくして、静かな寝息が車内に聞こえた。
「…銀時」
「……んぁ?」
呼ばれて意識が微かに浮上した。
まだ眠い。
銀時はもう一度意識を眠りに落とそうと思った。
「…っ」
が、鼻腔をくすぐる匂いにパチリと瞳を開けた。
「お、起きたか?」
「…この匂い」
「…そっ」
ガバリと身体を起こして、視線を窓の外に移す。
「う、わ…っ!」
「結構遠くなんだけど…綺麗だろ?」
「うん!」
そしてバタっと車のドアを開いて外に出る。
「あんま遠くに行くなよ〜」
「うわ〜!すっげェ、俺、夜の海初めて!!」
「夜つうか…夜明け前、な」
土方が連れて来たのは海だった。
まだ夜の帳が明けていない海は暗くて。
それでも寄せては返す波はいつも通りで。
銀時ははしゃぎながら、波と戯れる。
「ぅわ、冷てェ〜!!」
「服濡らすなよ、風邪ひくぞ」
「解ってるって!!」
土方も車から降りて、砂浜を歩く。
シュボっと煙草に火を着ける。
吐き出した紫煙は潮の香る風に攫われて、消える。
「…先生もやんね?」
「やんねェ。
「
「そう…かもな。……あぁ、そろそろだ」
「え?」
「銀時。…こっち来い」
「え?な、何?」
「良いから」
手招きをする土方に、銀時も素直に従って、土方の傍に行く。
「何?」
「…良いから」
横に並ぶと、土方は黙ったまま海を見る。
何だ、と思いながら銀時も土方に習って海を眺めると。
「…ぅ、わ…ぁ…」
「…夜明け」
水平線に太陽が昇る。
黒かった海が、徐々にその光を浴びて、オレンジ色に色を変えていく。
「き、れ…」
それをポカンと眺めて。
銀時は歓喜の声を漏らす。
「…誕生日、おめでと」
「…え?」
「今日、だろ?誕生日」
「え?…ぁ…」
土方からもたらされた言葉に、ハっとした。
今日、10月10日。
銀時の誕生日。
「せんせ…覚えててくれたの……?」
「あ、あぁ…ま、まぁその…お、お前は俺のクラスの生徒だからな!誕生日くらい…」
「……………生徒だから…覚えてた、の?」
「う…」
「せん、せ…?」
波の音に掻き消されそうな声で囁く銀時に。
ダラダラと汗を掻きながら、土方は。
「〜っっ、あ〜!解った!解ったよ!!『恋人』だからだよ!生徒1人1人の誕生日なんか覚えてて堪るか!『恋人』の誕生日だから覚えてたんだよ!!」
やけくそ気味にそう叫ぶ。
すると銀時は。
「うん。…よっし!」
「よしって何だ、よしって!!」
「そう言ってくれなかったら、学校行った時にある事ない事暴露してやろうと思って」
「ばくっ…!おま、ある事ない事って暴露とは言わねェだろうが!!」
「きゃー!!ここに暴力教師が居まぁ〜す」
海に向かって走る銀時の後を追って、土方が走り出す。
その途中で。
「…初めてだな!」
「あぁ?!何が??」
「先生が、俺の事、『恋人』って言ってくれたの!!」
「あぁ?!あ、あれは、その…こ、言葉のだな!!」
「それだけで…最高の誕生日だ!!」
波打ち際で立ち止まり、クルリと振り返る銀時。
その表情は笑みに溢れていて。
「目覚めた時に最初に見たのが先生で。最初に聞いた声が先生で!んで、最初のおめでとうも先生で!!」
銀時の背後から登り始めた朝日が照らす。
それを土方は眩しそうに、瞳を細めて見ていた。
そして…。
「ぅわっ!!」
タっと、今度は土方に向かって銀時は駆け寄って。
そのまま土方の胸にダイブするのであった。
突然の事で体勢を整えていなかった土方はそのまま砂浜に倒れ込んで。
「テメっ、ビックリするだろ……」
「俺、すっげェ幸せ!!」
何をする、と言おうとしたが。
やはり、幸せそうに微笑んで、そう叫んだ銀時に。
土方も。
「あぁ、ちっくしょ…俺も幸せだよ!!」
そう…叫ぶのだった。
「ぁ、プレゼントは先生で良いよ」
「ぁのなぁ…」
「ダメ?んじゃ、『一発』」
「…グーで良いか?」
・END・
2006/10/10UP